悪夢〜やまの恵多短編集〜

やまの恵多

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フォルダ分け

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A子さんと言う若い女性の方に伺ったお話です。

A子さん、すごくガリガリに痩せているんですけれど、目だけはらんらんと光ってて、喋り方もすごくハキハキしてて元気なんですね。

もともとはここまでは痩せていらっしゃらなかったそうなんですが、A子さんが痩せてしまったその理由も含めて、お話を伺いました。

このA子さんですね、お付き合いしていた彼氏がいらっしゃったんですが、1年ほど前に事故で亡くなってしまったんだそうです。

その事故っていうのがとても不運な事故で、歩道を歩いていた彼氏めがけて、居眠り運転の車が突っ込んできて。他に通行人の方も数名いらっしゃったんですが、彼氏1人だけがはねられてなくなってしまったんだそうです。

A子さん、彼氏がそんな事故で亡くなってしまったので、とてもじゃないけど受け入れたり、割り切るなんてことはできなくて、塞ぎ込んでしまったそうなんですね。

仕事にも行かなくなって、外にも出なくなって、ご飯も食べられなくなって。それで痩せてしまわれたそうなんですが。

気を紛らわそうとスマホを見ても、ついつい彼氏とのLINEのやりとりとか彼氏の写った写真を見たりして、それでまた悲しくなって泣き出したりしてね。

で、そんな状態が1年近く続いたんですが、A子さん、さすがにこのままじゃいけないと思って。彼氏との思い出には一区切りつけようと思って、LINEのやりとりとか写真とかをね、断腸の思いではありましたけど、全て消そうと思ったそうなんですね。

で、消す前に最後の思い出として、彼氏の写真を見たんだそうです。A子さんのスマホには人物の顔を認識して自動的にフォルダ分けしてくれる機能がついていたそうなんですが、その彼氏のフォルダをね、選択して。そこに写っているいろんな彼氏の表情をねA子さん、愛おしそうに見つめました。いろんな思い出も蘇ってきて、泣いたり笑ったりしながらね。

で、一通り見終わって画面をひとつ戻したんだそうです。そしたらそこでA子さん、あれっ?って。

スマホの画面上には、様々な人物がフォルダ分けされているのが映ってるんですが、その中に、見知らぬ女性のフォルダができていたそうなんです。髪が長くて色白な女性のフォルダです。

これ誰だろう、って思ってA子さん、そのフォルダを選択して中を見てみたそうなんですね。そしたら、確かにそのフォルダの中の写真には、全てその女性が写っていたそうなんですが、同じように、A子さんの彼氏も全て写っていたそうなんです。

A子さんぎょっとしました。その写真ていうのは、さっきまで見てた、A子さんが彼氏を撮影した写真と全く同じなんです。雑踏の中佇む彼氏、まわりの人混みの中に、その女性がいる。別の写真ではA子さんと彼氏の自撮りの一枚。その背景に通行人が写っていて、やはりその女性がいる。時間も場所もバラバラのはずなのに、必ず彼氏が写った写真にはその女性も写っているんです。しかもその女性の服装は、いつも決まって白っぽいロングコートを着ているんです。季節も関係なくです。A子さん、普段彼氏の顔ばかりを見ていたんで、全然気が付かなかった。

で、A子さん、さらにあることに気がついてしまいます。女性の写真を日付順に並べ替えてみると、日を追うごとに、だんだんと向こうを向いていた女性が、カメラのほうを向いてくるんです。いや、正確には、「カメラに目を向けている彼氏の方を」向いてくるんです。そして女性の表情。最初は無表情だったのが、どんどん目尻が下がって、口角が上がって、笑ってくるんです。

だからね、って。A子さん、私に言いました。私その後すぐね。気味が悪くなって彼氏のフォルダもその女性のフォルダも、全部削除したんです。でもね、今思うと、その女性って多分死神か何かですよね、って。だってね。私が彼が死ぬ前、最後に撮った写真。そこに映り込んでたその女性ね、とても言葉じゃ言えない位の、凄い顔して笑ってたんですよ。って。

でもね、と言って、A子さん、スマホを取り出して、私に1枚の写真を見せてきました。A子さんを含めた、女性数名が写っている海辺の写真です。

これね、私が彼氏の写真を削除してからしばらく経って、友達がね、私を元気付けようとしたんでしょうね。旅行に誘ってくれたんです。私に「前を向きなさい」って言うことだろうなぁ、って思って、旅行には行くことにしたんですけど、その時に撮ってくれた写真なんです。旅行から帰ってきた後に、友達が送ってきてくれたんですけど、ほら、ここ見てくださいよ。あの女性がね。私の写真にも映るようになったんです。

ほら、ここ。って、そう言ってA子さんが差し示した場所。

何も写ってなかったんです。ただ砂浜があるだけでした。

でも私、A子さんにはとても、何も写ってないですよ、とは言えませんでした。だってね、それを話してるときのA子さん、すごく嬉しそうでね。

A子さんおっしゃったんですよ。この女性が死神だとしたら、私、もうじき連れて行かれるんですよね。だってほら、こんな凄い顔して笑ってるじゃないですか。でもね、もし連れて行かれるんだとしたら、彼と同じところに連れて行ってくれるんですよね。そしたら私、また彼に会えるんですよね。それがね、私、楽しみでしょうがないんですよ。待ち遠しくてしょうがないんですよ、って。

その、彼氏と女性とが写っていた写真というのは、既に削除されてしまったということで、実際に存在していたかどうか、今となってはわかりません。

ただ、その女性のフォルダができていたという事は、少なくとも複数枚、同一人物だとスマホに認識された女性が写っていた、ということになります。

そして、A子さんの写真にも映り込んでいたという、A子さんにしか見えない女性の顔。A子さんもまた、何かに魅入られてしまっていたのかもしれません。

さて、皆さん。この話を聞いた後、ご自身のスマホの写真のフォルダを確認してみてください。もしかしたら、見知らぬ人物のフォルダが、いつの間にかできているかもしれません。そしてもし、その見知らぬ人物の映り込んだ写真に、一緒に写っているのが、あなたの大切な人、あるいはあなた自身だった場合、どうかお気をつけくださいね。何か、おぞましい存在が、知らず知らずのうちに、忍び寄っているかもしれません。

以上でございます。ありがとうございました。
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