65 / 71
[番外編] 最後の仕事(18)
しおりを挟む
サギトはグレアムに抱き上げられたまま、脱衣所から、湯気の立ち上る風呂場へと入る。グレアムはサギトを抱きかかえたまま、風呂場の椅子に腰を落とした。
自分の股の間に、サギトを座らせる。
サギトは逃れようともがくが、腰のあたりにしっかりと腕を巻きつかれて身動きできない。
「ま、まさか本当に俺を洗う気か」
「うん」
グレアムが桶でサギトの体にザーッと湯をかけて来た。ちょうどいい湯加減だ。正直、気持ちがいいと思ってしまった。
でも洗われるのはごめんだった。
「嫌だ、俺は赤ん坊じゃない!」
「王子様だぞ」
「だからなんなんだその設定は!」
グレアムが泡立てた石鹸をサギトの体に擦り付けて来た。冷たくぬめる石鹸がサギトの腹や胸に円を描く。太ももを上下する。
サギトは羞恥のあまり頭がパニックになりそうになる。思わず大声で叫んだ。
「やめろっ!ほんとに!嫌だッ!」
グレアムの手がピタリと止んだ。
「……」
沈黙。
ちょっと言い方がキツかっただろうか、と心配になりながら、サギトは背中にいるグレアムの顔を、振り向いて見上げた。
唇を噛みしめ眉を下げ、今にも泣きそうな顔で、グレアムはサギトを見下ろしていた。サギトは目を泳がせる。
「そ、そんな顔しても、ダメだ、ぞ……」
「……」
グレアムはますます泣きそうな顔で、じっとサギトを見つめる。無言で。
(ああ、もうっ!)
「か、体は嫌だ、が……。か、髪ならいい……」
グレアムはにわかに笑顔を取り戻した。
「分かった!任せておけ!」
(こいつはっ!)
あっさりした豹変に、うまいこと手の平で転がされてるような気がしながら、サギトはもう観念して抵抗するのをやめた。
まぁ髪くらいならいいか、と。人に髪を洗われたことなどないが。
グレアムがサギトの髪に湯をかけ、泡たっぷりの手でサギトの頭皮を揉むように洗い出した。
後頭部、頭頂部、前頭部、側頭部。
頭全体をグレアムの手がマッサージするように揉んでくる。
(む……)
髪を洗われることの予想外の気持ちよさに、サギトは驚かされた。
グレアムの指遣い、力加減、その全てが心地よかった。今まで経験したことがないくらいに。
湯気の充満する風呂場の温もり、そして、背中を包むグレアムの肌の温もり。
それがサギトの身も心も温めていく。
だんだん、意識が遠のいていった。うつらうつらと。
「……サギト?」
どこか遠いところでグレアムが呼びかけているのが聞こえたが、サギトには答えられなかった。
やがて体全体がふわふわした泡に包まれる心地がした。
誰かの手がサギトの全身を滑っていく。
でもそこに不快感はなく。
ただ、とても大事な誰かに心から慈しまれていることを、実感した。
それからまた抱き上げられ、抱かれたまま、温かい湯に沈められる。
全身をとっぷりと気持ちのいい温度に浸される。
頼もしい何かにしっかりと支えられながら。
サギトはいよいよ心地よく、自分は天国にいるのだろうか、と。そんなことを思った。
※※※
-----------------------------------------
(作者コメント)
な、なんかすみません…
次話がエロです!
自分の股の間に、サギトを座らせる。
サギトは逃れようともがくが、腰のあたりにしっかりと腕を巻きつかれて身動きできない。
「ま、まさか本当に俺を洗う気か」
「うん」
グレアムが桶でサギトの体にザーッと湯をかけて来た。ちょうどいい湯加減だ。正直、気持ちがいいと思ってしまった。
でも洗われるのはごめんだった。
「嫌だ、俺は赤ん坊じゃない!」
「王子様だぞ」
「だからなんなんだその設定は!」
グレアムが泡立てた石鹸をサギトの体に擦り付けて来た。冷たくぬめる石鹸がサギトの腹や胸に円を描く。太ももを上下する。
サギトは羞恥のあまり頭がパニックになりそうになる。思わず大声で叫んだ。
「やめろっ!ほんとに!嫌だッ!」
グレアムの手がピタリと止んだ。
「……」
沈黙。
ちょっと言い方がキツかっただろうか、と心配になりながら、サギトは背中にいるグレアムの顔を、振り向いて見上げた。
唇を噛みしめ眉を下げ、今にも泣きそうな顔で、グレアムはサギトを見下ろしていた。サギトは目を泳がせる。
「そ、そんな顔しても、ダメだ、ぞ……」
「……」
グレアムはますます泣きそうな顔で、じっとサギトを見つめる。無言で。
(ああ、もうっ!)
「か、体は嫌だ、が……。か、髪ならいい……」
グレアムはにわかに笑顔を取り戻した。
「分かった!任せておけ!」
(こいつはっ!)
あっさりした豹変に、うまいこと手の平で転がされてるような気がしながら、サギトはもう観念して抵抗するのをやめた。
まぁ髪くらいならいいか、と。人に髪を洗われたことなどないが。
グレアムがサギトの髪に湯をかけ、泡たっぷりの手でサギトの頭皮を揉むように洗い出した。
後頭部、頭頂部、前頭部、側頭部。
頭全体をグレアムの手がマッサージするように揉んでくる。
(む……)
髪を洗われることの予想外の気持ちよさに、サギトは驚かされた。
グレアムの指遣い、力加減、その全てが心地よかった。今まで経験したことがないくらいに。
湯気の充満する風呂場の温もり、そして、背中を包むグレアムの肌の温もり。
それがサギトの身も心も温めていく。
だんだん、意識が遠のいていった。うつらうつらと。
「……サギト?」
どこか遠いところでグレアムが呼びかけているのが聞こえたが、サギトには答えられなかった。
やがて体全体がふわふわした泡に包まれる心地がした。
誰かの手がサギトの全身を滑っていく。
でもそこに不快感はなく。
ただ、とても大事な誰かに心から慈しまれていることを、実感した。
それからまた抱き上げられ、抱かれたまま、温かい湯に沈められる。
全身をとっぷりと気持ちのいい温度に浸される。
頼もしい何かにしっかりと支えられながら。
サギトはいよいよ心地よく、自分は天国にいるのだろうか、と。そんなことを思った。
※※※
-----------------------------------------
(作者コメント)
な、なんかすみません…
次話がエロです!
27
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました
天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。
そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。
はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。
優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。
「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる