悪夢〜やまの恵多短編集〜

やまの恵多

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ぐちゃ様

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これは、僕の懺悔なんです。

と、鼻をスー、スー、ってすすりながら話してくれた佐藤さん、子供の頃からよく突拍子もない嘘をついては、親御さんを困らせていたそうなんです。

「担任の田中先生は宇宙人だ」とか、「家の前の通りにライオンがいた」とかね。あまりにもそんなホラが多いもんだから、病院に連れて行かれたりして。でも、幼少期特有のもので、成長とともに落ち着いてくる、なんて言われてね。

そんな佐藤さんには、3つ離れた弟がいて、佐藤さんによく懐いてたそうです。にいちゃん、にいちゃん、ってもうまとわりつくようにしてね、はたから見たら仲良し兄弟で微笑ましい光景なんですけれども、佐藤さんは弟さんがたまらなく鬱陶しかったんだそうです。

で、佐藤さんが小学5年生のある日。下校途中に、同じく下校していた弟さんにばったり出くわしまして、もちろん、にいちゃん、一緒に帰ろうなんて言われて。佐藤さん、うんざりしながらも渋々、弟さんと帰ったそうなんです。

その道中でですね、佐藤さん、不意にものすごいニオイを感じまして。生ゴミみたいな、それでいて甘ったるい、悪臭です。うわあ、なんだこのニオイって、佐藤さんニオイの元を探しまして、空き地の草むらの丈の長い草をこうやって、手でのけてみたんですね。

そしたら、ドロドロに腐って、ウジが沸いた猫の死骸。

すごいニオイとすごい見た目で、佐藤さん吐きそうになります。で、そこに弟さんもね、なんだろう、ってヒョイと顔を覗かせて、同じようにウエッとなって。

それで、佐藤さんその時、あることを閃いちゃったそうなんです。それで、家に帰ってから、弟さんに、神妙な顔で言ったそうです。

「おまえ、あのニオイ嗅いじゃったよな」って。

ウンウン、て頷いた弟さんに、佐藤さん、ため息つきながら、こう言いました。

「じゃあもう、お前、呪われたよ、ぐちゃ様に」

ぐちゃ様は、死んだ動物の怨念がこもった悪霊で、お前ぐらいの身長の、体じゅうがぐちゃぐちゃに腐った男の子。死んだ自分のニオイを嗅いだ人間を、どこかに連れて行ってしまう。佐藤さんそんな話を弟さんにしました。もちろんウソです。デタラメです。弟さんが鬱陶しかった佐藤さん、どっか行け、っていう思いでね、作り話で弟さんを怖がらせようとしたんです。

案の定それを聞いた弟さん、泣き出しまして。どうしようどうしよう、ニオイ嗅いじゃった、ぐちゃ様に呪われた、ってね、オロオロして。その様子を佐藤さん、内心笑いながら見てたそうです。

その翌日、佐藤さんたちは家族でキャンプに行ったんだそうですよ。佐藤さんは楽しく過ごしてたそうなんですが、弟さんは昨日のぐちゃ様の話を聞いてから、もうすっかり大人しくなっちゃってね。佐藤さんも、弟さんがいつものようにまとわりついてこないもんだから、せいせいしたように、ずっと一人で遊んでたそうです。

で、その夜、テントに泊まった佐藤さん家族。皆寝てるところで、弟さんが佐藤さんを起こして、「にいちゃん、あのニオイがする」って言うんです。

熟睡してたのを起こされた佐藤さんは、うんざりしてね。目を瞑ったまま、肩を揺すってくる弟さんに「ああ、あんな話ウソだから、早く寝ろよ」って言いました。でも弟さん、ずうっとね、佐藤さんの肩を揺すりながら、にいちゃん、にいちゃん、怖いよ、ぐちゃ様がいるよ、助けて、って。佐藤さん、我慢できずにこう、寝たまま振り返って、いい加減にしろ、って言おうとして、目を開けました。そしたらね、

全身がどろっどろに腐って、ウジの張り付いた男の子がね、弟さんの両足首を引っ張って、テントの外まで凄い勢いで連れ去っていきました。

ぐちゃ様だ、って、佐藤さん、自分が作った話なのに、目の前にいたそいつに圧倒されてね。追いかけることもできず、呆然としてたそうです。で、翌朝に親御さんが起きて、弟さんが居ないってんで、もう警察も周りのお客さんも総出で探したんだそうです。

でも、見つからなくてね。見つかったのは、居なくなってから二週間が経った頃だったそうです。子供の足じゃとても行けない森の奥で、夏場の高温にさらされて、弟さん、どろどろになってたそうです。

それでね、と佐藤さん、私に言いました。それ以来、僕、ずうっとね、あのニオイがするんですよ。あの帰り道、草むらで嗅いだ、腐ったニオイ。これって、ぐちゃ様なんですかねえ、それとも、弟がいまだに僕に懐いてるってことなんですかねえ、って。

話をしながら、ずっとスー、スーって、ニオイを嗅ぐように鼻をすすってる佐藤さん。その姿はね、お話を聞いたかぎり、じゃれついてくる弟さんを邪魔っけに思いながらも愛おしく思う、そんなお兄ちゃんの姿にも見えました。
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