同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢

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15話 メタモルフォーゼ

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 桐生がオレを下ろし、立ち上がった。
 奥の機材を懐中電灯で照らしながらごそごそしている。


「この用具の手すりのここ、取り外せたよね。
 ……んっ! よし、とれた!」


 がこん、と音がする。
 桐生の手には、1メートル弱の鉄の棒が握られていた。
 これ、どこの何の部位だ? 保健室のベッドの一部か?


「あとは、理事長がどれだけ予算をケチってくれたかだ。
 扉が特殊素材で固すぎたらアウト。
 朝霧、僕の手元を照らして」


 桐生に懐中電灯を渡され、言われるままに手元を照らす。
 桐生は、扉の角……開く側の上あたりを狙って、テコの原理で力をかけている。
 その場所に何かしても、扉が開くとは思えない。へこみができるだけじゃないのか?


「少しでも隙間が開けば、携帯の電波を受信できるかもしれない」

「なるほど!」


 極限状態で半ば思考停止しているオレに比べ、こいつはすごいな。


「ん~……っ!
 はあ、はあ……、この角度じゃだめだ。位置を変えて……」


 やはり腐ってもシェルター、扉の強度は一般のものとは違うようだ。
 額に汗が浮いている桐生に、オレは再度、吸血を提案してみた。
 この作業は、実験机を持ち上げるほどの怪力はいらない。身体能力が上がれば容易になる。


「まだ待って欲しい」


 桐生は首を振った。


「朝霧の体力を激しく奪う行為だと解っているよね?
 今は、どちらが倒れてもダメなんだ。
 どうしようもない時、最後の最後の手段として考えておくよ。
 今はまだ、僕に頑張らせて」

「…………。
 すまん」

「ううん。提案として間違っていないよ。
 今じゃないってだけ」


 オレにできることはないかと考えた。
 何もなかった。オレが手元を照らしていないと桐生は作業ができない。
 交代を申し出たかったが、オレの身長ではあの位置に力を籠められない。
 オレはハンカチを取り出し、桐生の汗を拭いた。
 それしかできなくて情けなかった。


 桐生は驚いて、それから微笑んだ。
 嬉しそうな、幸せそうな笑顔だった。


 作業開始から30分が経過した。
 想像より遥かに大変だった。なかなかうまくいかない。
 扉の強度はそこまでではないのだが、いい角度に入らないと扉に力がかからない。
 足元も悪い。踏ん張るには難しい足場だ。
 いい角度を探しては力をかけて。桐生は肩で息をしていた。


「……よし!
 今までで一番手応えあった。ここを……!」


 桐生が渾身の力を込める。
 ぐぐ、と扉の角がへこむのが見えた。外側へゆがんでいく。
 わずかな隙間から外気の匂いを感じた。
 やった!!


 ばきん、と桐生の持っていた鉄材が折れ、桐生ははずみで尻餅をついた。


「はー、金属のほうが持たなかったか。
 でも、なんとかいけたね」
 
「ああ、よくやったぞ桐生!
 少し休め。オレが電波を確認してくる」


 オレはスマホを隙間にかざした。
 『圏外』。
 現実は無情だった。
 119を押し、ダメモトで隙間にスマホを押しつけてみる。無反応。
 くそ、駄目なのか!
 桐生があんなに頑張ったのに!!


「電波、無理?」

「そのようだな」


 オレはよほど落胆して見えたのか。桐生のほうが申し訳なさそうな顔をしていた。
 そんな桐生の目が、ふと扉の隙間を凝視した。


「ねえ朝霧。あの隙間、しっかり照らしてくれる?」

「こうか?」


 オレが照らす隙間を、桐生が食い入るように見つめている。
 あそこから救助を呼ぶ気なのだろうか。
 メモ用紙やボールペンくらいなら通るかもしれないが、それを外に投げて気づかれるくらいなら、現状でとっくに気づいてもらえていると思う。
 オレの懐中電灯が、外に落ちているはずだから。


「ギリギリ通れそうかも。
 僕が助けを呼んでくるよ」
 
「は?」


 オレは目をぱちくりさせた。
 通るって何を通すんだ。
 助けを呼ぶ方法があるのか、あの5センチ未満の隙間から。


「朝霧に言ってなかったことがあるんだ。
 ヴァンパイア体質の、ちょっと人間離れしたところ」

「吸血衝動以外にか?」

「それよりもっと酷くて、言い出しにくかった。
 その、……メタモルフォーゼ的な。
 僕はコウモリになれるんだ」

「…………。
 はあ!?」

「こんな緊急事態に冗談は言わないよ」


 映画などでは、ヴァンパイアがコウモリに変わって飛び立つシーンがよくある。
 それはフィクションだからであって。桐生は人間で、ただの体質で。
 変身って……そこまできたら、本物のヴァンパイアじみてないか!?

 
 ぱさり、ぱさり、と服を脱ぐ音がする。
 暗がりに慣れた目は、直接ライトで照らさなくても、なんとなく動きが見える。
 桐生はたぶん、全裸になっているようだった。
 桐生の深呼吸が聞こえる。


 ぽとり、と何かが床に落ちる音がした。
 変な音だ。思わず懐中電灯で照らしてしまった。


 桐生はいなくなっていた。
 桐生がさっきまでいた場所には、脱ぎ捨てられた服。
 その上に、小さな生き物がいた。


 リス?
 違う、皮膜の翼がある。コウモリだ。
 小さい。オレの手より小さい。
 コウモリはこんなに小さい生き物だったのか?


 ばたばたばた、とコウモリが飛んだ。
 扉の隙間近くにぼとっと落ちた。
 コウモリは、止まり木的なことができないのか……。


「うん、いけそう。
 ギリギリだけど通り抜けられると思う」

 
 コウモリが喋った。声は桐生だった。
 あの小さいものから桐生の声がする。

  
「朝霧、口裏合わせお願いね。

 『僕と朝霧は、倉庫で鍵を回収。
 その後僕は帰宅。
 朝霧は落とし物……懐中電灯とかかな。
 それを倉庫に残してることを思い出して一人で拾いに行った。
 そして地震が起こって長机が倒れて閉じ込められた』

 僕は、最初から閉じ込め被害に遭ってないってことにする。
 でないと、中にいない説明がつかないからね」

「あ、ああ、わかった」

 
 説明を理解しつつも、オレの目はコウモリに釘付けだった。
 うにょうにょと、コウモリが頭を隙間に突っ込もうとしている。ちょっと可愛い。


「痛っ!」

「桐生!?」

「大丈夫……。
 何かが刺さったみたい。
 もう頭は抜けてる。痛いから一気に通り抜けるね。
 すぐ助けを呼んでくるよ」


 そう言い残して、小さな生き物は外へ飛び立って行った。
 倉庫内に残るかすかな血の匂いが気になった。



 つづく
 
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