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第6章 東の果てのイシュタル
第143話:地母神と戦女神の会合
しおりを挟む「申し訳ありません。私としたことが取り乱してしまいました」
「ある意味、通常運転だったけどな」
レオナルドは肩で息をしていた。彼なりに悪戦苦闘したらしい。
「あれで通常運転なのか……」
ツバサは半眼で呆れるしかなかった。
「半年ぶりの再会ということを鑑みれば、俺に対する奇妙な情熱が鬱積していたのだろう。それが爆発して暴走したのは見ての通りだ」
「部下の恋心を他人事みたいに分析するんだな」
俺は冷たい男だよ、とレオナルドは自嘲気味に言った。
10分後──野獣と化したクロコは落ち着きを取り戻した。
とは言うものの頬は上気したまま、漏れる吐息も薄く浅く、「ハァハァ……レオ様ハァハァ……」という熱に浮かされた囁きが聞こえてくる。
それと──奇妙な水音は聞かないことにした。
クロコはレズ寄りのバイセクシャルだと公言している。
そんな彼女が唯一惚れ込んだ男性であるレオナルドを前にすると、過剰な恋心を持て余す乙女に変わるのだから不思議なものだ。
クロコは珍しく無表情なその顔を微笑みで綻ばせていた。
ただし、それはエロスを源泉とした恍惚なものだ。
「レオ様にこんなにも無体に扱われ、組み敷かれ、取り押さえられ……身体と身体を、これでもかというくらい組んずほぐれつ密着していただきました。そう、まるで野獣のオスが交尾のためにメスを服従させるように……ッ!」
両手を組んで空を拝み、与えられた喜びに感謝している。
「これはもうセック──」
「「ヴァーーーッ!? それNGワードだバカメイドッッッ!!」」
ツバサとレオナルドが奇声を張り上げる。
同時にマリナの両耳はフミカが背後から封じ、カミュラの両耳はハルカが塞いでくれた。幼女たちはキョトンとしている。
フッー、と安堵のため息をついたツバサは提案する。
「……この駄メイド、お宅で引き取ってくれないか?」
レオナルドが飼い主だろ? とジトッとした目で訴えた。
「勘弁してくれないかな。ウチには既に仕事は一応するけど、怠け癖の酷い色ボケのスーパーハッカーがいるんだ。これ以上はちょっと……」
レオナルドは眉と口元を八の字にして詫びてきた。
「えーっ! アタシ反対! クロコさんはウチのメイドさんだよ!」
ミロは気の合うクロコを手放したくないらしい。
子供みたいに駄々をこねると、メイド服にしっかと抱きついた。
「ご安心ください、ミロ様──クロコは主人をホイホイ乗り換えるような尻軽女ではございません。私は終生、ツバサ様とミロ様の忠実なる下僕にございます」
これは神族・御先神の特性でもあるという。
主人と定めた高位神族に従属する──その身が滅びるまで未来永劫。
「謂わば、永遠の終身雇用契約を交わしたも同然でございます」
「やったー! エターナルメイドさん爆誕だーッ!」
諸手を挙げて喜ぶミロだが、ツバサは苦汁をがぶ飲みした顔で告げる。
「……それは俺に『諦めてください』と報告しているんだよな?」
「はい、末永くヨロシクお願い申し上げます」
この世の果てまで駄メイドを雇う羽目になるのか!?
仕事ぶりこそ有能だが、性格に問題がありすぎる駄メイドを……。
「……おい、安心してんじゃねえよ」
レオナルドがこっそり胸を撫で下ろしたので、ツバサは毒突いた。
軍服男は両手を振り、理由をつけて弁明する。
「いや、そんなつもりはないんだがな……ほら、あれだよ、行き遅れになりかけていた娘が、やっと嫁に行った父親みたいな心境なんだ」
「厄介払いできたと言ってるじゃねえか!?」
ツバサはレオナルドに、ついアシュラ時代の態度で接してしまう。
元来ツバサは口調が荒々しい。なにせ江戸っ子である。
しかし、ミロや妹がツバサを真似して荒っぽい口調になりかけたので、慌てて丁寧な言葉で喋るように自らを矯正してきたのだ。
近しい友人の前では、気を許してボロが出てしまう。
ミサキが「あれ、なんか2人とも親しげだな?」と訝しげな視線を送っているのに気付いて、慌てて取り繕うとするが──。
「ご安心ください──御胤はレオ様から頂戴するのは確定でございます」
「予定でも未定でもなくてか!?」
「はい、確定です──生まれた娘と共に母娘丼を進呈する所存です」
「そんなことは望んでもいないぞ!? 第一、男の子だったらどうする!?」
「そこはそれ、男の娘に躾けることで母娘丼を──」
「性癖のねじくれまくった親子関係など御免被るぞ!?」
レオナルドとクロコによるボケとツッコミの応酬で誤魔化せた。
ツッコミ疲れたレオナルドは頭を抱える。
額の生え際を庇っているのは気のせいだろうか?
「まったく……クロコといい、カンナといい、ナヤカといい、それにアキといい、どうして俺の周りに集まる女性はこんなのばかりなんだ……」
祟られてるのか? 前世の因縁か? レオナルドは苦悩する。
いわゆる『地雷女』ばかり寄ってくるらしい。
全員、標準以上の美人でナイスバディ。ただし、性格にどうしょうもないくらいの難がある。曲者揃いの問題児ばかりだという。
「獅子のお兄さん、ラノベ主人公みたいだね」
ミロのストレートな感想がレオナルドには効いていた。否定する気力も起きないのか、悲しげに目尻を摘まんだまま肯定してくる。
「うん……ジェネシス社内でも、よくそんな陰口を叩かれたものだよ」
「いっそ全員に手を出して、ハーレムルートでも目指したらどうだ?」
ツバサが冷やかすと、恨みがましい視線が返ってくる。
「万遍なく隙間なく、びっしりと地雷が敷き詰められた地雷原を、全力疾走できる勇気が君にはあるのかね? 1人の男として──ッ!」
「……失言だった、すまない」
レオナルドの言い分は、同じ男であるツバサにもよくわかった。
クロコみたいな女性を4人も面倒見る──考えたくもない。
この話にフミカも参加してくる。
「えっと……ウチのバカ姉貴がご迷惑をかけて申し訳ないッス」
「フミカさん、なんで? 耳塞がれちゃうと何も聞こえないですよ?」
マリナの両耳を手で塞いだまま、フミカがレオナルドに謝った。
踊り子風な少女に謝罪されたレオナルドは、「おや?」と気付いたらしい。
「バカ姉……ああ、君は確か、文香君かな? 玲の妹さんだね」
「はい、レオナルドさん……いえ、賢持さんですよね?」
フミカはマリナから手を離すと、レオナルドに礼儀正しくお辞儀した。
「その節は──不肖の姉がお世話になりました」
2人はアキの件で現実でも顔見知りらしい。
マリナから手を放すと、フミカはレオナルドに行儀良くお辞儀する。
レオナルドは朗らかな笑みでそれを受け入れた。
「なに、アキの……お姉さんの才能を見つけて、我が社で活用しようと言い出したのは俺だからね。責任を持つくらい当たり前だよ」
こんな大変とは思わなかったが、とレオナルドは愚痴っぽく苦笑した。
フミカは「申し訳ないッス」と肩を縮めるばかりだ。
「アキ自身、よく『ウチら姉妹は愚姉賢妹ッス』と笑っていたが……本当に出来た妹さんだな。さあ、アキも中で待っている」
立ち話はこれくらいにしよう、とレオナルドは先を促した。
~~~~~~~~~~~~
ミサキたちの神殿みたいな宮殿──っぽい拠点。
その内部は、現代風の暮らしやすい内装になっていた。
ただし、規模が規模なので普通の家ではなく大豪邸クラスである。天井は高いし壁から床から調度品に至るまで凝った造りになっていた。
「さすがダチ公、内装の仕上がりも極上ぜよ」
ダインは内装を観察し、この宮殿を建てたジンの腕前を讃えている。
レオナルドに案内されたのは──広い応接間だった。
もしくは会議室なのか?
壁飾りもカーテンも、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
大きな部屋を中央で割るように設置されたロングテーブル。そのテーブルに座高を合わせた、1人掛け用の豪華なソファがいくつも並んでいた。
「いらっしゃいませ、お客様──お待ち申し上げておりました」
部屋に入ると、ウェイター姿のジンが出迎えてくれた。
着飾りすぎて貴族に仕える執事に見えなくもないが、愛用のマスクは肌身離さず身につけている。ミスマッチなのに様になっているのが不思議だ。
「お茶の準備が整っております。どうぞこちらへ……」
こういう時、彼は役になりきるらしい。
いつものピエロみたいに賑やかな性格は形をひそめて、ウェイターになりきっている。給仕用のカートまで用意している徹底ぶりだ。
レオナルドから案内役を引き継いだジン。
覆面ウェイターの案内でソファに座ろうとした矢先──。
「おっ…………お姉ちゃん!?」
ミサキたちが座る側のソファに、既に腰を下ろしている女性が1人。
いや、テーブルに突っ伏して眠りこけていた。
真っ白いレオタードみたいな衣装にはち切れそうなグラマラスボディを詰め込んでおり、天女みたいな薄い羽衣を羽織っている。
相変わらずその爆乳をテーブルに乗せて、その上に鏡餅でも重ねるように頭を乗せて、グースカピーと熟睡していた。半開きの口からは涎がダダ漏れだ。
ゲームマスター№59──アキ・ビブリオマニア。
レオナルドが面倒を見ていた(問題児ばかりの)部下の1人であり、GMの階級こそ低いが、ハッキング能力に定評のある女性だという。
そして──フミカの実姉でもある。
久し振りに再会したというのに、みんなの前でこの為体。
フミカは顔を赤くして怒り肩を震わせると、姉に近付いていった。
「なに真っ昼間っから惰眠を貪ってんスか、このバカ姉がーーーッ!?」
「zzz……ファッ!? なんスかなんスか痛い痛い痛いッ!?」
フミカはアキの肩を掴んでソファから引きずり出すと、相手が寝ぼけているのを幸いに関節技を仕掛けていき、ギリギリと締め上げていった。
「おおっ、コブラツイスト! フミちゃんやるぅ♪」
ミロは拳を握って面白がる。
「フミカ、立ち技なんかは今ひとつだけど、関節技や投げ技を教えると、がっちりハマるんだよな。これも才能だろう」
あのコブラツイストはツバサが教えたものである。
「おかげでわし、時折えらい目に遭わされるんじゃけんど……」
まれにダインはフミカに関節技で『お仕置き』されるらしい。
「お仕置きって……なんでまた」
「いやー、ツバサの洗濯物に一瞬でも目を奪われたりするとのぉ……」
それはおまえが悪い、とツバサはダインを小突いた。
フミカは姉であるアキをコブラツイストで締め上げる。
「痛い痛い痛いッ……あ、フミィ! お久しぶりーって、お姉ちゃんに寝起きからこの虐待なんなんスか!? 実家にいた頃より厳しくないッ!?」
「お天道様も中天から西へ傾きかけた昼下がりに寝起きたぁーどういう了見ッスか!? みんなの前で、こんな情けない姿を晒しおってからに……お父さんやお母さんに顔向けできないッス! 反省するッス愚姉ーーーッ!?」
「んきゃーッ!? 関節がヤバい方向へ曲がって悲鳴上げてるッスーッ!」
姉妹そろって一人称が“ウチ”で語尾が“~ッス”な舎弟口調。
なのに、2人の会話が混同しないのは、フミカが話し方からしてしっかり者、対するアキがなまけ者なのが露骨にわかるからだろう。
「お久しぶりです──アキさん」
かつての(問題児)仲間であるクロコも挨拶を交わす。
「あー、クロコっちも久々ッスねー。やっぱツバサっち&ミロっちのところにご厄介になってたんスかー……おおおっ、ギリギリ来るッスーッ!?」
アキはコブラツイストで締め上げられたままだが、引きつり気味の笑顔で同期との再会を喜んでいた。どうやら完全に目が覚めたらしい。
友人との再会、とあってフミカはコブラツイストを解いてやる。
手を取り合って喜ぶクロコとアキ。
そして、いきなりコソコソと内緒話を始めた。
「……レオ様と一つ屋根の下でお過ごしになっていたようですが、その後どうですか? 性欲に餓えて肉欲を求めてくるような展開はございましたか?」
「いやー、全然ッスねー。現実ん時とまったく同じッス。こちとら全裸でうろついてようが性的アピールしようが、叱るだけでノーリアクションッス」
ヘタレめ……クロコとアキは物欲しそうな眼でレオナルドを睨む。
「おまえらみたいにあからさまな地雷女と関係を持ちたがると思うか?」
レオナルドは迷惑そうに眉をしかめた。
「それをやっちゃうのがラノベ主人公でしょ?」
「誰がラノベ主人公だね!?」
ミロが指差すと、レオナルドは全力で否定してきた。
「ちょっとおおおおおーーーッ!? こっちにちゅうもーーーく!」
物静かなウェイターに扮するジンが、やおら大声を上げた。
「色んな人たちが出会いや再会を祝して和気藹々やってるのはすっごくステキで見ていて俺ちゃんほっこりするんだけど、せっかく煎れた最高級茶葉がぬるくなってきちゃいそうなので、そろそろお席にシットダウンプリーズ!!」
せっかくのお茶が台無しになるのが我慢ならない。
生産系大好きなジンにしてみれば、お茶さえも生産物ということだ。
積もる話もあるが、ひとまずソファに腰を掛ける。
ツバサたちとミサキたちは、それぞれの陣営に分かれて向かい合う。
まずツバサとミサキが真正面に向かい合って座る。
ツバサの右隣にはダイン、左隣にはフミカが腰を下ろす。
クロコはツバサの背後に控えるように立つ。
ミサキの左隣にはレオナルド、彼の隣にアキ、右隣にはハルカが座る。
ジンはウェイター姿のままお茶や茶菓子の配膳をすると、クロコのようにミサキの背後に立った。参謀役はレオナルドに任せているようだ。
ミロ、マリナ、カミュラのお子様勢はテーブルの端っこ。
そこで小さな淑女たちはジンが用意してくれた、味は元より目も鼻も楽しませる馨しい豪華なスイーツを堪能している。
彼女たちに小難しい話を聞かせるのは酷だろう。特にミサキたちが入手した情報も事前に聞いた限りでは、かなりショッキングなものだった。
ミロはともかく──マリナには刺激が強すぎる。
だから、少し遠ざけたのだ。
こういう気配りもしてくれるのがジンである。
ただし、ミロには大人顔負けの直感&直観の技能があり、ツバサたち以上に本質を突いてくる答えを出せるので、後ほど意見は求める。
「それでは──始めようか」
ハトホル陣営とイシュタル陣営──その会合が始まる。
~~~~~~~~~~~~
別段、会議というわけでもない。ただの話し合いだ。
先日、それぞれの陣営が打ち上げた通信衛星を介して、お互いの事情はある程度伝えているが、やはり面と向かった方が物事は進展するものだ。
こういう時、レオナルドは場を仕切るのが上手い。
ジェネシスでも会議を繰り返していたのか、話をスムーズに進めてくれた。
最初に──現時点で両陣営が共有している情報を再確認する。
巨大企業ジェネシスは地球の崩壊を予見しており、人類を存続させる計画を秘密裏にいくつも推し進めていた。
VRMMORPGアルマゲドン──これもそのひとつである。
偶然発見された異世界。そこは仮に『幻想世界』と名付けられた。
その幻想世界に人間の魂だけを送り込むシステムを開発。プレイヤーたちは遊びながら知らず知らずの内に魂を強化していき、神族や魔族となる。
そうして──幻想世界を平定する戦力へと仕立て上げられていく。
幻想世界で安全に暮らせる状態が確保されたら、徐々に生身の人間を転送装置で送り出し、ゆっくり時間をかけて幻想世界へ移住していく……。
「それがジェネシスの考えていた──当初の移住計画だ」
レオナルドが話をまとめたところにツバサが被せていく。
「しかし、予期せぬ事態に前倒しを余儀なくさせれた」
「その通り──巨大小惑星の到来だ」
巨大小惑星は、数年で地球に激突すると判明。
このためジェネシスは、他の未確定要素が大きすぎる移住計画や、太陽系内への惑星への移住案などの全てを捨てて、幻想世界への移住に的を絞った。
テラフォーミングに適した移住先としてよく話題に上る火星や、難しいけれどまだ検討の余地がある金星や木星などの改造計画も諦めたのは、巨大小惑星が太陽系内の他惑星も脅かすほどだったためである。
「……というわけで、こちらの映像を御覧いただきたい」
アキ、とレオナルドは部下に呼び掛ける。
目配せだけを返して頷いたアキは、過大能力らしきものを発動させた。彼女の後ろにスクリーンが現れ、そこに映像が結ばれる。
それは──滅びを迎えた現在の地球だった。
現れた映像にツバサですら息を呑み、ダインやフミカは驚愕し、クロコでさえも鉄面皮な表情を崩して目を見張った。
「これは……思ったより堪えるものがあるな……」
──地球に超特大の小惑星が激突する。
この凄惨な未来を予見したジェネシスは、人類を生き存えさせるための新天地として真なる世界を用意した。
……というのが上級GMたちの知る実情である。
ツバサたちもクロコから聞かされていたが──。
「実際に目の当たりにすると、精神的にちょっとキツいな」
マリナやミロに見せないで正解だ。
事前に聞いて覚悟があったツバサでも、目眩がしそうなほどである。
破壊された地球の映像は定期的に変わる。
それを指し示しながらレオナルドは話を続けた。
「これはアキの過大能力で現実世界のまだ動ける定点カメラなどをハッキングして撮影したものだ。御覧の通り……ほぼ全ての大陸が破壊されるか、大海に没するかしており、都市機能を維持できている文明は残されていない」
地球は──完膚なきまでに破壊されてしまった。
「オーストラリア大陸サイズの小惑星がゴッツンコすりゃあのぉ……」
ダインも目頭を押さえながら深いため息をついた。
「古い映画で、アメリカのどっかの州くらいの隕石が落ちてくるだけでも、地球が終わってるッスからね……その何十倍になるんだか……」
姉の結ぶ映像を見つめながら、どこかフミカも呆然としていた。
「だが、人類は1人残らずこちらに飛ばされて来るんだろう?」
ツバサの問いに、レオナルドは深く頷いた。
「ああ、クロコから聞いたと思うが、ジェネシスが世界に余すところなく転送装置を仕掛けていたのでね。よほどの例外がない限り、人類の99.999%はこちらの世界へやってくるはずだ。その…………」
真なる世界──だったかな?
レオナルドは少しだけ首を傾げた。
彼らは幻想世界と呼んでいるが、ツバサたちは真なる世界と呼ぶ。
発音も読み方も一緒だが、なんとなくニュアンスが違うのだ。
認識の差違みたいなものが感じられる。
「俺たちもこちらの世界に来て、様々なものを見聞きしてきたからな……ひょっとすると、情報量はミサキ君たちより多いかも知れない」
それが認識の差違となって現れている気がした。
「オレたちの情報源は、今のところレオさん頼りですからね」
ミサキはちょっと恐縮そうに言った。
エルフやドワーフ、オークにマーメイドたちに聞いても、自分たちの種族の来歴さえ失った彼らからは大した情報は得られなかったそうだ。
ネコ族、ヒレ族、ハルピュイア族──ハトホルの眷族たる者たち。
彼らもまた文明を衰退させられた者たちだが、イシュタルの眷族となった者たちとは違い、自分たちの由来を知り、この世界に何があったかを知っていた。
この差は──なんだ?
超巨大な大陸の西と東の果て、そこに生じた差違があるのだろうか?
ツバサが思案していると、思い出したようにレオナルドが言う。
「ただ……彼らの誰もが、口を揃えて同じことを告げてくるんだ」
かつて──この世界を砕きかねない大戦争があった。
その情報は、ツバサたちの知りうる真実と合致するものだった。
次は自分たちが情報を開示する番だ、とツバサは悟る。
「そのことについてだが……俺たちは重要な情報を持ってきた」
フミカ、と今度はツバサが目配せをする。
名前を呼ばれたフミカは頷くと、姉のアキと似たようなスクリーンを背後に展開して、そこに今までツバサたちが集めてきた情報を映した。
この世界の神族と魔族が、何者と戦ってきたのか──。
彼らの末裔である“灰色の御子”たちが何を画策したのか──。
そして、戦いはまだ終わっていないということを──。
ツバサはミサキたちにも協力を仰ぎたい。
そのために遠路遙々ここまでやって来たとも言える。
「なかなか衝撃的な内容だ──心して聞いてくれ」
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