同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢

文字の大きさ
37 / 85

28話 はじめての夜 その3 ●

しおりを挟む
「それはだめだっ」


 そんなところを舐めるなんて! 信じられん! やめろ!
 と叫ぼうとしたし、最初のほうは声になった気がする。
 桐生の舌がほぐされた後ろに滑り込み、奥に唾液を押し込んだ瞬間、オレの体から力が抜けた。
 手足がうまく動かない。声も、わずかしか出ない。
 なにより恐ろしいのは、その状態を、心地良いと思う自分。


「き、りゅ……、おま、……」

「こっちからは吸収が早いと思ったけど、予想以上だったかも。
 朝霧、苦しい?」


 オレはゆっくり首を横に振った。
 ああ、これは、かなり、まずい。
 後ろがじわじわ……じんじん、して、きて。
 内側からあつくなって。むずむずして。心臓がもうひとつそこにあるようで。


「さっき、…の、ゆび、
 もういっかい……
 おく、むずむず、する」


 自分が何かを渇望しているようなのだが、それがなんだかわからない。
 さっきの、中を押されるあれ、もう一回、ほしい。
 なぜそう思うのかわからない。……わからないけど、あれの感覚、あれを。


 何故か桐生が苦しそうに息を詰め、ふー、と深呼吸している。
 桐生を抱きしめたい。起き上がれない。手だけを伸ばしてみた。
 桐生はオレの手を掴み、騎士がするように手の甲にキスをした。


「僕、……我慢ができないなんて、自分で驚いてる。
 抑えがきかない。
 朝霧、……どうか愛させて」


 後ろに当たったのは、指じゃなかった。もっと大きい何かだった。
 ああ、これは桐生の。
 オレは微笑んで、頷いた。
 今なら大丈夫だと思った。
 ヴァンパイアの体液に酔っていても、心にある絶対の部分は消えていない。


 オレは桐生と恋人になりたくて。
 繋がりたいと思って、こうしているんだ。


 ぐぐ……と、質量のある物体がオレの中に入ろうとする。
 本来なら激痛だったかもしれない。ヴァンパイアの唾液は高性能だ。
 オレは息を吐き、自ら力を抜いた。桐生がオレの腹に深く埋もれていく。


「あさ、ぎり、……熱い、ぎゅうぎゅうして……すごい、
 僕がおかしくなりそう、こんなの、僕、……知らない。
 朝霧、朝霧」


 桐生が見せる恍惚の顔が、たまらなくよかった。
 満たされる、と感じた。
 ようやく、桐生とつながって。ひとつになれた。


「苦しくない? つらかったら、これ以上は挿入れない」


 まだ全部じゃないのか。
 オレは首を横に振った。
 全く痛くない。それどころか。


「きゅうけつ、……牙のあれ、に、にてる。
 きもちいい……」


 肉を裂いて押し入る牙の感触と、この感触は、部位が違えどそっくりだ。
 奥へ入れば入るほど快感で、あたまがとろけて、ずっとそのままでいたくなる。


「朝霧……」

「れい、いち」

「……?」

「あさぎり、は、みょうじ……」


 桐生は即座に理解し、繋がったままオレを抱きしめた。


「ずっと好きだった、ずっと君を見てた。
 愛してる。……令一」


 桐生がオレを名前で呼んだのは、これが初めてだった。
 おかしな関係だ。
 オレは初対面で間違えて、桐生を名前で呼び続けて。
 桐生はずっと俺を名字で呼んでいて。
 出会った瞬間からちぐはぐだった、オレたちの関係。


 今につながるために始まったのなら、そんなちぐはぐも愛おしい。


 桐生がさらにオレの奥を求め、ゆっくり前後に動き始めた。
 オレはなんとか桐生の背中に手を回し、しがみついた。
 オレを貫く桐生の荒い息がかかる。桐生の鼓動が聞こえる。
 桐生の心臓は早鐘のようで、赤い瞳は快感よりも幸福に色づいていて。


「きりゅう、オレも、あいし……て、あっ、…?
 ああ、ぅあ、はぁっあっアッ、!?!?
 ひゃあ、あぅ、ん!!」

「令一、乱暴で、ごめっ、きもち、い……、
 これ、駄目だ、僕、止まらないごめんっ」


 がつんがつんがつん、と突き上げられている、と思う。よくわからない。
 激しいのに、それがよくて。余裕がなくなった桐生の顔が、声が、姿が、嬉しくて。
 なかが、ぐちゃぐちゃになってる。ぐちゃぐちゃが、しびれて、からだのあちこちに、とんで。


 もう言葉にならなくて、互いが互いの名を、息継ぎの合間に呼んで。
 そのうち、急に速くなった桐生の動きで、何もかも……、白くーーーー……


「朝霧」


 声をかけられて、はっと目を開く。
 残念なのかそうでないのか。記憶はすべてあった。
 時計を見る。時間は深夜。


「オレは、寝てたのか?」

「気を失った、というのが正しいと思う。
 一時間くらい眠ってたよ。
 痛いところはない?」


 ふと我に返る。
 オレと桐生は同じベッドにいて。
 オレにだけ薄い掛布団があって、桐生は一糸纏わぬ姿で。
 腰が重くてだるいが痛みはなかった。ヴァンパイアの唾液の高性能さよ!!


「どこも痛くない」


 オレは桐生に背中を向けた。
 どんな顔をしたらいいかわからなかった。
 ちゃんと繋がれた、と思う。
 愛を確かめ合えたと思う。

 
 それはそれ。これはこれ。
 恥ずかしいっ……!!!!


 体が妙にさっぱりしている。絶対桐生、オレの体をタオルで拭いたっぽい。
 すみずみまで拭いたっぽい。
 あああああ!!
 うわあああああ!!


 ……ぽす。


 後ろから変な音がした。
 ちらっと振り返ると、桐生がいなくなっていた。
 驚いて体を起こすと、桐生がいた場所、ベッドの上には。


 10センチで、くりくりおめめで、鼻つやつやの生物が。
 照れながらもぞもぞしていた。


「この格好なら、こっち見てくれる?」


 オレは思わずコウモリを抱きしめ、コウモリは「ぷぎゅう!」と潰れそうに鳴いた。


 オレは笑った。
 桐生も笑った。
 なんだかとても可笑しかった。


「名字呼びに戻ってるぞ、桐生」

「練習が要る…みたいです。
 六年も呼んでたから、難しくて……。
 二人きりの時は頑張るからね。令一」

「ああ」


 人間もヴァンパイアもない。
 男も女もない。
 ここにいるのは、ただの恋人同士。


 幸せのはじまりで、覚悟の始まり。
 オレはこの瞬間、ヴァンパイアのパートナーになることを決めた。


『血液提供者というだけではなく、理解者として、ヴァンパイアを守る者』


 覚悟しろ、桐生。
 これからもずっと、お前を丸ごと受け止めてやるからな。
 




          つづく
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...