鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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繁火への旅

黄桃と黄蘭のお願い

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ザー……

 桜鬼城に帰宅して三日後、未の刻である十四時にて雨音が響く中で青の間の時雨の部屋に二人の訪問者が訪れた。

「しーちゃん、話があるんだけどいい?」

 その声に水色と白色が混じった波柄の着物を着た時雨は本を読んでいた手を止め閉じると机の上に置き出入口の戸の方を見つめ口を開く。

「どうぞ」

スー…パタンッ…

 呼びかけと同時に戸を開け中に入って来た檸檬色の髪に茶色の瞳を持ち白色と赤色が混じった兎柄の着物に白色の帯をした右耳に桃色の小さな桃の花のピアスをつけた黄桃と左耳に白色の小さな蘭の花のピアスをつけた黄蘭を見るなり眉を寄せた。

「報告も無しに食事の時以外は姿も見せなかったあなた達が今更どのようなご要件ですか?」

「仕方ないでしょ?これを作ってたんだから…」

 黄桃は言いながら懐から黒い眼帯を取り出し見せつけた。

「それは、何ですか?」

「見ての通り眼帯だよ。でも、ただの眼帯じゃないんだぁ‥」

「これを着けた片方の目の色が変わるの!それも、着けてない方の瞳の色と同じ色にね!」

「しかも、これは人体の影響はないから視力が落ちる事はないし着けた本人もその眼帯を通して着けてない目と同じ景色が見えるし‥」

「眼帯を着けていると知らない他の奴が見たら眼帯を着けている様には見えないってわけ!」

「ただし、欠点としては眼帯を着けても目の色を知っている者には本来の瞳の色にしか見えないんだけどね」

 ドヤ顔で説明した黄桃と黄蘭に訝しげに問いかける。

「それを誰に渡すつもりですか?」

「月華にだよ」

「しーちゃんから渡しておいて」

 黄桃と黄蘭は時雨の前に座り込むと黄桃が黒い眼帯を差し出した。

「話とはこの事ですか?」

 眼帯を凝視し黄桃と黄蘭に視線を移すと二人は苦笑いを浮かべた。

「これもそうなんだけど、他にもあるんだよね」

「取り敢えず、これを月華に渡しておいて」

「はぁ…私に頼まずとも自分達で渡せばいいのでは?」

「だって、僕達…」

「月華に酷い事散々言っちゃったから…」

 視線を逸らし口籠もる黄桃と黄蘭の姿を見ながら納得する。

 なるほど…それで私に代わりに渡して欲しいと頼んできたのですね

「分かりました。これは、私から渡しておきます」

 黄桃が差し出した眼帯を受け取りそう言うと黄桃と黄蘭は目を見開き安堵する声を上げた。

「本当?やったー!」

「良かったー!」

「ですが、月華に対して反省しているのなら後でちゃんと謝罪して下さい」

「分かってるよ」

「後で、ちゃんと謝るよ」

 頬を膨らませ頷く黄桃と黄蘭に疑いの目を向けながらも再度口を開く。

「それで、他の話はなんですか?」

「えーと…」

「その…」

「私も暇じゃないんです。後々、また話に来られるなら今のうちに全部聞いた方がいいので」

「じゃあ、先に武器の密売の件の報告」

「普通、それが先では?」

「僕達にとっては眼帯の方が先なの!」

「しーちゃんには分からないだろうけどね」

 ムッと不満気な顔を浮かべながら反論する黄桃と黄蘭に内心呆れながらも話を促す。

「それで、今更ですが報告の内容は?」

「もう知っているだろうけど、武器を繁火と雪羅に広めてた犯人は繁火の城で各国との貿易に関わっていた曜朗という男だった」

「僕達は城に行って曜朗と対峙して鬼睡草で眠らせて証拠の紙を曜朗の部屋から見つけて城の長と一緒に次の日に断罪したんだ」

「鬼睡草…?そんな物をどこで手に入れたのですか?」

「事前に持ってきてたんだ」

「何があるか分からないからね」

ふむ…怪しさしかないが…

 態とらしく笑みを浮かべながらそう言った黄桃と黄蘭に疑いの目を向ける。

 だが、二人があからさまに誤魔化すと言う事は言えない理由があると言う事だろう。その理由が何かは分からないが…

 必死に笑みを浮かべて何でもないフリをする二人を見ながら内心諦める様に溜息を吐いた。

はぁ…仕方ない…

「他の関係者はどうなりましたか?」

「城の長と一緒にそれ相応の罪を償わせたから大丈夫だよ」

「ふむ…念の為、帰宅後に侍従を向かわせましたがいらぬ心配でしたか…」

「ううん、それは正しい判断だったと思うよ」

「知ってると思うけど、繁火の城の長は臆病者だけど自分の身が危なくなる様な事には関わらないから他にも城の中で曜朗と関わっていた奴がいるかもしれないもん」

「それに、曜朗に助言した奴が誰かは分からないままだしね」

 曜朗は金に貪欲だが知識はそこまで高くはない。それ故に、誰かが武器の密売について持ち掛けたに違いない…

「そうですね…私もそう思い曜朗が話を持ちかけた名家である雪篠家と草樺家を調べてみましたが特に怪しい者はいませんでした」

「話を持ちかけた奴って多分、頭が切れる奴だよね」

「それでもって、それなりの地位にいる奴だよね」

「ええ、その通りでしょう。ですが、何の手がかりも掴めない。困りましたね…」

「取り敢えず、この件が解決しただけでもいいんじゃない?」

「そうそう!」

「そうですね…今回は、ご協力ありがとうございました」

そう言うと、黄桃は不敵な笑みを浮かべた。

「しーちゃんが僕達を繁火に向かわせたのって事件を解決するのも目的だったけど、本当は月華の過去を知る為だったんでしょ?」

「何故、そう思うのですか?」

「だって、しーちゃんって月華の素性を完全に知れてないみたいだし…僕の妖力を知っている数少ない奴だからね」

 普段は明るく天真爛漫で遠回しに毒を吐くが頭は切れる天才…侮れませんね

「でも、残念!月華の過去を知ってても知らなくてもしーちゃんには教えないよ」

「うん!絶対に教えない!」

「人間嫌いのあなた達が珍しい事を言いますね」

「当たり前でしょ?」

「だって、月華は僕達のお気に入りだもん!」

「っ‥!?」

 嘘偽りなく満面の笑みでそう言う黄桃と黄蘭に思わず目を見開くと、黄桃が再度口を開いた。

「だから、しーちゃんの影から月華を辞めさせてよ」

「何故、影の事を?」

「知ってて当たり前じゃん!だって、僕はしーちゃんの過去を見た事あるんだもん」

「…そう言えば、そうでしたね」

 黄桃の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をすると、黄桃は話を続けた。

「僕ね、繁火の城で曜朗と対峙した時に分かっゃったんだ…月華が誰かを傷つけるのが駄目な事。それに、曜朗の部下が血塗れで倒れているのを月華はなるべく見ないようにしてその体は震えてたんだ」

「だから、月華はしーちゃんの影には向かないよ」

 真剣な顔で訴える黄桃と黄蘭を見ながら顔を顰めると溜息混じり口を開いた。

「はぁ…それは私もよく理解しています」

「じゃあ‥」

「ですが、それは出来ません」

「何で!?月華は誰かを傷つける事が出来ないんだよ!」

「しーちゃんの影にはなれないよ!」

「月華を守る為です。月華が今の立ち位置にいるのは黒道によって日華の護衛兼、世話係になり裏では私の影としているからです。もし、そのどちらかが無くなり私と黒道のどちらかが居ないとすれば月華は元の現状に戻るでしょう。それは、黄桃…あなたならよく分かりますよね?」

「っ…」

 そう問いかけると、黄桃は視線を逸らし俯いた。

「…分かった、もう反対しない」

「黄桃…」

「納得してくれた様で良かったです。話はもう終わりですか?」

「ううん、あと二つある」

「ふむ…何でしょう?」

「月華の着物と飲水が入ったひょうたんに妖力をかけたのはしーちゃんの右腕の奴?」

「妖力?」

「うん…月華を抱き締めた時に冷たい氷の様な妖力を感じたんだ。その後、月華の飲水が入ったひょうたんを調べたら同じ妖力を感じた。それで思い出したんだ。似た様な妖力を持つしーちゃんの右腕の事を」

抱き締めた…?いや、それよりも…

 黄桃の説明に内心引っかかりがありつつも思考を巡らせる。

「恐らく…黄桃の言う通りでしょう。月華が旅立つ前に冷が妖力をかけたのでしょうね」

 月華の初めての遠出にあの冷が見送りをしない訳がない。恐らく、その見送りの際に月華の着物とひょうたんに妖力をかけたのだろう…

「ふ~ん…やっぱりね」

 黄桃は気に入らないと言わんばかりに不満気な顔を浮かべると再度口を開いた。

「あと、最後にしーちゃんにお願いがあるんだ」

「…?」

「しーちゃん、僕に戦いの仕方を教えて!」

「はい…?」

「僕も教えて!僕は力を完全に使いこなせる様になりたいんだ!」

 黄桃は相手の心の声や過去を見る事が出来るが肉体的な戦闘能力はない。一方、黄蘭は圧倒的な腕力を持っているがまだ完全にその力を完全に使いこなせず一歩間違えれば周りさえも巻き込んでしまう。戦い方を教えて欲しい理由はそんな所だろう…

「私ではなく黒道に教えて貰えばいいのでは?」

「黒道じゃ駄目だもん!」

「黒道は僕達には甘いからね」

「確かに、そうですね…」

 黒道が二人に接する姿を思い出し納得すると渋々承諾する事にした。

「分かりました。ですが、私は手加減はしませんよ?」

「やったー!」

「わーい!」

はぁ…また仕事が増えますね…

 時雨は喜ぶ二人の姿を見ながらまた増えてしまった仕事に内心落胆したのだった。





















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