趣味だけどなにか?

ぽんぽこ

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序章

2話

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長いこと眠っていると、頭が上手く働いてくれないことはよくある。風邪を引いた時なんか特にあるあるだ。そして今の私も至って健康体ではあるが、長い時間意識を失っていたからか頭がボーッとしていて目の前の光景についての情報を処理するのに普段の倍以上は時間が掛かっている。

ざっくり言うと、気弱そうだけどハンサムな男性が顔面蒼白で土下座している。相手は私だ。その後ろではこちらに背を向けているが鬼の形相なんだろうなってのが直感で分かるぐらい激怒している女性(恐らく美女)と、その女性の前でギャン泣きしながら怒られている男の子。因みに全員金髪の外国人。アウェーだ。

ようやく頭が正常に動き始めたところで私は自分の状況がおかしいことに気付く。大学生時代に留学して行ったギリシャの様式に似た柱が並ぶ煌びやかな広間と思わしき場所。床は大理石で、外は金色の雲が漂っている。そして感覚だからはっきり言えないが、パワースポットの比ではないレベルの神聖な空気。
私が異変に気付くのと同時に、男性は頭を大理石に擦りながら謝罪してきた。


『本当に、本当に申し訳ありませんでした!私どもの愚息のせいで、貴女をに連れてきてしまい…!!』
「こちら?」
『はい…。俗に言う、"神の世界"というものです。私は数多くいる神々の中でも末端で、主に貴女が暮らしていた地球の監視・報告を生業とする者です』
「はぁ…」


馴染み深いものに例えるなら警備員か?ビルなんかで監視カメラを見てる人みたいな…アレか。


『そして、後ろに居るのは私の妻と息子でして…。その、息子が私の職に興味を持ち、それで一緒に地球の様子を見ていたのですが…私と妻が目を離した隙に神力を使って貴女に接触してしまい、そのままこちらに引っ張ってきてしまったのです…』
「あぁ、それで…」


遠い目で未だに終わりが見えない説教組の方を見ていると父親の神は申し訳ない気持ちでいっぱいのようで、こちらが可哀そうに思える程恐縮している。だが私は聖人君子なんかではないので、そこそこ腹が立ってもいる。ただ私の怒りを凌駕する怒りを母親である女神が語っているのでどうでもよくなってきた。


「それで、私は元の場所に帰れるんですか?」
『ッ……それが、その…』
「……あ?」
『ヒィ!言います!言います!!実は貴女の身体は既に消滅してしまったのです!!だから地球に戻っても魂だけの存在となり、やがて自然消滅してしまうのです!!誠に申し訳ありませんでした!!!』


正常に働いていた頭が痛みを訴え始めてきた。だがこればかりは私のちっぽけな脳みそでは何も解決策なんて思い浮かばない。神という存在に干渉された時点で普通ではなくなるのは覚悟していたつもりなのに、これはない。何でパワースポットでアンラッキーに見舞われなきゃいけないのか。
父親の必死な声がようやく耳に入ったのか母親の女性もこちらに来て旦那の隣りで土下座した。


『本当に、本当に申し訳ございませんでした…ッ』
「いや、起きちゃったことに関して謝られるだけでも困るんですけど。私どうなるんですか?死ぬんですか?」
『そんな!まだ寿命でもない貴女を死なせる訳には参りません!』
「参りませんって…もう私の身体は無いのに、一体どうしろって言うんですか」
『それなんですが、私どもだけでは判断出来ない為…上層部に相談しました所、貴女には地球があった世界と似て非なる世界に転移して頂くのは如何かとの案が出まして』


最悪の事態から余計に頭が痛くなる展開に…何だそのネット小説あるあるの都合の良すぎる話は。そんな話に簡単に乗って後から色々言われたり、厄介事に巻き込まれるのは面倒なのでお断りしたい。
けどお断りすると私の人生は納得のいかないまま終了させられてしまう。それだけは避けたい。だがこれは究極の選択すぎるしな…。

…もう少し詳しく聞いてみるか。


「私が居た世界と似て非なるってどういうことですか?」
『は、はい。"世界"というものは貴女の知る世界以外に数えきれない程存在します。正確な数字まではお教え出来ませんが、軽く億は超えます』


サラッとえげつない数字出されたけど…この際無視しよう。


『そして、それだけの数の世界があるとどうしても似た世界が出来てしまいます。しかし"完全に一緒"の世界というものはありません。全く同じ世界が出来てしまうと、元々あった世界に引き寄せられて衝突し、最悪は消滅してしまうからです。ですから私達末端の神はそういった事態にならないよう、世界1つ1つを監視して他の世界と似過ぎないようにしておりまして、それがまた大変で…。あ、すみません話を戻しますだから睨まないでください……ッ。ゴホン!そういった理由で、多少は似ていても生態系や環境が微妙に異なる世界が幾つかありますので、貴女にはその内の1つの世界で新しい生活をして頂ければと…』
「……私のメリットは?新しい生活を提供されても生きれなけりゃ意味がない。そこんとこ分かってるんですか?」


ただ新しい世界に送り込まれたって右も左も分からない。そんな場所で自力で生きろなんて言われた暁には、ご両親には申し訳ないが子どもにビンタの1発でもお見舞いしたい。それぐらいしても罰は当たらない、筈。まぁ当てる連中が目の前に居るんだけど。
私の質問をポジティブに受け取った神様夫婦は希望でも見えたのか顔色が若干良くなったまま捲し立てる。


『も、勿論です!こちらが出来る最大限の援助をさせて頂くつもりです!上層部からの了承も得ております!』
『私達が責任をもって衣食住を保証致します!愚息には今後一切接触させないようしっかり躾けます!』
『『ですから、どうか!!』』
「………………」


再び土下座した神様夫婦の後ろで今回の元凶である子どもが親の真似なのか猫みたいに丸まって頭を下げている。あれだ、"ごめん寝"ってヤツだ。
しかも泣きながらやってんのか嗚咽が小さく聞こえてくるから居た堪れなくて仕方がない。


「……ハァ…ちゃんとやってくださいよ、援助と躾け」
『!!は、はい!』
『寛大な選択、ありがとうございます!』


泣きそうになりつつも安堵の表情を見せる夫婦の間を抜け、未だにごめん寝を続ける子どもの頭に極力優しく手を置く。子どもは目の周りを赤く腫らした顔で私を見上げる。そんな顔を見せられれば、もう怒る気なんて無くなる。


「今回だけだ、次はない。分かったな?」
『ッ…ごべんな゛ざい゛ぃ~』
「はいはい、もういいから。あー擦るな擦るな。もっと痛くなるぞ」
『ひっぐ…、うん゛……』


子どもを泣き止ませている間、後ろでこの子の親である夫婦が呑気にポカンとしているが…アンタら親として大丈夫か?
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