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繁火への旅
ツンにデレは必須です
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翌日、昼食後にいつもの様に日華のお昼寝の時間の最中に時雨から字の書き方の指導を受け終わると私は黒の間に向かって歩いていた。
もう七月か…
夏の日差しに目を細めながら繁火での旅に思いを馳せる。
そう言えば、あれから暁と冷って相変わらず仲は悪いけど暴力による喧嘩はしなくなったし寧ろ…
「ふっ…」
突っかかる暁に対して塩対応で受け流す冷を思い出して思わず笑が零れた。
傍から見たら仲良しにも見えるんだろうなぁ…あ、そう言えばこれの事も…
本城の廊下を歩きながらふと、左目に着けた黒い眼帯に触れ足が止まる。
時雨から黄桃と黄蘭が私にって作ってくれた眼帯…ありがとうって言いたいけど…
黄の間にいる李の事が脳裏に過ぎり躊躇う気持ちが勝ってしまう。
…ザッ…
…?
近くで誰かの気配がし辺りを見渡すと本城の周辺の桜の木から僅かに黄色の着物の切れ端が見え凝視する。
まさか…
タッ‥タッタッ…
持っていた草履を履き手摺りから地面へと降りる。
ザッ…ザッザッザッ…
降りて早々に黄色の着物の切れ端が見えた桜の木へと走り出す。
‥ザッ…ザッ…
…あ!
桜の木へと走り出したのと同時に黄色の着物が揺れ走り出す音が聞こえスピードを上げる。
ザッザッザッ‥
「待って下さい‥っ!」
グイッ!!
「うっ!?」
「わっ!?」
走る麻の葉柄の黄色の着物を背後から掴み二人を捕まえるなり口を開いた。
「時雨様から聞きました。私の為に黄桃様と黄蘭様がこの眼帯を作ってくれたって‥」
着物から手を離し左手で眼帯を触りながら真っ直ぐに黄桃と黄蘭を見つめる。
「ありがとうございます…黄桃様、黄蘭様」
「っ…、別にお礼なんて言わなくていいよ」
「散々酷い言葉言っちゃったからそのお詫び。だから、お礼なんて言わなくていいよ」
振り返るなり顔を背け視線を伏せる黄桃と黄蘭に小さく笑みを浮かべる。
「それでも嬉しかったから…だから、ありがとうございます‥っ」
「っ…」
「…‥」
その瞬間、浮かべられた小さな笑みに黄桃と黄蘭は目を奪われた。それは、月華には知られていない秘密。既に、月華の隠された左目の真っ赤な赤い瞳を見ていた二人は陽の光に照らされ輝く赤と青の瞳と共に優しい陽だまりの様な小さな笑みに目を奪われずにはいられなかった。
「えっと…?」
呆然とする二人に真顔で首を傾げると、黄桃と黄蘭の頬が赤く染まった。
「馬鹿じゃないの‥っ!?」
「ほんと、変な奴‥っ!」
お詫びって言わなかったっけ…?
あからさまに馬鹿にする様な言葉に内心苦笑いが零れると、黄桃と黄蘭が背を向けた。
「…黄桃でいいよ」
「僕も黄蘭でいいよ」
「え…?」
「特別にそう呼ぶのを許可してあげる」
「じゃあ、またね」
そう言うなり、ニッと口角を上げ笑った黄桃と黄蘭は軽やかな足取りで黄の間へと帰って行ったのだった。
もう七月か…
夏の日差しに目を細めながら繁火での旅に思いを馳せる。
そう言えば、あれから暁と冷って相変わらず仲は悪いけど暴力による喧嘩はしなくなったし寧ろ…
「ふっ…」
突っかかる暁に対して塩対応で受け流す冷を思い出して思わず笑が零れた。
傍から見たら仲良しにも見えるんだろうなぁ…あ、そう言えばこれの事も…
本城の廊下を歩きながらふと、左目に着けた黒い眼帯に触れ足が止まる。
時雨から黄桃と黄蘭が私にって作ってくれた眼帯…ありがとうって言いたいけど…
黄の間にいる李の事が脳裏に過ぎり躊躇う気持ちが勝ってしまう。
…ザッ…
…?
近くで誰かの気配がし辺りを見渡すと本城の周辺の桜の木から僅かに黄色の着物の切れ端が見え凝視する。
まさか…
タッ‥タッタッ…
持っていた草履を履き手摺りから地面へと降りる。
ザッ…ザッザッザッ…
降りて早々に黄色の着物の切れ端が見えた桜の木へと走り出す。
‥ザッ…ザッ…
…あ!
桜の木へと走り出したのと同時に黄色の着物が揺れ走り出す音が聞こえスピードを上げる。
ザッザッザッ‥
「待って下さい‥っ!」
グイッ!!
「うっ!?」
「わっ!?」
走る麻の葉柄の黄色の着物を背後から掴み二人を捕まえるなり口を開いた。
「時雨様から聞きました。私の為に黄桃様と黄蘭様がこの眼帯を作ってくれたって‥」
着物から手を離し左手で眼帯を触りながら真っ直ぐに黄桃と黄蘭を見つめる。
「ありがとうございます…黄桃様、黄蘭様」
「っ…、別にお礼なんて言わなくていいよ」
「散々酷い言葉言っちゃったからそのお詫び。だから、お礼なんて言わなくていいよ」
振り返るなり顔を背け視線を伏せる黄桃と黄蘭に小さく笑みを浮かべる。
「それでも嬉しかったから…だから、ありがとうございます‥っ」
「っ…」
「…‥」
その瞬間、浮かべられた小さな笑みに黄桃と黄蘭は目を奪われた。それは、月華には知られていない秘密。既に、月華の隠された左目の真っ赤な赤い瞳を見ていた二人は陽の光に照らされ輝く赤と青の瞳と共に優しい陽だまりの様な小さな笑みに目を奪われずにはいられなかった。
「えっと…?」
呆然とする二人に真顔で首を傾げると、黄桃と黄蘭の頬が赤く染まった。
「馬鹿じゃないの‥っ!?」
「ほんと、変な奴‥っ!」
お詫びって言わなかったっけ…?
あからさまに馬鹿にする様な言葉に内心苦笑いが零れると、黄桃と黄蘭が背を向けた。
「…黄桃でいいよ」
「僕も黄蘭でいいよ」
「え…?」
「特別にそう呼ぶのを許可してあげる」
「じゃあ、またね」
そう言うなり、ニッと口角を上げ笑った黄桃と黄蘭は軽やかな足取りで黄の間へと帰って行ったのだった。
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