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第30話

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「戦えないけど、料理は出来ますし……むしろそっちでお役に立てれば。みたいな?」

 遠慮がちにそう言った司ちゃんは、黙って考え込んでいる俺を見て戦々恐々といった感じだ。

 ふむ……。それも悪くは無いか。

 毎回毎回、俺が料理を出すのも違う気がするしな。

 それならいっその事、司ちゃんをリーダーとして持ち回りでやれば良くないか?

 俺はじーっと司ちゃんを見つめる。

 うん、今日も可愛いよ。男だけど。

 上手くいけば、これから徐々に女性の体に戻っていくはずなんだけども。さてどうなるのやら。

「あ、あのぅ……」

「司を見つめ過ぎにゃー」

 司ちゃんは流石に不安になって来たみたいだ。

 サザンスターはシンプルにかまって貰えなくて寂しいのかな?

 とりあえずサザンスターに近付いて、頭をワシャワシャと撫でまわす。

「なっ!ちょっとっ」

 咄嗟だったからか、猫語じゃないのが少し面白いけど。

「よしよし、お前はいつも良い子だな」

 そんなサザンスターを見て、少しだけ意地悪がしたくなったんだ。

 それから撫で過ぎてクシャクシャになった髪の毛を、手櫛で梳かしていく。

「もう!いきなりなんなのにゃー」

 抗議の声は上げているが、尻尾は左右に大きく振られている。

 完全に猫のソレだ。

「あぁ、悪い悪い。はい、綺麗になったよ」

 俺が手を退けると、サザンスターが撫でられていた頭に自分の手を当て、ぶつぶつ言っているが気にしないでおこう。

「じゃぁ司ちゃんは、料理長的な感じで頑張ってみる?」

 なんでかサザンスターに睨まれた気がするけど、まぁ、気のせいか。

 そんな感じで始まり、今に至る。




 司ちゃんも、何だかんだで仲良くやってくれているみたいで良かった。

 今もサザンスターと一緒に楽しく料理をしている。

「ちょっ!サザンさん!玉ねぎ切り過ぎ!どうやったらそんな大根おろし・・・・・みたいになるんですか!」

「えー、みじん切りにしただけにゃん」

「包丁でそこまで出来るのが逆に凄いですけど!」

「めっちゃ涙出るにゃ」

「でしょうね!」

 ……うん。楽しそう。

「じゃ、俺はまた後で来るから。後は宜しくね」

 そう言って返事も聞かずに一旦自室へと帰る事にした。


 
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