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43話 専門家の知恵
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杵島さんは抱えていた分厚いファイルを数冊、ベッド脇のミニテーブルに置いた。
「彼は自分を純血、僕を出来損ないと言いました。
彼の言葉の真意を知りたいんです。
杵島さんはかなりお調べになっていると、上条さんのお父さんからお聞きしました」
「俺の専門分野に近いので、興味がわいただけです。
上条の蔵の書物は抽象的なものが多いし、俺、少しでも沙耶菜を支える助けになりたくて」
杵島さんの左手薬指には、上条さんとお揃いの婚約指輪がある。
婚約者のために、ヴァンパイア体質を数年にわたり調べている人。
上条さんが結婚したいと熱望するのも解る。真面目そうで優しげな男性だ。
「おい、杵島とやら。お前、何年この調査を?」
令一が不機嫌そうに質問する。
「もう5年くらいになりますね」
「ふーむ。
お前、上条と付き合ったのはいつだ」
「あ、えっとそれは、ごねんまえ……」
「女子中学生に手を出しやがったな、変態ロリコン野郎!!
現時点でも女子高生に手を出している、上条が暴露した!!
高校卒業まで待たんか馬鹿者が!!」
「す、すみません!! その通りです、すみません!!
沙耶菜が中学生の時は誓って手を出していません!!」
「高校何年生で?」
「二年の夏ごr、あっ」
「この破廉恥変態野郎!!!!」
「申し訳ありません!!!!
責任とります!!!!」
可哀想に。別件で呼び出されたのに、上条さんの担任に怒られるなんて。
令一はこういうところは厳しいし、生徒を守る教師として、すごくちゃんとしている。
でも僕は、上条さんが仕掛けたんだろうなと予想がつくから、杵島さんをあまり責められない。
最初の一回、初めての吸血は免疫ができておらず、された側の理性が吹き飛ぶ。
わかってやったのか、知らずにやったのか。
どっちにしろ、衝動に抗えなかったんだろう。
「朝霧。今はとりあえず、その話は置いておこう。
杵島さんが萎縮しちゃって話が聞けないよ」
「ふん」
杵島さんは、現在は郷土史を主としているが、もともとは民俗学や古来の風習、因習などが専門だ。
上条さんと出会ったのは、杵島さんが二十歳の時。海外にいた上条さん一家が、杵島さんの留学をサポートしたのがきっかけ。
上条さんとは七歳差。つまり当時の上条さんは十三歳。…………。
杵島さんごめんなさい、僕もちょっとあなたの性癖を疑います。
「杵島さんが調べた、ヴァンパイア体質の知識を教えてもらえませんか」
杵島さんは顔を引きしめ、頷いた。
すう、とひと呼吸。
やや早口のマシンガントークが始まった。
「まずですね、日本にはヴァンパイアとか吸血鬼とか言う概念はそもそもなく吸血妖怪は海外の妖怪ではチュパカブラやストリゴイ以外にも多く伝わってますが日本には血を吸うメインの怪異は野衾か飛倉くらいしか資料が残っておらずこれはモモンガかムササビかコウモリに近いものですが変化したヴァンパイア体質は吸血行為ができないので別物としますほかに該当すると言えば鬼くらいですが大江山の鬼などと比較すると確実に別物ですだいたいコウモリは吸血しませんヘマトファジーつまり血を主食とするコウモリは世界に千種類以上いるコウモリの中でたったの三種のチスイコウモリ亜科のみしかも傷をつけて舐めるだけで吸いません吸血で害をなすモノならばノミダニ蚊のほうがよっぽど吸血生物といえるでしょう日本に吸血鬼概念がないのですからヴァンパイア体質という言葉は外来語であり体質自体は古来から存在していたとするとヴァンパイア体質の呼称は明治頃から戦後に海外の小説や映画のイメージから生まれた言葉と推測するのが妥当で」
「「ストーップ!!」」
杵島さんは、眼鏡の向こうできょとんとした。
僕と令一が同時に止めてなければ、何時間でも語っていた気がする。
「今の説明、速すぎて。わかったようなわからないような、脳の処理能力を超えちゃったような」
「オレ達はお前の演説を聞きたいんじゃない。要点を絞れ要点を」
「すみません!」
ぺこぺこする杵島さんは、やっぱり研究者気質なんだな、と微笑ましくなった。
このマシンガントークの感じ、懐かしい。令一がよく生物学を語ってくれたっけ。内容はぜんぜんわからなかったけど。
「ヴァンパイア体質の人間が、自分を『純血』と言った。
杵島さんはこれをどう思われますか?」
「俺は、ヴァンパイア体質はアルビノなどと同様、遺伝疾患のひとつだと考えています。
先天性の難病ですね。
遺伝疾患に純血も何もないでしょう。血統なんて存在しないんですから」
「遺伝疾患か。なるほど、しっくりくる」
内容が専門分野になって、令一が興味深そうに考え込んだ。
つづく
「彼は自分を純血、僕を出来損ないと言いました。
彼の言葉の真意を知りたいんです。
杵島さんはかなりお調べになっていると、上条さんのお父さんからお聞きしました」
「俺の専門分野に近いので、興味がわいただけです。
上条の蔵の書物は抽象的なものが多いし、俺、少しでも沙耶菜を支える助けになりたくて」
杵島さんの左手薬指には、上条さんとお揃いの婚約指輪がある。
婚約者のために、ヴァンパイア体質を数年にわたり調べている人。
上条さんが結婚したいと熱望するのも解る。真面目そうで優しげな男性だ。
「おい、杵島とやら。お前、何年この調査を?」
令一が不機嫌そうに質問する。
「もう5年くらいになりますね」
「ふーむ。
お前、上条と付き合ったのはいつだ」
「あ、えっとそれは、ごねんまえ……」
「女子中学生に手を出しやがったな、変態ロリコン野郎!!
現時点でも女子高生に手を出している、上条が暴露した!!
高校卒業まで待たんか馬鹿者が!!」
「す、すみません!! その通りです、すみません!!
沙耶菜が中学生の時は誓って手を出していません!!」
「高校何年生で?」
「二年の夏ごr、あっ」
「この破廉恥変態野郎!!!!」
「申し訳ありません!!!!
責任とります!!!!」
可哀想に。別件で呼び出されたのに、上条さんの担任に怒られるなんて。
令一はこういうところは厳しいし、生徒を守る教師として、すごくちゃんとしている。
でも僕は、上条さんが仕掛けたんだろうなと予想がつくから、杵島さんをあまり責められない。
最初の一回、初めての吸血は免疫ができておらず、された側の理性が吹き飛ぶ。
わかってやったのか、知らずにやったのか。
どっちにしろ、衝動に抗えなかったんだろう。
「朝霧。今はとりあえず、その話は置いておこう。
杵島さんが萎縮しちゃって話が聞けないよ」
「ふん」
杵島さんは、現在は郷土史を主としているが、もともとは民俗学や古来の風習、因習などが専門だ。
上条さんと出会ったのは、杵島さんが二十歳の時。海外にいた上条さん一家が、杵島さんの留学をサポートしたのがきっかけ。
上条さんとは七歳差。つまり当時の上条さんは十三歳。…………。
杵島さんごめんなさい、僕もちょっとあなたの性癖を疑います。
「杵島さんが調べた、ヴァンパイア体質の知識を教えてもらえませんか」
杵島さんは顔を引きしめ、頷いた。
すう、とひと呼吸。
やや早口のマシンガントークが始まった。
「まずですね、日本にはヴァンパイアとか吸血鬼とか言う概念はそもそもなく吸血妖怪は海外の妖怪ではチュパカブラやストリゴイ以外にも多く伝わってますが日本には血を吸うメインの怪異は野衾か飛倉くらいしか資料が残っておらずこれはモモンガかムササビかコウモリに近いものですが変化したヴァンパイア体質は吸血行為ができないので別物としますほかに該当すると言えば鬼くらいですが大江山の鬼などと比較すると確実に別物ですだいたいコウモリは吸血しませんヘマトファジーつまり血を主食とするコウモリは世界に千種類以上いるコウモリの中でたったの三種のチスイコウモリ亜科のみしかも傷をつけて舐めるだけで吸いません吸血で害をなすモノならばノミダニ蚊のほうがよっぽど吸血生物といえるでしょう日本に吸血鬼概念がないのですからヴァンパイア体質という言葉は外来語であり体質自体は古来から存在していたとするとヴァンパイア体質の呼称は明治頃から戦後に海外の小説や映画のイメージから生まれた言葉と推測するのが妥当で」
「「ストーップ!!」」
杵島さんは、眼鏡の向こうできょとんとした。
僕と令一が同時に止めてなければ、何時間でも語っていた気がする。
「今の説明、速すぎて。わかったようなわからないような、脳の処理能力を超えちゃったような」
「オレ達はお前の演説を聞きたいんじゃない。要点を絞れ要点を」
「すみません!」
ぺこぺこする杵島さんは、やっぱり研究者気質なんだな、と微笑ましくなった。
このマシンガントークの感じ、懐かしい。令一がよく生物学を語ってくれたっけ。内容はぜんぜんわからなかったけど。
「ヴァンパイア体質の人間が、自分を『純血』と言った。
杵島さんはこれをどう思われますか?」
「俺は、ヴァンパイア体質はアルビノなどと同様、遺伝疾患のひとつだと考えています。
先天性の難病ですね。
遺伝疾患に純血も何もないでしょう。血統なんて存在しないんですから」
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内容が専門分野になって、令一が興味深そうに考え込んだ。
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