悪夢〜やまの恵多短編集〜

やまの恵多

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特殊な能力

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40代の女性、Jさんから聞いたお話です。

Jさん、ちょっと不思議な力を持ってまして、

「自殺しようとしている人が、黄色く光って見える」

らしいんですよね。これ、面白いことに、死にそうになってる人だとか、危険が迫ってる人だとか、そういうんじゃなしに、ホントに「自殺限定」らしいんですよ。

で、Jさんそれに気づいたのが、まあ成人してかららしいんですけどね。当時勤めていた会社で、側から見ても「これパワハラだろう」ってぐらいにね、毎日いびられてた同僚の方が、ある時から黄色く光り出して。あれ、何だろうなあコレ、って思ってたら、数日後にその同僚の方、亡くなっちゃって。自宅で首吊ってね。

それで、もしかして、って思ったJさん、周りの人を注意深く見るようになったそうなんですね。で、その同僚の方と同じように、いびられていた別の同僚も、ある日、黄色く光り出して。Jさん慌てて、その方を飲みに誘ったそうなんです。で、お話を聞いてると、「帰宅したらそのまま、死のうと思ってた」みたいなことを言われて。

逆に、自殺じゃなくて、他の原因で亡くなる方はわからなかったそうです。実際、Jさんのおばあさんが亡くなったときもね、亡くなる前日に会ったそうなんですが、全然光ったりはしてなくて。でも次の日、心臓の持病が急に悪くなってね、そのまま亡くなってしまった。

Jさんね、その時思ったそうです。人の生き死にが全部わかるわけではないけれど、自ら命を断とうとしてる人はわかる。これは、何か神様にね、そういう使命をもらったんだ、って。そう思ってね、それ以来、日頃から周りを注意深く見て、黄色く光ってる人がいないか、って探して、もしそういう人を見かけたら、お話を聞いてあげて、自殺を思いとどまらせるように誘導する、そういうことをしてたそうなんです。

「私がお話しした後に、黄色い光がスゥーっと消えていくんです。だから、ああこの方、もう大丈夫だなってなるんですよ」

そんなお話をされるJさんにね、私聞いてみました。Jさん、その力で、何か困ったこととか、怖い思いしたことあるんですか?って。そしたらJさん、うーん、って考えたあと、こんな話をしてくれました。

Jさん、娘さんがいらっしゃって。当時中学生だったらしいんですが、同じクラスにね、それはもうすごい美人の子がいたそうなんです。Aちゃん、としますが、そのAちゃん、美人なだけじゃなくて、優しくて、頭も良くてね。男子からの人気も高くて。とにかくすごい子だったんだそうです。

Jさんの娘さんと、Aちゃん、それから、その二人の近所に住んでるBちゃんって子。この3人で、いつも一緒に遊んだりしてたそうなんです。もう3人の親同士も仲良くてね。優しそうなAちゃんのお母さんと、元気いっぱいな感じのBちゃんのお母さんと、Jさん自身もママ友って言うんですかね、そんな感じでお付き合いしてたんですね。

でね、Aちゃん、さっきも言った通り、すごい美人で完璧な子だったもんで、いろいろ妬まれることもあったみたいでね。嫌がらせが始まったそうなんです。デマが書かれたビラみたいなのが校門に貼られたり、SNSでも色々流されたり、結構エグい内容だったらしいです。

でもね、Jさんの娘さんと、Bちゃんとね、その仲良し3人組でね、そんなのに負けるなー!なんて言い合って、励ましてね。お母さん達もね、ビラが貼られてたら剥がして、SNSは、その変な噂の大元まで辿ってって、開示請求かけたりしてね。そんな風に一致団結して、嫌がらせに立ち向かってたそうなんです。ある日を迎えるまでは。

その日、Aちゃん、部活の関係でね。いつもはJさんの娘さんとBちゃん、3人で下校するんですけど、その日は一人で、もう日も暮れた夜道をね、帰ってたそうなんですけど。

通りすがりの誰かから、顔に薬品をかけられちゃって。

もう顔じゅうが焼け爛れてしまって、美人だった顔がね、もう重度の火傷を負ったみたいになってしまって。半狂乱で家に帰ってきて、出迎えたAちゃんのお母さんも、もう悲鳴あげちゃってね。近所だったんで、ものすごい悲鳴を聞きつけたJさんがAちゃんの家に急いで行ったら、それはものすごい、修羅場だったそうです。

で、とにかく救急車を、って言って、救急車呼んでね。Aちゃんのお母さんをなんとか落ち着かせて、一緒に救急車に乗せて、送り出して。Jさんも気が気じゃなかったそうです。これから先、Aちゃんどうなるんだろう、って。あの嫌がらせの主が、とうとうね、嫌がらせとかじゃなくて、実際にAちゃんに危害を加えたんだ、ってのが恐ろしくてね。その場に座り込んでしまったんだそうです。

そしたらね、どこかに出かけてたBちゃんのお母さんがね、Jさんの姿を見つけて近寄ってきたそうなんですけど。

Bちゃんのお母さん、黄色く光ってるんです。

え?なんで?どうして?ってJさん、もう頭がパニックになりかけてたんですけど、もしBちゃんのお母さんが自殺を考えてるなら、なんとか思いとどまらせよう、ってね、気持ちをなんとか落ち着けてね。優しく話しかけたんだそうです。

どうかしたの?もしかして、なにか悩んでることとかあるの?私でよかったら、話し、聞くよ?って。

そしたらね、Bちゃんのお母さん、その言葉聞いて、Jさんに一言、

「なんであんたが知ってんの」

って。能面みたいな、張り付いたような無表情で言ったそうです。で、そのままスタスタ、自分の家に入って行った、

後で聞いた話しなんですが、Aちゃんの顔に薬品をかけたのも、SNSで嫌がらせをしてたのも、Bちゃんのお母さんだったんですよね、ってJさん、言うんです。開示請求かけて、自宅に封筒が届いて、それでもうヤケになったんでしょうね、って。

Bちゃん、好きだった男子に告白して、「Aちゃんが好きだから」って断られて。親御さんに泣きついてたんだそうです。「あいつのせいで」って。それ聞いたBちゃんのお母さん、我が子がかわいかったんでしょうね。表では普通に振る舞って、影ではそんな嫌がらせして。

で、それがもうバレそうになったんで、娘の恨みをね、直接晴らして。そのあと、死のうとしたんでしょうね。

Jさん、淡々とそう言いました。でもね、そのあとすぐに警察が来てね、Bちゃんのお母さんを連れて行っちゃったんで、結局、今は刑務所にいるんですよ、彼女。そんなことも言いました。

私ね、ちょっと気になったんで、Jさんに聞いてみたんです。「しかし、どうして自分で誹謗中傷したのに、開示請求なんてしたんでしょうねえ?自分に返ってきちゃうのに」って。

そしたらJさん、言いました。

「ああ、開示請求は私がね、Aちゃんのお母さんに助言したんですよ。Bちゃんのお母さんは、リテラシーが低かったんで。私がやったのは、ビラ貼っただけです」

「私もね、自分の娘からAちゃんに彼氏取られた、って話し聞いてましてね、Aちゃんのことが憎かったんですよ。でもSNSなんか使ったら、足がつくじゃないですか。だから、パソコンでビラ作って、指紋も残らないように貼って、防犯カメラにも映らないよう注意して」

「でもBちゃんのお母さん、そこまで知恵が回らなかったみたいでね、あんな書き込みして。私の嫌がらせが邪魔されたみたいでね。面白くなくて、開示請求したら?ってAちゃんのお母さんに言ったんですよ。私も犯人知りたかったんで」

Jさん、さっきまでとは変わって、早口に続けます。

「で、結局追い詰められて、Aちゃんに薬品かけて。酷いことしますよねぇ。まぁ、私の代わりに全部被ってくれたんで、Bちゃんのお母さんには感謝してるんです。だから、自殺なんかしないように、すぐに通報してあげたんですよ」

いや、それってJさん、怖い思いしたとか、困ったとか、そういう話しじゃないですよね?私いま、Jさんのことがものすごく怖いですよ、って思わず私、Jさんに言いました。そしたらJさん、笑ってね。

「あ、そうですね。これって、もし私の力がなかったら、ただBちゃんのお母さんが自殺した、ってだけの話しになっちゃいますもんね。そう考えたら、やっぱりこの力って、便利ですよねえ」って。



この話しを伺った翌日、Jさん、ビルの屋上から飛び降りたそうです。

理由は分かりません。私に話したあとで、彼女の心にどんな動きがあったのか。罪悪感に苛まれたのか、自分の人格が許せなくなったのか、遺書も残っていなかったそうなので、それは知るよしもありません。

ただ一つ、自分の身体は黄色く光って見えたのか、どうだったのか。それは聞いておきたかったと後悔しています。

以上でございます。ありがとうございました。
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