上 下
1 / 1

武器屋さんが拾ったのは、曰くつきの少年でした

しおりを挟む
 ここは剣と魔法の国。様々な種族が暮らしているが、中には害をなすモンスターもいる。そんな世界で発達したのが、剣や魔法などの武具を扱う店だった。
 俺は代々、武器や防具、薬草などの冒険者必需品を扱う店を経営する獣人の家庭に生まれた。親はもうとっくに亡くなっていて、今は自分で店を経営している。若い時は冒険者をしていたから、その仲間や当時知り合った固定客もついているし、小さな店ながら繁盛していた。残念ながら今は独り身だけど、いつかは同じ獣人の伴侶ができたらいいなと思っている。
 そんな事を考えながら店を経営していた矢先に、その出来事は突然やってきた。
 俺達のような武器屋がどうやって材料を調達しているかというと、洞窟や山、その他自然のある場所にあるモノや、モンスターを倒してその一部を武器や防具に使い、品物を錬成している。今日は素材を仕入れに行く日だった。
「エンソラさん、お疲れ様。今日は洞窟の奥にいい素材があったよ」
「本当か? ありがとよ」
 素材のある洞窟に着いた時、先に集め終わった武器屋仲間のエルフが教えてくれた。武器屋をやっている者は、俺のように昔は冒険者だった者も多い。種族関係なく交流していた。
「さて、じゃあ行きますか」
 腰にぶら下げていた剣を抜き、サクサクとモンスターを倒し、羽や鱗などの素材を集めながら洞窟の中を進んでいく。すると、いきなり奥の方から誰かの叫び声が聞こえた
「誰か助けて!!」
「何事だ?」
 洞窟に来るのは冒険者か俺達のような店を営んでいる者、もしくはギルドの調査員くらいだ。みんな自分のレベルは分かっているから、自分よりレベルの高いモンスターが出る場所には近づかないはず。なのに、さっき聞こえたのは明らかに助けを求める声だった。間違って入った冒険者か? 悲鳴が聞こえるのに無視などできない。俺は急いで声の出る方へと向かった。
「誰かいるのか!?」
「た、助けてください!」
 そこにいたのは、火を吐くモンスターに襲われていた黒髪の人間らしき者だった。俺は慌ててそばに駆け寄り、襲っていたモンスターを迎え撃つ。
「はっ!」
「キエェェェ……!!」
 気合いを入れ、モンスターの肩に剣をふり降ろすと、モンスターは奇声を上げてその場に倒れた。
 このモンスターは鱗と爪が素材になるから丁度いい。鱗と爪を剣で削ぎ落とし、持っていた袋に入れて回収していると、後ろから声をかけられた。
「あ、あの……」
「ん?」
「あ、ありがとうございました……」
「ああ……大丈夫か?」
 ヤバい。助けたのに素材に夢中で忘れていた。とりあえず返事をして、助けた奴を眺めてみると、肩までの黒髪の、綺麗な顔をした少年だった。まだ十代だろうか。身体を震わせながら俺を見ているが、座ったまま動かない。足を怪我したようだった。
「足を怪我しているのか?」
「さっき、逃げようとしたらモンスターに踏まれてしまって……」
「見せてみろ」
 少年の右足を見てみると、紫色に腫れ上がった足首が見えた。さっきのモンスターは重いから、骨折しているかもしれない。
「家は?」
「……」
 少年は目を逸らして黙ってしまった。
「帰りたくないのか?」
「……」
 今度は黙って頷いた。帰りたくないらしい。
「名前は?」
「……シューヴァ」
「家は?」
「……」
 やはり言いたくないらしい。でも、この怪我を放っておくわけにはいかない。一度連れて帰れば落ち着いて帰る気になるだろうか。
「俺の家に来るか?」
「……!!」
 シューヴァと名乗った少年は、俺の一言で顔が明るくなった。よほど帰りたくないらしい。仕方がない。彼の身元はゆっくり聞くとして、一度連れて帰るしかないか。
「俺の名前はエンソラ。一度連れて帰るが、いいか? 動かすぞ?」
「はい……」
 少年はホッとしたような表情を浮かべ、俺に身を委ねた。彼の足を動かさないように抱き上げると、あまりの軽さに驚いた。俺が筋肉隆々の獣人というのを抜きにしても、軽すぎる。これではどんなモンスターに襲われても勝てないだろう。
「言っておくが、一時的にだぞ? って……気絶した?」
 少年は俺の腕の中で目を閉じて黙ってしまった。顔色も悪い。安心したのか気絶したらしい。仕方がないので、そのまま洞窟を出て、馬車に乗せて連れて帰った。

 *

 連れて帰った後は、少年の腫れた足首の手当てをして、ベッドに寝かせた。ハアハアと荒い息を吐いていたから熱を測ると、かなりの高熱を出していた。怪我のせいだろう。慌てて薬を煎じて無理やり飲ませ、額に冷たい水に浸したタオルを乗せようと前髪に触れた時、ある事に気づいた。
「角……?」
 今まで隠れて見えなかったが、彼の額の両側には、小さな角がそれぞれ一本ずつ生えていた。人間だと思っていたが、どうやら違うらしい。
「角がある種族……は、竜か、魔族、精霊……か?」
 今まで出会ったり見聞きした中で、角がある種族はそのくらいしか心当たりがない。だが、この少年のように成長しているのにこんなに小さな角……というのも聞いた事がない。
「小さな身体に、小さな手……そして角……お前は一体、何者なんだ? 起きたら種族くらいは聞いてみるか……」
 謎だらけの少年だが、怪我が治る間だけだと自分に言い聞かせ、しばらく面倒を見る決心をした。

 翌日。俺は昔の冒険者仲間であるエルフのグラニソを家に呼んだ。シューヴァを診てもらうためと、彼ならシューヴァの種族を知っているかもしれないという期待のためだ。ちなみに、グラニソは昔は回復役の治癒師として冒険していたが、今は医師をしている。
「久しぶりだなエンソラ。お前が病とは珍しい。何かあったのか?」
「診て欲しいのは俺じゃない。あの少年だ」
「少年?」
「素材集めの洞窟でモンスターに襲われていた。怪我をしている。とりあえず診てくれないか」
 俺がシューヴァの寝ている部屋にグラニソを通すと、彼は眉間にしわを寄せた。
「……少年か。家族に連絡は?」
「教えてくれないんだ。シューヴァという名前だけは聞いた」
「訳ありなのか?」
「おそらく……とりあえず連れて帰ったが……種族は分かるか? シューヴァの額には角がある」
 俺がシューヴァについて説明すると、グラニソはテキパキと怪我の手当てをして、額の角にも手を触れた。しばらく彼を眺めたり、脈を測ったりしていたが、大きなため息を吐いたと思ったら、予想外の事を言ってきた。
「彼の熱は怪我のせいだろう。骨折しているから、治るまでは定期的に診に来よう。痛み止めと解熱剤も出しておく。あと……彼の種族だが……」
「分かったか?」
「角以外は特徴がなく、人間に酷似している。お前のような獣人の要素もなく、この角は……おそらく、竜族かと。しかも、カオスドラゴン」
「カオスドラゴン!? カオスドラゴンて、最強の竜じゃないか……隣の国の王家がカオスドラゴンだったよな? 人型に擬態できるのか?」
 カオスドラゴンは最強の竜として有名で、今まで倒した者がいないほど強すぎる存在、出会ったら逃げなさいと書かれるくらいに強い存在だ。隣国の王家はカオスドラゴンの竜族で、やはり魔力が強く、世界中から恐れられていると聞いている。だが、この国でカオスドラゴンの存在は聞いた事がなく、俺の中では夢の世界の種族だった。
「さっきも言ったが、この角の手触りといい、見た目は小さいが、形や特徴がカオスドラゴンの子どもそのままなんだ。魔力が高いドラゴンは人型になれる。この少年は弱そうに見えて魔力が高い……眠っていても人型を維持できているのがその証拠だ」
「……」
「このままここで生活させるのか? もし、隣国の王家に関わりがあったら社会問題だぞ?」
「シューヴァは帰りたがっていなかった。俺が勝手に追い出せば死ぬだろう。本当に王家の血筋だったとしても、死なれる方が後味が悪い」
「そうか……まあ、今のところ追手も何もないのか?」
「ああ」
「なら……様子を見た方がいいかもしれないな。彼が落ち着いたら話してくれる可能性もあるし、カオスドラゴンじゃないかもしれないし」
「そうだな……でも、念のためシューヴァがここにいる事は黙っていてくれないか? もし知っている者がいたら厄介だ。怪我が治るまでは静かに暮らしたい」
「分かった。友人の頼みだ。黙っているよ。でも……」
「でも?」
「彼のデータを取ってもいいだろうか? 貴重なドラゴンかもしれない彼のデータは記録しておきたい。今後またドラゴンを見る可能性もあるから」
「それは……俺が許可するようなモノじゃないだろう。好きにすればいい」
 グラニソは治癒師としての興味が湧いたのか、シューヴァのデータが欲しいと言ってきた。その目は輝いていて、明らかに楽しんでいる様子だ。俺とグラニソはシューヴァの事は内緒にという契約を結び、彼を保護する事にした。
 シューヴァはそれから三日間、寝込んだままだった。



「ん……」
「身体は大丈夫か?」
 シューヴァが目を覚ました。薬が効いているのか息は先ほどよりも整っていて、顔色も良くなっている。声をかけてみると、彼は俺を見るなり悲鳴を上げた。
「ヒィッ!!」
「は?」
 突然すぎて呆然とシューヴァを見ると、彼は俺をまじまじと見つめたあと、顔を真っ赤にして謝ってきた。
「ご、ごめんなさい! こんなに大きな獣人さんを見るのが初めてで……」
 俺の体型はこの国では標準……よりは大きいが、まあよくいるタイプの獣人だ。それを見るのが初めてという事は、やはりこの国の出身ではないという事だろう。
「獣人を見るのは初めてか?」
「はい……獣型の種族は初めて見ました」
「この国では俺のような毛むくじゃらは普通にいる。どこの国から来たんだ? 君のように人型に近い種族で、獣人を見た事がないような国は限られていると思うが……それに、額の角が気になる。人間ではないよな?」
「あ……」
 俺が早速聞いてみると、彼は「しまった」と言わんばかりの表情で青ざめてしまった。やはり言いたくないらしい。だが、グラニソの言うように、もし彼が隣国の王家に関わる人物で、捜索願いが出されていたら大変な事になる。そこはしっかりと言っておきたかった。
「言いたくないのは分かる。でも、これだけは言っておく。もし君が世界的に重要な人物だったら、君一人の問題じゃなくなる。匿っている俺は罪に問われると思う。下手すれば誘拐罪で死刑だ」
「う……」
「何も君の出身を聞いたらすぐに追い出すって訳じゃない。怪我が治るまではここにいていい。だから、少しだけでも素性を話してくれないか?」
「わ、分かりました……」
 シューヴァは毛布をぎゅっと握りしめた後、ポツリポツリと話し始めた。
「オレは……竜族です。隣の国から逃げてきました」
「逃げてきた?」
 竜族というのは当たりだったが、逃げてきたとはどういう事だろう。
「竜族は、大人になったら角が大きくなるはずなんです。でも、オレは大人になっても角が小さくて、非力で、魔力も弱くて……落ちこぼれなんです。兄や姉は強くて、竜族らしいから、辛くて……」
 ちょっと待て。今、大人って言ったか? シューヴァは何歳なんだ?
「君、何歳だ?」
「二十二です」
「……若く見えるな」
「それも、コンプレックスで……他の成人した竜族は、見た目が年齢よりも高く見えるのに、オレはいつまでも幼く見えて、魔法も上手く使えなくて……」
 ヤバい。彼のコンプレックスを刺激してしまった。何とかして気分を上げてもらわないと。
「でも、若く見えるってのは羨ましいな。俺は若い時からこのままだから。それに、君が寝ている間に友人の医師に診てもらったが、君の魔力は高いと言っていたぞ? 寝ていても人型のままを保つ竜族は凄いと」
「……そうなんですか? オレ、小さな頃から魔力が低い出来損ないってみんなにバカにされて……」
「魔法が使えるのも凄いと思うけどなあ。俺は魔力なんてないから、剣士だったし」
「剣士?」
「ああ。今は武器屋をしているが、昔は剣でモンスターを倒す剣士だった。獣人はだいたいそうだ。魔法は使えない」
「そんな世界もあるんですね……」
 シューヴァは初めて聞いたような反応だった。世界の事をあまり知らない様子だ。やはり箱入り息子なのか? でも、これで出来損ないと言われていたという事は、まわりの者がどれだけ凄いのかが分かる。本当に保護して良かったのか不安になったが、乗りかかった船だ。これからの事を話す事にした。
「話を聞く限り、君はある程度の地位の家庭に生まれたと思うが……探されている可能性はあるか?」
「……はい」
「でも、逃げてきたんだよな?」
「……はい」
「なら、怪我が治ったら一人で何とか生活できるようになろう。そうすれば、君は自由だ」
「……あのっ」
「ん?」
「怪我が治ってもここに置いてはもらえないでしょうか!?」
「ここに? ただの武器屋だぞ? それに、見つかったら俺にもリスクがある」
「オレ、あなたのように立派な大人になりたいんです。役に立ちます。何でもします。お店も手伝います。お願いです……あなただけしか頼る人がいないんです……ここを出てしまったら、オレは、死んじゃうかもしれない……」
 シューヴァは涙を流しながら訴えてきた。まるで自分がいじめているような錯覚に陥ってくる。
「お願いです……ここに置いてください……」
「……」
 泣きじゃくる彼の姿が可哀想に思えてくる。一人で国を出て、偶然入ってしまった洞窟でモンスターに襲われて、怪我をして……彼にとっての俺は救世主に思えたのかもしれない。ただの武器屋なのに。
 だが、彼をここに置いたら何かが変わるだろうか。彼も変わってくれるだろうか。不思議と、そんな感情が湧いてきた。
 俺は彼の熱意に根負けした。
「分かった。色々覚えてもらう事はあるが、それでもいいか? もちろん、怪我が治って帰りたくなったら帰ってもいい」
「……あ、ありがとうございます!」
 彼の顔がパアアア……と明るくなり、笑顔が溢れた。その笑顔はまるで太陽のようで、思わず目を逸らしてしまった。

 それからの日々は忙しかった。シューヴァの世話をしながら武器屋の経営、素材集めに頭をフル回転しながら生活した。定期的にグラニソが訪ねて来てはシューヴァを診てくれたのが救いだった。意外にも、シューヴァとグラニソは相性が良かったらしく、竜族のデータも取らせてくれたらしい。関係は良好だった。 
 ただ、一緒に暮らして気になってきたのは、シューヴァが俺を見る視線だ。最初は気にならなくて、ただ獣人が珍しいのかと思っていたが、ある日、何となくシューヴァを見たら、目が合った瞬間に顔を真っ赤にされてしまった。気にしないふりをしてやり過ごしたが、やはりいつも見られている。
 ある日、食事の介助をしながら、思い切って聞いてみた。
「シューヴァ、俺に何か言いたい事があるんじゃないか?」
「へ?」
「俺をいつも見ているだろう。そんなに獣人が珍しいか?」
「ああああ、あの……」
 シューヴァはまた顔を真っ赤にしてしまった。熱が出たのだろうか。
「熱が出たか?」
 そう言って額に手を当てると、特に熱くはなかった。でも、シューヴァの顔は真っ赤だ。しかも、なぜかモジモジしている。
「シューヴァ、どうし……」
「ご、ごめんなさい……何か、あなたを見てると身体が、おかしくなって……」
「身体が?」
「身体が熱くなって、その……」
 シューヴァはモジモジしながら訴えてくるが、意味が分からない。でも、ずっとモジモジしているのが気になって、思いきって毛布を捲ってみた。すると、なぜかシューヴァの股間が膨らんでいた。
「……これは」
「ごめんなさい! オレ、あなたの事が、好きになっちゃったみたい……」
「……」
 俺の思考が止まった。
 待て待て待て待て。俺は獣人で、彼は竜族。体格も大人と子どもくらい違うし、そもそも男同士だ。それなのに、好きになっちゃった、だと?
 いきなりの急展開に、思考が止まったままの俺。そんな俺を見ながら、シューヴァは顔を真っ赤にして訴えてくる。
「種族が違うのは分かってます。でも、あなたの優しさを、オレにはない体格を、気づいたら好きになっていました……」
「ど、」
「ど?」
「俺は、どうしたらいい?」
 どうしていいか分からない。そんな気持ちがそのまま出た。すると、シューヴァは俺の手に自分の手を重ねると、ボソリと呟いた。
「……て、欲しい」
「え?」
「オレを、抱いて欲しい……」
「……」
 再び思考がフリーズした。抱いて欲しい、だと……?
 この世界は基本的に男女のカップルや夫婦が当たり前だが、同性同士も珍しくはない。冒険をしていた中で色んなタイプを見てきたから知っている。だが、同性から告白されたのは初めてで、しかも、種族が違う……同じ獣人じゃないから、力加減も分からない。傷つけてしまわないだろうか。って、何で受け入れる前提で考えてるんだ俺は。
 シューヴァを見ると、自分が言った事が恥ずかしすぎたのか、やはり顔を真っ赤にしながら固まっていた。早く返事をしたいが、どうしたらいいんだろう。
「シューヴァ、俺と君は種族が違う。しかも、同性だ。獣人は基本的に力が強い。君を抱いたら傷つけてしまうかもしれない。考え直した方がいい」
「体格も種族も違うのは分かってます! でも、傷つけられてもいいから、あなたに愛された証が欲しいんです……それに、あなたはすぐに拒否しなかった。それって、オレの事、嫌いじゃないですよね?」
「そ、そうなのか?」
「嫌いなら嫌いって、言うと思います。でも、あなたはオレを傷つけてしまうかもしれないと、そう言ったんです。なら、少しでもオレに気持ちがあると思っていいですか? 少しでも気持ちがあるなら、抱いてください!」
「うっ……」
 身体は小さいのにめちゃくちゃ積極的なシューヴァに驚いた。竜族のプライドも関係しているのだろうか。
 ふと彼を見ると、発情のためか赤く火照った身体と、俺を見つめる瞳が潤んでいて色気を感じた。俺はゴクリと息を飲み、気づいたらシューヴァの頬に手を添えていた。
「シューヴァ」
「はい」
「覚悟はできてるんだな?」
「はい」
「獣人は盛りがついたら止められない。それでもいいのか? 嫌だと言っても止められないぞ?」
「……はい」
「……その言葉、後悔するなよ?」
「はい……んう……!」
 俺はシューヴァから漏れ出る色気に欲情した。男相手には初めてだった。
 まずは彼の口を開けさせ、舌で彼の口内を味わい尽くす。獣型の獣人と人型の者は顔の構造がそもそも違うから、唇と唇を合わせる事ができない。こうして最初から口内を責めるか、舌で舐めるかになってしまう。それでも彼は嬉しいようで、自分から俺に抱きつき、何度も自分から俺の口にキスをしてきた。少し涙を浮かべているから苦しかったかなと心配だったが、これなら先に進めても大丈夫だろう。
 彼の首すじを舐めながら、服のボタンを外して胸を触ると、すでにぷっくりと膨らんだピンクの乳首が現れた。誰も触れた事がないような色に興奮を覚える。先端をつまみ、クリクリと指でこね回すと、彼の口から吐息が漏れた。
「ん……」
「……」
 顔を赤くしたまま気持ち良さそうに吐息を漏らす姿に煽られ、俺の中のリミッターがカチッと外れたのが分かった。俺はすぐにもう片方の乳首を舐め、唾液でベトベトになるまで責め立てた。彼はビクンと腰を跳ねさせた。どうやらイッてしまったらしい。この刺激でイクというのは、慣れてないのかもしれない。
「もしかして、初めてか?」
「……」
 彼は顔を真っ赤にしながら頷いた。どうやら正解だったようだ。初めてなのに獣人を誘うとは大したモノだ。なんて感心している場合じゃない。すでに俺のぺニスもギンギンに勃っていたが、彼の中にちゃんと入るか心配になってきた。
「痛かったらちゃんと言えよ?」
「は、はい」
 俺は彼の小さなぺニスに舌を這わせた。彼は俺が与える刺激に声を震わせながら、くねくねと身体を跳ねさせている。気持ちがいいらしい。そのままもっと下に移動して、尻の割れ目を指で開くと、そこにはピンク色をした可愛い尻の穴が現れた。こんな所までピンクだなんて、本当に初心者なんだな。俺はなんだか愛しくなって、ゆっくりと彼の穴に舌を這わせた。すると、さっきよりもビクンと彼の身体が跳ねた。
「嫌……そこ、汚い……舐めないで……」
「傷つけないようにするための行為だ。痛いのは嫌だろう?」
 彼の腰をガッチリと押さえながら、穴の中に舌を埋めていく。ベロベロと中を舐め、唾液を大量に送り混むと、最初よりも中が解れてきた。すかさず指を一本入れてみると、思ったよりもすんなりと指が進んだ。
「息を吐いて……そう、ゆっくりでいい」
「は、はい」
 彼は初体験の事にやはり顔を真っ赤にしながら頷いた。何度も何度もゆっくりと指を出し入れしているうちに、少しキツさがなくなってきた。俺のサイズにはまだまだ小さいかもしれないが、これなら入りそうだ。俺ももう限界だった。
「シューヴァ、そろそろ入れるぞ? ゆっくり息を吐くんだ」
「う……」
 俺は彼の小さな身体を抱え、足を開き、彼の小さな穴にぺニスを添えた。俺のぺニスを見たシューヴァから「ひぃっ……」と声が漏れた気がするが、限界だった俺は少しずつ彼の中に入っていった。
「ああ、あああ……」
「シューヴァっ、キツ……力を抜け……!」
「は、入って、入って、る……」
 彼もやはりキツいらしい。眉間にしわを寄せて固まっていた。俺もキツい。何とか気持ち良くなろうとしたのか、気づけば互いに口を寄せていた。少しずつ、少しずつ彼の中に入りながら、彼の唇にキスをする。彼も口を開き、俺の舌を受け入れた。
「シューヴァ……痛くないか?」
「大丈夫、です……エンソラ様……好き、です……」
「……お前は凄いな」
 今の俺達の状況は、大人が子どもを犯しているようなモノだ。辛いだろうに、大丈夫と耐えている彼に庇護欲が湧いた。もっと気持ち良くなって欲しい。そう思った。
 俺は彼にキスをし続け、ぺニスも扱いて刺激してやると、さっきまで力を無くしていた彼のぺニスが勃ってきた。少しだけ快感を感じてきたのだろう。すると、不思議と俺のぺニスもいきなり最奥まで入ってしまった。
「くっ……」
「ああああ……」
 奥までぺニスが入り、彼の中がギチギチになる。これ以上奥まで入らないといった場所まで到達した。彼はハアハアと息を吐いているが、俺を見つめる視線は熱いままだった。
 結合した部分から、グチュグチュと卑猥な音がする。彼の声が悲鳴のようなモノから喘ぎに代わった時、彼は自分から腰を揺らして俺をもっと奥へ奥へとと誘い込んだ。
「エンソラ様……オレを壊してください……中に、出してください……」
「シューヴァっ、」
「エンソラ様っ! ああああっ! 好き、好きぃ……! 気持ちい……!!」
 俺はその言葉と仕草に翻弄され、乞われるまま彼を貪った。何度も何度も中に出し、全身を舐めまくった。こんなに相手を求めたセックスは初めてだった。

 *


「……」
 ヤってしまった。ついにヤってしまった……。
「エンソラ様……愛しています」
 シューヴァはセックスの後、動くのも辛そうなのに、呆然と横たわる俺に覆い被さりキスをしてきた。
「シューヴァ……」
「はい?」
「身体……辛くはないか……?」
「エンソラ様が一緒だから、辛くはないです……」
 彼はさらにキスを増やしてくる。チュッ……というリップ音が定期的に聞こえてくる。抱いたのは俺なのに、まるで俺が抱かれたような気分だ。
「ああ……オレが妊娠できれば良かったのに……エンソラ様の子種……ずっと中に入れていたい……」
「……」
 シューヴァは本当に俺の事が好きらしい。可愛い事を言いながら、俺の胸にすりすりと顔を埋めてきた。
「その……違う種族に抱かれるのは……嫌じゃなかったのか……?」
「オレはエンソラ様を愛しています。抱かれて光栄でした」
「そう……」
「また……抱いてください。気持ち良かった……」
 これが若さなんだろうか。セックスの前よりも積極的な気がするのは気のせいだろうか。
 俺は呆然としたまま、彼の「愛しています」という言葉を何度も何度も聞いていた。

 *

 その後、武器屋の店員と俺の恋人として定着したシューヴァが、実はとんでもなく身分の高い人物で、俺のそばにいたいシューヴァと、連れ戻したい家族のてんやわんやが国を巻き込んでの大騒動になる事を、この時の俺はまだ知らなかった。




Fin.
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

底辺αは箱庭で溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:6,205pt お気に入り:1,144

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

BL / 連載中 24h.ポイント:3,791pt お気に入り:1,393

異世界転生から狂戦士と旅に出ました

66
BL / 連載中 24h.ポイント:5,539pt お気に入り:419

いちゃらぶ×ぶざまえろ♡らぶざま短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,746pt お気に入り:445

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

BL / 連載中 24h.ポイント:7,030pt お気に入り:1,648

キツネの嫁入り

66
BL / 連載中 24h.ポイント:5,404pt お気に入り:275

処理中です...