22 / 23
第二章
【第十二話】「字余りの暴力、つまりは川柳」
しおりを挟む
「えっと、ごめん さっきまで、お取り込み中だった?」
「…………………………………………」
「あのー、もしもし?」
「……………………すいません 少しだけ待ってください……」
今電話口に七子が出たことは、【少年】にとって完全に想定外のことだった。それでも七子に「待ってて」と伝えられたのは、彼女の声に混乱と微かな不信感があったからに他ならない。場違いなほど呑気な、今の【少年】の心境と比べればあまりにも呑気な保留音に苛立ちつつも、【少年】の脳は冷静な判断を始める。
思えば、七子と遊園地に行ったのは日曜日。その翌日なのだから今日は平日の月曜日、通常通り登校しなければならない日だ。ならば、今日まで無遅刻無欠席を誇りに掛け、皆勤賞受賞を目論む【少年】とそれを知る面々からすれば、天変地異の前触れとすら思えただろう。それはそうと「五月皆勤賞伝説」は結果も含めてスゲーってなりましたね、はい。けれど、そんなことは今どうでもいい。
今考えられるのは【世界】が職務放棄してることくらいだ。しかし、「仕事に関してだけはマトモな【世界】さん」を自称するあの金髪ストレート(ロング)が契約を破るとも考えづらい。実際、あのエセビッチ(ファーストキスは終わってない)は【少年】が神代から戻るより先に、前の世界に戻していた。
【少年】は、問題がまた一つ増えた事に嘆息しつつも、保留ボタンに再度力を込める。疑念は未解決だが、これ以上七子を待たせるのも忍びない。何度も、彼女は【少年】を心配して電話をかけてきてくれていたのだ。
「もしもし? すいません、時間取らせてしまって」
そういうと、答えはすぐに返ってきた。
「もしもし? どうして敬語なんですか」
「あっ……」
特段、というか全く悪いことはしていないはずなのに、罪悪感が凄い。「自分は相手のことを友達だと思っていたのに相手は自分をクラスメイトくらいにしか認識していない」は『青春悲しいことランキング』TOP10に常時君臨する覇者であるが、「相手は自分のことを呼び捨てで呼ぶのになんだかんだ自分は相手に敬語を使ってしまう」は『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』TOP5に君臨する五英傑の一人。ポジション的には優等生(笑)でLA訛りの瀬尾に近い。
説明しよう! 『青春悲しいことランキング』は学生時代に起こりがちな悲しい事案をまとめた順位であるのに対し、『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』は前者に比べて多少発生頻度は落ちるものの、それゆえ多くの学生たちの耐性も低いため致命傷になりうる危険事案をまとめたものである! なんだこれ⁉︎ 文末の!が取れねぇぜ! 困ったな、どうしよう! んだこの茶番。
しかし、七子にはその理由がわからなくとも、【少年】にしてみれば明らかなことだ。
まず、言うまでもないが【少年】は陰キャである。それも重度の。どのくらい重度かというと、陰キャの巣窟(偏見)であるコンピ研に(以下略)。次に、前の世界での【少年】は、声を掛けてくるはずの【少女】の不在によりぼっちでろっくの根暗オタク(ガリ勉)だったのだ(備考:音楽万年2)。そんな状態でニ・三ヶ月も過ごせば、精神力は減退し、凄みは失せ、スタンドもなまっちょろくなる。そして、そんな非モテに対人コミュニケーション力、ましてや女子をちゃん付けで呼ぶ覚悟など無いッ。すると当然の如く、敬語を使うに考え至る。
しかし、めちゃいい子であるななーこには、そんな発想はない。何だったら「え、嫌われた? なんかしちゃったかな……」なんて本気で考えるまである。どう説明したものか、【少年】は頭を悩ます。
「えっと……これはその……何と言いますか……」
しどろもどろになりながらも、何とか弁明しようと口を動かす【少年】。しかし往々にして、こういう時にパニクった男に弁明の余地はない。むしろ、話せば話すほど不信感が募っている気すらする。
「そういうことで、別に雪白さんが何かしたってわけじゃ――」
「たっだいまー」
明るい声が、気まずい空気をぶち壊す。えはっ? ゑ? え、なんで? 何でこいつが?
「おーっ ただいま、我がお兄ちゃん様よ」
「…………………………………………」
「あのー、もしもし?」
「……………………すいません 少しだけ待ってください……」
今電話口に七子が出たことは、【少年】にとって完全に想定外のことだった。それでも七子に「待ってて」と伝えられたのは、彼女の声に混乱と微かな不信感があったからに他ならない。場違いなほど呑気な、今の【少年】の心境と比べればあまりにも呑気な保留音に苛立ちつつも、【少年】の脳は冷静な判断を始める。
思えば、七子と遊園地に行ったのは日曜日。その翌日なのだから今日は平日の月曜日、通常通り登校しなければならない日だ。ならば、今日まで無遅刻無欠席を誇りに掛け、皆勤賞受賞を目論む【少年】とそれを知る面々からすれば、天変地異の前触れとすら思えただろう。それはそうと「五月皆勤賞伝説」は結果も含めてスゲーってなりましたね、はい。けれど、そんなことは今どうでもいい。
今考えられるのは【世界】が職務放棄してることくらいだ。しかし、「仕事に関してだけはマトモな【世界】さん」を自称するあの金髪ストレート(ロング)が契約を破るとも考えづらい。実際、あのエセビッチ(ファーストキスは終わってない)は【少年】が神代から戻るより先に、前の世界に戻していた。
【少年】は、問題がまた一つ増えた事に嘆息しつつも、保留ボタンに再度力を込める。疑念は未解決だが、これ以上七子を待たせるのも忍びない。何度も、彼女は【少年】を心配して電話をかけてきてくれていたのだ。
「もしもし? すいません、時間取らせてしまって」
そういうと、答えはすぐに返ってきた。
「もしもし? どうして敬語なんですか」
「あっ……」
特段、というか全く悪いことはしていないはずなのに、罪悪感が凄い。「自分は相手のことを友達だと思っていたのに相手は自分をクラスメイトくらいにしか認識していない」は『青春悲しいことランキング』TOP10に常時君臨する覇者であるが、「相手は自分のことを呼び捨てで呼ぶのになんだかんだ自分は相手に敬語を使ってしまう」は『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』TOP5に君臨する五英傑の一人。ポジション的には優等生(笑)でLA訛りの瀬尾に近い。
説明しよう! 『青春悲しいことランキング』は学生時代に起こりがちな悲しい事案をまとめた順位であるのに対し、『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』は前者に比べて多少発生頻度は落ちるものの、それゆえ多くの学生たちの耐性も低いため致命傷になりうる危険事案をまとめたものである! なんだこれ⁉︎ 文末の!が取れねぇぜ! 困ったな、どうしよう! んだこの茶番。
しかし、七子にはその理由がわからなくとも、【少年】にしてみれば明らかなことだ。
まず、言うまでもないが【少年】は陰キャである。それも重度の。どのくらい重度かというと、陰キャの巣窟(偏見)であるコンピ研に(以下略)。次に、前の世界での【少年】は、声を掛けてくるはずの【少女】の不在によりぼっちでろっくの根暗オタク(ガリ勉)だったのだ(備考:音楽万年2)。そんな状態でニ・三ヶ月も過ごせば、精神力は減退し、凄みは失せ、スタンドもなまっちょろくなる。そして、そんな非モテに対人コミュニケーション力、ましてや女子をちゃん付けで呼ぶ覚悟など無いッ。すると当然の如く、敬語を使うに考え至る。
しかし、めちゃいい子であるななーこには、そんな発想はない。何だったら「え、嫌われた? なんかしちゃったかな……」なんて本気で考えるまである。どう説明したものか、【少年】は頭を悩ます。
「えっと……これはその……何と言いますか……」
しどろもどろになりながらも、何とか弁明しようと口を動かす【少年】。しかし往々にして、こういう時にパニクった男に弁明の余地はない。むしろ、話せば話すほど不信感が募っている気すらする。
「そういうことで、別に雪白さんが何かしたってわけじゃ――」
「たっだいまー」
明るい声が、気まずい空気をぶち壊す。えはっ? ゑ? え、なんで? 何でこいつが?
「おーっ ただいま、我がお兄ちゃん様よ」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる