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34話 もうひとり、という疑惑
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「とりあえず、状況把握はできました。
ヴァンパイア体質が、この学校か周辺にもうひとりいるのではないでしょうか」
「うん、私もそう思う。
だって、『声』があんなに怖いなんて、わざとやってるとしか思えないもん」
一学期末から話題になっている不審者情報。
最近になって聞こえ始めた、不快な超音波。
誰かが僕か上条さんを狙っている? 同種なら守り合うものなのに。
こんな挑発をしてくる理由は?
「とゆーか、ヴァンパイア体質、けっこう多いね?
私、ママと私くらいしかいないと思ってたんだけど、実はあっちこっちにいたりして?
小宮山先生がそうだったなんて、全然気づかなかったもん。
直射日光平気そうだし」
「そこはその、個人差があるんでしょう」
僕は多少焦って、上条さんの言葉を否定した。
直射日光を浴びすぎると頭がくらくらすることは、今まで誰にも言っていない。
上条さんは体育を休むことが多いらしい。太陽に弱いタイプなんだろう。
「相手がヴァンパイア体質と決めつけるのも早いぞ」
朝霧が静かに言葉を挟む。
「超音波は録音ができるんだろう?
不快な超音波をあらかじめ録音し、定期的に流しているのかもしれん。
反応する奴を見つけ、ヴァンパイア体質を捕獲するために」
それは、人間側ならすぐに思いつくことで、僕たちが見落としがちなことだった。
ヴァンパイアの体液の効果は、現代の医療を覆すほどにすさまじい。
それ以外の効果も、快楽主義者にとってはいくら金を積んでも惜しくないもの。
「私、捕まっちゃうの……?」
「それを防ぐのが、オレや桐生先生の役目だ。
上条、お前はしばらく、保護者か婚約者に送迎してもらえ。
学校内でも一人で行動するな。
原因がわかったら、すぐ教えてやる」
「うん……」
上条さんは俯いてしまった。
この子もヴァンパイア体質だ。ずっと自分を隠して生き続けてきた。
上条さんの母親は正体が露見しそうになって、やむなく国外へ逃げた。
彼女は今までどんな気持ちで、ヴァンパイア体質と向き合って来たんだろう。
「上条さん」
僕は、ぼんと軽く上条さんの肩を叩いた。
本当は、この程度のボディタッチでも教師から生徒へは禁止なんだけど、今は許してもらおう。
「なるたけ早く、僕が音の発信源を探します。
僕は教師です。捜し物をしているとでもなんとでも言い訳して、校舎内も周囲も探し回れます。
何もわからないままって、怖いですものね。
危険を感じたら、すぐに助けを呼んでください。
僕にだけ聞こえる『音』でもかまいません」
今、彼女に寄り添えるのは僕だけだ。
『音』を聞き取り、守れるのは僕だけ。
僕はいつもの穏やかな笑顔を浮かべ、ゆっくり頷いた。
大丈夫だよ、というジェスチャーは、上条さんに伝わって、少しだけ笑顔を返してくれた。
今日は上条さんの保護者が迎えに来るのは難しいらしく、朝霧が事務室で、上条さんのためにタクシーを呼んだ。
僕は事務員に、「生徒さんが変質者っぽい人を目撃したそうです。校内の警備を厳重にしてください」と噓を言った。
完全に嘘ではない。目撃はしていないが、耳で聞いている。
警備が強くなれば、相手が誰であっても動きにくくなるはずだ。
「朝霧。僕、次に聞こえたら、音源を追いかけてみようと思う。
いつ聞こえるかわからないのが難点だけどね。
なんの規則性もなく鳴っていた音だし。
音源が遠隔だったらスマホで連絡、ごふっ!?」
朝霧が、ノーリアクションから僕のみぞおちを殴った。
さすがに痛いよ、急所だよ。
「お前一人で探偵ごっこする気か」
「そりゃあ、音が聞こえるのは僕だけだから」
「じゃあオレは、何も手伝えないのか?」
朝霧は怒っていた。
朝霧は周囲をしっかり確認してから、僕を抱きしめた。
「ヴァンパイアを捕獲しようとする輩なら。
お前だって危険だ。お前だって……。
怖いだろうが」
「……。
……令一」
令一は怒っていた。心配で、心配で、怒っていた。
不謹慎だけれど、僕はそれが嬉しかった。
僕が無茶をしたら、怒ってくれる人がいる。止めようとしてくれる人がいる。
こんなに、あたたかい気持ちになれるんだね。
「ごめんね、令一。
僕、自分だけでどうにかしようっていう癖がついてるみたい」
「今まで自覚なかったのか」
「うん」
ぎゅっと令一を抱き締め返す。
そうだね。僕も怖いんだと思う。
僕は自分への感覚が鈍くて、自分のことがわからないのはいつものことで。
捕まるのが怖い、というよりも。
君を巻き込んでしまうんじゃないかって、それが心底怖いんだと思う。
僕のたったひとりの人。一番大切にしたい人。
ごめんね。
僕が君を心配させるなんて、本末転倒だよね。
「……!!」
甘い時間は長く続かなかった。
僕は朝霧の腕を掴み、強引に引き剥がした。
目眩がする。耳が痛い。精神に突き刺さる音が聞こえる。
「どうした、桐生」
「聞こえる。今、鳴ってる」
脂汗が僕の額を伝い落ちた。
長く聞いていると危険なくらい、暴力的で攻撃的な『音』。
「朝霧、上条さんのところへ行って。
僕達にとってこれは『音』なんだ。耳栓である程度防げるから、保健室でもらってきて。
タクシーが来たら、上条さんはすぐに帰らせてね。
こんな音、聞こえてない人にも悪影響が出そうだよ」
言い終わる前に僕は駆け出した。
音源は校舎内だった。
不審者が校内にいる? それとも生徒がヴァンパイア?
どちらにしても、すぐに見つけて確保しなければ。
「桐生!」
「朝霧は上条さんを守る。
僕は音源を見つけてどうにかする。
分担作業だよ」
「音源を見つけたら、オレを呼べ桐生!!
一人で対応するな、絶対だ!!
音源が何であっても、必ずオレを呼べ!!」
保健室へと駆け出す朝霧を見送って、僕も再び走り出した。
息が詰まる。耳が痛い。
こんなに激しい音を発するなんて、何故だ!?
僕が僕自身を守るためにも。
ここで音源を逃がすわけには行かない……!
つづく
ヴァンパイア体質が、この学校か周辺にもうひとりいるのではないでしょうか」
「うん、私もそう思う。
だって、『声』があんなに怖いなんて、わざとやってるとしか思えないもん」
一学期末から話題になっている不審者情報。
最近になって聞こえ始めた、不快な超音波。
誰かが僕か上条さんを狙っている? 同種なら守り合うものなのに。
こんな挑発をしてくる理由は?
「とゆーか、ヴァンパイア体質、けっこう多いね?
私、ママと私くらいしかいないと思ってたんだけど、実はあっちこっちにいたりして?
小宮山先生がそうだったなんて、全然気づかなかったもん。
直射日光平気そうだし」
「そこはその、個人差があるんでしょう」
僕は多少焦って、上条さんの言葉を否定した。
直射日光を浴びすぎると頭がくらくらすることは、今まで誰にも言っていない。
上条さんは体育を休むことが多いらしい。太陽に弱いタイプなんだろう。
「相手がヴァンパイア体質と決めつけるのも早いぞ」
朝霧が静かに言葉を挟む。
「超音波は録音ができるんだろう?
不快な超音波をあらかじめ録音し、定期的に流しているのかもしれん。
反応する奴を見つけ、ヴァンパイア体質を捕獲するために」
それは、人間側ならすぐに思いつくことで、僕たちが見落としがちなことだった。
ヴァンパイアの体液の効果は、現代の医療を覆すほどにすさまじい。
それ以外の効果も、快楽主義者にとってはいくら金を積んでも惜しくないもの。
「私、捕まっちゃうの……?」
「それを防ぐのが、オレや桐生先生の役目だ。
上条、お前はしばらく、保護者か婚約者に送迎してもらえ。
学校内でも一人で行動するな。
原因がわかったら、すぐ教えてやる」
「うん……」
上条さんは俯いてしまった。
この子もヴァンパイア体質だ。ずっと自分を隠して生き続けてきた。
上条さんの母親は正体が露見しそうになって、やむなく国外へ逃げた。
彼女は今までどんな気持ちで、ヴァンパイア体質と向き合って来たんだろう。
「上条さん」
僕は、ぼんと軽く上条さんの肩を叩いた。
本当は、この程度のボディタッチでも教師から生徒へは禁止なんだけど、今は許してもらおう。
「なるたけ早く、僕が音の発信源を探します。
僕は教師です。捜し物をしているとでもなんとでも言い訳して、校舎内も周囲も探し回れます。
何もわからないままって、怖いですものね。
危険を感じたら、すぐに助けを呼んでください。
僕にだけ聞こえる『音』でもかまいません」
今、彼女に寄り添えるのは僕だけだ。
『音』を聞き取り、守れるのは僕だけ。
僕はいつもの穏やかな笑顔を浮かべ、ゆっくり頷いた。
大丈夫だよ、というジェスチャーは、上条さんに伝わって、少しだけ笑顔を返してくれた。
今日は上条さんの保護者が迎えに来るのは難しいらしく、朝霧が事務室で、上条さんのためにタクシーを呼んだ。
僕は事務員に、「生徒さんが変質者っぽい人を目撃したそうです。校内の警備を厳重にしてください」と噓を言った。
完全に嘘ではない。目撃はしていないが、耳で聞いている。
警備が強くなれば、相手が誰であっても動きにくくなるはずだ。
「朝霧。僕、次に聞こえたら、音源を追いかけてみようと思う。
いつ聞こえるかわからないのが難点だけどね。
なんの規則性もなく鳴っていた音だし。
音源が遠隔だったらスマホで連絡、ごふっ!?」
朝霧が、ノーリアクションから僕のみぞおちを殴った。
さすがに痛いよ、急所だよ。
「お前一人で探偵ごっこする気か」
「そりゃあ、音が聞こえるのは僕だけだから」
「じゃあオレは、何も手伝えないのか?」
朝霧は怒っていた。
朝霧は周囲をしっかり確認してから、僕を抱きしめた。
「ヴァンパイアを捕獲しようとする輩なら。
お前だって危険だ。お前だって……。
怖いだろうが」
「……。
……令一」
令一は怒っていた。心配で、心配で、怒っていた。
不謹慎だけれど、僕はそれが嬉しかった。
僕が無茶をしたら、怒ってくれる人がいる。止めようとしてくれる人がいる。
こんなに、あたたかい気持ちになれるんだね。
「ごめんね、令一。
僕、自分だけでどうにかしようっていう癖がついてるみたい」
「今まで自覚なかったのか」
「うん」
ぎゅっと令一を抱き締め返す。
そうだね。僕も怖いんだと思う。
僕は自分への感覚が鈍くて、自分のことがわからないのはいつものことで。
捕まるのが怖い、というよりも。
君を巻き込んでしまうんじゃないかって、それが心底怖いんだと思う。
僕のたったひとりの人。一番大切にしたい人。
ごめんね。
僕が君を心配させるなんて、本末転倒だよね。
「……!!」
甘い時間は長く続かなかった。
僕は朝霧の腕を掴み、強引に引き剥がした。
目眩がする。耳が痛い。精神に突き刺さる音が聞こえる。
「どうした、桐生」
「聞こえる。今、鳴ってる」
脂汗が僕の額を伝い落ちた。
長く聞いていると危険なくらい、暴力的で攻撃的な『音』。
「朝霧、上条さんのところへ行って。
僕達にとってこれは『音』なんだ。耳栓である程度防げるから、保健室でもらってきて。
タクシーが来たら、上条さんはすぐに帰らせてね。
こんな音、聞こえてない人にも悪影響が出そうだよ」
言い終わる前に僕は駆け出した。
音源は校舎内だった。
不審者が校内にいる? それとも生徒がヴァンパイア?
どちらにしても、すぐに見つけて確保しなければ。
「桐生!」
「朝霧は上条さんを守る。
僕は音源を見つけてどうにかする。
分担作業だよ」
「音源を見つけたら、オレを呼べ桐生!!
一人で対応するな、絶対だ!!
音源が何であっても、必ずオレを呼べ!!」
保健室へと駆け出す朝霧を見送って、僕も再び走り出した。
息が詰まる。耳が痛い。
こんなに激しい音を発するなんて、何故だ!?
僕が僕自身を守るためにも。
ここで音源を逃がすわけには行かない……!
つづく
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