恋愛物語り。

闇猫古蝶

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女神の恋

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「ありがと、×××!ほんっと、うちらのクラスの女神ー!」

「あはは…大したことないよ」

私のノートを持って、パタパタと教室をでる女の子の姿が見えなくなってから、ため息を一つ。

女神、か…

ふと窓からグラウンドを見下ろすと、サッカー部のキャプテンの貴方と目が合う。

クラスメイトで、知らない中じゃないから、手を小さく振って挨拶。

貴方も同じように返してくれた。

と、思ったら大きな声で何かを叫ぶ。

「まってて!いくから!」

「えっ!?」

私は驚くけど、その反応を知ってか知らずか…貴方は楽しそうに笑って、昇降口の方へ駆け出した。

そしてきっかり三分後。

「はぁっ、いい運動になった~」

「な、何かよう?」

私は平静を装って、息を切らす貴方を見つめた。

「ん、いや。ただ話したいなって」

屈託のない瞳が、人懐こい子犬みたいだ。

「話したい、って…部活は?」

「今日、自主練だし」

「キャプテンなのに」

「みんなサボってるよ。たまにはこんな日があってもいいかなー、って。そう思わない、女神さま?」

…にやにや顔をつねってやりたい。

けど堪えて咳払いを一つ。

「思いません」

「ちぇっ」

貴方は不貞腐れたように頬を膨らませたけど、一瞬で笑顔に戻った。

あまり感情が顔に出ない私には、少しだけ羨ましい。

「ねぇねぇ、女神さま」

「その呼び方やめてっ」

「気に入らない?似合うのに」

「……」

私には似合わない。

私は女神でも聖女でもない。

ただの人間の、普通の女子高生。

「×××」

「えっ?」

「いやなら、名前がいいかな…って」

久しぶりに、男の子に下の名前で呼ばれた。

大抵ふざけ半分に女神って呼ぶか、真面目な人は名字にさん付けだから、新鮮だ。

「だ、だめ」

「えっ!?」

慣れてないだけ、のはず…顔が熱くて仕方が無いのは。

「照れてる?」

「照れてない」

「恥ずかしい?」

「恥ずかしくない…」

「×××」

「や、やめてってば」

ずいと顔を寄せられ、耳元で名前を呼ばれる。

「あははっ、耳まで真っ赤!」

「う、うるさい…もう」

赤いと言われた耳を右手で隠して、距離をとろうとする。

けれど。

「な、なに」

貴方は私の左手を掴んでいて、離れられない。

今まで感じたなにより柔らかい熱を持った手から、逃げられない。

「俺がさ、×××と話したかったのは…好き、だからだよ」

「か、からかわないでよ…」

私が一歩下がれば、貴方は一歩近づく。

嫌じゃない、なんて。私はどうかしてしまったの?

「からかってない。本当だよ?×××がいつも放課後は教室で勉強してるの知ってた。だから見てくれるのを待ってた」

いつも、グラウンドに目を向けた時…目が合ったように感じたのは、気のせいじゃなかった…?

「今日、やっと声かけられたから。ごめんな、勢いでこんなこと言っちゃって!急に言われても、困るよな…」

私の手から、貴方の手が離れる。

なんだろう、少し、寂しい。

「返事、後ででいいから。考えといて」

「あ、あの」

「じゃあ、そろそろ戻るわ!またな!」

「まっ──」

手を伸ばして掴もうとしたけれど、サッカー部のユニフォームはするりと躱すみたいに揺れた。

呆然とする私だけが、教室に残る。

「びっ、くりしたぁ…」

へなへなと座り込んで頬に手を当てると、じんわりと熱を帯びていた。

あの時私の手を掴んでいた貴方の手の温度と似ている。

「どう、したらいいの…」

初めて感じた熱に戸惑いながら、私はよろよろと立ち上がり、ふたたびグラウンドに目を向けた。

──私は、貴方を…
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