鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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シナリオの再編

探さないで下さい

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 遊郭の怪奇事件から一年が経ち、桜鬼城の黒の間の一室では一枚の置手紙が残されていた。

「”探さないで下さい”…だと?」

 月華の部屋の机の上に置かれた一枚の紙切れに書かれた文字を前に黒道は唖然としその場に居た日華とあられや時雨を含めた三人も驚愕する。

「月華…出て行っちゃったの?」

「くぅ…」

 不安そうな顔でそう呟く日華と悲しげな声を漏らすあられに黒道と時雨は顔を見合せ深刻な表情を浮かべた。

「今すぐ月華を探すぞ」

「私物の衣類や物が全てないという事は王衆ではなく他国に行った可能性が高いですね。私の侍従を使って内密に探させます」

「ああ、俺もこの王衆で心当たりのある所を探してみる」

「ええ、それでは‥」

バタバタバタバタバタッ‥

「…?」

‥バタンッ!

「大変ですっ!時雨様!」

 突然、勢い良く現れた蒼に時雨のみならずその場にいた全員が顔を向けると蒼は息を整えながら深刻な表情で話を続けた。

「はぁ…はぁ…実は…‥」

 ❋

…‥…冷たい…

 ここは一年中雪が降り続く極寒の地の雪羅の西街。長い黒髪を黒の髪紐で下の方で一つに括り天色の無地の着物に黒の帯をし羽織を着ては首に紺色の襟巻きを巻き背中に衣類や物を入れた大きな浅葱色の風呂敷を背負い私は空から降り続ける雪を見上げ手のひらに乗せた。

「これで、良かったんだよね…」

 手のひらの上で溶けて消えていく雪を見ながら呟くと手を握り締めて歩き出す。

ザッ…ザッ…

 この世界に転生して十七年。桜鬼城で暮らし始めて十一年。桜鬼城で働いたお金もかなり貯まったし、ゲームが始まる一年後を迎える前にこのまま一人で静かに暮らした方がいいのかもしれない。でも…

『…もう会わない』

あれは、確かに冷の声だった…

右頬にそっと触れ睫毛まつげを伏せる。

「…嘘つき」

 ゲームでは冷はゲーム開始である一年後に桜鬼城に帰還する。だが、その一年前の今頃に冷は心に深い傷を負い罪を犯し牢に入る事になる。結果的には、時雨の手回しで牢から出してもらえるけど心に負った深い傷は冷自身を苦しめ続けた。だけど、その傷もヒロインによって徐々に癒えていく事になるんだけど…ヒロインである日華はゲームと違って今は蒼に夢中だし、この先の未来がゲーム通りにいくとは限らない。それに、出来れば冷に心に深い傷を負わせたくない。冷から突き放されたとしてもそんな悲劇を食い止める事が出来るなら、私は…

 そう思うなり雪が積もる街中を歩きながら唇を噛み締めた。

ザッ…ザッ…

「美味しい味噌汁は如何ですか~?温かくて美味しいですよ~!」

ん?

 ふと、店の前で客寄せをする杏色の無地の着物に茶色の帯をした二十代ぐらいの女性に目が止まり近づく。

ザッ…ザッ…ザッ…

「味噌汁、一杯頂けますか?」

「はい!どうぞ、中でお座りになってお待ち下さい!直ぐに、お持ちします!」

ザッザッザッ…

 笑顔でそう言うなり中へと促し店の奥へと入って行く彼女に小さく笑みを浮かべ店内に入るなり右端の座席へと腰を下ろす。

カタッ…

「ふぅ…」

 背中に背負った荷物を隣の椅子の上に置くと古びた机の上に肘を置き息を吐く。

疲れた…結構、歩いたからそりゃあ疲れるよね

 ふと、桜鬼城に残して来たあられや日華に朱夏の顔が思い浮かび視線を落とす。

 皆、元気かな…?日華や朱夏は泣いてるかも…あられも置いて行かれて鳴いてるよね…

…ザッザッザッ‥

「お待たせしました!味噌汁です!」

カタッ…

「ありがとうございます」

 机の上にお箸と共に置かれた赤いお椀に入った野菜や鳥肉が入った具材たっぷりの味噌汁を見るなり持って来てくれた店員の彼女にお礼を述べると彼女は満面の笑みを浮かべた。

「ごゆっくりどうぞ!」

 小さく会釈をし店の奥へと戻って行った彼女を見つめると味噌汁へと視線を移す。

美味しそう…

カタッ…

 赤いお椀を両手で持つなり口につけその温かい汁を冷えた体に流し込む。

ズー…

「はぁ…‥」

温かい…

カタッ…

 口を離すなりその温かさに笑みを浮かべ箸を持ち具材を口に入れる。

…美味しい

 一年中雪が降り続く極寒の地である雪羅では温かい食べ物が多く、この国の民衆にとって温かい食べ物は必要不可欠だった。それに、雪羅は他の国よりも無法地帯も多く貧困民だらけだ。街を歩けば古びた建物や寂れた店があるし飢えに苦しむ人々も至る所にいる。だからこそ、罪人が多く潜み事件が多発する。雪羅はそんな危険な国だった。

「離して下さいっ!」

「っ‥!?」

 不意に、店の外から聞こえて来た女性の叫び声に手が止まり店の外へと顔を向ける。

「中々に綺麗な顔をした女の人間だ」

「や‥っ!?離してっ!」

カタッ…

 その会話に眉を寄せ持っていたお箸と共に味噌汁が入った赤いお椀を机の上に置く。

「俺が可愛がってやる」

「嫌っ!止めて!」

ザッザッ…

「お姉ちゃん…?」

「っ‥!?」

カタッ‥

 店の奥から顔を出すなり顔を青ざめそう呟く店員の彼女の呟きに目を見開き席を立つ。

「お姉ちゃん‥っ!」

ザッザッ‥グイッ!

「なっ!?離して!離してく‥」

「しー…」

「っ‥!?」

 慌てて外へと飛び出そうとする彼女の腕を掴むなり空いている手の人差し指を口に当て囁くように呟く。

「任せて」

「で、でも…」

彼女から手を離し店の外へと歩き出す。

ザッザッザッ…

「大人しくしてれば痛い目には合わせねぇからよ」

「やだっ!離してっ!」

「その手を今すぐ離して」

「あ?」

 店の外に出るなり桃色の無地の着物に茶色の帯をした二十代ぐらいの女性の腕を掴む焦げ茶色の無地の着物に黒の帯をし黄緑色の羽織を着た頭に角が生えた鬼の男を見上げながら堂々とそう言うと、鬼の男は女性の腕を掴む手を離し不敵な笑みを浮かべた。

「ほう…これはかなりの美人だな…」

はぁ…

「あ、あの…」

ん?

 鬼の男の背後で戸惑いの声を上げる女性に気づき口を開く。

「行って」

「っ…」

ザッザッザッ…

 そう言うなり戸惑いながらも店の中へと入って行く彼女を見送りながら無駄に凝視してくる鬼の男に視線を移す。

「さっきの女の人間もいいが、お前の方が美人でいいな。可愛がってやるから俺と来い」

スー…

 下衆極まりない汚い笑を浮かべながら手を伸ばしてくる鬼の男に太腿のホルダーケースからこっそり刃ノ葉を抜き手で握る。

「おい」

パシッ!

「っ‥!?」

「な‥っ!?」

 突然、目の前まで来ていた鬼の男の腕が横から掴むなり制され目を見開く。

「汚い手で触るな」

 威圧する様な聞き覚えのある声に視線を向けるとそこには赤髪に紅色の瞳のつり目を持ち麻の葉柄のはぎ色の着物に紅色の帯をし灰色の羽織を着た者を見るなり唖然とし小さく呟く。

「…暁」











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