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第5章 想世のケツァルコアトル

第124話:アウト・オブ・アビス!

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 ナアクは──完全に虚無きょむへといざなわれた。

 わずかに空中に漂う雲塊クラウドも、大口を開いた顎がダイソンを上回る吸引力で吸い上げている。少なくとも、この場にいるナアク・・・・・・・・・は始末できたはずだ。

 だが、まだ殺し切れていない。

 あの雲塊がどこかに一握りでもある限り、奴は不死身と言っていいだろう。

 完全に抹殺する手段についてはツバサと一計を案じている。

 その時が来るまで──辛抱するしかない。

「せめて……あの時・・・、こうしていれば……ッ!」

 アハウの胸に悔恨かいこんぎる。

 ナアクが仲間やヴァナラたちを実験台にした──あの日。

 怒りに任せてナアクを殺そうとしたアハウだが、あの雲塊に仲間たちを捕らえられてしまい、迂闊にこの虚無へと誘う顎を使えなかった。

 それをいいことにナアクは挑発してきた。

 彼なりの論理を並べ立て、アハウの怒りを煽ってきたのだ。

 今にして思えば──それも計算の内か。

 アハウを極限まで怒らせることで、魂の自由と解放を促そうとした試みだと見るべきだろう。そのおかげと言うべきではないが、ナアクに対する怒りは確かにアハウの成長を促した。

 ここまで肉体を可変できるようになったのはナアクのせい・・だ。

 決しておかげ・・・とは言いたくない。望まぬ成果だが、強さを得られたのは事実。この結果だけはせいであれおかげであれ、認めねばなるまい。

 だからこそ──業腹ごうはらである。

「なにが……魂の自由と解放だッ!!」
 アハウは血がしたたるほど強く握った掌を顔の前に掲げる。

 アハウはそんなあやふやなものを求めていなかった。

 そんなものより仲間と──家族と共に過ごす時間の方が大切だったのだ。

 先ほどナアクに襲いかかった時、視界の隅にツバサたちを認めた。

 そこにマヤムと、カズトラやミコの無事な姿を垣間見た。

 生きててくれた、それだけで涙が出るほど嬉しかった。

 同時に、一緒に攫われたはずのガンズやマレイがそこにないのは、そういうこと・・・・・・だと理解できてしまう。また仲間を失ってしまったのだ。

 2人だけでも無事だった、と素直に喜べない。

 失った家族を、自らの手で殺めた家族をしのぶ。
 偲ぶぐらいでは昂ぶる想いを抑えきれず、アハウは喉を唸らせる。

 ──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!

 あふれる想いは慟哭どうこくとなって大穴に響き渡る。

 その慟哭が引き起こしたかのように、奈落の底が激震した。

   ~~~~~~~~~~~~

 数分前──奈落の底、シャゴスの王を封印する結界。

 その上で対峙たいじするツバサたちとナアク。

 ナアクの語る『魂の自由と解放のために』を一通り聞き終えたツバサは、眉唾まゆつばだと鵜呑みにすることは避けるも、一定の理解を示すことはできた。

「肉体という牢獄からの開放……それは認めよう」
「おお、ご理解いただけましたか。これは嬉しいですね」

「俺たちのこの肉体が、自らの魂から成り立つアストラル体……というのも事実だからな。灰色の御方を知っていれば尚更だ」

「当然ですよね。その点も伝授されていて然るべきですから」

 理解者を得られた、とナアクは飛び上がるように喜んだ。

 よほど賛同を得られない理論だったのか、現実という世界に生きていれば当たり前だ。人間の魂が肉体から解放されることはない。

 現実で肉体から魂を解放すれば──それは死だ。

 他にもいくつか思い当たるが、どれもSFやらオカルトやらファンタジーに偏るので長くなるから触れたくない。

「おまえの目指すところは概ね理解できた。そもそも俺たち内在異性具現化者アニマ・アニムスや、過大能力オーバードゥーイングに様々な技能からして、人間という肉体の枠を超えたところにある。解放された魂が得た新しい力だからな……」

 オカン系男子のツバサが──オカン系女神である地母神と化した。

 それが自らの魂の本質を発現させた内在異性具現化者としての、ツバサのあるべき姿だとしたら承伏しかねるが、強く否定もできなかった。

 最近、ツバサはあることを思い出した。

 遠い昔の記憶だが、ツバサはこうなる・・・・ことを願った気がするのだ。



『おれ、大きくなったらお母さん・・・・になる!』



 亡き母にそんなことを誓い、笑顔でたしなめられた記憶。

『こら、ツバサがなるのはお父さんでしょ。男の子はお母さんになれないの』
『なんでー? おれはお母さん・・・・みたいになりたい!』

 あの時、ツバサは真剣だった。

 どうして母になりたいと思ったのか覚えてないが、本気だったはずだ。

 その願望が魂の奥底にあるのならば──こうなった・・・・・のも頷ける。

 では、女であることを拒む男心はどこから来た?

 この幼少時の記憶が確かならば、ツバサは神々の乳母ハトホルのようになることをずっと望んできた。つまり、女性化願望を抱いてきたはずだ。しかし、幼少時のあやふやなこの記憶以外で「女性になりたい」と願った覚えはない。

 自分のことなのに──わからない。

 いや、自分のことだからこそわからないのかも知れない。

 心の整理はつかないが、この場は後回しにしよう。深呼吸をして気持ちを落ち着けたツバサは、ナアクに問い掛ける。

「おまえの目的はわかった──で、何故おまえは急いでいる?」

 ピクリ、とナアクの眉が揺れ動いた。

 そこからツバサはナアクのわずかな動揺を見て取った。

「魂の自由と解放……それを真摯に突き詰めていくならば、もっとじっくり時間をかけるべきだ。いや、時間を掛けずとも内在異性具現化者という例もあるわけだし、過大能力で自らの有り様を変えられる者もいれば、技能を使ってアストラル体という魂の枠を広げようとしている者もいる……」

 さほど時間はかからない──皆、自らの魂を解き放ちつつある。

 ドンカイやダインのような例もあった。

 VRMMORPGアルマゲドン時代に種族変更や肉体改造などの技能スキルによって、人間としての肉体ポテンシャルから逸脱した肉体を得た者も数多い。

 これもまた、肉体という枠組みからの解放の一端と言える。

 特にダインなど、自らの魂の赴くままに拡張を続けていると言ってもいい。

 巨神王ダイダラスや大巨神王グレートダイダラスは、ダインのアストラル体が自身の枠を越えて大きくなろうとしている顕れだ。

 ダインの例は極端だが、誰もが自分という殻を壊しつつある。

 人間プレイヤーから、本物の神や魔になる発展途上にあるはずだ。

「もしも、だ。別次元の脅威に対抗する策として、プレイヤーの魂をレベルアップさせるという意味合いでの自由と解放を目指しているなら、おまえのやり方は間違っているぞ。おまえのやり方は性急がすぎる」

 成長途上にある魂を──むざむざ潰しているも同然だ。

「野菜じゃないんだから促成栽培そくせいさいばいはイカンよねー」
「促成栽培のお野菜ってイマイチなんですよね」

 黙っていることに飽きたのか、ミロとマリナが茶々を入れてくる。
 まあ、このくらいなら大目に見よう。

 そうしてツバサは──質問を畳み掛けた。

「魂の自由と解放を求めている……その言葉に偽りはないだろうが、おまえが本当に目指すものは、俺たちが考えてるところとは違うところにあるな? もしかすると、灰色の御方に命じられたこととも逸脱いつだつしてるんじゃ……?」

 違う違う違う、とミロがいきなり手を振って割り込んできた。

「ツバサさん、こいつ多分そんな難しいこと考えてないよ」
「え、難しいことを考えてないって……?」

 ミロの勘がナアクの本質を見抜いたらしい。

 アルカイックスマイルの向こう側にある──どす黒い情念を。

ナアクこいつはさ、魂の自由と解放のためにとか言ってるけど、みんなの魂をレベルアップさせるつもりも強くさせるつもりもない。モチロン、本当の神様みたいに意識高い系になるようセンス良くするつもりもない……」

 ナアクこいつはね──しっちゃかめっちゃか・・・・・・・・・・にしたいんだよ。

「みんなの魂がどんな形にでも変わる風船に入った水みたいなものだとして、その風船を割って水だけをぶちまける……そうして、みんなの魂という水をグッチャグチャに混ぜ合わせる……それがやりたいんでしょ?」

 違うか変態野郎? とミロはしかめっ面で首を傾げた。

「つまり……人間の魂から混沌カオスでも生み出そうっていうのか!?」
 よく気付いたな、とツバサはミロに囁いた。

「だってさー、あいつのやったこと聞けばわかるじゃん」

 アハウの仲間は二目と見られないほど名状しがたいものにされたという。

 猿人のヴァナラたちも蠢く泥濘でいねいに変えられたと言っていた。

「多分、ツバサさんやアタシたちの思い描くような、綺麗な“魂のレベルアップ”なんて望んじゃいないだろうからさ。そう思っただけなんよ」

 どうなのさ? とミロは反対側に首を傾げた。

 ナアクは──喉を鳴らして笑っていた。

 アルカイックスマイルな顔を長い指が目立つ手で覆い隠しながら、背を逸らしたり屈めたりして上半身を動かして、さも愉しそうに笑っている。

「まさか、あの有名な台詞・・・・・・・を言いたくなるような場面に、この私が出会すとは……そういえば、この台詞を吐いた彼もまた、私と同じように研究のでしたねぇ……ああ、人生とは愉快だ……そして、とても滑稽だ……ッ!」

 ナアクは顔を覆っていた手を振り払う。

 再び現れた顔からは笑みが消え──爛々と濁った眼光を燃やしていた。

「──君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

「はい、ミロさん大当たり~♪」

 ミロは忌々しげに苦笑し、ツバサは自分なりの言葉で問い詰める。

「まさか……プレイヤーたちの魂を個も他もわからないほど解き放ち、それを一緒くたにして……原初の混沌カオスでも甦らそうって腹なのか!?」

「当たらずも遠からず──といったところですかね」

 アルカイックスマイルは消えたままだが、笑声で喉は震えている。

「まさか、灰色の御方も気付いていないであろう私の真意を、そんなアホガールに見抜かれてしまうとは……いやはや、人生とはわからないものですねぇ」

「ウチの娘はただのアホじゃないからな……」

 褒めながらミロの頭を撫でてやる。アホの子もご満悦そうだ。

 ミロは時にツバサさえ舌を巻く天賦てんぷの才を見せる。それは勘働きだったり先見の明だったり様々だが、まさに天才と阿呆は紙一重を地で行っているのだ。

「しかし……いけませんねぇ、これはいけません」

 ナアクは額に手を当てると困ったように頭を振った。その顔は徐々にアルカイックスマイルへ戻っており、やがていつもの穏やかな笑顔になる。

「灰色の御方さえ騙し仰せたはずなのに、こんなところであなた方のような実験台としか見なせない方々に、私の野望が露見してしまうなんて……」

「サラッと言いやがったな、この外道」
 奴の眼にはツバサたちも実験材料にしか映らないらしい。

「こうなっては仕方ありません、奥の手を使いましょうか」
 ナアクは勿体振った動きでパチン! と指を鳴らす。

 それを合図に──足下にあった結界が消え失せた。

 念のためにツバサが「結界に足を下ろすな」と命じておいたので、シャゴスの卵が敷き詰められた奈落の底へと落ちる者はいない。

 こうなるだろう、と警戒しておいて大正解だった。

「やっぱり──この結界も解析済みだったんだな」

 大穴の入口を塞ぐ結界さえ出入り自由の男だ。
 この奈落の底の結界も管理下に置いていると思っていた。

 ナアクは少し残念そうに喋り出す。

「おやおや、備えがいいですね……ま、このトラップで彼女たちの孵化ふかを手助けしていただけたら、それはそれで楽だったのですがね」

 本番はこれからですよ、とナアクは立て続けに指を鳴らす。

 今度はシャゴスの王を拘束している鎖が──根元から弾け飛んだ。

 1本、また1本と解かれていく極太の鎖。

 拘束を解かれつつあるシャゴスの王は、鎖を千切るように翼を広げており、丸めていた首は持ち上げられて、鼻先が卵膜を突き破ろうとしていた。

「こいつの封印を解いて……俺たちにけしかけるつもりか?」

 異形の王ではないにしろ、それと戦わせることを前提に創られた生物だ。

 相手にとって不足はないが、これだけとは思えない。

「彼女だけであなた方の相手が務まるとは思えません。戦争は数の暴力でこそ勝利に近付けるもの──なので、彼女たち・・・・も嗾けます」

 ツバサの自然を司る過大能力が感知する。

 大穴の中の空気をかきわけて、無数の生命体が奈落の底に落ちてきていた。

「──みんな、壁際に寄れ!」
 ツバサは号令をかけ、手で制するようにミロたちを壁際へと押した。

 次の瞬間、鼻先を人間の形をした何かが通り過ぎていく。

「あれ……ホムンクルス兵でゴザル!」
 ジャジャが指差した先には、奈落へと落ちていくホムンクルス兵。

 ヒトガタをした紛い物のそれは、シャゴスの卵へと飲み込まれていった。

 落ちてきたホムンクルス兵は1体だけではない。

 何十、何百ものホムンクルス兵が、集団飛び降り自殺でもしたかのように落下してきていた。研究施設だけではなく、遺跡群にも潜んでいたらしい。

 彼らは一様に──シャゴスの卵へ吸い込まれていく。

 紛い物とはいえ命を宿す者、彼らの孵化を促す役目は果たすようだ。

 目覚めるシャゴスの王と、一斉に孵る時を迎えたその眷属たち。
 それら全てをツバサたちに差し向けるつもりなのだ。

「別に無視してもいいのですよ? あなたたちなら相手にせずともあしらう方法はあるでしょうし、ここが地元というわけではないでしょうから……」

 ですが、とナアクは邪悪な笑みを湛えた。

「アハウさんたちだけでこの数を制圧できるでしょうかね? ああ、ヴァナラというお猿さんたちにも被害が及ぶでしょう。もしかしたら、この近辺にいる未発見の種族も襲われるかも……はてさて、どうなることでしょうねぇ?」

 彼らを見捨てられますか──お優しいツバサ・ハトホルさん?

 大方、ツバサは激怒すると期待したのだろう。

 よこしまな笑みを浮かべるナアクに、ツバサは大して表情を変えず「ふーん」と鼻でも鳴らしそうな無感動を露わにした。

「なんだよ、俺がノーリアクションなのが気に入らないみたいだな」
「いえ、そういうわけではありませんが……」

 肩透かしを喰らったようなナアクにツバサは言ってやる。

「いいんだよ──想定の内だからな」

 元よりツバサたちは、シャゴスを殲滅せんめつするためにやって来た。

 封印されたままの王様と卵のままの眷族なら、簡単に始末できたかも知れないが、それらが騒ぎ出したところでやることは変わらない。

 精々「手間が増えた」と軽いため息をつくぐらいだ。

 あと、次元の裂け目はなさそうなので、それを塞ぐ手間がなさそうなのは儲けものだ。あれはミロが可哀相なほど疲れるからやらせたくない。

 ナアクはアルカイックスマイルを止めて眼をすがめる。

 厭世的えんせいてきな眼差しをこちらに向けてきた。

「この数を相手に回して……無事で済むとは思えませんがね?」
「無事で済むし、みんな無傷で終わらせる」

 ハトホルファミリーおれたちを嘗めるなよ──三流科学者サイエンティスト

 挑発的に微笑むツバサに、ナアクは少しだけたじろいだ。

「そこまで仰るのなら……やってご覧なさい」

 悔しげな言葉を捨て台詞に吐いていくと、ナアクの身体は雲塊クラウドとなって雲散霧消していった。やはり、雲塊で構成された分身だったらしい。

「ハン、明後日あさって来やがれッってんだ! この変顔野郎~ッ!」
「ミロ、それを言うなら一昨日おととい来やがれだ」

 消えていくナアクにベロベロバーをするミロにツッコミは入れておく。

 ナアクの気配が消えたところでツバサも行動を起こす。

 足下ではシャゴスの王が卵膜を破り飛び立つ寸前、孵化しかけたシャゴスたちが大穴の底で騒ぎ出し、地響きが起きるほどになっていた。

 こいつらが一斉に地上へと羽ばたく時が迫っている。

「よし……その前に俺たちも地上に戻るぞ」

 転移魔法を使えば一瞬だが、途中の遺跡にいるであろうアハウの様子も気になるので、飛行系技能で一気に上昇するつもりだった。

 とか考えていた矢先──クロコに肩を突かれた。

「ツバサ様、途中を確認しながら戻るなら舞台裏こちらをご利用ください」
 そう言ってクロコは舞台裏バックヤードへの扉を用意する。

 なるほど、これなら500m圏内ならどこでも移動できるし、飛行系技能より断然早い。おまけにアハウの様子も確認しやすかった。

 転移魔法より融通ゆうづうも利く──やはりクロコは優秀だ。

「……これでエロスを控え目にしてくれたらいいのに」
「私からエロスを取ったら、ただの仕事ができるメイドでしかありません」

 キャラ付け大事! とクロコは変なポーズでキメていた。

   ~~~~~~~~~~~~

 崩壊しかけた遺跡群に立ち寄ってアハウを回収したツバサたちは、クロコの舞台裏を渡って地上まで戻ってくることに成功した。

 そして、魔神の大穴を見下ろせる上空付近に陣取る。

 ツバサたちの後ろには、巨大化したままのアハウが飛んでいる。

 アハウは信じられないと言いたげな顔をしていた。

「あの巨大蝙蝠こうもり……シャゴスというのが群れで出てくるというのか?」
「ええ、ナアクのいやみったらしい最期っ屁です」

 恐らく、シャゴスたちを解き放つドサクサに紛れて、ここからトンズラを決め込むつもりなのだ。これ以上アハウたちで実験をするつもりはなさそうだし、ミロに企みを暴かれたから、ここにはいられないはずだ。

「どうせ灰色の御方とやらから、この大穴の他にも遺跡の場所を聞いているだろうし……そっちに引っ越しするつもりですよ」

「ならばこそ、逃げられる前に捕まえないと……ッ!?」

 アハウの意見はもっともだが、ツバサは掌を向けて抑えるよう促した。

「大丈夫です。俺の勘が正しければ──ナアクは逃げません」

 もうしばらく大穴に留まるつもりだ。

「この騒動が落ち着くまで……そうですね、俺たちがシャゴスを皆殺しにするまではどこかに隠れているでしょう。奴の始末はその後で間に合います」

「逃げない……? 何か、確信があるみたいだが?」
「ええ、勘と言いましたけど──奈落の底でちょっと見ましてね・・・・・・・・・

 シャゴスの群れが蠢く奥底に、少しだけ垣間見えたのだ。

 あれ・・にナアクも気付いている。そして、欲しがるはずだ。
 そのためにはシャゴスの王と眷族(卵)を何とかしなければならない。

「ナアクは連中をいっぺんに解き放てる機会を窺っていた……俺たちがやってきたことで、幸か不幸かその時が来てしまったんですよ」

 まずはシャゴスたちの大掃除。

 ナアクをどうするかは──それが終わってからだ。

「んで、どーすんのツバサさん? シャゴスどもが穴から出てくる前にブッ叩く? アタシとツバサさんの2人がかりなら……できるかな?」

「やれないことはないが、ちょっとキツいな」

 シャゴスは成長すると1体が30m程にもなる。

 それが大挙して飛び出してくるのだ。ツバサとミロの2人がかりで全力攻撃を放ったとしても、死骸を盾にして相当数のシャゴスが生き残るはずだ。

「生き残る数も相当数になるだろうな……俺とミロが大穴への全力攻撃を続けつつ、そいつらを仕留めるのは難しい」

「ならば、その役目はおれが請け負おう」

 アハウは親指で自分を指すが、ツバサは首を横に振った。

「アハウさん1人じゃ手が足りません。かといって、ウチのクロコやマリナの攻撃力では30m級のシャゴスを倒すのは骨が折れるし、過大能力に覚醒したとはいえジャジャもまだ荷が勝ちすぎる……」

「そんじゃあマヤちゃんは? あと、あの右腕のでっかい子とかは?」
 ミロはアハウの仲間の手を借りようと提案する。

「マヤムさんにはヴァナラの隠れ里の防衛を頼んである。シャゴスは生物を狙うというから、その役目は継続してもらうべきだ。それとカズトラ君……だったか? 彼は謂わば病み上がりだ。無茶をさせるべきじゃない」

「だとしたら……八方塞がりでゴザルよ!?」
「ど、どうするんですか、センセイ!?」

 慌てるジャジャとマリナ、そんな可愛い盛りの幼女な娘たちの頭を撫で、ツバサはこんな時のための打開策を打ち明けた。

「任せなさい。戦力が足りないなら──援軍を呼べばいい・・・・・・・・

 言うなりツバサは右手を前方へと掲げた。

 その手から光り輝く小さな魔法陣が現れると、それとまったく同じ図形の魔法陣がジャングルの上に浮かび上がる。その面積たるやかなりのものだ。

 巨大な魔法陣は──街1つをカバーできそうな規模だった。

「出会え者ども! 出でよ我が眷族たち!」

 ツバサが時代がかった言葉で告げると、魔法陣が力強く発光する。

 魔法陣の向こうから──4つの声が鳴り響いた。



「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! ずっとスタンバってたッス!」
「よっしゃあああーッ! 新兵器のお披露目じゃあッ!!」
「ふぁぁぁ眠ぃ……なんだよ、こんな夜更けに働かせんじゃねーよぉ」
「もうすぐ朝だよ、穀潰しニートなんだからこんな時ぐらい働こうよ」



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