ミモザの君

月夜(つきよ)

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朝の20分間

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凛視点
「じゃあ、行ってきます。」
あの日から体調にかかわらず早く家を出ている。
「山城くんによろしくね。」
ニマニマと母が玄関で見送る。
「・・・はーい。」
なんだかすごく恥ずかしい。一体何をよろしくと伝えたらいいのか分からない。
突然の再会からここ最近は先生と朝会えている。
最初は緊張したけど、段々と短い時間ながらも話せるようになった。

今日は忙しそうだ。
昼ごはんは何食べてるの?
大学は楽しい?
今度出張で・・とか、他愛のない事。

先生と会える朝の時間は20分間ぐらい。
毎日少しづつ知らなかった今の先生を知る。
知れば知るほど、知らない事の多さに気づく。
そして、気になることは聞けないまま。

先生は彼女いるのかな。

好きな人とか・・。

混み合う電車の中で聞けるような内容じゃないと思うのは、私が軽く聞けないからだ。
いるとは思うけど、いるって断言されたら・・やっぱり朝は一緒に行っちゃいけない気がするし、やっぱり悲しいと思ってしまう。
先生が好きな人ってどんな感じなんだろう。
落ち着いてて、きれいで、優しそうで・・仕事もできそうな大人の女性のイメージが浮かぶ。
・・私とは真逆そうだ・・。
背が小さくて、童顔で、キレイ系には程遠い私。
その幼いと言われがちな内面は、可愛らしい女子とは真逆を行く。
思った事ははっきり言うし、可愛らしくハイテンションなんて出来ない。
そして高校時代は告白されて付き合った彼氏が、付き合い出した当日にキスしてきたから・・
反射的に上段蹴りをかましたのは、私の黒歴史だ。
だって、しょうがないじゃん。
唇が触れた瞬間、「ちがう」って思ったんだもん。
まあ、そのあとは可愛らしいとそこそこモテていた私は、すっかり男っ気がなくなった。
そんなにダメかな、上段蹴り・・。
いきなりキスしてくる奴がいけないと思うんだけどな。
あんな奴に私のファーストキスが・・。
あー、朝からやなこと思い出しちゃった。
電車に揺られながら、先生の駅までもうちょっと。
どきどきしてきた。
人ごみの中、今日の服装を頭の中でチェックする。
もう、秋めいてきた今日はボートネックの淡いピンクのセーターにグレーと白のチェック柄のフレアースカート。
・・ピンクって子供っぽい?
大人っぽくするなら黒とかグレーなんだけど、自分にあんまり似合う気がしない。
もう少し大人っぽい雰囲気だったら・・と思い、思い出すのは、大学に入ってからの友人ひなのちゃん。
いや、どちらかと言えばひなのさん・・。
ひなのさんは、真っ黒ロングのサラサラストレートに、キリッとした奥二重のなんだかミステリアスな雰囲気漂うオトナ女子。
同じ19才なのになぁ・・。
こないだなんて25歳以上の女子をターゲットにした雑誌に声をかけられてた。そのインタビューにも、ふっと微笑を浮かべお断りする姿は、大変お美しい。
同じ19才・・。
でも、そんなひなのちゃんは実は超ラブリーな性格をしていて、持っている小物は大体ピンクのレースがついたものや、水玉模様が好きな可愛い女の子なのだ。ひなのちゃんはひなのちゃんなりにこんな自分の暗い雰囲気は好きじゃないって言うんだけど、そこはないものねだりだよねと互いを慰めあっている。
そんなひなのちゃんにも、先生の事を話した。
もともと先生のことは理想の人は・・という話で話した事があったから、その日の女子トークは授業そっちのけで盛り上がった。
「凛ちゃん!チャンスだよ!!」
そうキラキラさせるひなのちゃん。
チャンスって活かせる人とポロリと転がしちゃう人がいるんだよ。

中学生の時、先生の最後の授業の日、好きって言おうか最後まで悩んだ。
どうせ会えなくなるなら、言うだけでもいいんじゃないかって。
でも、どうせ会わないならわざわざ先生を困らせる事ないんじゃないかって。
最後の授業が終わり、
「じゃあ、これ。最後の課題。凛ちゃんが苦手な所をまとめといたから、塾の春期講習前にやっておくと楽になると思う。」
渡されたのは手書きの問題集。
先生が私のために作ってくれたんだ。
「ありがとう。・・受験頑張るね。」
「うん。凛ちゃんなら大丈夫。」
ぽんぽんと撫でられる大きなあたたかい手。
この手も最後になっちゃうんだと思ったら、泣きたくなった。
先生の手はそのまま離れていく。
離れちゃう・・と先生をみあげようとした時、先生の手が私の耳たぶをはさんで撫でた。
「この耳も、隠さなくても大丈夫だよ。」
涙で視界が揺れていて、こんな泣くのを我慢した顔なんて見せたくないのに・・
「せん、せ、私・・。」
顔を上げた私の目に映るのは、優しく微笑む先生の顔。

好き。

大好きだよ。

溢れる気持ちが涙となってこぼれ落ちる。
スカートを握りしめた手にぽたぽたと落ちる涙。
「っ、、。ふっ、、。」
声にならない私の気持ち。
「・・困った・・な。」
先生が俯いた。
「ごめ・・んなさい。困らせちゃって。」
最後の日にこんな泣かれちゃ困るよね。
結局先生を困らせてしまう自分が嫌になって、溢れる涙を両手で拭った。
すると、私の首筋に先生が優しく手を添えて、そっと先生の鎖骨のあたりに私の頭を抱き寄せた。
あやすように、ぽんぽんと撫でられる。
「困ったのは凛ちゃんのせいじゃないよ。
凛ちゃんの先生辞めるのが、嫌だなと思ったことだよ。・・もう社会人だからね。」
泣いていたのに、近すぎる先生との距離に心臓がばくばくと音を立てる。
初めて感じる先生の匂い、体温・・。
かぁっと顔が熱を持つ。
「まあ、来月にはサラリーマンっていう実感はないんだけどさ。」
先生は、もう先生じゃなくなっちゃうんだ。
「・・先生のスーツ姿、カッコ良さそうだね?」
「え?いや・・おっさんみたいだよ。」
苦笑いする先生は大人で、涙ぐむ私は・・きっとお子様だ。
「大人の男の人・・だよ。」
私には遠い人。
「そうだな。」
先生は、すくっと立ち上がった。
「凛ちゃんはこれから受験だ。焦らず、いつも通りにやればきっと大丈夫。高校に入ったら、楽しいことがいっぱいあるよ。部活でも、バイトでも、新しい友達も・・。」
そう言う先生の顔がなんだか寂しそうに見えたのは、先生が学生時代を終えるからなのかは分からなかった。
「うん。頑張る。・・先生もね?社会人一年生だもんね?」
ふふとうまく笑えているかな?
「ああ。きっと。」
そうやって、笑ってお別れした。

「おはよう。」
人波をかき分け私の前に立つ先生は、今日も優しく微笑む。
「おはようございます。」
ちゃっかり、先生のスーツの袖をそっと掴む私。
今日も始まる先生との朝の20分間。

「・・その服、ちょっと襟ぐり広くないか?」
山城の心の声[鎖骨が丸見えだぞ。しかも上から見ると谷間が見えそう・・で見えない]
「こうゆうデザインですよ!」
凛ちゃんの心の声[大人っぽいと思ったのに・・。]

いきちがう二人は今日ももだもだ互いに幸せを噛みしめる。
もだもだに二人が耐えられなくなるのが先か、それとも・・?

「ピンク・・似合ってるよ。」ボソリと山城。
「あ、ありがとうございます。」ボフっと頬を染める凛ちゃん。
山城の心の声[ああ、ほら・・首から鎖骨のあたりまで凛ちゃんの白い肌がピンクに染まって・・。目に毒・・。]
凛ちゃんの心の声[先生が褒めてくれた!!]

そんな二人の朝はきっと繰り返し続いていく。
多分・・。






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