オメガの騎士は愛される

マメ

文字の大きさ
9 / 11

しおりを挟む
 改めてリノと対峙した俺は、早速聞いてみた。
「リノ、あなたはこれからどうされたいのでしょうか?」
「どう……とは?」
「先ほどあなたは、今のこの状態はとても苦しく、話し相手もいなくて、鍛錬もできずに暇をしていた……そう言いましたね?」
「はい」
「では、私から逃げたいとか、離婚したいとか、そう思っているのではないですか?」
「……」
 俺がずっと思っていた事を告げると、彼は黙ってしまった。図星だったのだろうか。俺は彼を手放すつもりはない。彼の返事によっては、たとえ彼に嫌われるような事になっても、強引に事を進める覚悟をしていた。
 だが、彼は予想とは反する答えを俺にくれた。
 「確かに私は、ここに来てからリオスが恋しくなった事はありました。騎士団にいた頃が懐かしいと、そう思う日はよくあります。ですが、それは自分の生まれ育った国から離れたら当たり前に思う感情です。それに、私に近づいて来ないのはあなたの方ではございませんか」
「リノ?」
「私は、結婚したからには、例え気持ちが通っていようがいまいが、夫婦としての生活があると思っておりました。それは、我が国が敗戦した際、使者の方が、あなたが私を伴侶にしたいと陛下へ直々に仰ったと聞いたからです。ですが、その、私を求めているはずのあなたは私と会おうともせず、遠征ばかりで……私はまるで軟禁されているような気持ちになっておりました」
「な、軟禁……」
「はい、軟禁です。部屋を出る事も許されず、剣を持つ事も許されず、ただ、一日を無駄に過ごす……私の今の立場は、伴侶という名の捕虜に等しいと感じております。なぜなら、あなたは高貴なアルファで、私のような普通のオメガなどを伴侶としなくても人生に影響はないと、そう思っております」
 何という事だ。彼は、最初から俺と夫婦の関係を持つ覚悟を決めて嫁いできたらしい。また、軟禁されていると言った。何も考えず、ゆっくり過ごして欲しいと配慮していたつもりが、常に剣を持って過ごしていた彼にとっては、苦痛でしかなかったようだ。
 早く誤解を解かなければ。
 そう思った俺は、すぐさまこう叫んだ。
「そんな事はない!」
「ラミレス殿?」
「俺が、俺があなたを伴侶にと望んだのは、あなたをお慕いしていたからです」
「……は?」
「言葉の通りです。戦場であなたにお会いする度に、この手に抱きたいと、なぜ戦場でしか会えないのか、なぜあなたがレガラドの民ではないのかと、心苦しく思っておりました」
「……」
「私がリオスと戦闘になった際に、騎士団長ではなく、いつも副長のあなたの前に現れたのはそういう事です。私は、あなたにお会いしたかった。会って、剣を交わしてでもお話ししたかったのです」
「で、では、私を殺さなかったのは、いたぶって楽しんでいたわけではない、と……?」
「はい。あなたとの逢瀬を大事にするために、戦闘を長引かせておりました」
 彼にそう告げた途端、彼は床に座り込んでしまった。なぜか呆然とした表情をしている。具合が悪くなったのだろうか。
「リノ!?」
「も、申し訳、ございませ……ちょっと、力が抜けてしまって……」
 よくよく話を聞いてみると、彼は自分が全力で向かっていたにも関わらず、俺が手加減していた事に相当なショックを受け、それではリオスが勝てる訳がないと実感したのだという。
 体調が悪いわけではないと安心したが、そう思った瞬間、彼はいきなり息を荒げ始めた。そして、衝撃的な言葉を告げてきた。
「申し訳ない……発情期が、来た、ようです……」
「な、何……?」
「も、申し訳、ございませ、ん……予定では、まだ先のはずだった…のに……」
「リノ……!」
「私を、助けて、ください……、お願い、しま、す……」
 彼は縋るように俺の胸に倒れ込み、抱きついてきた。一瞬、頭がフリーズしたが、彼の顔を見ると、涙を浮かべ、はあはあと息を荒げながら苦しそうにしていた。その姿を見た瞬間、俺の中で理性が吹き飛び、彼の顔に触れ、涙を指で拭った。
「ああ……リノ……こんなに涙を溜めて……苦しいでしょう……」
「はい……早く、この身体を……静め……」
 ああ……彼が自分から俺を求めている。こんな幸福があっていいのだろうか。少なくとも、彼が俺に気を許すまでは相当な年月がかかると予想していたのに、これはなんだ。彼の方から身体を静めて欲しい……つまり、抱いて欲しいと願っている。俺はこのまま彼を押し倒し、すぐにぺニスを挿れたくなる衝動を抑え、冷静を装い、彼に伝えた。
「本当なら、発情期ではない時に、あなたを初めて抱きたかったのですが……他の者に奪われてはたまらない。これからあなたを抱き、私の番にします。よろしいですか?」
「だ、抱、く……?」
「あなたと私が、身体と身体で繋がると言うことです。ここと、ここで。経験はおありでしょう?」
 彼の美貌と役職から、今までセックスする相手には困らなかったはずだ。彼と関係を持った相手にかなりの嫉妬を抱きながらそう尋ねると、彼は再び衝撃的な言葉を吐いた。
「け、経験は、ありま、せん……」 
 俺の頭は再びフリーズした。今、彼は何と言ったのだ? 聞き間違えか?
経験がないなどありえない。発情期の混乱のあまり、嘘をついてしまったのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

落第騎士の拾い物

深山恐竜
BL
「オメガでございます」  ひと月前、セレガは医者から第三の性別を告知された。将来は勇猛な騎士になることを夢見ていたセレガは、この診断に絶望した。  セレガは絶望の末に”ドラゴンの巣”へ向かう。そこで彼は騎士見習いとして最期の戦いをするつもりであった。しかし、巣にはドラゴンに育てられたという男がいた。男は純粋で、無垢で、彼と交流するうちに、セレガは未来への希望を取り戻す。  ところがある日、発情したセレガは男と関係を持ってしまって……? オメガバースの設定をお借りしています。 ムーンライトノベルズにも掲載中

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

処理中です...