8 / 14
ぐちゃ様
しおりを挟む
これは、僕の懺悔なんです。
と、鼻をスー、スー、ってすすりながら話してくれた佐藤さん、子供の頃からよく突拍子もない嘘をついては、親御さんを困らせていたそうなんです。
「担任の田中先生は宇宙人だ」とか、「家の前の通りにライオンがいた」とかね。あまりにもそんなホラが多いもんだから、病院に連れて行かれたりして。でも、幼少期特有のもので、成長とともに落ち着いてくる、なんて言われてね。
そんな佐藤さんには、3つ離れた弟がいて、佐藤さんによく懐いてたそうです。にいちゃん、にいちゃん、ってもうまとわりつくようにしてね、はたから見たら仲良し兄弟で微笑ましい光景なんですけれども、佐藤さんは弟さんがたまらなく鬱陶しかったんだそうです。
で、佐藤さんが小学5年生のある日。下校途中に、同じく下校していた弟さんにばったり出くわしまして、もちろん、にいちゃん、一緒に帰ろうなんて言われて。佐藤さん、うんざりしながらも渋々、弟さんと帰ったそうなんです。
その道中でですね、佐藤さん、不意にものすごいニオイを感じまして。生ゴミみたいな、それでいて甘ったるい、悪臭です。うわあ、なんだこのニオイって、佐藤さんニオイの元を探しまして、空き地の草むらの丈の長い草をこうやって、手でのけてみたんですね。
そしたら、ドロドロに腐って、ウジが沸いた猫の死骸。
すごいニオイとすごい見た目で、佐藤さん吐きそうになります。で、そこに弟さんもね、なんだろう、ってヒョイと顔を覗かせて、同じようにウエッとなって。
それで、佐藤さんその時、あることを閃いちゃったそうなんです。それで、家に帰ってから、弟さんに、神妙な顔で言ったそうです。
「おまえ、あのニオイ嗅いじゃったよな」って。
ウンウン、て頷いた弟さんに、佐藤さん、ため息つきながら、こう言いました。
「じゃあもう、お前、呪われたよ、ぐちゃ様に」
ぐちゃ様は、死んだ動物の怨念がこもった悪霊で、お前ぐらいの身長の、体じゅうがぐちゃぐちゃに腐った男の子。死んだ自分のニオイを嗅いだ人間を、どこかに連れて行ってしまう。佐藤さんそんな話を弟さんにしました。もちろんウソです。デタラメです。弟さんが鬱陶しかった佐藤さん、どっか行け、っていう思いでね、作り話で弟さんを怖がらせようとしたんです。
案の定それを聞いた弟さん、泣き出しまして。どうしようどうしよう、ニオイ嗅いじゃった、ぐちゃ様に呪われた、ってね、オロオロして。その様子を佐藤さん、内心笑いながら見てたそうです。
その翌日、佐藤さんたちは家族でキャンプに行ったんだそうですよ。佐藤さんは楽しく過ごしてたそうなんですが、弟さんは昨日のぐちゃ様の話を聞いてから、もうすっかり大人しくなっちゃってね。佐藤さんも、弟さんがいつものようにまとわりついてこないもんだから、せいせいしたように、ずっと一人で遊んでたそうです。
で、その夜、テントに泊まった佐藤さん家族。皆寝てるところで、弟さんが佐藤さんを起こして、「にいちゃん、あのニオイがする」って言うんです。
熟睡してたのを起こされた佐藤さんは、うんざりしてね。目を瞑ったまま、肩を揺すってくる弟さんに「ああ、あんな話ウソだから、早く寝ろよ」って言いました。でも弟さん、ずうっとね、佐藤さんの肩を揺すりながら、にいちゃん、にいちゃん、怖いよ、ぐちゃ様がいるよ、助けて、って。佐藤さん、我慢できずにこう、寝たまま振り返って、いい加減にしろ、って言おうとして、目を開けました。そしたらね、
全身がどろっどろに腐って、ウジの張り付いた男の子がね、弟さんの両足首を引っ張って、テントの外まで凄い勢いで連れ去っていきました。
ぐちゃ様だ、って、佐藤さん、自分が作った話なのに、目の前にいたそいつに圧倒されてね。追いかけることもできず、呆然としてたそうです。で、翌朝に親御さんが起きて、弟さんが居ないってんで、もう警察も周りのお客さんも総出で探したんだそうです。
でも、見つからなくてね。見つかったのは、居なくなってから二週間が経った頃だったそうです。子供の足じゃとても行けない森の奥で、夏場の高温にさらされて、弟さん、どろどろになってたそうです。
それでね、と佐藤さん、私に言いました。それ以来、僕、ずうっとね、あのニオイがするんですよ。あの帰り道、草むらで嗅いだ、腐ったニオイ。これって、ぐちゃ様なんですかねえ、それとも、弟がいまだに僕に懐いてるってことなんですかねえ、って。
話をしながら、ずっとスー、スーって、ニオイを嗅ぐように鼻をすすってる佐藤さん。その姿はね、お話を聞いたかぎり、じゃれついてくる弟さんを邪魔っけに思いながらも愛おしく思う、そんなお兄ちゃんの姿にも見えました。
と、鼻をスー、スー、ってすすりながら話してくれた佐藤さん、子供の頃からよく突拍子もない嘘をついては、親御さんを困らせていたそうなんです。
「担任の田中先生は宇宙人だ」とか、「家の前の通りにライオンがいた」とかね。あまりにもそんなホラが多いもんだから、病院に連れて行かれたりして。でも、幼少期特有のもので、成長とともに落ち着いてくる、なんて言われてね。
そんな佐藤さんには、3つ離れた弟がいて、佐藤さんによく懐いてたそうです。にいちゃん、にいちゃん、ってもうまとわりつくようにしてね、はたから見たら仲良し兄弟で微笑ましい光景なんですけれども、佐藤さんは弟さんがたまらなく鬱陶しかったんだそうです。
で、佐藤さんが小学5年生のある日。下校途中に、同じく下校していた弟さんにばったり出くわしまして、もちろん、にいちゃん、一緒に帰ろうなんて言われて。佐藤さん、うんざりしながらも渋々、弟さんと帰ったそうなんです。
その道中でですね、佐藤さん、不意にものすごいニオイを感じまして。生ゴミみたいな、それでいて甘ったるい、悪臭です。うわあ、なんだこのニオイって、佐藤さんニオイの元を探しまして、空き地の草むらの丈の長い草をこうやって、手でのけてみたんですね。
そしたら、ドロドロに腐って、ウジが沸いた猫の死骸。
すごいニオイとすごい見た目で、佐藤さん吐きそうになります。で、そこに弟さんもね、なんだろう、ってヒョイと顔を覗かせて、同じようにウエッとなって。
それで、佐藤さんその時、あることを閃いちゃったそうなんです。それで、家に帰ってから、弟さんに、神妙な顔で言ったそうです。
「おまえ、あのニオイ嗅いじゃったよな」って。
ウンウン、て頷いた弟さんに、佐藤さん、ため息つきながら、こう言いました。
「じゃあもう、お前、呪われたよ、ぐちゃ様に」
ぐちゃ様は、死んだ動物の怨念がこもった悪霊で、お前ぐらいの身長の、体じゅうがぐちゃぐちゃに腐った男の子。死んだ自分のニオイを嗅いだ人間を、どこかに連れて行ってしまう。佐藤さんそんな話を弟さんにしました。もちろんウソです。デタラメです。弟さんが鬱陶しかった佐藤さん、どっか行け、っていう思いでね、作り話で弟さんを怖がらせようとしたんです。
案の定それを聞いた弟さん、泣き出しまして。どうしようどうしよう、ニオイ嗅いじゃった、ぐちゃ様に呪われた、ってね、オロオロして。その様子を佐藤さん、内心笑いながら見てたそうです。
その翌日、佐藤さんたちは家族でキャンプに行ったんだそうですよ。佐藤さんは楽しく過ごしてたそうなんですが、弟さんは昨日のぐちゃ様の話を聞いてから、もうすっかり大人しくなっちゃってね。佐藤さんも、弟さんがいつものようにまとわりついてこないもんだから、せいせいしたように、ずっと一人で遊んでたそうです。
で、その夜、テントに泊まった佐藤さん家族。皆寝てるところで、弟さんが佐藤さんを起こして、「にいちゃん、あのニオイがする」って言うんです。
熟睡してたのを起こされた佐藤さんは、うんざりしてね。目を瞑ったまま、肩を揺すってくる弟さんに「ああ、あんな話ウソだから、早く寝ろよ」って言いました。でも弟さん、ずうっとね、佐藤さんの肩を揺すりながら、にいちゃん、にいちゃん、怖いよ、ぐちゃ様がいるよ、助けて、って。佐藤さん、我慢できずにこう、寝たまま振り返って、いい加減にしろ、って言おうとして、目を開けました。そしたらね、
全身がどろっどろに腐って、ウジの張り付いた男の子がね、弟さんの両足首を引っ張って、テントの外まで凄い勢いで連れ去っていきました。
ぐちゃ様だ、って、佐藤さん、自分が作った話なのに、目の前にいたそいつに圧倒されてね。追いかけることもできず、呆然としてたそうです。で、翌朝に親御さんが起きて、弟さんが居ないってんで、もう警察も周りのお客さんも総出で探したんだそうです。
でも、見つからなくてね。見つかったのは、居なくなってから二週間が経った頃だったそうです。子供の足じゃとても行けない森の奥で、夏場の高温にさらされて、弟さん、どろどろになってたそうです。
それでね、と佐藤さん、私に言いました。それ以来、僕、ずうっとね、あのニオイがするんですよ。あの帰り道、草むらで嗅いだ、腐ったニオイ。これって、ぐちゃ様なんですかねえ、それとも、弟がいまだに僕に懐いてるってことなんですかねえ、って。
話をしながら、ずっとスー、スーって、ニオイを嗅ぐように鼻をすすってる佐藤さん。その姿はね、お話を聞いたかぎり、じゃれついてくる弟さんを邪魔っけに思いながらも愛おしく思う、そんなお兄ちゃんの姿にも見えました。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる