正しい恋はどこだ?

嵯峨野広秋

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運命は同時進行で

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 はずかしい告白をする。
 おれは、12人もの女の子とつきあいながら、1人も自分の部屋にあげたことがない。
 そうなる前にフラれたからだ。
 つまり、彼女は――

「あ。ありがとうございます」

 幼なじみのゆう以外で、はじめておれの部屋に入った女子……ということになる。
 紅茶のいい香り。ティーカップもオシャレ。
 ごゆっくりね、と3人分の紅茶をはこんでくれた勇のお母さんが笑顔で部屋をでていった。
 まるいローテーブルを三角形をつくるように座っていて、おれは正座、勇はあぐら、星乃さんは足をひかえめに横に出して座っている。

「ほんとに……さっきは、ごめんなさい!」

 ばっ、と頭をさげて、長い髪の毛がゆれた。帰り道で会ったときはポニテにしてたけど、今はとくに結んだりくくったりしていない。こめかみのあたりに〈天使のわ〉がハッキリできていて、メンテばっちりって感じのキレーな黒髪だ。すごくサラサラで、静電気でちょっと浮いてる髪もあって――

「……見すぎじゃない?」

 じと……と勇が細めに細めた目でおれを見る。
 しかも頬杖ほおづえまでついて。
 と、その目を一瞬でふつうの目にもどして、星乃さんに向けた。

「いいのいいの! 頭をあげてよ。べつに……ねぇ?」

 パス、とばかりにおれに目線。
 星乃さんも、上目づかいでおれに目線。
 もうしわけなさそうな表情をしているが、はっきり言って彼女にツミはない。
 うちにアイサツにきたら、勇のお母さんが茶目っ気をだして「おどろかせてあげてよ」と、おれの部屋に通してあげたというだけの話だ。
 おれには聞こえなかったけど、きっとノックもしてたんだと思う。
 気づかなかったおれがわるいんだ。

「そ、そうだよ。おれも勇も気にしてないし、何かしてたっていうわけでもないし……」
「でも……いいムードでしたよ?」
「演技だよ演技」と、おれにしては会心の切り返しができた。「ちょっとつきあってもらったんだ。おれ、演劇部だから」
「そうなんですか?」
「そうそう。おれたち、どっちもマジじゃないから」

 何か言いたそうな顔をおれに向けたが、それだけで勇は何も言わなかった。
 そして何秒か静かながあったあと、それよかさ、と勇が話題をかえる。

「あなただったんだね。新しく引っ越してきた人って」
「はい」
「…………かわいい」
「はい?」

 着てる赤いニットの胸元を片手でおさえて、ちょっと首をかしげる。

「めっ~ちゃかわいいじゃん!」
「そ、そうですか?」
「かわいすぎだよ。しかもこの透明感。彼氏はいる?」
「いえ、その……女子校なので」
「それは関係ないよー。むしろ女子校の子のほうがすすんで――」
「勇。まずは自己紹介からだろ」助け舟のつもりで、口をはさんだ。しかし、さりげなく〈彼氏いない〉の情報が引き出せたのは、勇にグッジョブと言わざるをえない。「名前もまだ教えてないんだし」

 おれは言いながら、紅茶に手をのばした。
 すこし、手がふるえてる。ドキドキもしてる。顔も赤いかもしれない。
 おれは急いで手をひっこめた。
 さいわい勇には気づかれていない。
 勇は、お母さんがもってきてくれたマドレーヌをパクパク食べている。

(わからない……これって星乃さんが目の前にいるからなのか)

 私はねぇ~、と明るく名乗っている幼なじみの横顔を見た。

(それとも、こいつのせいなのか。なんなんだよアレ……『つきあってない』って。そんなのアリか?)

「ほら」と、勇がおれの肩をゆする。
「え? 何が?」
「つぎは正の番でしょ、自己紹介」
「おれはいいよ」

 勇に、今日帰り道で彼女と会ったことを話す。

「へー、そうなんだ。すっごい偶然じゃん」
「たまたま同じ車両に彼女が乗ってきたんだ」
「へー」
「連絡先も交換した」

 会話の流れ上、ここにも「へー」とか「えっ?」と勇がアイヅチを入れるはずなんだが、

「……」

 だまってしまった。
 昔から、こいつはおどろいたときに無言になるクセがある。
 おどろいた、というか自分にとっていやなニュースを耳にしたときというか。
 最近だと、おれがまちがえて勇のプリンを食べたと伝えたときもそうなった。

「……そう」

 でもなんか今までとちがう感じがする。
 プリンのときみたく、だまったあとにパンチやキックもしてこない。なんかシュンとしてるような……。

「正ったら、手が早いんだから」

 声にも、あまり明るさがない。
 星乃さんは空気を読んだのか、そこで「そういえば宿題があって」と思い出したように言って、ササッと帰ってしまった。

 ◆

「危機感あるんじゃない?」

 突然、そう言われた。
 朝の教室。外は雨がふってる。
 スカートのポケットに左手をつっこんだ女子が、右手をおれの机においた。 
 国府田こうださんだ。
 このクラスの女子をひっぱる、ちょいヤンキーっもある女の子。セミロングの髪はほのかに茶色。
 座ったままで彼女を見上げながら言う。

「危機感って何?」
「正クンが、女子人気ナンバーワンから落ちるかもってこと」
「え?」
「知らないの? 情報おそいなぁ。あのね――」

 はじめて聞いた。
 昨日、べつのクラスに転校生がきたらしい。
 勇と同じクラスに。
 おれより背が高いとか美形とかいうより、はっきり言ってそっちのほうが圧倒的に気になった。

「いやー!」

 と、おれたちの会話に児玉こだまも割りこむ。

「おれもさっきチェックしてきたけどさー、ありゃーレベチ。別次元だわ」
「そうか」と、おれはそれほど興味がない。「モテるんだろうな」
「バカいえ。おれン中では、ショーのが上よ。ショーにだったら抱かれてもいいけど、あいつはイヤだね」
「朝からする話じゃないでしょ」と、国府田さんが児玉の肩を押す。「でも面白い子が入ったよね。来年のバレンタインとか、チョコの数じゃどっちが勝つのかな~」

 かんべんしてくれよ、と国府田さんに言い返したとき、かぶせるように児玉が聞き捨てならないことを言った。
 おれは立ち上がる。

「わるい。もう一度、言ってくれ」
「へっ? だからよぉ、転校生のヤロウめ、楽しそうに勇ちゃんとツーショットでしゃべりやがって、って」
「まじか」
「ん? ショー、どーしたのよ?」

 いきおいで廊下にでた。
 でも、どうする。
 いくのか?

(勇)

 いこう。
 いかなくちゃ、この気持ちにおさまりがつかない。
 自分の目で確認したい。
 だいたい、児玉のヤツは話を盛りがちだからな。
 どうせさっき言ったことだって、フツーに、転校生がほかの男子や女子といっしょに――

(ツーショット‼)

 一瞬、息がとまってしまった。
 児玉は、話を一ミリも盛っていなかった。
 教室のスミに、勇と向かい合う、背の高い男子がいる。
 めっちゃ盛り上がってる。
 勇なんか、手をたたいて笑ってるぞ。
 おれは会話力も笑いのセンスも0点だから、あんなに勇を笑わせたことは……ひょっとしたら、ないかもしれない。

「――? ――」
「――!」

 何を話しているかは、聞こえない。
 ただただ楽しそうだ。勇の目も、心ナシか、ふだんよりキラキラしてるような……。
 相手の転校生は、国府田さんの情報どおりで超絶イケメン。スタイルもいい。おれより5センチは背が高いだろう。
 男を見上げて、気持ちよさそうに話している勇。
 まるで、おれがよく知ってるあいつじゃないようで……。
 くそっ!
 なんか、よくない感情で胸がいっぱいになってる。ヤキモチとかシットとかジェラシーとか、そんなヤツ。

(見に行くんじゃ、なかったか……)

 ていうか、なんで落ちこんでるんだ、おれ?
 そもそも、あいつには〈彼氏〉がいたんじゃないか。
 彼氏となら、おしゃべりどころか……もっと親しくするもんだろ? 
 ヤキモチなんか、今さらすぎないか?
 どうしたんだよ。
 まったく。
 廊下の窓の外は雨。
 窓ガラスに映るおれが、すこし猫背になってる。
 どこか表情も暗い。
 えーい! 笑顔笑顔! んで、シャキッと胸をはれっ!
 もどってこい! 最っ~~~高にかっこいい、おれっ!

(ん?)

 スマホに着信。
 星乃さんからのラインだ。
 あやしげな感じがする出だしだった。
「運命って信じますか?」なんて。
 とりあえずノリを合わせて、「信じるよ」と、おれは男前に返す。
 すると、 

「私も、信じてみます!」

 なにを? と打ち返す前に、追いかけるように向こうからメッセージがきた。


「私たち、おつきあいしませんか?」

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