勝手に魔王と呼ばれて困ってます。/【旧題】俺的魔王の楽しみ方。

きつねころり

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第10話

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 そんなこんなで、やっと勇者君がここまでたどり着いた。

「お前が……魔王か。仲間を帰してもらおうか」

「仲間……か」

 勇者君よ、お前は何の為にここまで来たんだ?

「勇者よ、仲間を帰したらお前はこの城から出ていくのか?」

 俺の質問に答えたのは、勇者君では無く、魔法使いちゃんだった。

「帰るわよ!だからさっさと二人を帰して!」

 まぁ、魔法使いちゃん的には僧侶ちゃんが居ない方が幸せだもんなぁ。

「二人は……無事なんだろうな」 

 勇者君は……良く分からん。

「そうだな……男の方は生きていはいるが……」

 俺はそう言って、パチンと指を鳴らした。

 スゥ――っと、音も無くマチルダと共に、椅子に縛り付けられた大盾君が転移してきた。

「あ、アキラ!無事だったんだな!」

 勇者君は大盾君が無事だった事を喜んでいる様だけど、魔法使いちゃんは露骨に嫌そうな顔をしている。

 大盾君は勇者君の問いかけには答えない。

「この男の意識は此処には無いが、一応生きては居るぞ……。それで、勇者様にはお引き取り頂けるのかな?」

「さおりは……僧侶の女性はどうした」

「俺の質問は無視か。良い度胸だな……。まぁ、しかし、この場に居ない事で少しは察して・・・みたらどうだ?」

 俺は暗にネガティブなイメージを与えてやった。

「くっ!さおりに少しでも手を出してみろ。絶対に許さない!」

 勇者君は剣を抜き、俺に向けて掲げた。

「まぁ……許されなくても良いのだが……」

 許すってなに?別に勇者君に恨まれる事してないしなぁ。

「勇者よ。お前にとってあの女は大切か」

「当たり前だ!」

「ふむ……。では、その横に居る魔法使いの女と交換なら返してやろう。なあに安心して欲しい。ちゃんと綺麗に・・・してから返してやろう」

 もう綺麗なんだけどな。

「貴様っ!まさか、さおりに手を出したのか!」

「それはお前に想像に任せるさ」

 俺はワザとくっくっくっと笑って見せた。

「ねぇ、ショウ。もうさおりは諦めようよ。だってもう……」

 いいねぇ、魔法使いちゃん。そうだよね。そうしたら勇者君は独り占めだもんね!

「見るからに、お前はあの女よりも、隣の女と親密に見えるのだが……、それでもあの女の方が大事ならば」
「メグも……大事さ。大切な……そう、大切な仲間だ」

 良かったね、魔法使いちゃん。大切な仲間・・だってさ!

「そうか……では、どうするのだ。どちらの女にするか選べたか?」

「そんなの……」

 あ――、これは最悪な選択肢を選びましたね。うん。可愛そうに。

「お前を倒してさおりも取り戻す!」

 そう言って俺に向かって切りかかって来た。

 流石は勇者?なのかは良く分からないけど、それなりの・・・・・速さで突進してきた。

 まぁ確かにそのスピードなら、大抵の敵は倒せたんだろうな。

 しかし……まぁ。

 ガキンッ!

 俺に届く前に、マチルダの風魔法ウインドカッター(初級)が勇者君の剣を跳ね退けた。

 そのまま勇者君は後ろに飛び、俺から距離をとる。

「卑怯なっ!」

 はっはっはっ!マジで湧いてんな。こいつ。

「いきなり飛び掛かって来たお前が言うと、そうだな……面白くはない冗談だな」

 ほんと居るんだよね。自分がやって居る事は正しいから許される。だけど他がやったら非難するヤツってさ。

「はぁ……。面倒だから、二人でさっさと掛かって来ると良い。まぁ、後悔するだろうがな」

「ねぇ、ショウ。もうさおりは諦めて、アキラを連れて帰ろうよ!貴方には私がいるでしょ?」

 魔法使いちゃんは、魔王討伐とか興味無さそうだもんね。

「だ、だが……」

「さおりと私、どっちが大事なの?何もさせてくれなかったさおりと……なんでもしてあげられる私。ねぇ、どっち?」

 あ――、僧侶ちゃん。意外と身持ち固かったんだね。うんうん。

「い、今はそんな事っ!魔王を倒さないと、俺達は元の世界に帰れないんだぞ?!」

「そうだけど……。二人じゃ絶対無理だよ?」

 うん、俺もそう思うよ?まぁ、何人来ても、多分無理だと思うけど。

 つーかさ、そもそもの話。何で俺を倒せると元の世界に帰れる訳?んな訳ないじゃんか。

 とりあえず――、

「勇者よ。僧侶の女はもういいのか?」

「……。あぁ……、魔王に汚されてしまったさおりは……見たくない……」

 汚してねぇーし!つーか触れてもいねぇーし!

「ショウ……」

 魔法使いちゃんがここぞとばかりに、勇者君の手をとり、そして指を絡ませる。

「そうか……。ならば帰り道を用意してやろう。あぁ、その男も連れて帰ると良い」

 俺は勇者君の後ろに、城の外までのゲートを開いてやった。

 楕円形の魔力の輪が現れ、その先には城のと外が見える。

「いや……アキラは……魔王の好きにするといい」

 そう言って、魔法使いちゃんと仲良く手を繋いでゲートを潜って行った。

 勇者君達が外に出たのを確認し、ゲートを閉じる。
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