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第2章 【異世界召喚】冒険者

第60話 再びアグストリア城。

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 夕日に照らされたアグストリア城は何とも幻想的で、それこそ御伽の国に迷い込んでしまったのではないかと思わせるには十分な光景だった。

 城壁は、白いレンガの様な石材で丁寧に積み上げられ、幾重にも重ねられている。

 あの後、アグストリアの街を出発した俺たちは、既に城門前の広場に着いている。

 馬車を降り、各々が目の前の光景を見ている。

「……気持ち悪い……」

 そう、俺はまた馬車酔いしていた。

「はっはっはっ!お前、情けねぇな!」

 レオニードさんは馬車の揺れに酔ってしまった俺を馬鹿にするけど、いや、これは中々慣れるもんじゃないと思うんだけど……。

「大丈夫ですか?アオイさん」

 リンダが俺の体を支えてくれている。

「ありがと。はぁはぁ……。うん、もう大丈夫」

 そう言って、気力を振り絞って立ち上がる。

「意外な弱点なのです」

 サリーがボソッとそう言った。

「いや……俺が知ってる乗り物はこんなに揺れないからな。自分で操作してればまた別かも知れないけどさ」

 現代でこんなに揺れる乗り物は無いだろうよ。遊園地のアトラクション位じゃないか?

「そうなんですね。確かに御者の方も、荷台に乗ると酔う事があると聞いたことがあります。帰りは、御者席に座るのも宜しいのでは?」

 あー、確かに車に酔っちゃう人も、自分が運転すれば酔わない。なんて話も聞いたことがある気がするな。

「そうだな。そうしてみるよ」

 とはいえ、実は馬車に乗る前に【ゲート】の設定してあるから、馬車に乗らなくても帰れるんだけど……。流石にレオニードさんだけ馬車で帰らせる訳にはいかないよな。どうすっか。

「では、一度お客様用のお部屋にご案内致します。こちらです」

 馬車を係りの人にお願いして、俺達は城の中へと入った。

 警備の兵士は、俺の事を見たことあるのかスッと頭を下げてくれたけど、レオニードさんに関しては「何者だ?」みたいな表情だった。

 アリアとサリーが一緒だから何も言われなかったけども。つーか、お前ら、リンダを見る目がエロいんだよ!ぶっ飛ばすぞ!

「まぁ、落ち着けよ。そこは堂々としてろよ。何なら腕でも組んでおけよ」

 レオニードさんは俺の考えている事が分かったらしく、そんなアドバイスをくれた。

「いや、流石にそれは……ねぇ?」

 とは言うものの、レオニードさんの言葉を聞いたリンダは、早速俺の腕に自分の腕を巻きつけるようにしている。

「んふふ」

 いや、リンダさん。可愛いんですけどね。

「仲が宜しいんですね」

 アリアがこれでもかと言うほどの笑顔で俺に言う。

「いや、あー、そうですね……」

 怖いよ!怖い怖い!アリアの笑顔がマジで怖い!

 ヤバい、冷や汗が止まらない。べ、別に浮気とかそんなんじゃないしっ。

 サリーも何故か冷たい視線を俺に突き刺してくる。

 リンダは満足そうに俺の腕を抱いてにこにこしている。
 
 何でこんな事になった?

「あははは……はぁ」

 乾いた笑いしか出ないっての。





 俺たちは客間?と言っても、かなりの広さのある部屋に通された。

「では、暫くこちらでお待ちください」

 そう言ってアリアは部屋を出て行った。きっと宰相さんを呼びに行ったのだろう。

 レオニードさんは手近にあった椅子にドカッと座った。部屋の中をぐるりと見渡し「フン」と鼻を鳴らし目を閉じている。

「ほら、リンダもとりあえず座ってて」

 組んでいた腕を解し、リンダを椅子に座らせる。

 リンダがスっと俺から離れ、椅子に座る。少し震えているみたいだった。

 それもそうか。リンダが城に来ることなんて無いだろうし、緊張位するよな。

「リンダ。大丈夫だから落ち着いて」

 俺はリンダの横に立って、リンダの方に手を置く。

 俺を見上げるリンダに優しく微笑みかける。

「はい……大丈夫です……」

 あー、まぁ大丈夫では無いよな。

「アオイ様、何か温かいお飲物をお持ちします。暫くお待ちください」

 俺たちの様子を見ていたサリーが、そう言うと部屋を出て、数分もせずにワゴンを押して戻ってきた。

 それを見て、俺はサリーの邪魔になると悪いので、数歩リンダの後ろに下がった。

 サリーは俺の方を見て「分かってる」と言うように頷くと、リンダの前に慣れた手つきで温かい紅茶を用意してくれた。

「どうぞ、お砂糖はお好みでお使い下さい」

「あ、有難うございます」

 リンダはサリーにペコリと頭を下げた。

 サリーは何も言わず、同じように軽く頭を下げ、俺が居る位置まで後ろに下がった。

 リンダは紅茶に口をつけ、体が温まった事で少しだけ落ち着いた様だった。

「助かるよ。ありがとな」

 おれはサリーに小声でお礼を言った。

 サリーは何も言わず、ほんのり微笑んだ。



 そうしている内に、部屋のドアが開き、姿を見せたのは。







 王妃様だった。


 
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