間違い勇者のパーティーは終わっている

チリガミ鳩

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序章:異世界転生は終わってる

第2話:冒険者志望

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モンスターを狩って、喰って、飲んで、寝る、というなんとも原始的な生活を始めて一週間が経った。

転生初日から二日目、森の中を気ままに散歩して丁度良い湖を発見して以来、そこがリンネの食卓となっていた。モンスターの血肉を喰って、喉が乾いてきたら湖の水を飲む。快適とは程遠いが、生活できないわけではないので、リンネ自体不自由は感じていない。

「モンスターも種類は多くないからなぁ。あんまし〝スキル〟は手に入らなかったな。ま、いっか」

現在のリンネの〝スキル〟はというと。

化け物モンスター
脚力キッカー
腕力パンチャー
耐久ディフェンダー
《魔眼》
剣術使いソードマスター
闘術使いナックルマスター
索敵サーチ
硬化メタル

初日に比べると一つしか増えていないが、これからを考えると十分と言える。

まず《ゴブリン》から手に入れた《索敵サーチ》は半径十メートル以内の敵と認識した者を感知することができる。これは半径十メートル以内に入った生物を敵と認識していれば自動で感知できるので便利である。

次に《硬化メタル》はアルマジロみたいな丸っこいモンスターを喰ったことによって手に入れた〝スキル〟だ。体の一部をはがねのように硬くすることができ、攻撃力・防御力ともに向上可能という心強い〝スキル〟でもある。

「暗くなってきたし、今日はもう寝るか」

そう言って拠点と化した洞穴ほらあなへと戻り、就寝する。
寝ている間にモンスターに襲われないのか? という疑問が聞こえてきそうだが、近辺のモンスターはリンネのことを恐れているようで、転生から四日目にして洞穴拠点に近づくモンスターはいなくなってしまった。

そしてリンネが深い眠りに入り、数時間経った頃。

「ん~? なんでこの辺りに魔物が出てこないんだろう……」

外の方から少女らしき声が聞こえてくるが、リンネは目を覚まさない。
索敵サーチ》が常時発動中なのだろうが、使用者が起きていなければ気付けるはずもない。ちょっとした欠点が見え隠れしている最中にも関わらず、少女はゆっくりとリンネの眠る洞穴へと足を運んでいく。

「何だか不吉だなぁ。強い魔物とかいなければいいけど。てかなんで私、攻撃魔法も使えないのに一人で来ちゃったんだろ……。心細いよぉ」

帰るべきか迷っているみたいだが、少女の足は止まらない。好奇心旺盛おうせいな少女には『危ない』という言葉は無意味に等しいようだ。

一方リンネはというと。

「……………………(スヤァ」

アホ毛をピコピコと動きながら、気持ちよさそうに眠っていた。
例え少女が盗賊などの危険なやからだとしても、今のリンネのスペックなら大丈夫だろうが……。それにしても不用心すぎる。

「あれ? 人の寝息が聞こえる……気のせいかな? でも、だんだん近づいているような……」

少女はもう洞穴の中に入っていた。無意識ながら少しずつリンネの方に近づいている。

「…………あっ」

初めて二人が対面した瞬間だった。正確にはリンネが眠っているので〝対面〟というより〝遭遇そうぐう〟と言った方が近いだろう。

そして、少女はリンネを見て驚いたものの、こう解釈かいしゃくしたのであった。

・人が洞穴で眠っている
     ↓
・魔物に拉致らちされた?
     ↓
・このままじゃ魔物に食べられるっ!
     ↓
・私がしなきゃ!(謎)

頭のおかしな方へと進んでいき、リンネはぐっすりと寝息をたてながら見知らぬ少女に連れていかれた。



「…………あぁ~。よく寝たぁ……。うん、飯でも取りに」

「あっ、やっと目を覚ましたね」

「ふぇ?」

リンネは違和感を感じた。

一つ、見える景色が違う。洞穴の中はもっとジメジメで薄暗かったはず。なのに、そこは暖かく、明るく、何だかいい匂いがした。

二つ、フカフカしてる。洞穴の中では大きなワラや葉を見つけて重ねただけの簡易ベッドなため、慣れたけど硬い。しかし、今いるのはフカフカの白い大きなベッドの中だった。

三つ、確か自分は一人だったはずだ。でも、目の前には赤い髪を短く切りそろえた、優しい笑みを浮かべた少女がいた。かなり可愛い上に、顔が近い。

「いやぁ~びっくりしたよっ!? 夜遅くに【シアレンス】に行ったら人が魔物のエサになりそうだったんだもんっ」

そこでリンネは理解した。何故少女が夜遅くに外へ出たのかはわからないが、きっと自分を見つけて魔物にさらわれたとでも勘違いしたのだろう。
うむ。嬉しいことだが、迷惑でもある。勝手に人を連れてくることに関してはビシッと言わなければならない。

「……あのな」

「──ケガがなくて良かったねっ!」

「ありがとうございますっ!」

それはとても輝かしい笑顔だった。天使かそれに類似した何かを彷彿ほうふつとさせる愛らしさと神々しさを感じた。
その後に見えたのは完璧なまでのジャンピング土下座だった。
『土下座』──それは相手に敬意を示す最大の方法だ。

一つの笑顔で一人の少年の負の感情が浄化じょうかされていく瞬間である。

「ちょっ、なんで頭下げるの!?」

「いや、あまりにも神々しかったから……」

「えっ?」

「いや、忘れてくれ。ところで、ここは一体何処なんだ?」

リンネは強引に話題を変えることにした。なんだか気恥ずかしかったからだ。

「ここは私の家だよ?」

「……マジか」

なんと、見知らぬ少女は頭に疑問符を浮かべて首を傾げているではありませんか。

(え、何コレ。何なのコレ。俺が違うの? やっぱり日本と文化が違うから? 大丈夫だよね? うん、大丈夫だよ……絶対。彼女は決して俺に気がある、とかじゃないって。きっと天然的な? そういう所あるよね? お願い、『YES』と言って!!)

「……? もしもーし」

「えっ? あっ、ごめん」

「どうかしたの? 急に固まっちゃって」

「い、いやぁ。いいのかな~、て」

「何が?」

「……家に見ず知らずの男を上がらせちゃって」

(あー、うん。この顔絶対今気付いたパターンだな。よかったよ、俺の推測が正しくて)

少女はポカンと口を開けたまま硬直していた。そしてハッと意識が戻る。しかし、その顔には焦りなど一切なく、一言呟いた。

「……まぁ、いっか」

「良くねぇだろお前はバカかっ!? 見ず知らずの男が目の前で、しかも自分の家に入ってんだぞ!? 少しは危機感持てや!」

「持ったところでこの状況が変わるわけないでしょ!? それに、君が女の子に手荒いことをするとは思えないしっ。というか経験なさそうだし」

「何をぉー!! こう見えても俺はな! いろんな書物を読み漁っているおかげで、経験はなくても知識はあるんじゃい!」

「いや、ごめん。興味ない」

少女の冷たい一言で、リンネの心が、精神が、男のプライドが、ポキッと音を鳴らして折れた。

「ごめんごめん!! そんな落ち込むとは思ってなかったの! てかそれどうなってんの!? 体ごとひざに吸い込まれてるように見えるんだけど!?」

落ち込みすぎたリンネは体育座りをし、その足の隙間に顔、ではなく体ごと入れる。流石に焦った少女は本当の意味で話題を変えるために「ご、ご飯にしよっ! ね?」と言ってリンネを立ち直らせる。

リンネをリビングルームらしき所まで運ぶと「待ってて」と急いでキッチンルームへ。三十分後、少女が持ってきたのは、バターの乗ったトースト・コーンポタージュ(仮)・ミニトマト(仮)の入ったみずみずしいサラダだった。

「さぁ、召し上がれ!」

グイグイと勧める少女の言葉を受けたリンネはゆっくりだが、確かにトーストに手を伸ばす。そしてしっかり掴み、口に運ぶ。

「…………」

「ど、どうかな?」

「……美味いなっ」

「よかったぁ!」

思えばトースト、及び食パンは市販のものだから美味しくないわけがない。しかし、少女はリンネが立ち直ったことに歓喜し、またリンネは異世界に来て初めてのまともな『食事』に大喜び。その証拠にアホ毛が激しく左右に揺れている。

「ゆっくり食べてね」

「あぁ! サンキューな!」

元気な笑みを浮かべてリンネは飯を食う。少女も次第に腹が空いていき、ともに食事を楽しむ。

しばらくして、食事の終えたリンネが少女に質問する。

「そういえば名前、聞いてなかったよな?」

「そうだね。それじゃあ自己紹介っ。私はアルム・ヘイム、冒険者になるのが夢なんだ!」

「俺は天霧リンネ、リンネでもリンでも好きに呼んでくれ。……やっぱ冒険者ってのがあるのか?」

「アレ? 知らない感じ? 冒険者っていうのは魔物を討伐したり、薬草とか採取してお金を稼ぐ職業のことだよ?」

やはり腐っても異世界。やっとファンタジーらしい要素が見えてきた。今まではモンスターや〝スキル〟があっても『ファンタジー』ではなく、良くいえば『サバイバル』悪くいえば『野生』という二文字にまで縮小されてしまうレベルだった。

「そうか。俺にもなれるか?」

「うん。基本的には誰でもなれるよ」

「基本的?」

「冒険者になるには『冒険者養成施設』ってところに加入しないといけないからね」

「加入料は?」

「無料」

「じゃあなんでアルムは行かないんだ?」

「だって私、攻撃魔法使えないから」

アルムは少しだが切なそうな表情をする。それは、なりたくてもなれない、という辛い現実を理解している表情だった。

「攻撃魔法? そりゃあなんだ?」

「えっ? まさか、魔法知らないの?」

「ちょっとなら知ってるぞ? 具体的には知らん」

アルムが驚きの声をあげるが、直ぐに説明に移る。

「魔法には基本的に三つに分けられていてね?」

アルム曰く、魔法というのは『攻撃魔法』・『治癒魔法』・『支援魔法』、この三つに分類されているらしい。
攻撃魔法とは魔法で対象者を攻撃する魔法。
治癒魔法とは魔法で対象者を治癒する魔法。
支援魔法とは魔法で対象者を支援する魔法。
簡単に説明できてしまうが、こういうことだ。また、身体能力強化などは三つに分類されず『補助魔法』という風にまとめられるらしい。

「私は攻撃魔法が使えなくて、支援魔法が得意。治癒魔法は少し使える程度。あと、魔法っていうのは適正がないと使えないわね」

「……攻撃魔法が使えないから、アルムは冒険者養成施設に行かないのか?」

「そんなところ」

アルムはどうでもいい、と言いたげに振舞ってみせるが、その瞳にはまだ夢を追いたいという気持ちが表れている。

「なら、俺が一緒になって行ってやる」

「えっ!?」

「一人よりも二人の方がいいだろ?」

「そっ、それはそうだけど……」

困ったように少女はこめかみを抑える。

「……諦めきれないんだろ?」

「……え?」

「冒険者になりたい。なら、なればいいさ。無理だと言うなら、俺が手伝う。だから、一緒に行こう」

飛びっきりの笑顔でリンネは手を差し出す。アルムは困惑しながらも、呆れたようにため息を吐く。そして

「それじゃあ、よろしく頼むわっ!」

「任せろ!」

これが、これから長くパーティーを組むことになる天霧リンネとアルム・ヘイムの出会いだった。
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