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2度ある告白は3度ある
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告白されたことは、たくさんある。
こんなのジマンになるだけでイヤミだけど、たくさん――回数をカウントできないほどに。
バレンタインのチョコにそえられた手紙とかもカウントしたら、3ケタはいくかもしれない。
でも、何回されたっておれには価値がないんだ。
告白は〈おれ〉からするものだって、思ってるから。
(これって告白? 出会ってから、こんなに早く?)
ご近所さんの星乃さんから「おつきあいしませんか?」のライン。
いったん、心を落ちつかせようと目をつむる。
カンでわかる。
これは……返信までに長い時間をかけちゃいけないタイプのヤツだ。
(どうする――?)
こういうのは長引けば長引くほど返しにくくなるし、向こうでもヘンに誤解して、泣いたり落ちこんだりっていうことにもなる。
おれは、ひきょうなアイデアを採用することにした。
「いいね!」
と、ただのノリとも本音とも受け取れるメッセージをおくった。
「よくないでしょ!」
と、勇なら言うだろう。
おれも……じつは、そんな気がするよ…………でも、あいつだって、ほかの男子と……
「あん」
しまった。
誰かとぶつかった。前を、よく見ていなかったから。
ぺたん、とぶつかった相手がシリモチをついて、スカートが足の付け根のあたりまであがってしまう。
おれはあわてて手を伸ばした。
「ご、ごめん!」
「いいえ~」
「大丈夫?」
「はい~」と、おれの手をとって、ゆっくり立ち上がる。「こちらこそ、ぼ~っとしておりまして……あれ~? 小波久さんではないですか~?」
「あっ。ユッキー?」
肩まで届かない短い三つ編みを二本つくった女の子。
古代ゆき。
おれの6回目の告白をオーケーしてくれてつきあった、元・彼女だ。
「ケガがなくて、よかったよ」
「ふだんから、ころびなれておりますので~」
「ほんとに平気?」
「はい~」
「そっか」
ここで、にこっ! とおれはせいいっぱいの笑顔をつくったつもりだが、
「……なんか、ムリされてませんか~?」
一発で見抜かれてしまった。
さすがのユッキー。
「わかる?」
「これでも、あなたのカノジョですから~」
え⁉ とそばを歩いていた女子がこっちを見た。
カノジョっていっても〈元〉なのに、進行形だと思われてウワサが広がるぞ。おれはべつに気にしないけど。
こんな感じで、こまかいことは気にしない子だ。
だいたい、すでに話し方からマイペースなんだ。
しかし、このペースになれてしまうと、不思議なもので音楽みたいに耳に心地よくなってくる。
(もしかして、おれをフッてないと思ってる?)
ユッキーにかぎり、その可能性すらある。
約1年前、帰り道で夕日をバックに「おわかれしましょう」って、はっきりフラれているんだが。
「そんなに気になりますか」
彼女にしては強い口調で、おれの手を指さす。
にぎっているのはスマホ。
話しながら何度もチラチラ見てたのが、バレてたか。
「え? ああ……さっき女の子から告白されて」
まぁ、と両手で口元をおさえる。
おこっている感じはない。むしろ、うれしそう。
元カノにバカ正直に言うおれもおれだが、ユッキーもなかなかユニークな女の子だ。
「とりあえず返事はしたんだけど、まだ迷ってるんだ」
「あ……お時間が……そろそろ行きませんと」
「ごめん、話しこんじゃったね。久しぶりにキミに会えて、うれしかった」
「……」
さわやかな表情で、さっそうとターンしようとした瞬間、制服の胸のあたりをつかまれた。
そのつかんだ手に力をこめてユッキーが背伸びし、おれに耳打ちする。
「――連絡します。お使いの携帯、音も振動もオフにしておいてくださいね」
と、過去イチの早口で言った。
連絡?
とにかく、チャイムが鳴ったのでおれも急いで自分の教室にもどる。
連絡って……。
ホームルームが終わって、一時間目がはじまった。
(きた!)
ユッキーからライン。
先生にバレバレだとは思いつつ、教科書を立ててバリアをつくって、こっそりスマホを操作。
「やっほー!」
と、元気のいいメッセージ。
そうだ。思い出した。ユッキーって、メールとかラインだと別人みたいになるんだ。
「さあ、さっきの続きだよっ!」
「うん」
「迷ってるって、どういうことダイ?」
「告白してくれた子と、つきあってもいいのかな、って」
「というと?」
「おれにはもう一人」前の席の女子が髪をショートにしていて、たまたま〈あいつ〉にそっくりだった。「好きな子がいるんだ。どっちが、自分にとって正しい恋なのか、わからない」
「よし! じゃあタロットで占ってしんぜよう!」
「え?」
そこで、やりとりが一時停止した。
10分ぐらいして、
「結果が出たよ!」
なぜか、おれは緊張していた。
そのワケは、ユッキーの占いはよく当たるからだ。不気味なほど当たる。おれが「13人の女の子にフラれる」ことも占いで言い当てているんだ。…………あれ? ってことは、もうこれ以上おれはフラれないって意味にもとれるような……そんなことはないか。
「ききたい?」
「ここまできて、それはないよ」
「うふふ。では結果発表じゃ~~~‼ 正しい恋の相手は――」
古典の授業が、壁の向こうでやってるみたいに、ほとんど耳に入ってこない。
おれはスマホをじーっと見つめつづけていた。
「 ? 」
ん?
なんだ、これ。ハテナマークだけしかない。
「どういうこと?」
「天秤がつり合った。こんなの……はじめて♡」
「なんでハートマークなんだよ」
「うふ。とにかく、その二人で占ってみたけど、差がつかなかったのよぅ」
「どっちが正しいかわからないってこと?」
「そもそも恋愛に正しいなんてあるのカイ?」
う……なんかいい感じっぽく言って、強引にまとめられたぞ。
まいったな。
そもそも、占いにたよろうとしたのがダメだったか。
おれが、おれの恋愛をするんだ。おれが選択できなくてどーする。
「ありがとう。なんかスッキリしたよ。おれ、授業にもどるから」
「……くやしい」
「ユッキー?」
「二者択一じゃなくて、できれば三者択一がよかったな~なんて!」
最後のコメントの下に画像つき。
自撮りで、みじかい三つ編みの彼女が目をぎゅっとつむって小さい口を四角くあけ、イー! としてる。
思わずキュンときた。
かわいい。
(勇も昔は「イー!」ってよくやってたな)
今も、たまにするけどな。
(三者択一か……まさか、まだユッキーもおれのことを……)
いや。
たしかに、フラれてる。これはシャレで言っただけでマジじゃないと思うんだ。
もしかしたら……おれが本当は誰が好きなのかを占いで見抜いて、自分から身をひいたってことは考えられるけど。
「はー」
つかれた。
授業をこなして、放課後に演劇部で演技の特訓をみっちり受けて、やっと下校。
雨がシトシトふる帰り道。
やっと駅についたところで、
「小波久くん!」
うしろから声をかけられた。
今までと声色がだいぶちがったから誰かわからなかったが、
「外井……くん?」
「はい。ずっと、ここで待ってたんですよ」
片手でスクールバッグを肩にかつぎ、片手でビニール傘をさしているのは、勇の彼氏。
ちがう。
勇が自白したじゃないか。彼は、彼氏じゃないって。
実際、彼からはもう〈彼氏役〉を降りたみたいな自由な空気を感じる。
おれは笑顔をつくって片手をあげた。
「やあ。そっちも部活だった?」
「いえ、今日は休みました」目線を横にそらして「すこし、おれと話しませんか?」と言う。
おれたちは駅の待合室のベンチにならんで座った。
もう日は落ちてうす暗くなっていて、正直、めっちゃハラがへっている。
「いや~」と、彼は自分の頭をワシづかみするようにさわった。「うまくやってたつもりですけどね。やっぱ、ボロが出ちゃったか。どこで気づきました? おれたちがカップルじゃないってことを」
外井くんは、さらっと大事なことを告白した。なんでもないことみたいに。
心のどこかでは半信半疑だったおれも、もはや信じざるをえない。
「あれ? もう、バレてるんですよね? 勇ちゃんから、そう聞いたんですけど……」
「おれは気づいてなかったよ」
「えっ」
「ある人が、魔法をくれたから」
おれは勇のウソを見破れた理由を説明した。
「あー、なるほど、そうきましたか。やばいぐらい頭がいーっスね、その〈ユナさん〉って人」
「あの……どうして二人は」
外井くんは顔をくしゃっとさせて笑い、そのままペコッと頭をさげた。
「くわしいことは、おれからはちょっと……。そのうち、勇ちゃんから聞けると思いますよ。ほんとに、すみませんでした」と、また頭をさげる。
「いいよいいよ、気にしないで」
「あのとき……」
彼はまっすぐな目で、おれをみた。
「心の底からうれしかったんですよ。ははっ。おれ、感情が顔にでないように、かくすのに必死でした」
「え?」
「ほら、放課後に『やっぱナーーーシ』って叫んでくれたじゃないですか」
パッとあの日の記憶がよみがえった。
外井くんに、幼なじみの勇をどう思っているかをきかれた場面を。
おれは「友だちだよ」ってこたえて「恋愛感情は持ってない」とも言ったけど、それを「ナシ」ってソッコーで取り消したんだ。
「勇ちゃんを、お願いします!」
かるく手をふって、駅の改札と反対方向に走っていく。そういえば彼って自転車通学だったか。この雨のなか帰るのは、大変そうだな。
(とにかく――これで完全に、彼と勇がつきあってるセンは消えたわけか)
電車の中ではずっと、勇のことを考えていた。
つまり〈どうしてウソをついたのか〉ってことだ。
ドッキリやサプライズにしては、手がこみすぎているし、実行した期間も長すぎる。
(ウダウダ考えるより、直接きくか)
それがよさそうだ。
おれは頭がよくないし、かけひきだってヘタなんだから。
電車をおりると、雨はやんでいた。
いつもの道を歩いて帰る。
前に勇が立ち読みをしていたコンビニをのぞいたが、今日はいなかった。児童公園にも、当然いない。前から自転車がくるたびに、つい勇じゃないかと確認してしまう。
気がつけば、おれは勇をさがしてばかりいる。
家が近づいてきた。
(……ん)
声がきこえる。
あいつの声。
「…………正とは、そういうんじゃないけど」
「だったら」
家の前に人影が二つ。
向かい合っている。
勇と、ずいぶん背の高い男が。
男は学校の制服――っていうか、あれは転校生! どうしてここに!
おれよりも少しトーンの低い、声優のような聞き取りやすいイケボで、転校生は言った。
「オレとつきあってくれ」
こんなのジマンになるだけでイヤミだけど、たくさん――回数をカウントできないほどに。
バレンタインのチョコにそえられた手紙とかもカウントしたら、3ケタはいくかもしれない。
でも、何回されたっておれには価値がないんだ。
告白は〈おれ〉からするものだって、思ってるから。
(これって告白? 出会ってから、こんなに早く?)
ご近所さんの星乃さんから「おつきあいしませんか?」のライン。
いったん、心を落ちつかせようと目をつむる。
カンでわかる。
これは……返信までに長い時間をかけちゃいけないタイプのヤツだ。
(どうする――?)
こういうのは長引けば長引くほど返しにくくなるし、向こうでもヘンに誤解して、泣いたり落ちこんだりっていうことにもなる。
おれは、ひきょうなアイデアを採用することにした。
「いいね!」
と、ただのノリとも本音とも受け取れるメッセージをおくった。
「よくないでしょ!」
と、勇なら言うだろう。
おれも……じつは、そんな気がするよ…………でも、あいつだって、ほかの男子と……
「あん」
しまった。
誰かとぶつかった。前を、よく見ていなかったから。
ぺたん、とぶつかった相手がシリモチをついて、スカートが足の付け根のあたりまであがってしまう。
おれはあわてて手を伸ばした。
「ご、ごめん!」
「いいえ~」
「大丈夫?」
「はい~」と、おれの手をとって、ゆっくり立ち上がる。「こちらこそ、ぼ~っとしておりまして……あれ~? 小波久さんではないですか~?」
「あっ。ユッキー?」
肩まで届かない短い三つ編みを二本つくった女の子。
古代ゆき。
おれの6回目の告白をオーケーしてくれてつきあった、元・彼女だ。
「ケガがなくて、よかったよ」
「ふだんから、ころびなれておりますので~」
「ほんとに平気?」
「はい~」
「そっか」
ここで、にこっ! とおれはせいいっぱいの笑顔をつくったつもりだが、
「……なんか、ムリされてませんか~?」
一発で見抜かれてしまった。
さすがのユッキー。
「わかる?」
「これでも、あなたのカノジョですから~」
え⁉ とそばを歩いていた女子がこっちを見た。
カノジョっていっても〈元〉なのに、進行形だと思われてウワサが広がるぞ。おれはべつに気にしないけど。
こんな感じで、こまかいことは気にしない子だ。
だいたい、すでに話し方からマイペースなんだ。
しかし、このペースになれてしまうと、不思議なもので音楽みたいに耳に心地よくなってくる。
(もしかして、おれをフッてないと思ってる?)
ユッキーにかぎり、その可能性すらある。
約1年前、帰り道で夕日をバックに「おわかれしましょう」って、はっきりフラれているんだが。
「そんなに気になりますか」
彼女にしては強い口調で、おれの手を指さす。
にぎっているのはスマホ。
話しながら何度もチラチラ見てたのが、バレてたか。
「え? ああ……さっき女の子から告白されて」
まぁ、と両手で口元をおさえる。
おこっている感じはない。むしろ、うれしそう。
元カノにバカ正直に言うおれもおれだが、ユッキーもなかなかユニークな女の子だ。
「とりあえず返事はしたんだけど、まだ迷ってるんだ」
「あ……お時間が……そろそろ行きませんと」
「ごめん、話しこんじゃったね。久しぶりにキミに会えて、うれしかった」
「……」
さわやかな表情で、さっそうとターンしようとした瞬間、制服の胸のあたりをつかまれた。
そのつかんだ手に力をこめてユッキーが背伸びし、おれに耳打ちする。
「――連絡します。お使いの携帯、音も振動もオフにしておいてくださいね」
と、過去イチの早口で言った。
連絡?
とにかく、チャイムが鳴ったのでおれも急いで自分の教室にもどる。
連絡って……。
ホームルームが終わって、一時間目がはじまった。
(きた!)
ユッキーからライン。
先生にバレバレだとは思いつつ、教科書を立ててバリアをつくって、こっそりスマホを操作。
「やっほー!」
と、元気のいいメッセージ。
そうだ。思い出した。ユッキーって、メールとかラインだと別人みたいになるんだ。
「さあ、さっきの続きだよっ!」
「うん」
「迷ってるって、どういうことダイ?」
「告白してくれた子と、つきあってもいいのかな、って」
「というと?」
「おれにはもう一人」前の席の女子が髪をショートにしていて、たまたま〈あいつ〉にそっくりだった。「好きな子がいるんだ。どっちが、自分にとって正しい恋なのか、わからない」
「よし! じゃあタロットで占ってしんぜよう!」
「え?」
そこで、やりとりが一時停止した。
10分ぐらいして、
「結果が出たよ!」
なぜか、おれは緊張していた。
そのワケは、ユッキーの占いはよく当たるからだ。不気味なほど当たる。おれが「13人の女の子にフラれる」ことも占いで言い当てているんだ。…………あれ? ってことは、もうこれ以上おれはフラれないって意味にもとれるような……そんなことはないか。
「ききたい?」
「ここまできて、それはないよ」
「うふふ。では結果発表じゃ~~~‼ 正しい恋の相手は――」
古典の授業が、壁の向こうでやってるみたいに、ほとんど耳に入ってこない。
おれはスマホをじーっと見つめつづけていた。
「 ? 」
ん?
なんだ、これ。ハテナマークだけしかない。
「どういうこと?」
「天秤がつり合った。こんなの……はじめて♡」
「なんでハートマークなんだよ」
「うふ。とにかく、その二人で占ってみたけど、差がつかなかったのよぅ」
「どっちが正しいかわからないってこと?」
「そもそも恋愛に正しいなんてあるのカイ?」
う……なんかいい感じっぽく言って、強引にまとめられたぞ。
まいったな。
そもそも、占いにたよろうとしたのがダメだったか。
おれが、おれの恋愛をするんだ。おれが選択できなくてどーする。
「ありがとう。なんかスッキリしたよ。おれ、授業にもどるから」
「……くやしい」
「ユッキー?」
「二者択一じゃなくて、できれば三者択一がよかったな~なんて!」
最後のコメントの下に画像つき。
自撮りで、みじかい三つ編みの彼女が目をぎゅっとつむって小さい口を四角くあけ、イー! としてる。
思わずキュンときた。
かわいい。
(勇も昔は「イー!」ってよくやってたな)
今も、たまにするけどな。
(三者択一か……まさか、まだユッキーもおれのことを……)
いや。
たしかに、フラれてる。これはシャレで言っただけでマジじゃないと思うんだ。
もしかしたら……おれが本当は誰が好きなのかを占いで見抜いて、自分から身をひいたってことは考えられるけど。
「はー」
つかれた。
授業をこなして、放課後に演劇部で演技の特訓をみっちり受けて、やっと下校。
雨がシトシトふる帰り道。
やっと駅についたところで、
「小波久くん!」
うしろから声をかけられた。
今までと声色がだいぶちがったから誰かわからなかったが、
「外井……くん?」
「はい。ずっと、ここで待ってたんですよ」
片手でスクールバッグを肩にかつぎ、片手でビニール傘をさしているのは、勇の彼氏。
ちがう。
勇が自白したじゃないか。彼は、彼氏じゃないって。
実際、彼からはもう〈彼氏役〉を降りたみたいな自由な空気を感じる。
おれは笑顔をつくって片手をあげた。
「やあ。そっちも部活だった?」
「いえ、今日は休みました」目線を横にそらして「すこし、おれと話しませんか?」と言う。
おれたちは駅の待合室のベンチにならんで座った。
もう日は落ちてうす暗くなっていて、正直、めっちゃハラがへっている。
「いや~」と、彼は自分の頭をワシづかみするようにさわった。「うまくやってたつもりですけどね。やっぱ、ボロが出ちゃったか。どこで気づきました? おれたちがカップルじゃないってことを」
外井くんは、さらっと大事なことを告白した。なんでもないことみたいに。
心のどこかでは半信半疑だったおれも、もはや信じざるをえない。
「あれ? もう、バレてるんですよね? 勇ちゃんから、そう聞いたんですけど……」
「おれは気づいてなかったよ」
「えっ」
「ある人が、魔法をくれたから」
おれは勇のウソを見破れた理由を説明した。
「あー、なるほど、そうきましたか。やばいぐらい頭がいーっスね、その〈ユナさん〉って人」
「あの……どうして二人は」
外井くんは顔をくしゃっとさせて笑い、そのままペコッと頭をさげた。
「くわしいことは、おれからはちょっと……。そのうち、勇ちゃんから聞けると思いますよ。ほんとに、すみませんでした」と、また頭をさげる。
「いいよいいよ、気にしないで」
「あのとき……」
彼はまっすぐな目で、おれをみた。
「心の底からうれしかったんですよ。ははっ。おれ、感情が顔にでないように、かくすのに必死でした」
「え?」
「ほら、放課後に『やっぱナーーーシ』って叫んでくれたじゃないですか」
パッとあの日の記憶がよみがえった。
外井くんに、幼なじみの勇をどう思っているかをきかれた場面を。
おれは「友だちだよ」ってこたえて「恋愛感情は持ってない」とも言ったけど、それを「ナシ」ってソッコーで取り消したんだ。
「勇ちゃんを、お願いします!」
かるく手をふって、駅の改札と反対方向に走っていく。そういえば彼って自転車通学だったか。この雨のなか帰るのは、大変そうだな。
(とにかく――これで完全に、彼と勇がつきあってるセンは消えたわけか)
電車の中ではずっと、勇のことを考えていた。
つまり〈どうしてウソをついたのか〉ってことだ。
ドッキリやサプライズにしては、手がこみすぎているし、実行した期間も長すぎる。
(ウダウダ考えるより、直接きくか)
それがよさそうだ。
おれは頭がよくないし、かけひきだってヘタなんだから。
電車をおりると、雨はやんでいた。
いつもの道を歩いて帰る。
前に勇が立ち読みをしていたコンビニをのぞいたが、今日はいなかった。児童公園にも、当然いない。前から自転車がくるたびに、つい勇じゃないかと確認してしまう。
気がつけば、おれは勇をさがしてばかりいる。
家が近づいてきた。
(……ん)
声がきこえる。
あいつの声。
「…………正とは、そういうんじゃないけど」
「だったら」
家の前に人影が二つ。
向かい合っている。
勇と、ずいぶん背の高い男が。
男は学校の制服――っていうか、あれは転校生! どうしてここに!
おれよりも少しトーンの低い、声優のような聞き取りやすいイケボで、転校生は言った。
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