鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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出会い

初任務、その刃は誰が為に

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あ……雪……

 白い雪が降り続きその中で真っ赤に染まりながら倒れている一人の茶髪の少年がいた。

太郎お兄ちゃん…?

 思わず手を伸ばすがどんどん遠く離れ落ちていく感覚に恐怖心に襲われた。

っ…

 怖くなって瞼を閉じまた恐る恐る開けると、さっきとは違う真っ暗で何も見えない空間にいた。

嫌だ、怖い…っ!

慌てて辺りを見渡すと一筋の光が見えた。

光…?

 光に向かって走り出すとそこには見た事のある前世の自分の姿があった。

あれ?これ前にも見た様な…

 座り込んだままテレビ画面を見たまま呆然と動かない前世の自分の姿に胸が締め付けられる。

 何でだろう?思い出そうとする程胸が苦しくて悲しくなる…

 耐えきれずその場に崩れ落ちると突然、背後から冷たい何かに包まれた。

冷たい…?けど、何だか安心する…‥

 冷たく感じた何かは徐々に暖かくなりその温もりに身を委ねる。

このまま眠っていたいかも…‥ん?

 不意に、感じた慣れた藁の匂いに意識が浮上する。

「んぅ…夢…?」

 瞼を開けると見慣れた藁が視界に入り夢だったのだと分かると一緒に寝ていた筈の銀色の髪の少年を探す。

「あれ?いない…」

 何処にもいない銀色の髪の少年に不安に駆られ出入口の岩壁の方を見ると僅かに隙間が空いていた。

出かけているのかな?

ズキッ…

「っ…」

突然、頭が痛みこめかみを押さえると左目に違和感を感じた。

「あれ?手拭いがない!?」

 慌てて下を見渡すとすぐ側に結んだ状態のままの黒い手拭いが落ちていた。

「あった!良かったぁ…!寝ている時に外れたのかな?」

 黒い手拭いを手に取り改めて左目にあてそのまま後頭部で結び直した。

「次は、外れないようにしないと…」

「起きたら早く支度しろ」

「わっ…!?」

 いつの間にか帰って来た岩壁から現れた銀色の髪の少年に驚いて瞬きをする。

「狼が呼んでる。一緒に行くと一緒の寝床だとばれるから先に行け」

「分かった」

 少年の言葉に頷くと自身の武器と衣服を確認し洞穴を出るなり周りを注意しながら狼のいる草原に向かった。

 ❋

「おい、あれ見ろよ」

「うわっ!?生きてたのか?あの嬢ちゃん」

「そりゃあ、あの銀髪のガキとやり合って無事だったんだから生きてるだろうよ」

「そうは言ってもよう、結構な奴らが狙ってたって聞いたぜ?普通は生きてねぇよ」

「あれ?お前知らねぇの?そいつら全員、あの銀髪のガキに…っ!?」

 銀色の髪が視界に入り話していた男は隣を見るなり息を呑んだ。

「何?」

「い、いや‥何でもねぇよ」

 水晶の様な水色の瞳が冷たく睨むと問いかけられた男のみならずその場で話していた全員が口を閉ざした。

「へぇ…よく生きてたなぁ?」

 白髪の髪に灰色の髪をした狼は左目を隠した黒髪の少女の顔を覗き込むなり面白そうに笑みを浮かべた。

御生憎様、しっかり生きてますから!

 右目の青い瞳で睨みつけると、狼は益々面白そうに笑い背後にいた銀色の髪の少年に声を掛けた。

「ククッ…おい、銀髪のガキ!出て来い!」

「はい」

 言われるがまま前に出て来た少年に狼が再度口を開いた。

「これからは、この黒髪のガキと一緒に行動しろ」

「っ…!?」

 言われてすぐにこちらを見るなり眉間に皺を寄せて睨みつけてくる少年に、内心毒を吐く。

 いや、こっちを見られても困るんですけど…嫌なら狼に言ってよ!私だって嫌なんだから!

「手始めに今日の夕刻、この山にやってくる反物たんもの屋が運ぶ反物を奪って来い」

「…はい」

 銀色の髪の少年が少しの間が空き小さく頷くと、狼は周りにいる部下達に声を掛けた。

「他の奴らは半分は残り半分は俺について来い。街に行く。あと、椿!」

「はい」

「言いたい事は分かってるな?」

「はい」

「ならいい」

 椿の返答に満足気に笑みを浮かべた狼はその場にいる全員の顔を見渡した。

「最後に、この山に残る奴は任務の時間まで絶対に自分の寝床から出てくるな!守れない奴は命はないと思え。いいな…?」

 灰色の瞳が鋭く睨みつけるとその場にいた全員が頷いた。

「"はい!!!"」

 ❋

 曇り空が広がり薄暗くなってきた山に口元を黒い手拭いで隠し走る二人の子供の姿があった。

雲いきが怪しいんだけど…

ズキッ…

「っ…」

朝から何か頭も痛いし大丈夫かな?

 木の上でこめかみを押さえていると、すぐ側の木の上にいた銀色の髪の少年の声が聞こえた。

「おい、何してる?見えて来たぞ」

 少年の声に視線を下に向けると木箱を荷台に縛りつけながら運ぶ黒髪を一つにまとめたお団子姿の二十代ぐらいの女性が見えた。

「行くぞ」

「あ、待って…っ!」

バサッバサッ…ドサッ‥ドサッ‥

 刃ノ葉を手にしたまま躊躇いもなく木から降りるなり女性に迫る少年に、刃ノ葉を手に慌てて木を蹴り少年よりも速く女性の前に着くと迫って来る少年と対峙する。

「キャアァァァァッ!?!!」

キンッ…!

 女性の叫び声が山の中に響き渡りそれと同時に刃物同士が接触する音が鳴り響いた。

「何の真似だ…?」

 水晶の様な水色の瞳が睨みつけ冷たく投げかけられた言葉に冷静に言い返す。

「私は人を傷つける気はないって言ったでしょ?」

「それで生きていけると思っているのか?任務は任務だ。従う気がないならお前の命はない」

「っ…」

 氷の様に冷たく刺す目に対峙する刃ノ葉に力を入れる。

「あ、あの…わ、わわ私…‥」

 背後に震えながら怯えている女性の声に振り返る事なく淡々と声を掛ける。

「お姉さん、その木箱の中身って反物ですよね?」

「え‥ええ…」

「全部が無理なら半分だけ残して下さい。それから、来た道を戻ると右側に荒れた道がある筈です。その道を少し行くと平坦な道に出るのでそこから左に真っ直ぐ進んで行けばこの山を越えられる筈です」

「え…?えっと…」

「っ…お姉さん早くして下さい!」

 目の前の銀色の髪の少年が刃ノ葉を強く押し返し踏ん張っている足が崩れそうになる。

「は、はいっ!で、では…半分だけ残しますね!」

「ありがとうございます…っ!この山を歩く時は周りの音に注意しながらなるべく草木に触らない様に行って下さい!いいですね?」

「は、はい!分かりました!あなたは一体…?」

「私達の事は誰にも言わないで下さい!代わりに、あなたとこの山で会ったのは腰まである水色の長い髪に藍色の瞳を持つ十四歳ぐらいの鬼の少年だったと周りに言って下さい」

「わ、分かりましたっ!ありがとうございます…っ!」

 女性は半分の反物を緑の風呂敷に包み地面に置くと残り半分の反物が積んである荷台を手に来た道を走り出した。

「逃がしたら罰を受けるのはお前と俺だ。分かっててやったのか?」

「っ…狼から言われたのは反物を奪えって事だけ。反物さえ手に入ればあの女性には要はないはずでしょ?」

「それが甘いって言ってるんだっ!」

ビュンッ!ザッ‥

 体勢が崩れたその瞬間に少年の刃ノ葉が外れ目の前に迫るのを咄嗟に横に動き避ける。

「はっ…」

 避けた拍子に口元を隠す黒い手拭いが切れ外れると宙に浮いたままの少年の刃ノ葉が再度向かって来た。

ビュンッ!

「っぁ‥!?」

 少年の刃ノ葉を片手で止めると掴んだ手から血が零れ落ちる。

「なっ‥!?」

 痛みで視界が歪むのを必死に耐えながら目の前で動きが止まった少年を真っ直ぐ見つめる。

「あなたのこの刃は誰を傷つける物なの?」

「っ…!?」

「さっきの女性?それとも私?違うでしょ?私は誰かを傷つけて自分自身も傷つけるあなたの姿を見たくない!こんなにも優しくて温かい手な‥の…に……」

あ…もう限界……

 耐えていた気力が途切れ足元から力が抜け掴んでいた刃ノ葉と共にその場に崩れ落ちた。

ドサッ!…カランッ…

「っ…!?」

 倒れた瞬間に見えた銀色の髪の少年の焦る顔が瞼に焼き付き意識が途切れたのだった。































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