3 / 17
女神の恋
しおりを挟む
「ありがと、×××!ほんっと、うちらのクラスの女神ー!」
「あはは…大したことないよ」
私のノートを持って、パタパタと教室をでる女の子の姿が見えなくなってから、ため息を一つ。
女神、か…
ふと窓からグラウンドを見下ろすと、サッカー部のキャプテンの貴方と目が合う。
クラスメイトで、知らない中じゃないから、手を小さく振って挨拶。
貴方も同じように返してくれた。
と、思ったら大きな声で何かを叫ぶ。
「まってて!いくから!」
「えっ!?」
私は驚くけど、その反応を知ってか知らずか…貴方は楽しそうに笑って、昇降口の方へ駆け出した。
そしてきっかり三分後。
「はぁっ、いい運動になった~」
「な、何かよう?」
私は平静を装って、息を切らす貴方を見つめた。
「ん、いや。ただ話したいなって」
屈託のない瞳が、人懐こい子犬みたいだ。
「話したい、って…部活は?」
「今日、自主練だし」
「キャプテンなのに」
「みんなサボってるよ。たまにはこんな日があってもいいかなー、って。そう思わない、女神さま?」
…にやにや顔をつねってやりたい。
けど堪えて咳払いを一つ。
「思いません」
「ちぇっ」
貴方は不貞腐れたように頬を膨らませたけど、一瞬で笑顔に戻った。
あまり感情が顔に出ない私には、少しだけ羨ましい。
「ねぇねぇ、女神さま」
「その呼び方やめてっ」
「気に入らない?似合うのに」
「……」
私には似合わない。
私は女神でも聖女でもない。
ただの人間の、普通の女子高生。
「×××」
「えっ?」
「いやなら、名前がいいかな…って」
久しぶりに、男の子に下の名前で呼ばれた。
大抵ふざけ半分に女神って呼ぶか、真面目な人は名字にさん付けだから、新鮮だ。
「だ、だめ」
「えっ!?」
慣れてないだけ、のはず…顔が熱くて仕方が無いのは。
「照れてる?」
「照れてない」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしくない…」
「×××」
「や、やめてってば」
ずいと顔を寄せられ、耳元で名前を呼ばれる。
「あははっ、耳まで真っ赤!」
「う、うるさい…もう」
赤いと言われた耳を右手で隠して、距離をとろうとする。
けれど。
「な、なに」
貴方は私の左手を掴んでいて、離れられない。
今まで感じたなにより柔らかい熱を持った手から、逃げられない。
「俺がさ、×××と話したかったのは…好き、だからだよ」
「か、からかわないでよ…」
私が一歩下がれば、貴方は一歩近づく。
嫌じゃない、なんて。私はどうかしてしまったの?
「からかってない。本当だよ?×××がいつも放課後は教室で勉強してるの知ってた。だから見てくれるのを待ってた」
いつも、グラウンドに目を向けた時…目が合ったように感じたのは、気のせいじゃなかった…?
「今日、やっと声かけられたから。ごめんな、勢いでこんなこと言っちゃって!急に言われても、困るよな…」
私の手から、貴方の手が離れる。
なんだろう、少し、寂しい。
「返事、後ででいいから。考えといて」
「あ、あの」
「じゃあ、そろそろ戻るわ!またな!」
「まっ──」
手を伸ばして掴もうとしたけれど、サッカー部のユニフォームはするりと躱すみたいに揺れた。
呆然とする私だけが、教室に残る。
「びっ、くりしたぁ…」
へなへなと座り込んで頬に手を当てると、じんわりと熱を帯びていた。
あの時私の手を掴んでいた貴方の手の温度と似ている。
「どう、したらいいの…」
初めて感じた熱に戸惑いながら、私はよろよろと立ち上がり、ふたたびグラウンドに目を向けた。
──私は、貴方を…
「あはは…大したことないよ」
私のノートを持って、パタパタと教室をでる女の子の姿が見えなくなってから、ため息を一つ。
女神、か…
ふと窓からグラウンドを見下ろすと、サッカー部のキャプテンの貴方と目が合う。
クラスメイトで、知らない中じゃないから、手を小さく振って挨拶。
貴方も同じように返してくれた。
と、思ったら大きな声で何かを叫ぶ。
「まってて!いくから!」
「えっ!?」
私は驚くけど、その反応を知ってか知らずか…貴方は楽しそうに笑って、昇降口の方へ駆け出した。
そしてきっかり三分後。
「はぁっ、いい運動になった~」
「な、何かよう?」
私は平静を装って、息を切らす貴方を見つめた。
「ん、いや。ただ話したいなって」
屈託のない瞳が、人懐こい子犬みたいだ。
「話したい、って…部活は?」
「今日、自主練だし」
「キャプテンなのに」
「みんなサボってるよ。たまにはこんな日があってもいいかなー、って。そう思わない、女神さま?」
…にやにや顔をつねってやりたい。
けど堪えて咳払いを一つ。
「思いません」
「ちぇっ」
貴方は不貞腐れたように頬を膨らませたけど、一瞬で笑顔に戻った。
あまり感情が顔に出ない私には、少しだけ羨ましい。
「ねぇねぇ、女神さま」
「その呼び方やめてっ」
「気に入らない?似合うのに」
「……」
私には似合わない。
私は女神でも聖女でもない。
ただの人間の、普通の女子高生。
「×××」
「えっ?」
「いやなら、名前がいいかな…って」
久しぶりに、男の子に下の名前で呼ばれた。
大抵ふざけ半分に女神って呼ぶか、真面目な人は名字にさん付けだから、新鮮だ。
「だ、だめ」
「えっ!?」
慣れてないだけ、のはず…顔が熱くて仕方が無いのは。
「照れてる?」
「照れてない」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしくない…」
「×××」
「や、やめてってば」
ずいと顔を寄せられ、耳元で名前を呼ばれる。
「あははっ、耳まで真っ赤!」
「う、うるさい…もう」
赤いと言われた耳を右手で隠して、距離をとろうとする。
けれど。
「な、なに」
貴方は私の左手を掴んでいて、離れられない。
今まで感じたなにより柔らかい熱を持った手から、逃げられない。
「俺がさ、×××と話したかったのは…好き、だからだよ」
「か、からかわないでよ…」
私が一歩下がれば、貴方は一歩近づく。
嫌じゃない、なんて。私はどうかしてしまったの?
「からかってない。本当だよ?×××がいつも放課後は教室で勉強してるの知ってた。だから見てくれるのを待ってた」
いつも、グラウンドに目を向けた時…目が合ったように感じたのは、気のせいじゃなかった…?
「今日、やっと声かけられたから。ごめんな、勢いでこんなこと言っちゃって!急に言われても、困るよな…」
私の手から、貴方の手が離れる。
なんだろう、少し、寂しい。
「返事、後ででいいから。考えといて」
「あ、あの」
「じゃあ、そろそろ戻るわ!またな!」
「まっ──」
手を伸ばして掴もうとしたけれど、サッカー部のユニフォームはするりと躱すみたいに揺れた。
呆然とする私だけが、教室に残る。
「びっ、くりしたぁ…」
へなへなと座り込んで頬に手を当てると、じんわりと熱を帯びていた。
あの時私の手を掴んでいた貴方の手の温度と似ている。
「どう、したらいいの…」
初めて感じた熱に戸惑いながら、私はよろよろと立ち上がり、ふたたびグラウンドに目を向けた。
──私は、貴方を…
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる