ミモザの君

月夜(つきよ)

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偶然のようで 前半

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凛視点

「電車混んでたわね。いつもあんななの?」
長い艶めく黒髪を気だるげに掻き上げたのは、その華やかさに目を惹く大人の女性。
「まあ、そんなもんです。」
華やかな女性の事などチラリとも見ずにぶっきらぼうに答えるのは・・瑛太さん。
「まあ、ラッシュだからね。会社で着替える時間あるかしら・・あっ、時計がない!」
「・・時計なら、昨日の惨状を片付けるとき台所に置いてたんじゃ?」
「あ、そうそう、さすが!そうだそれで急いで出ようと、カバンに・・あった、あった。」
しょうがない人と見つめる瑛太さんとにこやかに笑う女性は・・
お似合いの大人のカップルだった。



今日は駅前で工事があって、回り道をしなきゃいけなくて・・だからいつもなら10両編成の真ん中あたりに乗り込むのに、今日はギリギリ先頭車両に乗り込んでいた。
電車の中で、ああ、今日は瑛太さんと会えない。失敗した・・なんて思ってた。
そんな私が終点に着き、ぎゅうぎゅうな満員電車から押し出されるようにホームに降り、地上出口へとつながる階段へと向かおうとすると、見覚えがありすぎるシルエット。
声をかけようとしたその時・・、
隣を歩く女性に気づいた。

ラッシュアワーの時間帯、ホームにはひっきりなしに駅員のアナウンスが鳴り響き、皆急いで目的地へと足早に歩いていく。
その中にどうして見つけてしまったんだろう。

気がつかなきゃ良かったのに。
自分の凍りついたような足
止まる呼吸
目に見えるものを信じたくないと心が拒絶する。

そんな事なんか関係なしに楽しそうに話す二人がどんどんとこちらへ歩いてくる。
すると二人の会話が聞こえた。

昨日の惨状
台所
時計

昨日・・泊まったって事?

「あっ・・。」
瑛太さんが驚いた顔。
それは、珍しく焦った顔。

・・朝帰りの恋人と一緒の時になんて、会いたくなかったよね。
こちらをじっと見つめる女性。
ここで取り乱しちゃダメだ。
これが瑛太さんとの最後になるかも知れないのに。
止まっていた呼吸が浅く動き出す。

「おはようございます。」
自然と耳たぶに手が伸びる。
私はちゃんと笑えてる?

お願い。
何も気がつかないで。
勝手に傷つく私を。

ぺこりとお辞儀をすると、私は人波に流されるように歩き出した。
なにも考えられないのに、私の足はちゃんと大学へと向かう。
ふわふわとした足取りなのに、私はちゃんと地上出口の改札前にたどり着いた。
ピタリと足を止めて振り返る。
そこには改札口を出ようとする人の波。
当たり前だけど、瑛太さんはいなかった。

ああ、終わっちゃったんだ。
私の恋は

誰も気がつかない。
涙が今にも溢れそうな私のことなんて。
朝の8時半は皆、前を向いているから。
誰もいない場所へと歩き出す。
ここから早く離れたい。

もう少し
もう少し
誰も話しかけないで。
口を開いたら、とめどもなく気持ちが溢れてしまう。
堪え切れない涙を手の甲でぬぐいながら、ヒールをかつかつ鳴らし知らない道をめちゃくちゃに歩いていく。
視線の先には小さな公園。
木々に隠れるように公園に入り込むとベンチへ座った。
誰もいないベンチで、やっと息を深く吸い込むと、決壊したように涙が溢れた。
「っ・・、うっく。」
身体の内側がぶるぶる震えて、嗚咽が止められない。

分かってたのに。

こんな日が来る事。
瑛太さんに追いつけないって。

分かってたのにっ!
無理だって分かってたのに。
どうして、好きになっちゃったんだろう?
無理なら、叶わないなら、どうして出会うの?

いいなと思う人はどこか瑛太さんに似ていた。
それは背格好だったり、笑いジワとか、ちょと低めな声とか、男の人なのにすらっと長い指先とか。
いつも、どこかで記憶の中の瑛太さんを探してた。

優しく大丈夫だという声
頭を撫でる大きな手

ずっと忘れられなかった。

あの日、再び会った瑛太さんは、
変わらず優しくて、
頼れる大人で、
口うるさいぐらいの過保護で、
ちょっぴり意地悪で、

やっぱり大好きな人。

「こんな・・なるなら、会いたくなかったっ・・。」

止まらない嗚咽で息が苦しい。
胸がキリキリと痛んで、鼻水と涙でぐちゃぐちゃだ。

この気持ちはどうしたらいいの?
どこに捨てたらいいの?
どうやって忘れたらいいの?

それとも、私がいつまでも忘れないから?
だから、こうなったの?
偶然ではなくて?必然?
もう、いい加減思い出にしろって事なの?

ぐるぐると色んな思いが駆け巡る。
そんな時、スマホが鳴る。

『もしもし?一限休講だって。もう駅着いた?』
ひなのちゃんだ。
「ひな・・のちゃん。」
『凛!?泣いてる?どうしたの?どこいるの?』
「わか・・ない。」
ここはどこ?
『えっ!?ちょっと、大丈夫!?なに、無事なの?』
あのいつも落ち着いてるひなのちゃんが、超焦ってる。
「ごめん。ちょっと・・迷子?大丈夫。・・うん。大丈夫。お昼から行くよ。」
こんな顔じゃ・・今すぐなんて大学行けない。

『凛!私って何?』
!!
ひなのちゃんの超低い声がスマホ越しに聞こえた。
「と、友達・・だよね。」
友達に心配させて、ほんとごめん。
『そう、友達。でも、ただの友達じゃないでしょう?』
あ、そうだ。
「うん、親友だよね。」
『そ、そうだけど!・・私はいつだって凛の味方だよ。辛い時こそ、頼ってよ。・・寂しいじゃん。』
スマホを片手に、ブワッと涙が溢れ出す。
「ひ・・なの・・ちゃん。やばい。もうっ。泣く。」
グスグスと泣きじゃくる私をひなのちゃんは笑った。
『よし、今からそっち行くから。グーグルさんで地図送って。』
「うん、ありがと」
こんな最悪の時なのに、少しだけ救われた気がした。



通話を切ったひなのさんは・・。

トンと通話ボタンを切り、凛からの現在地を知らせるラインを待つ。
が、その顔は・・。
「ど、どうしたんだよ。彼氏と喧嘩か?」
話しかけるなオーラをこれでもかとみなぎらせるひなのさんに果敢にも話しかけたのは他学部の瞬。
本日御機嫌斜めのひなのさんは、じろっとチャラ男瞬を見つめると、
「ちょっと・・潰してくるわ。」
「!!お、お。でもそれは、同じ男として・・。」
なんとなく股間を隠す顔色の悪い瞬。
そんな様子を軽蔑の眼差しで見つめた。
「社会的に。」
それも・・どうなんだ。
そうは思っても、怒れるひなのさんに意見出来る者はいない。
それじゃっ!とスマホ片手に立ち去ろうとするひなのさんは、ぴたっと立ち止まると、
ざっと振り返り瞬の耳元で囁いた。
「ねえあんたさ、凛の事本気?」
「・・本気って言ったら?」
真顔での急接近に驚いたものの、探るようなひなのさんの視線に応える。
「・・今日、空いてる?」
「えっ!?」
「あとで連絡するかも。じゃっ。」
立ちすくむ瞬を置き去りにしてひなのさんは、颯爽と行ってしまった。
取り残されたチャラ男瞬は・・
もしかして、もしかして、夜・・誘われちゃうのか、これ!!と身悶えていた。
そして、それを遠巻きに見ている周囲。
どう見てもチャラ男の恋の相手はひなのさんなのに、素直じゃないチャラ男に皆の哀れみの目が向けられる。
「俺、無理に一票。」
「私も。」
「いや、ミラクルに一票!」
前途多難なようだ。






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