聖剣勇者

明日井晴人

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王都【ベルフォン】編

#04 クソ国王が

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「…それで、何から話していけばいい?」
「いやあ…全部?」

 やれやれとため息を吐いて話すリュナと、どこか申し訳なさそうに苦笑を浮かべたレイ。
 あまり陽の射さない薄暗い部屋の中には、そんな奇妙な関係の男女が向かい合って座っていた。

「全部って…ていうか、レイは何でこの国に来たの?」

 そういえば、といった調子でリュナが聞く。
 それに対して、うーん、と意味ありげな間を置いたレイ。

「…人を探してるんだ。生きてるかどうかも分からないけど」
「え…生死不明ってこと?」

 予想だにしていなかった発言を前に、リュナは思わず聞き返してしまう。

「うん、そうなるね。でももし見つけられたら、たとえ生きてようと死んでようと構わないんだ」
「…それって」
「…うん。僕は、その人を殺すつもりなんだ」

 ———どうして、と迄は、聞けなかった。

「…ごめんね。初対面の君に話すことじゃないよね」
「いや、まあ…」

 またも申し訳なさそうに呟くレイを見て、リュナはかける言葉を失った。
 世の中には聞いてはいけないこともある。もし聞いてしまったとしても、触れないでやることが優しさってもんだ。
 かつて恩人から聞いた、そんな教えを思い出しながら。

「…話、戻していい?」
「うん…そうね」

 ここは一旦聞かなかったことにしよう———。二人に流れる重たい空気に耐えられなくなったリュナはそう考え、レイの提案に賛同する形で話を戻すことにした。

「えっと確か…ああ、全部を話すんだったわね」
「宜しくお願いします。先生」
「先生はやめてよ…リュナでいいわ」

 辟易としつつも、リュナはきちんと説明を果たそうとしてくれている。
 レイはそのことに感謝し、また一つ、お願いしますと頭を下げた。

「じゃあまず、聖剣のことからね。聖剣っていうのは、今レイがやってるみたいに、自らの意思によって取り出すことのできる剣のことを言うわけなんだけど…」

 そう言われて、レイは思い出したように口を開く。

「ということは…さっきの少年も、聖剣使い?」
「そう。あれはこの国お抱えの少年騎士団の奴らね」

 先刻の場面を思い出したのか、さも忌々しげに表情を歪めたリュナ。

「騎士団か…それで、リュナは何でそんな子達と?」
「あー…ちょっとね、私の大事な人を悪く言われたから、つい言い返しちゃったの。今思えば、あいつら相手にすることじゃなかったと思うわ」
「そうなの? でも、それにしてもあれはやりすぎなんじゃ…」

 自分が助けたとはいえ、あのままリュナが攻撃を受けていれば———、とレイは回想する。

「国王直属の騎士団だから、下町で起こした事件なんかどうとでもなるんでしょうね。実際、死人は出ないまでも、ここ最近で何件か騒ぎを起こしてるみたいだし…」
「なんというか…物騒なところだね」
「…グレンが悪いのよ。あの馬鹿がね」

 どこか諦めたように、ぼそりと呟くリュナ。
 それを見て、レイはグレンという、知らない名前が出てきたことについて問おうとする。———が、しかし。

「…って、こんな悠長に愚痴ってる場合じゃない! レイ、あんた勇者連合に加盟してないのよね!?」

 突如として声を荒げたリュナによって、それは遮られてしまった。

「え、あ、うん、そうそう。その、勇者連合って何…」
「あいつらが逃げていったのが…一時間前。もう話が回っていてもおかしくない…だとすると、逃げるのは夜にした方が? いやでも…」

 先刻までの彼女とは打って変わって、かなり焦っているのか、額にうっすらと汗を浮かべつつ何やら思考を巡らせるリュナ。
 その剣幕は凄まじいもので、レイの投げかける疑問にさえ一切気づかないほどだ。

「…単刀直入に言うわよ、レイ」
「う、うん。どうしたの?」

 と、一頻り考えた後、急に真剣な面持ちになって言うリュナに、レイは若干気圧されながらも返事をする。
 なんだろう、また何かの証明書が無いとかかな———。この状況下で、なおも呑気なことを考えるレイに、リュナは一言一句間違うことなくこう告げた。

「あんたは今、この国全体で…指名手配されてるわ」
「………え?」

   ~ ☆ ~

「…で、そんな急いで何の用だ?」

 城内で一番大きな部屋である王の間にて、彼———、仰々しい真紅の外套を羽織った男は、それらしい豪奢な装飾が施された玉座に腰掛けながら言う。

「え、ええと、その…!」
「いや、えっと、あの…!」

 外套男に睨まれながらの応答に、思わず身体を竦ませて声を震わせた二人の少年。
 すると、そんな二人を見かねてか、隣に立っていたもう一人の少年———、バートが口を開いた。

「つい先刻、下町にて聖剣使いを確認致しました。腕章が無いところを見るに、連合にも所属していないものと思われます」

 すらすらと言葉を紡ぎつつ、地面に片膝を付き、まるで外套男を崇めるような態度になるバート。
 それを見て、傍らで立っていた二人の少年は、バタバタと慌てた動きで彼と同じ姿勢を取った。

「…そりゃ本当か、バート」
「はい。私がこの目で見ました」

 広大な部屋全体にすら響き渡る、重く鋭い声にも、バートは臆せず返答をする。

「奴は…私の『波動の聖剣』の攻撃を、完全に防いで見せました」
「…ほう」

 面白い、と言わんばかりの微笑を、その顔に浮かべた外套男。
 バートはその様子をチラリと視線を上げて確認すると、ほんの少しだけ安堵の息を漏らす。———が、しかし。

「ところで…バート、如何して聖剣を使った?」
「…ッ!」

 ちょうど思っていたところを目敏く指摘され、どきりとするバート。

「そ、それは、そのッ…!」
「俺は言った筈だぞ? 城外で無闇に聖剣を出してはならないとな」
「ぐッ…仰る、通りで…」
「なら、何故だ。…三度目はないぞ」

 まさか。まさか歳下の子供の挑発に乗せられましたとは、口が裂けても言えるわけがない。
 意に反してガタガタと震える身体を、バートは必死で隠そうと強張らせる。
 そうして何かを言おうと、彼が顔を上げた、その瞬間だった。

「ぐあッ、がああぁぁあッ…!」

 バートの緊張した顔面を、轟々とした灼熱の炎が襲う。

「…今はそのくらいにしといてやる。すぐに詰所に行って衛兵共に伝えてこい、明日の朝まで全ての門を閉じろとな。…それと、怪しい奴を見かけたらその場で捕らえろとも」
「…承知、致しました…」

 とてつもない激痛の中、大丈夫かと声をかける二人の少年に支えられ、ふらりと立ち上がったバート。
 そのまま部屋を後にしようとする彼らの背中を、外套男はニヤリとした笑みをして見送った。

「…クソ国王が」

 部屋の扉が閉まる直前、バートは玉座にふんぞり返る男を睨みながら吐き捨てた。
 その目の先には———、彼の右手に握られた、邪悪なまでに紅く染まった一本の剣。
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