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出会い
雨の中の温もり
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ザー…ザー…ザー…‥
「‥はぁ…はぁ…はぁ…っ」
熱い…体が重い…‥
雨の音に混じって聞こえる誰かの息遣いにゆっくりと瞼を開けると銀色の髪が視界に入った。
銀色の髪…?あ…駄目だ、体が動かない…頭痛い…‥
感じた事のある冷たいのに安心する感覚に再び瞼を閉じ意識を手放した。
…ピチャ‥ピチャ…‥
冷たい…
額に感じる冷たさにゆっくりと瞼を開けると、長い髪を一括りに束ね椿の花の様な真っ赤な瞳を持つ椿の姿があった。
「椿さん…?」
「気がついた?体は大丈夫?」
心配した顔で覗き込む椿に小さく頷く。
「はい…まだ体が重くて上手く動かせませんけど」
「当たり前でしょ!熱があるんだから倒れて当然よ」
「え?熱?」
‥ボトッ…
思わず起き上がろうとした拍子に額から白い手拭いが落ちその中には何か固くて冷たい物が包まれているようだった。
「何これ…?」
不思議に思い右手を伸ばすと黒い手拭いで結ばれている事に気づき凝視する。
「熱があるのにあんな事までして手まで怪我するなんて…心配する身にもなりなさい」
「うっ…ごめんなさい、ありがとうございます」
椿の叱責に大人しく謝罪しお礼を述べた。
「お礼を言うならあの銀色の髪の少年に言うことね」
「どういう…」
言いかけた途中である事に気づき真っ青になる。
え、待って…ここっていつもの洞穴だよね?何で椿がいるの?
「あ、あの!ここにはどうして…」
椿にこの場所がばれたって事は狼にも寝床がばれる可能性があるって事だよね?そうなったら二人とも命の危険に晒されるリスクが高くなるかもしれない…
「あの銀色の髪の少年が私に助けを求めて来たの」
「え…嘘!?止めた私を助けるなんてするわけ…」
「だからじゃないかな?」
「え…?」
「あの時のあなたの言葉があの少年に届いたって事」
「本当にそうならいいんですけど…‥」
薬を塗って止血された右手を見ながらそう言うと椿の手が優しくその手を包み込む。
「そうじゃなかったら私に助けてなんて求めないし、この寝床の事も教えてない筈よ。怪我させたこの手も自分で治療してたんだから届いた証拠でしょ?」
「この手、椿さんがしてくれたんじゃないんですか!?」
「私は体を拭いたり着替えさせたり熱に効く薬を飲ませただけ。その手は、あの少年が自分が治すって聞かなかったの」
「そう‥なんですね…‥」
そんな事をしてくれたなんて想像も出来ないけど…
普段から見せる水晶の様な瞳が冷たく睨む姿を思い出し不思議な気持ちになった。
「あと今更言うのもなんだけど、ごめんなさい」
「何がですか?」
包まれていた手が離され突然、頭を下げ謝罪する椿に戸惑いながらも問いかける。
「実は、あなた達の事をずっと監視してたの」
「え…‥」
予想外の告白に言葉を失うと椿は申し訳なさそうに話し続けた。
「狼からの命令であなた達が任務を失敗したら報告する様に言われて…」
「じゃあ、この事を狼に報告するんですか…?」
「ううん、するつもりはないわ」
椿は優しく微笑むと首を横に振った。
「だって、あなたの事が好きだから」
「でも、前に狼の事が好きだって…」
「狼の事も好きよ。でも、あなたの事も好きになってしまった。だから、この事は言わない。その代わり、あの女性が置いて行った反物をあの少年が狼に証拠として持って行ったから今頃は任務完了で終わってる筈よ」
だから、銀色の髪の少年はここにいないのか…
ここにいない銀色の髪の少年の姿を思い浮かべながら温かな気持ちになった。
「だから、心配しないであなたは寝てて。もうすぐ、あの少年も帰って来る筈だから」
「…はい」
椿に促され藁の上で横になると瞼を閉じ深い眠りについた。
❋
…ザー…ザー…ザー…
ん…雨の音…?まだ降ってるんだ…‥
未だに降り止むことのない雨の音に意識が浮上し瞼を開けるとそこには椿の姿はなく代わりに、背を向けて座る銀色の髪の少年の姿があった。
帰って来たんだ…
「何してるの…?」
「っ…」
額の冷たい白い手拭い外し少し軽くなった体をゆっくりと起こし声を掛けると、少年の体がビクッと震えた。
「看病してくれてありがとう。この手も治してくれてありがとう」
黒い手拭いが巻かれた右手を見ながらそう言うと少年は少しの間の後に小さく呟いた。
「…何でそんな事を言うんだ?」
「何でって、椿さんからこの手を治したのも私を助けてくれたのも全部あなただって聞いたから…だから、ありがとう」
「お礼を言われる理由がない。お前が倒れたのも俺を止めたせいだし、その手の怪我も俺がさせた…全部俺のせいなのに…っ」
肩を震わせながら自分を責める少年に慌てて口を開く。
「それは違う!私がしたくてそうしたの!あなたのせいじゃない!誰かを傷つけて自分自身を傷つけるあなたの姿を見たくなかったからそうしたの。だって、傷つけたくない人を傷つけて自分自身にも嘘ついて…それって、全部自分自身を傷つけるのと一緒だから…それは、凄く苦しくて悲しくて辛い事だよ。だから、助けたかった…あなたを」
少年が時折見せる辛そうな目にいつの間にか前世の自分を重ねていたのかもしれない。前世の私は会社では周りの女性達から僻みや嫉妬にあい散々嫌がらせという名の仕事の押し付けや責任を負わされ残業続きの毎日だった。苦しくても辛くても周りの人達が助けてくれる事はなく傍観者の目で見られるだけ。会社を辞めようと思ったけど前の会社を同じ理由で辞めたばっかりで男手一つで育ててくれた父にも心配かけたくなくて辞める事は出来なかった。だからかな?まだ子供なのに一人で苦しむ目の前の少年をほっとけなかったのは…‥
「俺は…父さんを狼に殺されて復讐の為にあいつの仲間になった。正確には、あいつの弟にだけど指示をしたのはあいつだった。だから、あいつより強くなってこの手で復讐するって決めた。でも、あいつの仲間になってあいつの言う通りにしていくうちにいつの間にか俺はあいつと同じになっていた。だけど、気づいた時には手遅れで逃げ出す事も出来なくて…あいつみたいに無関係な奴を傷つけて何も思わなくなるのかと思うと怖くなった…‥」
下に敷き詰められている藁を握りしめて肩を震わせながら言う少年の姿に唇を噛み締める。
狼は少年の人生を狂わせ傷つけた極悪人。それに、月華の…否、花火の人生も狂わせた人でもあるんだ…
「だけど、あの時お前が倒れたのを見て凄く怖くなった。このままお前が死んだらと思ったら体が動いた。助けたいって…強く思ったんだ。それと同時に、お前を傷つけた事を後悔した…‥ごめん」
背を向けたまま本心を話す銀色の髪の少年にゆっくりと近づき隣に座ると藁を握り締める右手に手を伸ばした。
「あなたは狼みたいにはならないよ。だって、こんなにも優しいから」
「っ…」
下を向いている水晶の様な水色の瞳が小さく揺れると触れた右手が離れ少年の方からしっかりと繋ぎ直された。
ギュッ…
「それに、私は見ての通り生きてるしこの先も死ぬつもりもないから大丈夫だよ」
将来あなたに首を斬られなければの話だけど…
「本当に?」
少年は顔を上げると神妙な面持ちで覗き込んだ。
「うん」
「そうか…」
当然のように頷くと少年はどこか嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。
こ、これは…っ!?天使過ぎる!それも、そうか…ゲーム内ではイケメンの攻略対象者なんだから幼い頃から美形なのも頷ける…
今更な事に気づき隣に座る銀色の髪の少年を凝視する。
乾ききっていない僅かに濡れた銀色の髪に吸い込まれそうになる綺麗な水晶の様な水色の瞳、将来イケメン度を増すであろう右目の泣きぼくろを見ながらゲーム内の冷の一番好きなシーンを思い出した。
それは、ヒロインと初めて明かした一夜のシーン。銀色の髪が月夜に照らされヒロインの手を頬に当てながら熱の籠った水晶の様な水色の瞳で『…この熱で俺を溶かして』って言うんだよね…最高過ぎるっ!
「どうしたんだ?」
「っ‥!?」
不意に、隣に座る少年から声を掛けられ我に返った。
な…なんて事を考えているんだ私は!?冷静に考えれば私はヒロインじゃないし!冷から嫌われている悪役の月華なのにそんな台詞を聞ける訳ないじゃん!第一、この少年を好きになったら月華の…じゃなくて、私の命はないわけだし好きになったら終わりだ。確実に。それに、私はもう恋愛はしないって決めているんだから同じ轍は踏まない!大体、今の冷は六歳なんだから…‥ん!?
自問自答をしているといつの間にか至近距離で顔を覗き込む少年に驚き過ぎて息が止まる。
「顔、赤い…‥」
「っ…」
ゆっくりと近づく水晶の様な瞳に思わず目を閉じると冷たい感触が額に触れた。
「ほら…‥熱ある」
っ~~~~!?
少年の言葉に目を開けると至近距離で水晶の様な瞳が見つめられ言葉にならない声が心の中で悲鳴を上げた。
「早く寝ろ。手も熱いぞ」
「え…?今、何て言った?」
少年の予想外の言葉に悶えていた気持ちが静まり冷静になる。
「だから、手が熱いって…うわっ!?」
バサッ!
「それ本当?本当に熱いの?」
思わず肩を掴んで押し倒し真剣な顔で問い詰めると少年は戸惑いながらも口を開いた。
「あ、ああ…」
嘘でしょ!?ゲーム内での冷は自身の鬼の力のせいで生まれつき体温が冷たくてヒロイン以外の他の人が触れても温かさなんて感じない筈なのに…何で私の体温が感じるの?
「早く退け、近い」
「あ、ごめん」
不機嫌な声に少年を押し倒したままの状態だという事に気づき慌てて体を離す。
そう言えば、冷は何で自分が他人の体温を感じられないのかという理由を大きくなっても分からないまま終わるんだよね。他にも、冷は生まれつき妖力が強いのに父親が妖力を失ったから普通はやってもらう筈の妖力の調整をしてもらえなかったせいで強い力を使うと暴走してしまうから今でも強い力を使う事が出来ないんだよね。四年後に出会うある一人の攻略対象者のおかげで自分自身の力で妖力をコントロール出来る様になるんだけどそれは、まだ先の話…‥
「…ほら」
ん?
突然、差し出された少年の手に首を傾げた。
「手、繋ぐんだろ?」
「っ…」
何このデレ、可愛すぎるでしょ…
少年の差し出された手を握るとさっきまで繋いでいた自身の温かさが僅かに残っていた。
私は月華。ヒロインじゃない。この少年に恋はしない、したら命はない。同じ轍は踏まない。大丈夫、大丈夫…
少年と手を繋ぎながら自身に言い聞かせ続けたのだった。
❋
数日後、一枚の人相書と共にある話が国々に出回った。その内容は、ある女性が他国のお店に納品する為に運んでいた品物を何者かに奪われそうになりそこにある鬼の少年が助けてくれたと言う話だった。
「黄蘭、これ見て!」
「また面白いものでも見つけたの?黄桃」
檸檬色の髪に茶色の瞳をした五歳ぐらいの二人の少年は一枚の人相書を凝視した。
「これ、しーくんに似てない?」
「似てる!瓜二つだね!」
「しーくんがこれを見たら驚くよね?」
「絶対驚くよ!楽しみだな~!しーくんが驚く顔を見るの!」
「早く見たいね~!」
「‥はぁ…はぁ…はぁ…っ」
熱い…体が重い…‥
雨の音に混じって聞こえる誰かの息遣いにゆっくりと瞼を開けると銀色の髪が視界に入った。
銀色の髪…?あ…駄目だ、体が動かない…頭痛い…‥
感じた事のある冷たいのに安心する感覚に再び瞼を閉じ意識を手放した。
…ピチャ‥ピチャ…‥
冷たい…
額に感じる冷たさにゆっくりと瞼を開けると、長い髪を一括りに束ね椿の花の様な真っ赤な瞳を持つ椿の姿があった。
「椿さん…?」
「気がついた?体は大丈夫?」
心配した顔で覗き込む椿に小さく頷く。
「はい…まだ体が重くて上手く動かせませんけど」
「当たり前でしょ!熱があるんだから倒れて当然よ」
「え?熱?」
‥ボトッ…
思わず起き上がろうとした拍子に額から白い手拭いが落ちその中には何か固くて冷たい物が包まれているようだった。
「何これ…?」
不思議に思い右手を伸ばすと黒い手拭いで結ばれている事に気づき凝視する。
「熱があるのにあんな事までして手まで怪我するなんて…心配する身にもなりなさい」
「うっ…ごめんなさい、ありがとうございます」
椿の叱責に大人しく謝罪しお礼を述べた。
「お礼を言うならあの銀色の髪の少年に言うことね」
「どういう…」
言いかけた途中である事に気づき真っ青になる。
え、待って…ここっていつもの洞穴だよね?何で椿がいるの?
「あ、あの!ここにはどうして…」
椿にこの場所がばれたって事は狼にも寝床がばれる可能性があるって事だよね?そうなったら二人とも命の危険に晒されるリスクが高くなるかもしれない…
「あの銀色の髪の少年が私に助けを求めて来たの」
「え…嘘!?止めた私を助けるなんてするわけ…」
「だからじゃないかな?」
「え…?」
「あの時のあなたの言葉があの少年に届いたって事」
「本当にそうならいいんですけど…‥」
薬を塗って止血された右手を見ながらそう言うと椿の手が優しくその手を包み込む。
「そうじゃなかったら私に助けてなんて求めないし、この寝床の事も教えてない筈よ。怪我させたこの手も自分で治療してたんだから届いた証拠でしょ?」
「この手、椿さんがしてくれたんじゃないんですか!?」
「私は体を拭いたり着替えさせたり熱に効く薬を飲ませただけ。その手は、あの少年が自分が治すって聞かなかったの」
「そう‥なんですね…‥」
そんな事をしてくれたなんて想像も出来ないけど…
普段から見せる水晶の様な瞳が冷たく睨む姿を思い出し不思議な気持ちになった。
「あと今更言うのもなんだけど、ごめんなさい」
「何がですか?」
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「え…‥」
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椿は優しく微笑むと首を横に振った。
「だって、あなたの事が好きだから」
「でも、前に狼の事が好きだって…」
「狼の事も好きよ。でも、あなたの事も好きになってしまった。だから、この事は言わない。その代わり、あの女性が置いて行った反物をあの少年が狼に証拠として持って行ったから今頃は任務完了で終わってる筈よ」
だから、銀色の髪の少年はここにいないのか…
ここにいない銀色の髪の少年の姿を思い浮かべながら温かな気持ちになった。
「だから、心配しないであなたは寝てて。もうすぐ、あの少年も帰って来る筈だから」
「…はい」
椿に促され藁の上で横になると瞼を閉じ深い眠りについた。
❋
…ザー…ザー…ザー…
ん…雨の音…?まだ降ってるんだ…‥
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帰って来たんだ…
「何してるの…?」
「っ…」
額の冷たい白い手拭い外し少し軽くなった体をゆっくりと起こし声を掛けると、少年の体がビクッと震えた。
「看病してくれてありがとう。この手も治してくれてありがとう」
黒い手拭いが巻かれた右手を見ながらそう言うと少年は少しの間の後に小さく呟いた。
「…何でそんな事を言うんだ?」
「何でって、椿さんからこの手を治したのも私を助けてくれたのも全部あなただって聞いたから…だから、ありがとう」
「お礼を言われる理由がない。お前が倒れたのも俺を止めたせいだし、その手の怪我も俺がさせた…全部俺のせいなのに…っ」
肩を震わせながら自分を責める少年に慌てて口を開く。
「それは違う!私がしたくてそうしたの!あなたのせいじゃない!誰かを傷つけて自分自身を傷つけるあなたの姿を見たくなかったからそうしたの。だって、傷つけたくない人を傷つけて自分自身にも嘘ついて…それって、全部自分自身を傷つけるのと一緒だから…それは、凄く苦しくて悲しくて辛い事だよ。だから、助けたかった…あなたを」
少年が時折見せる辛そうな目にいつの間にか前世の自分を重ねていたのかもしれない。前世の私は会社では周りの女性達から僻みや嫉妬にあい散々嫌がらせという名の仕事の押し付けや責任を負わされ残業続きの毎日だった。苦しくても辛くても周りの人達が助けてくれる事はなく傍観者の目で見られるだけ。会社を辞めようと思ったけど前の会社を同じ理由で辞めたばっかりで男手一つで育ててくれた父にも心配かけたくなくて辞める事は出来なかった。だからかな?まだ子供なのに一人で苦しむ目の前の少年をほっとけなかったのは…‥
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下に敷き詰められている藁を握りしめて肩を震わせながら言う少年の姿に唇を噛み締める。
狼は少年の人生を狂わせ傷つけた極悪人。それに、月華の…否、花火の人生も狂わせた人でもあるんだ…
「だけど、あの時お前が倒れたのを見て凄く怖くなった。このままお前が死んだらと思ったら体が動いた。助けたいって…強く思ったんだ。それと同時に、お前を傷つけた事を後悔した…‥ごめん」
背を向けたまま本心を話す銀色の髪の少年にゆっくりと近づき隣に座ると藁を握り締める右手に手を伸ばした。
「あなたは狼みたいにはならないよ。だって、こんなにも優しいから」
「っ…」
下を向いている水晶の様な水色の瞳が小さく揺れると触れた右手が離れ少年の方からしっかりと繋ぎ直された。
ギュッ…
「それに、私は見ての通り生きてるしこの先も死ぬつもりもないから大丈夫だよ」
将来あなたに首を斬られなければの話だけど…
「本当に?」
少年は顔を上げると神妙な面持ちで覗き込んだ。
「うん」
「そうか…」
当然のように頷くと少年はどこか嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。
こ、これは…っ!?天使過ぎる!それも、そうか…ゲーム内ではイケメンの攻略対象者なんだから幼い頃から美形なのも頷ける…
今更な事に気づき隣に座る銀色の髪の少年を凝視する。
乾ききっていない僅かに濡れた銀色の髪に吸い込まれそうになる綺麗な水晶の様な水色の瞳、将来イケメン度を増すであろう右目の泣きぼくろを見ながらゲーム内の冷の一番好きなシーンを思い出した。
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「どうしたんだ?」
「っ‥!?」
不意に、隣に座る少年から声を掛けられ我に返った。
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「顔、赤い…‥」
「っ…」
ゆっくりと近づく水晶の様な瞳に思わず目を閉じると冷たい感触が額に触れた。
「ほら…‥熱ある」
っ~~~~!?
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バサッ!
「それ本当?本当に熱いの?」
思わず肩を掴んで押し倒し真剣な顔で問い詰めると少年は戸惑いながらも口を開いた。
「あ、ああ…」
嘘でしょ!?ゲーム内での冷は自身の鬼の力のせいで生まれつき体温が冷たくてヒロイン以外の他の人が触れても温かさなんて感じない筈なのに…何で私の体温が感じるの?
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不機嫌な声に少年を押し倒したままの状態だという事に気づき慌てて体を離す。
そう言えば、冷は何で自分が他人の体温を感じられないのかという理由を大きくなっても分からないまま終わるんだよね。他にも、冷は生まれつき妖力が強いのに父親が妖力を失ったから普通はやってもらう筈の妖力の調整をしてもらえなかったせいで強い力を使うと暴走してしまうから今でも強い力を使う事が出来ないんだよね。四年後に出会うある一人の攻略対象者のおかげで自分自身の力で妖力をコントロール出来る様になるんだけどそれは、まだ先の話…‥
「…ほら」
ん?
突然、差し出された少年の手に首を傾げた。
「手、繋ぐんだろ?」
「っ…」
何このデレ、可愛すぎるでしょ…
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❋
数日後、一枚の人相書と共にある話が国々に出回った。その内容は、ある女性が他国のお店に納品する為に運んでいた品物を何者かに奪われそうになりそこにある鬼の少年が助けてくれたと言う話だった。
「黄蘭、これ見て!」
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