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第二章

【第十二話】「字余りの暴力、つまりは川柳」

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「えっと、ごめん さっきまで、お取り込み中だった?」
「…………………………………………」
「あのー、もしもし?」
「……………………すいません 少しだけ待ってください……」
 今電話口に七子が出たことは、【少年】にとって完全に想定外のことだった。それでも七子に「待ってて」と伝えられたのは、彼女の声に混乱と微かな不信感があったからに他ならない。場違いなほど呑気な、今の【少年】の心境と比べればあまりにも呑気な保留音に苛立ちつつも、【少年】の脳は冷静な判断を始める。
 思えば、七子と遊園地に行ったのは日曜日。その翌日なのだから今日は平日の月曜日、通常通り登校しなければならない日だ。ならば、今日まで無遅刻無欠席を誇りに掛け、皆勤賞受賞を目論む【少年】とそれを知る面々からすれば、天変地異の前触れとすら思えただろう。それはそうと「五月皆勤賞伝説」は結果も含めてスゲーってなりましたね、はい。けれど、そんなことは今どうでもいい。
 今考えられるのは【世界】が職務放棄してることくらいだ。しかし、「仕事に関してだけはマトモな【世界】さん」を自称するあの金髪ストレート(ロング)が契約を破るとも考えづらい。実際、あのエセビッチ(ファーストキスは終わってない)は【少年】が神代から戻るより先に、前の世界に戻していた。
 【少年】は、問題がまた一つ増えた事に嘆息しつつも、保留ボタンに再度力を込める。疑念は未解決だが、これ以上七子を待たせるのも忍びない。何度も、彼女は【少年】を心配して電話をかけてきてくれていたのだ。
「もしもし? すいません、時間取らせてしまって」
そういうと、答えはすぐに返ってきた。 
「もしもし? どうして敬語なんですか」
「あっ……」
 特段、というか全く悪いことはしていないはずなのに、罪悪感が凄い。「自分は相手のことを友達だと思っていたのに相手は自分をクラスメイトくらいにしか認識していない」は『青春悲しいことランキング』TOP10に常時君臨する覇者であるが、「相手は自分のことを呼び捨てで呼ぶのになんだかんだ自分は相手に敬語を使ってしまう」は『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』TOP5に君臨する五英傑の一人。ポジション的には優等生(笑)でLA訛りの瀬尾に近い。
 説明しよう! 『青春悲しいことランキング』は学生時代に起こりがちな悲しい事案をまとめた順位であるのに対し、『青春気まずいことランキング ~一撃必中必殺編~』は前者に比べて多少発生頻度は落ちるものの、それゆえ多くの学生たちの耐性も低いため致命傷になりうる危険事案をまとめたものである! なんだこれ⁉︎ 文末の!が取れねぇぜ! 困ったな、どうしよう! んだこの茶番。
 しかし、七子にはその理由がわからなくとも、【少年】にしてみれば明らかなことだ。
 まず、言うまでもないが【少年】は陰キャである。それも重度の。どのくらい重度かというと、陰キャの巣窟(偏見)であるコンピ研に(以下略)。次に、前の世界での【少年】は、声を掛けてくるはずの【少女】の不在によりぼっちでろっくの根暗オタク(ガリ勉)だったのだ(備考:音楽万年2)。そんな状態でニ・三ヶ月も過ごせば、精神力は減退し、凄みは失せ、スタンドもなまっちょろくなる。そして、そんな非モテに対人コミュニケーション力、ましてや女子をちゃん付けで呼ぶ覚悟など無いッ。すると当然の如く、敬語を使うに考え至る。
 しかし、めちゃいい子であるななーこには、そんな発想はない。何だったら「え、嫌われた? なんかしちゃったかな……」なんて本気で考えるまである。どう説明したものか、【少年】は頭を悩ます。
「えっと……これはその……何と言いますか……」
 しどろもどろになりながらも、何とか弁明しようと口を動かす【少年】。しかし往々にして、こういう時にパニクった男に弁明の余地はない。むしろ、話せば話すほど不信感が募っている気すらする。
「そういうことで、別に雪白さんが何かしたってわけじゃ――」
「たっだいまー」
 明るい声が、気まずい空気をぶち壊す。えはっ? ゑ? え、なんで? 何でこいつが?
「おーっ ただいま、我がお兄ちゃん様よ」
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