同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢

文字の大きさ
19 / 85

14話 密室からの脱出

しおりを挟む
「朝霧はどう?」

「だめだな。圏外だ」


 閉じ込められてまず最初に行ったのは、スマホの確認だった。
 しかし、ここは腐ってもシェルターだった。電波は遮断されている。
 安全そうな場所を歩いたり、壁際に寄ったりしてみたが、スマホの圏外表示は変わらなかった。


「ここもだめだね……」


 扉付近を調べていた桐生が肩を落とす。


「こちら側に引ける隙間はゼロ。この机、扉をこすりながら倒れたんだね。
 こんな感じの閉じ込め被害、最近マンションとかで多いって聞いたなあ」

「場所がシェルターで、塞いでるのが化学実験用の長机というのは希有だろう」

「確かにね。
 ここを出たら、真っ先に理事長に文句言おう」


 桐生は軽く笑った。緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。
 オレも緊張していた。だからこそ桐生に笑って返した。


 外部と連絡が取れない。
 食料や水はゼロ。
 自力脱出は絶望的。
 無駄な壁の厚さと防音機能で、大きな音を出しても外には聞こえない。
 この広さなら密室でも酸素は問題ないが、今の季節は五月。


「冷えるね……」


 昼と夜の気温差が大きい時期だ。施工途中で放り出されたむき出しのコンクリートの壁と床は、立っているだけで体温が奪われた。
 このまま放置され、陽が照り始めたら、今度は熱中症のおそれがある。
 オレたちに誰も気づかなければ、24時間を待たずに危険な状態に陥るかもしれない。


 この時期は皆、軽装だ。オレと桐生も例外ではない。
 普段感じることがない寒さに腕をこすった。
 誰もが、教員は帰宅したと考えるだろう。今夜中の救助は来ないと思ったほうがいい。
 肉体疲労より、精神疲労を強く感じてきた。オレは床に座った。床は冷たく体に染みたが、立っているよりは休憩できる。


「朝霧、こっち」


 暗闇の中で呼ばれたかと思うと、オレはひょいと抱え上げられ、暖かくてしっかりした感触の上に座らされた。
 ここは、……もしかしなくても桐生のあぐらの上!!


「何をしている」

「体力温存と、互いの暖をとるため」

「雪山じゃないんだぞ?」

「遭難しているのは事実だと思うよ。
 とりあえず30分はこのまま待機しよう。
 誰かが気づいてくれる可能性にかけて、じっと動かないで、エネルギーの消費は最低限に」

「お前、床にじかに座って寒くないのか」

「ヴァンパイアは普通の人間より頑丈だから大丈夫。
 特に夜は強いんだ」


 これは事実か、それとも強がりか。
 懐中電灯の光で、桐生が微笑む顔が間近に見えた。
 しばらくの沈黙は、触れあう部分から流れる体温を感じるだけの時間だった。
 桐生の腕は、強くもなく弱くもなく、オレの背を抱いている。


 まだオレは、お前に返事を告げていなかったな。
 オレは、お前に答える言葉を決めている。腹をくくったし、覚悟したし、自分に正直でいようと決めた。
 もう、言えるのに。お前のことが好きだと。
 こんな状態では言うに言えない。
 ここを出たら言おう。ちゃんと伝えよう。
 ………………。


 今のなし!! 却下!!
 死亡フラグを立ててどうする!!
 こんなところで間抜けに死んでたまるか!!


「そろそろ外は真っ暗だね。
 朝霧の判断は正しかったよ。
 外に、懐中電灯ひとつ置いてきてくれたでしょ。
 誰かが外の光に気づいたら、様子を見に来てくれるかもしれないよ」

「え、あ。それは……ああ」


 違う、パニックになって捨てただけだ。
 どこに置いたか記憶にない。もし植え込みの中に落ちていたら、光がほとんど遮断されてしまう。
 あの時はただ、桐生が危ないと、それしか考えられなくて。
 オレはどこまで馬鹿なんだ。
 オレが中に飛び込まず、冷静に扉をキープしていたら、遭難なんてしなかったのに。


 ……いや、待てよ。
 もし、オレがあのまま中開きの扉をキープしていたら、実験机はオレの頭上に倒れてきていたのでは?
 今更、ぞっとした。
 あの長机は、カタログの記載によると120kg。シェルター内にミンチが転がっていたに違いない。


 そういえばあの時、オレが飛び込むとほとんど同時に、桐生もオレに向かって走っていた。
 桐生は見えていたのかも知れない。オレのすぐ脇にある物体が、今にも倒れそうだったことが。
 オレが桐生を助けようとした時、桐生もオレを助けようとして、オレを抱きすくめて、体で庇って……。


 桐生。
 お前、オレのこと、ものすごく好きだろ。
 おかしいぞ、体を張って守るとか、ドラマじゃないんだぞ。
 こんな時なのに頬が熱くなる。くっついている体勢が恥ずかしい。


「誰も来ないね」


 スマホで時間を確認すると、一時間が経過していた。


「まずいな。
 このまま待っても埒があかん」

「そうだね。脱出方法を考えようか」


 お互いに声を落としているのは、緊張を鎮めるため。
 ふたりというのは心強い。
 一人で閉じ込められていたら、容易にパニックになっていたと思う。


「あの実験机、動かせると思うか?」

「左右から、棚みたいなものが倒れてきてるね。
 実験机自体も斜めになっている。
 通常の床なら、二人でなんとか移動させられたかもしれないけど、あれは無理だと思う。
 僕が人間より身体能力が高くても、限界があるからね」


 オレはピンときて、桐生を至近距離で仰ぎ見た。
 こいつはヴァンパイア体質だ。
 血を吸った後は筋力が増したと言っていた。
 なら、今それを使うべきじゃないか。


「オレから吸血するのはどうだ?
 一時的に身体能力が爆上がりするんだろう。
 オレならかまわん、脱出を優先すべきだ」


 桐生は数秒の沈黙の後、静かに首を横に振った。


「ごめんね。
 朝霧を抱えるのが楽になったと感じた程度だよ。
 あの状態の実験机を動かすなんて、……僕は、スーパーマンじゃない。
 基本的に、僕は人間だから」


 哀しげな返事。オレは失言を恥じた。
 基本的に人間。つまり、ある程度の部分は化け物じみている。
 そんな台詞を桐生自身に言わせてしまった。
 オレはヴァンパイア体質を差別する気はない。マイナスも多いがプラスも多いと考えている。
 本人は毎月の吸血衝動に苦しみ、悩んでいるというのに。軽率だった。


「すまん」

「ううん。僕こそ力不足でごめん」


 互いに謝りあう。
 また、しばらくの沈黙が流れた。
 桐生はさっきまでと違って、扉のほうを懐中電灯で何度も確認している。


「一か八か。
 ちょっとやってみる」



 つづく
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...