セラフィエルの憂鬱

笑顔猫

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幼少期編

第13話 好みの女

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 渾身の告白の後、母上からはひとまず考えておくと言われその場はお開きになった。
 学園についての相談をしたかったのだが、なぜこんなことに……。いや本当に婚約者が決まっているのか?私にとって大きな問題のハズだ。なぜ私に教えてくれなかったんだ。

 王族ってそういうものか?
 ……いや、私は国王だったわけだが。
 
 時代が違うよな、時代が。

 とりあえず、学園に行くこと自体は避けられそうもない。さすがに国王王妃に刃向かってまで学園を拒否すれば勘当されかねない。それはアルベールにも悪影響だ。
 王位継承権が無いとはいえ、王族という肩書きが外れた訳ではない。
  
 あぁ、そうそう。私は正式に王位継承権を捨てることになった。だが、アルベールの王位継承権を捨てることはユリウスが許さなかった。
 
 ミネルヴァとの約束を半分反故にしてしまったが、まぁそこは奴も想定内だろう。周りからは身内のちょっとしたゴタゴタで私は王位継承権を捨てる羽目になったのだと思われている。
 おまけにアルベールも捨てさせるとなると、ミネルヴァを取り巻く力が大き過ぎることになる。

 私は自分の意思で継承権を捨てたということになるだろう。

「まぁ僕は別にどっちでもいいけどさ、姉さんが王位を捨てるというのは権力闘争を避けてまですることとは思えないよ。僕のためにまた無茶したね。父さんの困った顔が目に浮かぶよ」

 やかましい。まだケツの青いガキンチョがいっちょ前に口を叩くんじゃない。
 いや、いっちょ前な口を叩くように鍛えさせたのは私だ。母上譲りの口上に、口喧嘩初心者の私が勝てる道理は無い。

「黙ってそれをやれ。無様な結果を見せてみろ、母上と私が同時に頬を叩いてやるぞ。その綺麗な顔をパンパンに腫らしながら通学するのを楽しみにしておく」

「容赦ないなぁ……。僕は姉さんのせいで今大変な思いをしてるはずなんだけど」

「口を動かす前に手を動かすんだ馬鹿たれ」

 そう。
 私たちは今、学園入試のための勉強真っ最中なのだ。


 
 私たちは王族だ。それ相応の責務がある。
 学園に入るならば、無様な成績を残す訳にはいかんし、同年代で私の弟より優秀なやつがいる事が存在する事実をどうやら私は認めたくないようだ。

 アルベールには首席で入学してもらいたい。

 それがアルベールの役目でもある。

 アルベールは私とは違い社交的だ。それに優しい。きっと様々な人を惹き付け、色々な属性を持つ人生の宝を味方にしていくだろう。
 それは、恐らく私のためになる。

 私は勉学に励むつもりはない。無様な成績を残すつもりだ。当然のことだが、勉学に励んだところで私の未来に大きく影響することは無い。
 セラフィエルとの戦いを想定している私は、呑気に六年間机の上と格闘する時間はない。

 相応の努力はするが、エヴァンと同じような方法で卒業するつもりだ。

 だが、アルベールは違う。アルベールは王位継承権のある立派な王子だ。落ちこぼれの双子の姉と対比され、より目立ち、より優秀な者が集まることだろう。

 まぁ、アルベールの優秀さなら多少勉強が遅れたところで首席入学に差し支えることはない。
 強制入学を私が伝え忘れる痛恨のミスも、ミスにすらならないだろう。さすがは我が弟だ。文句は絶えないが。

「母さんが言ってたけど、姉さんに婚約者がいるって本当なの?」

 おっとその話か。
 正直なところ分からんとしか言えないな。

「この間母上とはその話になってな。……結婚したくなくて、女が好きだと告白してその場を凌いだ」

「ぶふぅっ!!!!!あははは!!!!」

 アルベールは涙を流して笑っていた。
 笑うなよ小童。おじさんは大変なんだよ。


 学園の入学試験としてはいくつか項目があり、二日間に分けて行われる。
 
 一日目、知識や常識を問う筆記試験。算術・魔法技術・魔法史・法律・文学の五科目に別れる。それぞれ特徴があるが、アルベールにとっては勉強をすればどれも大したことの無いものだ。
 
 二日目、剣術と魔法の実技試験。剣術の配点は大したことは無いが、魔法はどの試験よりも大きい配点だ。その年の標準偏差により合格点は異なるが、皆魔法を重点的に努力する。

 我々にとって脅威なのは魔法の実技試験だ。当然二人とも魔法を使った事などないし、魔術は詠唱を行わない。
 この魔術を『魔法』として扱うか扱わないかで首席かどうか、それどころか合格かどうかさえ決まるだろう。

 言ってしまえば我々二人は王族だ。王族が見た事も無い魔法らしきものを使ったところで「あれは詠唱をしていないから魔法ではない」と言い出す教師がどれほどいるかというと、居るとしても極小数だろう。

 そやつは余程熱心にセラフィエルに祈りを捧げているに違いない。近寄りたくないな。

 
「姉さん、女好きって結局本当なの?」

「あぁ、それは本当だ。本当だから言いたくなかったんだ」

「くくくっ……僕も初めて知ったよ。誰か好みのメイドでもいたのかい?」

 腹を抱えながら言うアルベール。
 全くコイツは私を尊敬しているのか玩具にしているのかよく分からんな。

「うむむ…………強いて言うなら……ミネルヴァが好みだ」

「……ぶはははは!!!!」

 またアルベールが腹を抱えて椅子から転げ落ちた。
 人の好みを笑うとは、アルベールはまともな大人に育たんな。まぁ、私が育てた時点でまともな人生とは縁が無いのだが。

「ミネルヴァ、あれはいい女だ。父上との逢瀬も盛り上がっているだろう。国王とは、全く羨ましい限りだな。継承権を捨てたことに今更ながら後悔しそうだ」

 ソロンとその母ミネルヴァは、どちらかと言うとミネルヴァの方が私と歳が近い。
 既にとうが立っている女だが、魅力が損なわれることは無く、寧ろ溢れる人妻の色気が出て良い女の匂いが際立つ頃合いだろう。強気な鋭い視線がなんとも美しい。
 
 いや、まぁ。うむ……私にはクロエがいるから、目移りする訳じゃないが。全然平気だ。

「姉さんならすごくモテると思うよ?男からも、女からも」

「そうなる事を願うよ。美しい女がいたら私に紹介してくれ」

「ふふっ。分かったよ姉さん」

 意味ありげに頷くアルベール。

 いや、本気にしなくていいからな。
 ちょっと話し相手に欲しいくらいだ。
 
 ほ、本当だぞ。


 あれ?
 母上はアルベールにも婚約者を見繕っているとかなんとか言っていたような気がするな。

「そういえばアルにも婚約者がいるらしいぞ」

「!?!!??!?!」

 ガタン!と音を立てて目を見開き立ち上がる我が弟。

 あぁ、お前も聞いていなかったのだな。
 我らが母上は随分と気持ちのいい性格のようだ。

 
 アレがユリウスと恋愛結婚だなんて、疑ってしまう程に。
 
 
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