同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢

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番外編 体育祭 その2

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 生徒たちから歓声が巻き起こった。
 お前、走っちゃいかんだろう!? なんで笑顔でファンサしてんだ、馬鹿か!?


 たぶん、きっと、たぶん。
 走ってほしいと駄々をこねられたんだろう。生徒から。
 担任でもない、三年生から。
 今年で卒業する生徒は、桐生の雄姿を見られるのはこれが最後。
 断り切れなかったか。馬鹿野郎が……。


 パン! と安っぽい音がおもちゃのピストルから鳴って、先生たちが走り出した。
 40代から50代の先生は、無理なく助走気味。一位に飛び出したのはもちろん桐生。その次に、新任の女性教諭、敷本先生がくらいついている。


 桐生の走りは運動部並みに美しく、きれいなフォームは乱れなく50mを走り抜け、あっという間に生徒にバトンパスした。
 走り終えた桐生に拍手が浴びせられる。桐生はさわやかに笑って手を振り、まだ走っている先生たちを鼓舞して声をかけている。
 確かに、桐生のクラスは反則だ。
 ヴァンパイアの身体能力だと今ならわかるが、それにしてもずるすぎる。


 桐生が軽い駆け足で職員席に戻るのを見て、オレも駆け寄りたかったが、もうすぐオレの番だ。
 桐生はごめんね、とオレに顔で伝えながらも、反省している素振りはない。
 しかし、白鳥先生に傷を見られながら悲鳴を上げているところをみると、罰はしっかりくらったようだ。


 オレの番がくる。生徒の視線が痛い。見るな、この野郎。
 普段まともに運動してない教師が走れると思うなよ?
 この日のために、一週間前からランニングしたが、付け焼刃だからな!


 スタートの合図。がむしゃらに走って、酸欠になりながら生徒にバトンを渡す。
 オレよりかなり年上の、西村教頭先生に負けた。ちくしょう!
 それでもいいか。まあ、いい。
 いつもは教師と生徒、どこか遠いオレたちの姿を身近に感じられる年一回。
 お前たちがそこまで楽しんでくれるなら、一日くらい道化になってやる。


「お疲れさま、朝霧先生。
 去年よりすごく速かった!
 練習したの?」

「うるさい、桐生先生。
 手の怪我はどうだ」

「ええと……。
 ちょっと出血しちゃって……」


 白鳥先生は、笑ってない笑顔で「やっぱりアイシングしましょうか」と告げた。
 保険医の前で怪我を悪化させたのだから、怒られて当然だ。


「まだ全種目終わってませんから、アイシング用具はとっておいてください。
 オレがタオルを濡らしてこいつの怪我を冷やします。
 桐生先生が馬鹿ですいません」

「あらあら、朝霧先生が謝るの? まるで保護者みたいですね」


 白鳥先生にくすくす笑われて、オレと桐生は無言で赤面した。
 ついこの間、恋人同士になったばかりです、なんて、誰にも言えやしない。


 主に運動部が使う屋外の手洗い場に桐生を引きずっていき、濡れたタオルを怪我の周辺に当て、ぬるくなれば交換した。
 2~3回そうしている間、オレは無言で怒っていたので、桐生も無言で謝っていたように思う。
 ふと、お互いの沈黙がおかしくなって、オレたちは顔を見合わせて笑いあった。


 無事に体育祭が終わり、リレーの筋肉痛も完全に抜けたころ。
 オレは、全校生徒に配布される、写真購入用パンフレットを見ながら扉に激突しそうになった。
 生徒たちがさまざまな競技に、真剣に、または笑顔で取り組んでいる写真の中。
 オレと桐生が笑いあう瞬間の写真があった。


 どこ撮ってやがるプロカメラマン!!!!


 もちろんそれは、微笑ましいだけの瞬間で、生徒たちになにやら想像させるものではなかったのだけれど。
 顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 このパンフレットにある写真は生徒と保護者、教員しか購入できない。
 生徒と保護者、教員なら誰でも購入できる。


 オレは恥ずかしいツーショットの番号と、桐生がリレーで疾走する写真の番号を、提出用紙に書き込んだ。


 後日、オレとは違い、生徒の分も含めた大量の写真を購入して嬉しそうな桐生は、オレの隣の机で模造紙に写真を貼っていた。
 後ろの掲示板にでも飾るつもりか。ご苦労なことだ。
 生徒の写真とは分けられた数枚が伏せられている。脅威本位でめくると、オレと桐生のツーショット写真だった。


「朝霧先生!!
 伏せてる写真を見ないでよ!?」

「す、すまん」


 オレも買った、と、その場では言えそうにもなくて。
 もしかして伏せてあるほかの写真は、オレのリレーの写真だったらどうしようかと思って。
 きっと格好悪いから。でも、そうである確信もなくて。


 妙な気恥ずかしさで、桐生は黙々と模造紙作業を続け、オレはココアを一気飲みして舌を火傷したのだった。




番外編 おわり
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