セラフィエルの憂鬱

笑顔猫

文字の大きさ
23 / 35
学園編

第22話 同居人

しおりを挟む


 馬車で駆けること二時間。ようやく学園に到着した。
 ソロンは毎日これで通っていたのか。やつの尻の肉の心配をする程だな。

「さて、じゃあ姉さんまたね。入園式で会おうね」

 笑顔でそう言うアルベール。
 姉離れするかと思いきや、そんな事もなかったな。
 子供の成長は早い。ねえさま、と言いながらてとてと付いてきたあの幼いアルベールは影も形も無い。

 離れられていないのは私の方か。

「あぁ。上下関係に気をつけろよ」

 主にアルベールが上になれと言う意味だが。
 まぁ、心配ないだろう。王族なのだから、そもそも上だ。

 私たちはそれぞれの寮に向かった。
 男子寮と女子寮で別れており、アルベールと同室という希望は叶えられなかった。

 ……私はうら若き女子生徒と相部屋になるのだ。何とも言えない気持ちになるが、まぁ仕方ない。
 この辺りは王宮にいる頃から諦めている。

 女子寮は三つほど建物があり、学年別で分かれているようだ。私は一学年になるため、一年と二年が住む寮に住み込むことになる。

 私の寮は第一学園寮。第二学園寮は三~四年の生徒が、第三学園寮は五~六年までの最終学年の生徒が暮らす寮だ。

 学年が上がると移動するという訳ではなく、そのままその寮で卒業まで暮らすことになる。

 第一学園寮の三階の五号室が私の部屋だ。

 む、魔法錠か。魔力を流すことで鍵が開けられる仕様だ。もちろん開けられる人は制限されており、寮を担当する者と少数の教師、部屋の住人のみ開けられるようになっている。

 魔法錠にゆっくり魔力を流し込む。

 ガチャ、と鍵が開く音がした。
 先程から中にいる人の気配がする。ドアを開け、挨拶をしようと思い、ドアノブに手をかけた。

「おや?」

「うっそでしょ…………」

 そこにいたのはセラフィエルを讃えていたティナ嬢だった。



◇◇



「私ツイてない……ツイてないわ……」

「ははは、まぁそう落ち込むな。前は少し行き違いがあったが、今は私の言った通り学友になったじゃないか。仲良くしていこう」

 ティナ嬢は暗い目をして自分の荷物を抱えて蹲ってしまった。
 全くもって私のせいなのだが、なんとか元気づけてやりたい。まだ将来有望な女子生徒なんだ。

「ティナ嬢。まずは自己紹介から始めようか」

 そう言うと、貴族の娘という事を思い出したのか顔を上げてこちらを見てきた。
 そうだ。ちゃんと名乗る事は貴族家として当然のことだろう。プライドの高そうなティナにしてみれば、名乗らないなど恥さらしもいい所だ。

 名乗れるほど立派な家じゃないと思われても仕方がないからな。

「私はイザベラ・ルシアン・アストリア。アストリア王家第一王女である。偉大なる我が父、国王ユリウス・ルシアン・アストリア唯一の娘でもある。我が弟アルベールと同時に今日から入寮してきた次第、お前と再開する事ができた。ではティナ、名乗れ」

 仕方が無いとばかりに吐息を挟み、目を閉じて立ち上がった後、私に対し片膝をついて口を開いた。

「……お会いできて光栄です。私の名はヴァレンティーナ・オルシュでございます。王宮でその名を馳せるあの双子の先導、若き獅子姫と同室である事は替え難い幸運であると感じております」

 貴族の娘という事を強く感じさせる綺麗な礼だ。侯爵家というのは伊達ではない。
 しかし、替え難い幸運……?さっきツイてないなどと独り言を言っていなかったか?

「……まぁなんだ、そこまで畏まる事は無い。楽にしてもらって構わん」

 仮にも私が王族だからだろうか、先程とは、いや以前とは打って変わった態度だ。
 まぁ、貴族の娘が王族に楯突くなんざ、本当にお家取り潰しになってもおかしくないからな。首が物理的に飛ぶだけで済むならまだマシなのかもしれない。

 いや、そんな事しないが。

 それに。

「獅子姫?」

「はい。殿下はその獅子奮迅の活躍に美しい金髪、整ったお顔立ちにより、獅子姫と呼ばれています。殿下のお顔を知らぬ者が多いため、憶測や噂などが独り歩きして様々な呼び名が存在していますが、最近は獅子姫と呼ばれることが多いです」

 獅子奮迅の活躍……?何かしたか?
 私がやったことと言えばアルベールを超強化したくらいだが。

「活躍とは?」

「学園へ忍び込んだ腕の立つ敵を一方的に捕え、殺さずに騎士団に明け渡したとお聞きしました。顔も知らない王女が率先して受験生を守った活躍は、市井の者たちの中で大変噂になっております」

 あぁ、あれか。
 腕の立つ敵、ね。

 そんな事はなかった。
 これは謙遜ではなく、本当に大した事が無かったのだ。国外の侵略者が、名高い学園に忍び込み、国として厳重保管している禁書を盗み出すのは大仕事だ。
 魔神の力を使わなければ、今の私でも苦戦するような奴らが複数人居てもおかしくはなかった。
 だが実際には、十二歳のアルベールにすら片手間で抑えられてしまう始末。

 それに、奴らに与えられた情報と異なる解錠魔法。
 
 ルベリオの凶行疑惑は唐突だった。
 
 そしてエイルの登場と無知。

 母上の別れ際の言葉。

 しつこいまでのソロンの監視。

 何かが起きている。いや、誰かが何かを起こしている。それは国家の思惑を超えているのか、無視しているのか。

 母上の裏切りを疑う訳じゃないが、関連はありそうだと思ってしまうな。

「その恥ずかしい呼び名で私を呼ぶのは辞めろ」

「はい、殿下」

 くすぐったいな。

「その殿下もやめろ。口調も元に戻せ。やりづらくて仕方が無いだろ。以前アルベールが脅したが、私は繊細な人間ではない。それに、学園生として共に学ぶ学友だと言っただろう。あの場にいた友にそのような口調で話すのか?」

 十二歳の子供に傅かれて喜ぶ趣味は無い。

「でも、周りは……」

 困ったようにティナが眉を下げる。
 そうか。私が王族だと周りの視線が気になるよな。
 でも安心してくれ。ティナを悪いようにはしない。

「そも、私は王族という事は隠しておきたい。内緒でやりたい事があるんだ。アルベールには最大限目立てと命令してあるから隠れ蓑にしたい。協力してくれ」

「へ?か、隠す?」

 今までで一番困った顔だ。すまんなティナよ。

「あぁ。あの侵入者達のこともそうだが、調べたい事が山ほどあるんだ。私が王族だと気取られるとこの立場は邪魔になる。協力してくれ」

 頼む。私一人では難しいだろう。必ず協力者が必要だ。

「そ、そんなのバレるに決まってるわよ……」

 お、いつもの口調に戻してくれたな。でも困った眉は下がったままだ。

「いいや、ティナ。お前に頼むんだ。現状、お前以上に頼りになる者はいない。そうだな、私に光神教の教えを説いてもいいぞ。興味が無い訳でもない」

「えぇと……」

 まだ混乱してるな。
 交渉は苦手だ。頭の良い奴のやり方を真似ることもできない。ただ、私の持つカードは分かっている。

「私の強さの理由、知りたくないか?」

「!!」

 やはり反応したな。耳がついていたらピンと上に向いているに違いない。

 ティナは強さを求めている節があった。
 あの時、私の詠唱に対して突っかかったのは、あんな適当な詠唱でそこそこの火力を出してしまっていたからだろう。
 
 詠唱を知らず、まともな魔法を撃てていないなら試験に落ちるだろうから無視するハズだった。

 しかし、私はあんな適当な詠唱で、カカシを燃やした。
 光神教徒として無視できないのもあったが、あの程度の信仰心と詠唱で力を示してしまった。
 突っかかった真因はそれだろう。

 なぜ、アレで力が出るのか。
 その根源を知りたいはずだ。

 私は、こやつに魔術を教えることにする。
 その信仰を超えうる好奇心と知識欲。才能だ。本人も気づいていない。

 生粋の光神教徒が魔術を使うとどうなるのか、知りたくないか?我が兄エヴァンよ。

「これも秘密だが、アルベールは詠唱破棄をした訳じゃない。これがどういう事か、お前には分かるだろう」

「う、嘘でしょ……」

 残念だが本当だ。
 ティナは信じられないという顔をしながらも、口元は笑っている。その秘密に迫れるチャンスなんだ。そりゃあ喜びで笑いもする。

「手を組めヴァレンティーナ。悪いようにはしない。我が父上に誓って約束する」

 ごくりと唾を飲み、この私の悪魔の手を、綺麗な白い手で取ったのだった。
 


​───────​───────



「お前は僕の姉さんの為に生き、姉さんの為に死ぬんだ。役に立てなければ僕がお前の皮を剥いで大好きなママに食わしてやる。あぁ、その時が楽しみだ。お前はいつ裏切ってくれるんだ?」

「そ、そんな事しません……!元より殿下に一生お仕えする所存であります!」

「そんなものは当然だ。無能に仕えられても困ると言ってるんだよ。君はとても頭が悪いから、言われたことをきちんとこなすだけでいい。分かったね? 」

「はい……どうかお慈悲を」

「あぁ、勘違いしてはいけない。僕はとても慈悲深いんだ。君みたいな何の役にも立たなさそうなゴミを同居人のままにしてあげるんだからね。あはは」

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...