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マメ

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「神影……どうする? 完全にこいつが原因だが……」
「……ああ、そうだな」
「影さん……!」
「芹沢、お前はもっと自分のした事を自覚しろ。砂原の件は……こうしてBLACKと対峙しなくてもいつかは分かった事だ」
「……でも、」
「黙れ。これ以上俺を怒らせるな」
「……っ、」
 神影の牽制に芹沢の動きが止まった。
神影の目は冷徹な光を宿していた。見ているこっちもゾッとするような、冷たい表情だ。
「お前はBLUEとBLACKにケンカを売ったようなものだ。いい加減気づけ。自ら混乱を招いてどうする」
「……」
 芹沢は言葉に詰まったのか俯いてしまった。納得してくれたんだろうか。
「……完全にうちの負けだな」
 神影がそう呟くと、まわりの奴らがざわめき始めた。
『芹沢が……原因……?』
『襲われたのは自業自得……?』
 皆がそれぞれ自分の意見を口にしているが、混乱しているようでいつまでも落ち着かない。
 すると、しびれを切らした黒夜が動いた。
「こいつをボコった分の謝罪は済んでる。今度はお前らの番だ……神影、そうだな?」
「ああ……」
 神影は諦めたのかため息をついている。どう考えてもSHINEが悪い事を実感したようだ。
「芹沢、謝るんだ」
 神影が促し、芹沢の背中に手を掛けた。共に謝るつもりらしい。
「……」
 だが芹沢は動かない。頑なに拒否の姿勢を見せていた。
「芹沢!」
「お……れは……」
「何だ?」
 みんなが静かに見守る中、芹沢は絞り出すように言葉を発した。
「俺は……それでも、悪いと思っていません!」
「何!?」
「俺のせいで二つのチームが綻びかけ、SHINEに迷惑が掛かった事は認めます。けど、BLACKに対しては悪いと思わない!」
「芹沢!」
 神影が止めるのも構わず芹沢は叫び出した。まるで開き直ったかのように。
「確かに砂原を連れてきたのは俺だ。BLACKに紹介したのもな……けど、俺はあいつを追い出して満足してる。学園だって平和になった」
「「「……」」」
「全部お前のせいだ……お前が砂原の前に現れなければ……陽輝さんを倒さなければ……あいつはお前に興味を持つ事はなかった……全部、お前とBLACKが悪いんだ!」
「はあ? 何言ってんだ……意味分かんねーし」
「芹沢、落ち着け!」
 黒夜は呆れたように言葉を返し、神影も止めようとするが芹沢は止まらない。
「お前がいなけりゃ……お前が……」
 芹沢の顔がどんどん険しくなり、黒夜を見据えるように視線をぶつけている。この感じはヤバい気がする。 
「おい神影……大丈夫かこいつ」
「ああ……芹沢、しっかりしろ! 藤倉と石蕗もこいつを抑えてくれ!」
「「は、はい!」」
 神影に話し掛けると、やはり同じ事を思っていたらしい。他の幹部に止めるよう促していた。
「離せ!」
 だが、芹沢は止まらない。
「お前が……お前が居なけりゃ良かったんだ!」
 そう叫んだ芹沢は、まわりの奴らを振り切り、いきなり黒夜に向かって腕を振り上げた。そこにはキラリと光るナイフが確認できた。
「黒夜!」
「げ……」

 ザシュッ…!


 その光は、とっさに避けた黒夜の左頬を掠め、一筋の赤い線を出現させた。さらに、避けたせいで黒夜の髪がわずかに数センチ切られ、金色の髪がはらはらと目の前を舞い降りていく。
「てめえ……」
「くそ……二人とも死ね!」
 芹沢はもう一度向かってきたが、今度は俺に標的を変えた。
「おっと」
 だが、一度見ているのに黙ってやられるわけがない。芹沢が俺に触れる寸前で腕を捕らえ、隠し持っていたスタンガンを腹にあてがった。
「何……!?」
「残念でした~っと……」

 バチッ……。

「ぐっ……」
 電流が流れた衝撃でナイフを落とし、崩れ落ちる芹沢。俺はその胸倉を掴んで引き上げると、追い討ちをかけるように腹に膝をめり込ませた。
「がは……っ、」
「あれ? もしかして弱いのかな~芹沢君は?」
「てめ、卑怯な……」
「不意打ちでナイフ翳してくる奴に言われたくないね」

 ドゴッ……!

 今度は股間を蹴り上げてみた。
「いっ……」
 すると、さっきまでの勢いはどこへやら。芹沢はみるみるうちに顔を歪ませ、顔面蒼白になってうずくまっていた。
「……つまんねーな」
「もう終わりか白坂?」
「ああ……呆気ないなあこいつ」
 黒夜は痛みに耐える芹沢を見るなり笑いながら聞いてきた。だが、ここまで弱いとつまらない。あっという間にやる気が失せてしまった。
「はっ……どうやらお前の方が部下の躾が出来てないようだなあ……神影?」
「くっ……」
「芹沢! 大丈夫か!?」
「芹沢……!」
 幹部二人に支えられる芹沢を見ながら、険しい顔を崩さない神影。これからどうするつもりなんだろうか。
「芹沢……」
 神影は苦しそうな声で呟き、呆気に取られていた。どうやら全く予想していなかったらしい。
「神影……さあ、どうするよ?」
「……」
 神影は芹沢を見つめたまま、顎に手を当てて何かを考えていた。さあ、どう出るのか。
 すると、芹沢を抑えていた金髪が助けを求めるように神影に訴えた。
「影さん……やっぱり無理なんだよ……! 阿知波と……BLACKと和解するなんて……」
「藤?」
「無理だよ……オレだって納得できない……陽輝さんを潰したコイツを許す事はできない! 散々、砂原に迷惑掛けられればいいんだよ!」
「先輩!?」
 隣にいたデカい奴まで驚いている。本当に予想外の言葉らしい。
「和解するのはBLUEとだけでいいじゃん……何もBLACKを通さなくても会う方法はいくらでもあるんだし……」
「藤……」
「いくら影さんの命令でも、こんな気持ちのままBLACKと協力なんてできないよ……頼むから……コイツに頭なんか下げないでよ!」
 金髪は神影を真っ直ぐに見つめて訴えた。その姿に俺達のまわりに配置された奴らも動揺し始めた。
『そう……だよな……なんで協力しなきゃいけないんだ?』
『砂原はもういないんだし……うちには関係ないよな……?』
『ああ……BLACKはいい気味だ。詫びを入れるとしてもBLUEだけでいいよな?』
 金髪の言葉を受け、辺りから聞こえてくるのはBLACKを否定する言葉ばかり。皆が徐々に殺気立ち、俺達はすぐにでも襲われそうな雰囲気になっていた。
「黒夜、どうする?」
「神影……交渉決裂……ってヤツでいいのか?」
 神影は黒夜と芹沢達幹部、さらに皆を順に見つめた後、より深いため息を吐いて肩をすくめた。
「……そうだな。これでは俺が何を言ってももう聞かなそうだ。残念だが……お前とはとことん縁が無いらしい。悪いな」
「ま、その方がお前らしいか……素直に謝ろうとしてんの、本当に気持ち悪かったぜ」
「はっ! お前こそ土下座なんて頭のネジが緩んだとしか思えないな……傑作だった。いつまでも笑いのネタにさせて貰う」
「神影……お前本当にムカつく奴だな」
「それはこっちのセリフだ」
 二人の間に再び火花が散り、辺りの空気の温度が下がったような錯覚を覚えた。こういうの何て言うんだっけ……ハブとマングースは可愛すぎるし……龍と虎でいいかな。
 二人を見ながらぼんやりとそう思っていたら、黒夜が目配せしてきた。ケンカの準備をしろって事か。
「(了解)」
 俺は静かに両手をポケットに突っ込むと、忍ばせていた小さな機械のボタンを押した。これは対になっている通信機のような物で、送信側のボタンを押すと、受信側についているランプが光るという物だ。機械いじりが好きなメンバーが何かを改造して作ってくれた。
 片方は灰路に持たせてある。ランプが光ったら交渉決裂の合図だと伝えていた。
 カチッと音がしたのを確認して二人を見ると、言い争いはまだ続いていた。まわりにはブリザードが吹き荒れ、他の奴らは息を飲んで見守るだけになっていた。 
「じゃあ……このままやるか?」
「ああ……仕方ないな」
 黒夜の挑発に乗り、目を細める神影。少しのきっかけで、戦闘開始のゴングが鳴りそうだった。
 ちらりと後ろを見ると、まだ灰路の姿は見えなかった。何やってんだあいつは。
 黒夜もイライラしたように俺を見るが、俺は首を振るしかできない。そしてさらに黒夜の機嫌が悪くなった。
 灰路ー……早くしろー……。
 頭の中でそう願うが、灰路はまだ来ない。辺りの空気も淀んだように殺気立っている。
 どうするかなと考え始めた時、一人の人間が前に出てきた。
「影さん待って下さい!」
 それは、黒夜と会ったというあのデカい男だった。彼は俺達の前に立ち、神影に向かって進言した。
「影さん、冷静になって下さい。今ここで謝らないのは分が悪い」
「石蕗……」
「今、芹沢と先輩は頭に血が上っている状態です。という事は、冷静な判断ができてない。あなたまで巻き込まれないで下さい。芹沢に謝るつもりがないなら、俺が一緒に謝ります」
 そうそう確か石蕗って奴だった。なるほど、SHINEの中にもまともな奴がいるようだ。
「石蕗、俺は……」
「さっき影さんが言ったんですよ? メンバーの過失はトップの過失だと。それに、影さんだって砂原の件はうちが悪いって認めてたじゃないですか」
「う゛……」
 言葉を詰まらせた神影に対し、石蕗はさらにまくし立てる。
「こうやって揉めた時、開き直るのが一番良くないんです。それは影さんもよく分かってるはずだ」
「……」
「俺は、何があっても、きちんとその場を理解して、冷静な判断ができるあなただからついて来たんです。お願いします……まわりに流されないで下さい!」
「つ、石蕗……」
「それに……こんな影さん、アオ君が見たら悲しむと思います……」
「!」
 石蕗もアオ君を知ってるのか。それほどSHINEに馴染んでいる人物なのか?
その証拠に、神影の顔がさっきよりも真剣になった。頭の中で自分のしていた事を冷静に分析しているようだ。
 神影はしばらく考え込んだ後、再び大きなため息を吐いた。
「……そうだな。俺も頭に血が上っていたようだ」
「影さん……」
「砂原の件はうちが悪い。それは謝ろう」
 神影は素直に謝ると宣言した。石蕗はホッと息をついている。若干二名だけは納得できないようだが。 
「影さん、謝る事ないです!」
「そうだよ影さん!」
 芹沢と金髪が叫んでいた。本当にダメだなこいつら。
「……」
「影さん……?」
 喚く二人を眺めていた神影だが、いきなり目を細めて睨みつけるとぴしゃりと言い放った。
「話が進まない。お前らは黙ってろ」
「「ひっ……」」
 神影の恐ろしいほどの剣幕に、二人は息を飲んで黙ってしまった。神影はそれを確認してから、俺達の前で膝をつこうとした。
 だが、それは叶う事はなかった。

 パンパンパンッ!

 突然、辺りにけたたましい破裂音が響き、俺達の視界を煙が遮ってしまったのだ。
「……!? 何だ!?」
「神影……てめえ!」
「……俺は何もしてないぞ!?」
「ああ!? じゃあ何なんだよこの煙は……」
 神影のせいと決めつけた黒夜は早速責め立てるが、神影自身も本当に分からないのだと首を振っていた。
『何だこれ……』
『こんな指示は出てないぞ!?』
 SHINE幹部もメンバーも混乱し始めた時、煙の向こうからのんびりとした声が聞こえてきた。
「クロ君お待たせ~灰路君登場だよ~ん!」
「「……」」
「爆竹鳴らしちゃった~格好良かった?」
 現れたのは灰路だった。空気を読んでいるのかいないのか、その顔は楽しそうに笑っている。その後ろには連れてきた残りのメンバー達がズラリと並んでいた。
「灰路君登場だよ~んて……」
「白坂……あいつ殴っていいか?」
「いいんじゃね? なんかムカつくし」
 あまりのアホらしさに、俺と黒夜は軽蔑したような視線を送った。すると灰路は首を傾げて固まった。ようやく神影と俺達の様子がおかしい事に気づいたらしい。
「あ、あれ? もしかしてまだダメだった…? でも合図来たよね~?」
 灰路はおろおろしながら俺達に聞いてくるが、最初に反応したのは俺達や神影ではなく、他のSHINEのメンバーだった。
『おい……合図ってどういう事だ!?』
『まさか……少人数と見せかけて待機してたのか!?』
『なんて卑怯な……!』
 彼らは口々に俺達を非難し、徐々に構える姿勢を見せた。
「みんな落ち着け! 俺の話を……」
「神影さん!もう無理です! やっぱりBLACKとは相容れない関係なんです!」
「戦いましょう! こいつらを信じちゃダメだ!」
 奴らは神影の声を聞こうともせず、ますます不満を募らせる。トップの声も届かないほど俺達を憎んでいるようだ。まあ、後押ししたのは灰路だけど。 
「橘……お前な……」
「あ~……もしかして取り込み中だった?ごめんね~? ってかさ~、クロ君てば何ケガしてんの? ウケる~!」
あくまで脳天気すぎる灰路に黒夜は眉をしかめていた。ヤバい。不機嫌MAXだ。

「ったく……てめえはよお……」
「え~? だってクロ君が呼んだんじゃんか~……で? どうすんのさ。やるの?やらないの?」
 殺気立った奴らを見渡しながら、俺達のそばまで来た灰路。状況が分かっていないらしく、黒夜に詰め寄っていた。
「ああ……それがなあ……」
黒夜は今の状況を教えようと口を開いた。だが、またしても邪魔が入る。
「くそ……、もう我慢できねえ! 死ねよ阿知波あ!」
 それは後ろに控えていたSHINEのメンバーだった。灰路の登場で完全に俺達を信じられなくなったらしい。黒夜に向かって突進してくる。
「……橘」
「はいよ~」
 灰路は黒夜の前に立ち塞がり、向かってきた男の腕を素早く掴んで捻りあげた。ぎりぎりと腕を締める力に男から呻き声が漏れる。
「ぐっ……」
「あれえ? 威勢がいい割には弱いんじゃない~? ウケる~」
 灰路はあははと笑いながら、なおも男を締め上げる。その顔は本当に楽しそうだ。
 こいつは普段へらへらしていて分かりづらいが、黒夜と同じく根っからのドSだった。特にケンカの時は活き活きとしていて、一応BLACKでは特攻隊長のような役割になっている。その戦法はあくまで一撃で仕留めず、なぶるようにじわじわと相手を追い詰め弱らせていく。しかも、狂気的な笑顔で。
 黒夜とどっちがタチが悪いのかと考えた事もあるが、よく考えてもどっちもどっちだった。俺が一番まともだ。
「クロ君どうするの?」
「……お前は暴れたいんだろ?」
「あ、バレた?」
 灰路はえへへと笑いながら、いまだにSHINEの奴を離そうとしていなかった。良いおもちゃを見つけた時のようにその顔が輝いている。
 何を言ってももう無駄だな。スイッチ入ってるわ。
「黒夜、ダメだこいつスイッチ入った」
「そうだな……って事で、悪いな神影。そこの石蕗って奴には悪いが、交渉決裂だ」
「ああ……そのようだな。石蕗……悪い」
「影さん……」
 神影は黒夜の言葉に頷いた。どう考えてもまとまらないと諦めたようだ。
 すると、俺達の仲間はもちろん、SHINEのメンバーもそれぞれが構え出し、いつ何が始まってもおかしくない状態になった。
 だが、俺達はSHINEに囲まれていた。灰路はそれを見ながら楽しそうに呟く。
「いよいよだねえクロ君……ミツ君……」
「きっかけを作ったのはお前だけどな」
「ああ……灰路が悪い」
「はあ? 酷くない~?」
 灰路は心外だとでも言うように頬を膨らませているが、それでも楽しそうだ。
「ま、こいつらとは仲良くしたいと思わねえけどな……」
「でしょ? 灰路君に感謝してよね!」
「結局こうなるのか……」
 はあ……と呆れたようにため息を吐くと、「ミツ君ガンバ!」となぜか応援されてしまった。ムカつく。
「じゃあ、とりあえず……お前ら! よく聞け!」
 黒夜が仲間達に向かって手を上げ、ゆっくりと宣言した。
「……戦闘開始だ。SHINEを潰せ」
「「「……はい!!!」」」」
 その声に呼び覚まされるように反応した仲間達は、次々と一歩を踏み出し、周りにいるSHINEのメンバーに襲いかかっていった。
 こうして、SHINEとの決戦の幕は開いた。
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