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この世界はとある恋愛小説の世界である。
日本で社会人をしていた私は不慮の事故によって27歳の人生に幕を閉じた。
そして前世の記憶を持ったまま、このイゼルド王国の公爵家の長女として生を受けた。
死を受け入れられないまま、意味もわからず赤ん坊からやり直しになった上に、目の前には完全に外国人の両親。
当時は発狂したかのように泣いてばかりだったが、案外自分は図太いのか、はたまた生まれた家が裕福で不自由なく幼少期を過ごせたからか、徐々にこの世界に順応していった。しかし、他の子と比べればとてつもなく厄介な赤ん坊だったと思う。
そうして私が3歳になった頃、礼儀作法や公爵家の人間としての教養の勉強が始まり、国や歴史、世界を学び始めた時に、ふと、この世界が私の知っているとある恋愛小説の世界であることを思い出した。
まさか自分が物語の中に入り込むなんてと、とうとうキャパオーバーになった私は高熱を出し、数日間寝込むこととなる。
後にも先にも寝込んだのはそれ一回だったのだが、両親は大層心配をかけ、泣かせてしまった。
生まれてからずっと、両親が他人にしか思えず、うまく二人に懐けなかったのだが、そんな私を変わらず愛し、心配してくれた父と母のその姿を見て、やっと父と母と向き合うようになったきっかけの出来事でもある。
私が生まれ落ちた国、イゼルド王国は、恋愛小説の物語の舞台となる国、オルマー王国ではなく作中名前のみが出てくるモブ王国である。
そんなモブ王国、イゼルドの中でも由緒正しきサーラント公爵家の一員として生まれた私は、すべてを思い出した後も、両親との関係が近くなった以外は特に変わらず、日々不自由なく過ごしていくこととなる。
その後様々な勉強をする内に、私が生まれた暦が物語の主人公たちが活躍する年の18年前であることを知った。丁度自分が18歳になった頃にオルマー王国に旅行にでも行けたら、もしかしたら主人公たちの活躍をこの目で見れるのではないか、なんて夢見ながら毎日を過ごしていたものだ。
そんな時に舞い込んできた王太子アルベルト殿下との婚約。私と彼が5歳の時だった。
婚約者、アルベルト王太子殿下は、それはもう見目麗しい男の子であった。黒髪に青い瞳、完璧に配置された目鼻口、勉学も優秀で、その上、どのような者に対しても決して偉ぶらないお人だった。それはもう完璧な方で、え、これで物語では名前も出ないモブなの……?と戦慄したものだ。
ちなみに自分で言うのもなんだが、私も結構美しい容姿をしていると思う。父と母の遺伝子を受け継いだ銀髪に青い瞳、少しだけツリ目のバサバサまつ毛、これまた完璧に配置された目鼻口。
アルベルト殿下と並ぶと、周囲は私達を美しい氷の彫刻のようだともてはやしていた。いや、氷の彫刻とは。色味が寒そうだからか?
そんなアルベルト殿下と婚約者となってからの日々は、それはもう忙しいもので、物語のことなど頭からすっぽ抜けるくらいには忙しかった。王妃教育、とんでもない。
私でこれなのだから、アルベルト殿下はさぞ忙しいだろうと思うのだが、いつ会っても涼しい顔をしていて、この子本当に同い年か?と疑惑の目を向けていた。ただ彼が優秀で、私が凡人だっただけなのだが。
婚約者としてアルベルト殿下には定期的に会うことが義務付けられていたため、私達は頻繁にお互いの家を行き来していた。
基本的には会っても、私がしょうもないプライベートな話をしたり、少し政務の話をしたりと、とても盛り上がっているとはいえない有様。
だいたい話しているのは私のほうで、アルベルト殿下は相槌をうつか、少し話にのってくるかしかしない。穏やかではあるが、何度会っても二人の関係が深まっているとは到底思えなかった。貴族の結婚なんてこんなものかな、と思う反面、アルベルト殿下の表情は常に気になっていた。
アルベルト殿下は私と会う間一切の笑顔を見せなかったのだ。
数年経ってもそんな状況だったため、これは本格的に嫌われてる…?と思っていたところ、二人で参加したとあるパーティーにて、他の令息や令嬢たちに笑顔を見せているところを目撃した私は、自分が本当に嫌われていることを自覚した。
この婚約は完全な大人の事情で政略的なものだ。私は前世の記憶もあった為、貴族の結婚はそういうものだと割り切る気持ちを持てていたが、彼はどうやら違ったようだ。
その後どんなに一緒に過ごしてもアルベルト殿下は私に笑いかけることはなかった。
嫌われている事実に気づいたあとも、私は特に何かするわけでもなく、今まで通り二人で穏やかに過ごすようにしていた。彼自身、顔に不満が出る以外は特に態度に出すわけではなかったからだ。それならばこちらも大人の対応として彼のその表情についてはスルーして過ごすことにしようと決めたのだ。
完璧な王太子殿下でも、嫌な婚約者相手には仏頂面になってしまうという子供っぽいところに、かわいらしい一面もあるのだな、という気持ちになれたのも理由として大きい。
そして私自身、彼の美しい容姿は好きだったし、彼が笑おうが笑わなかろうが、ずっと見ていられたというのも、心穏やかに過ごせる要因だった。
そんな曖昧で微妙な距離を保ちながら10年以上婚約者として過ごしていっていたのだが…。
そんな婚約者が、私達が通う王立学園の中で恋をした。
私達が最高学年に上がったときに入学してきた、2個下のモーブ伯爵家のマリアベル嬢だ。
マリアベル・モーブは、いわば圧倒的なヒロインだった。
日本で社会人をしていた私は不慮の事故によって27歳の人生に幕を閉じた。
そして前世の記憶を持ったまま、このイゼルド王国の公爵家の長女として生を受けた。
死を受け入れられないまま、意味もわからず赤ん坊からやり直しになった上に、目の前には完全に外国人の両親。
当時は発狂したかのように泣いてばかりだったが、案外自分は図太いのか、はたまた生まれた家が裕福で不自由なく幼少期を過ごせたからか、徐々にこの世界に順応していった。しかし、他の子と比べればとてつもなく厄介な赤ん坊だったと思う。
そうして私が3歳になった頃、礼儀作法や公爵家の人間としての教養の勉強が始まり、国や歴史、世界を学び始めた時に、ふと、この世界が私の知っているとある恋愛小説の世界であることを思い出した。
まさか自分が物語の中に入り込むなんてと、とうとうキャパオーバーになった私は高熱を出し、数日間寝込むこととなる。
後にも先にも寝込んだのはそれ一回だったのだが、両親は大層心配をかけ、泣かせてしまった。
生まれてからずっと、両親が他人にしか思えず、うまく二人に懐けなかったのだが、そんな私を変わらず愛し、心配してくれた父と母のその姿を見て、やっと父と母と向き合うようになったきっかけの出来事でもある。
私が生まれ落ちた国、イゼルド王国は、恋愛小説の物語の舞台となる国、オルマー王国ではなく作中名前のみが出てくるモブ王国である。
そんなモブ王国、イゼルドの中でも由緒正しきサーラント公爵家の一員として生まれた私は、すべてを思い出した後も、両親との関係が近くなった以外は特に変わらず、日々不自由なく過ごしていくこととなる。
その後様々な勉強をする内に、私が生まれた暦が物語の主人公たちが活躍する年の18年前であることを知った。丁度自分が18歳になった頃にオルマー王国に旅行にでも行けたら、もしかしたら主人公たちの活躍をこの目で見れるのではないか、なんて夢見ながら毎日を過ごしていたものだ。
そんな時に舞い込んできた王太子アルベルト殿下との婚約。私と彼が5歳の時だった。
婚約者、アルベルト王太子殿下は、それはもう見目麗しい男の子であった。黒髪に青い瞳、完璧に配置された目鼻口、勉学も優秀で、その上、どのような者に対しても決して偉ぶらないお人だった。それはもう完璧な方で、え、これで物語では名前も出ないモブなの……?と戦慄したものだ。
ちなみに自分で言うのもなんだが、私も結構美しい容姿をしていると思う。父と母の遺伝子を受け継いだ銀髪に青い瞳、少しだけツリ目のバサバサまつ毛、これまた完璧に配置された目鼻口。
アルベルト殿下と並ぶと、周囲は私達を美しい氷の彫刻のようだともてはやしていた。いや、氷の彫刻とは。色味が寒そうだからか?
そんなアルベルト殿下と婚約者となってからの日々は、それはもう忙しいもので、物語のことなど頭からすっぽ抜けるくらいには忙しかった。王妃教育、とんでもない。
私でこれなのだから、アルベルト殿下はさぞ忙しいだろうと思うのだが、いつ会っても涼しい顔をしていて、この子本当に同い年か?と疑惑の目を向けていた。ただ彼が優秀で、私が凡人だっただけなのだが。
婚約者としてアルベルト殿下には定期的に会うことが義務付けられていたため、私達は頻繁にお互いの家を行き来していた。
基本的には会っても、私がしょうもないプライベートな話をしたり、少し政務の話をしたりと、とても盛り上がっているとはいえない有様。
だいたい話しているのは私のほうで、アルベルト殿下は相槌をうつか、少し話にのってくるかしかしない。穏やかではあるが、何度会っても二人の関係が深まっているとは到底思えなかった。貴族の結婚なんてこんなものかな、と思う反面、アルベルト殿下の表情は常に気になっていた。
アルベルト殿下は私と会う間一切の笑顔を見せなかったのだ。
数年経ってもそんな状況だったため、これは本格的に嫌われてる…?と思っていたところ、二人で参加したとあるパーティーにて、他の令息や令嬢たちに笑顔を見せているところを目撃した私は、自分が本当に嫌われていることを自覚した。
この婚約は完全な大人の事情で政略的なものだ。私は前世の記憶もあった為、貴族の結婚はそういうものだと割り切る気持ちを持てていたが、彼はどうやら違ったようだ。
その後どんなに一緒に過ごしてもアルベルト殿下は私に笑いかけることはなかった。
嫌われている事実に気づいたあとも、私は特に何かするわけでもなく、今まで通り二人で穏やかに過ごすようにしていた。彼自身、顔に不満が出る以外は特に態度に出すわけではなかったからだ。それならばこちらも大人の対応として彼のその表情についてはスルーして過ごすことにしようと決めたのだ。
完璧な王太子殿下でも、嫌な婚約者相手には仏頂面になってしまうという子供っぽいところに、かわいらしい一面もあるのだな、という気持ちになれたのも理由として大きい。
そして私自身、彼の美しい容姿は好きだったし、彼が笑おうが笑わなかろうが、ずっと見ていられたというのも、心穏やかに過ごせる要因だった。
そんな曖昧で微妙な距離を保ちながら10年以上婚約者として過ごしていっていたのだが…。
そんな婚約者が、私達が通う王立学園の中で恋をした。
私達が最高学年に上がったときに入学してきた、2個下のモーブ伯爵家のマリアベル嬢だ。
マリアベル・モーブは、いわば圧倒的なヒロインだった。
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