悪夢〜やまの恵多短編集〜

やまの恵多

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二つの理由

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東北の田舎で生まれ育った鈴木さんは、大雪の日が嫌いで、その理由が二つあるという。

鈴木さんはもう年配の女性だが、若い頃、離婚を経験し、当時幼かった我が子と、再婚相手の三人で生活をしていた。生活をしていたのは、若くして亡くなった鈴木さんの両親が残した、庭付きの一軒家。

再婚相手は、お世辞にもしっかりした性格とは言えず、鈴木さんと小さい連れ子のことなど気にすることもなく、毎日のように夜中まで飲み歩き、鈴木さんが朝起きると、いつの間にか横でいびきをかいて寝ている、そんな生活をしていた。

鈴木さんとの間に子供も授かったが、稼ぎも少なく、飲み代に全て消えてしまうような、そんな状況だったから、鈴木さんとご主人との間で話し合いを重ね、最後にはご主人に押し切られる形で、やむなく堕胎せざるを得なかった。

鈴木さんの家の庭先には、鈴木さん自身も子供の頃に遊んでいた木製のブランコがあり、連れ子と、新しく生まれるはずだった子と、二人で遊んでくれたら、などという鈴木さんの夢も、諦めざるを得なかった。

そんな中、大雪が降ったある日。

その日もいつものように、ご主人は帰って来なかった。
雨の日も雪の日も、飲むことだけは欠かさなかったので、鈴木さんも、いつもの事かと特に気にせず、眠りについた。

すると夜中、庭の方から、ブランコが揺れる「キイ」という音が、一度だけ聞こえた。
鈴木さんはその音に目を覚ましたが、風で揺れたか、雪の重みで傾いたか、と特に気にせず、そのまま寝た。

翌朝。鈴木さんが起きて隣を見ると、ご主人の姿がない。風呂にも、トイレにも、台所にもいない。玄関に行くと、靴もない。

帰ってきていない?

夜中とか明け方に帰ってくることはあっても、今まで帰って来なかったことはなかったので、鈴木さんは不安になり外へ出た。

すると、大雪で一面、真っ白になった風景の中、庭のブランコに座った状態で、ご主人が冷たくなっていた。真冬の夜中、氷点下の中酔って寝てしまったのか、死因は凍死だったそうだ。

そこまで聞いて、

「ああ、ご主人が亡くなってしまったことと、ブランコの音で気づいてあげられなかったこと、その二つの理由で、大雪の日がお嫌いなんですね」

と訊ねると、鈴木さんは

「いえ、それは一つ目の理由です」

と言う。
ブランコの音を無視して、旦那を死なせたこと。それは合わせて一つなんです、と。

じゃあ、もう一つは?と問うと、鈴木さんは答えた。

「あの朝、ブランコの周りにね、雪が沢山積もってたんですけど、その雪にね、ちっちゃい手形がね、いくつもいくつも数え切れないくらい、ついてたんです。
それにね、手形の少し後ろにね、細長い窪みがたくさんついてたんです。最初わからなかったんですけど、気づいたんです。これ、赤ん坊がね、ハイハイした跡だ、って」

「これ、どっちなのかな、って、ずうっと考えてるんです。あの手形の主が、生まれてくることができなかった我が子だとして、深酒してブランコで寝ちゃった旦那をね、助けようとしてたのか、それとも、生まれてくることを許さなかった旦那をね、その場から動かないようにさせてたのか。いくら考えてもね、答えが出ないの」

「それが、私が大雪の日が嫌いな、二つ目の理由です」

と。

どちらの解釈も成り立つし、どちらでもなく、純粋に、父親と遊びたかったのかもしれない。

ただ、もしかしたら、鈴木さんの生まれて来れなかったお子さんですらない、何か邪悪な存在の仕業だったのかもしれない。
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