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第7章 還らずの都と灰色の乙女
第164話:天翔る女騎士
しおりを挟む──時間を少しだけ巻き戻す。
日の出とともに野営地を発ったツバサたちは、それぞれの技能を用いて高速移動を開始した。飛行系技能を使うと目立ちすぎて発見される恐れがあるため、敢えて空を飛ばず地上を目立たぬように走って行く。
大陸の中央へ向かうと、意外に平野が広がっていた。
ところどころに緩やかな丘陵地帯や、標高がさして高くない山があったり、そういう付近には森や林などの緑が生い茂っている。
こういった森や林に紛れながら進む。
ハルカは召喚師という職能に偏っているせいか、ツバサたちに比べて肉体的能力が劣っているため、ドンカイの肩に乗せてもらっていた。
「すいません、私だけ楽をさせてもらって……」
肩に乗せられて詫びるハルカに、ドンカイは朗らかに返した。
「気にすることはないぞ。肉体労働は戦士系、頭脳労働は魔術師系、と昔から相場が決まっとる。ハルカ君は時が来るまで温存しておけばいい」
事実、負担になっている様子はない。
2m50㎝はある巨人なドンカイにしてみれば、小柄なハルカなどお人形さんを肩に乗せている程度のものだろう。
「ハルカ君を乗せるぐらい、小鳥が肩にとまっているようなもんじゃ」
「私、そんなに軽いですか?」
小鳥ぐらいの重さと例えられ、ハルカは気をよくしていた。
やはり女の子、体重が軽いと言われれば機嫌も良くなるし嬉しいようだ。
気にしなさそうなのがウチには2人いるが──。
「いやー、ドンカイのオッチャンに乗ってると楽だわー」
「んな、オヤカタの乗り心地、悪くない」
反対側の肩には、ちゃっかりミロとトモエが乗っていた。
これにはドンカイも渋い顔で叱る。
「おまえさんらは自力で走らんかい!?」
「走力だけなら、ドンカイさんよりこいつらのが上ですからね」
トモエもミロも速さだけならツバサを超えるかも知れないのに、ハルカに便乗してドンカイに乗っかってるのだ。
強引に降ろさないところに、ドンカイの優しさを感じる。
「遊びも程々にしろよ。そろそろ目的地だぞ」
ドンジューロウの一団から吸い上げた情報に寄れば、彼らの本拠地である極都という建物が、そろそろ見えてくるはずだ。
なにせ──大きい。
現実世界にあった城の高さ(地上からの全高)が、高くても60~50mだったのに大して、極都の地上高は500mを超えているのだ。
もはや、ちょっとした山である。
「距離的に極都までもう50㎞前後……ほら、見えてきたぞ」
先導していたツバサは森を抜けると、木陰に身を隠して遙か遠くの平原にそびえ立つ城を指差した。
この辺りにまで来ると原野のあちこちに森や雑木林がある程度で、あまり高い山は見受けられず、視界が開けているので極都がよく見えた。
「……なんちゅう無節操な建物じゃ」
ドンカイの感想が、極都の外観を一言で表現していた。
本当に無節操極まりない建築物なのだ。
和洋折衷どころの話ではない。
あらゆる文化圏の建築様式、古今東西の建物……古きも新しきも関係なく寄せ集めて、山と積み上げたかのような造りをしていた。
上階には尖塔が連なっているのだが、西洋風の城にあるような塔もあれば、和風の五重塔もあり、アジア風の造りをした塔もある。アラビアのモスクを飾る尖塔の隣に、アメリカのエンパイアステートビルに似た近代的な塔も聳えていた。
時代も様式もしっちゃっめっちゃかだ。
「ほー、これはまた……ごった煮が極まったお城だねー」
ミロも額に手を当てて感心している。
「お城……まあ、見ようによってはお城だよな。しかし、あの大きさからすると、もはや城というより1つの都市……ああ、だから極都なのか?」
色んな意味で極まった都市──極都。
「この距離から見ても神族の視力だからよく見えるけど……もう少し近付いてみるか。ここからはもっと慎重に、見張りなどを警戒して進むぞ」
特にそこの2人、とツバサはミロとトモエを指差す。
「えー、なんでアタシらだけ注意されんのー?」
「んなー、お母さん差別よくない。注意ならカズトラやハルカにもする」
一人前に抗議してくるアホガール&バカガール。
「誰がお母さんだ。おまえらがこの中で一等不真面目だからだよ」
「んなっ! 真面目に不真面目!」
やかましい! とツバサは名台詞でボケるトモエにツッコんだ。
「ドンカイさんは大人だから言うに及ばず……ハルカもカズトラも、おまえらよりいい子だからな。無茶はしないし、悪ふざけもしない。偵察ということを忘れて、競走だー、勝負だー、って騒ぐのはおまえらぐらいのものだよ」
いいか、とツバサは2人を指差して念を押す。
「これはネタでも振りでもないからな? 目立ってキョウコウ側の気を引くような真似をして連中に見つかってみろ。その時は……」
「その時は……アタシら、どうなんの?」
「んー……お母さんにお仕置きされる?」
お仕置きといっても優しいお母さんのこと。大したことはあるまいと高を括っているミロとトモエに、はっきり言い付ける。
「もう──おまえらとは一緒に寝てやらない」
即ち、同衾を許さない。
しがみついて抱きつくのを何よりの楽しみとしている、その母なる豊満な乳房を誇示しながらツバサは断言した。
彼女らは愛娘として大好きな母親であるツバサに甘える機会を失うのだ。これにはさすがのアホ&バカコンビも電撃が走るほどの衝撃を受けたらしい。
ムンクの叫びも驚くほどの絶望的な表情を浮かべていた。
が、すぐに我を取り戻したミロとトモエ。
大急ぎで道具箱を頭から突っ込む勢いで探ると、隠密行動用にとダインが作ってくれたギリースーツや迷彩柄のマントなどを取り出した。
それを頭からスッポリと被り、最敬礼をするミロとトモエ。
「マム! 偵察用装備に着替えました! ご指示を!」
「んな! トモエちゃんと偵察する! 真面目に真面目!」
よろしい、とツバサは大きな胸の下で腕を組んで満足げに頷いた。
「だが──誰がマムだ」
決め台詞を返して、ツバサたちは再び動き出す。
少しずつ極都との距離を詰めていき、様子を探っていくのだ。
ここからは全速力で走らず、最大限の警戒をしながら慎重に進んでいく。キョウコウ側が敵襲に備えて、警備兵などを配置している可能性もあるからだ。
できるだけ物陰に潜み、小走りに進んでいく。
途中、ハルカはドンカイの肩から降りた。
彼女の脚力でも追いつける速度でしか移動していないので、これ以上ドンカイの厄介になるのは気が退けたのだろう。
すると、ハルカはツバサに近寄ってきて耳打ちしてくる。
「ツバサさん、私が偵察の子たちを飛ばしてみましょうか?」
「そうか、ハルカの能力は……頼めるか?」
ハルカは小さく頷き、過大能力を発動させた。
彼女の周囲に道具箱からアイテムを出し入れする時に現れる空間の波紋がいくつか浮かぶと、そこからミニチュアの滑走路が伸びてくる。
滑走路に現れたのは──掌サイズの人形。
ハルカをデフォルメしたかのようなデザインの人形たちは、滑走路に戦闘機めいた飛行機や、高速で飛ぶヘリコプターを用意していく。
無論、これらも人形に合わせたラジコンサイズだ。
人形の操縦士たちは飛行機やヘリコプターに乗り込み、そのまま滑走路から飛び立っていく。見てると発進などの手順もかなり本格的だった。
そうして──ミニチュアな偵察機は飛んでいく。
のみならず、ハルカの周囲から忍者めいた格好をしたデフォルメ人形がワラワラと湧いて、極都を目指して走り出す。
この無数の人形こそがハルカの過大能力。
──【破滅の奈落より来たれ軍勢】。
可愛らしい人形を無制限で召喚できるというメルヘンチックな能力の割に、名前は禍々しくもおどろおどろしいものだ。どちらも聖書由来ではなかったか?
(※アバドンは新約聖書の黙示録に登場する、7つの災厄の5番目を司る天使。奈落の監視者、奈落の王ともされる。イナゴにも似た妖虫の群れを率いて人間を苦しめる使命を持つ。レギオンは古代ローマの軍団を指すが、新約聖書ではイエスの払った悪霊の集合体がレギオンと名乗っている)
実際、この過大能力は愛らしくも恐ろしい。
軍隊蟻の群れは巨象をも殺す──これを体現するものだった。
ハルカはあの小さな人形を無限に召喚し、膨大な数で押し潰してくる。
人形は全てハルカの分身であり、意識などを共有しているそうだが、100体や200体潰されたところでハルカにダメージはない。
敵は人形の軍勢を処理しようと苦闘している間に、万を超える人形に全身を蝕まれて戦闘不能に陥るだろう。
一部の者からは「今週のビックリドッキリメカ」と呼ばれているそうな。
(※主にジンらしいが……)
小型メカを大量に繰り出して相手を翻弄する様は似ていなくもない。
「……あの艦載機みたいなのも過大能力なのか?」
滑走路とかヘリコプターも、とツバサは好奇心から訊いてみた。
「いえ、ジン君に作らせ……作ってもらいました」
「言い直さなくてもいい。ジンに頼んで作ってもらったんだな?」
頼んで、の部分を強調してやる。
そうですそうです、と愛想笑いでハルカは答えた。
「私の人形たちは装備ぐらいなら自分で賄えるんですが、ああいった乗り物になると難しいみたいなので……ジン君に設計図を引いてもらって、後は材料を人形たちに渡しておけば、自分たちで作ってくれますから」
彼らは“人形たち”と呼ばれているらしい。
可愛い見た目に反して、こちらも仰々しいネーミングだ。
「まるで靴屋の小人だな」
それに近いですね、とハルカはツバサの意見に微笑んだ。
「オモチャみたいな戦闘機やヘリですけど、ジン君が設計図を引いただけあって、ちゃんと攻撃能力とかありますよ。魚雷や機雷も落とせますし」
「機関銃も撃てるのか? あいつも凝り性だな……」
ダインに任せても同じことになりそうだ。
飛んでいくラジコンみたいな飛行機たちと、ハルカの周囲に浮かんでいる空母の甲板みたいな板を見比べ、今のハルカの姿をミロは例えた。
「なんかさ……ソシャゲとかのキャラに、ハルカちゃんみたいなキャラいたよね。ほら、戦艦とかを擬人化したキャラがいっぱい出てくるやつ」
「んな、いたいた。ハルカ、空母の擬人化?」
「それ、さすがに私でも知ってるわ。私たちのお父さん世代の頃に流行って、今でも根強い人気があるゲームばかりだものね」
「差し詰め、ハルカは空母の擬人化か?」
何気ないツバサの一言に、ミロとトモエは揃って首を傾げる。
空母……? と言いつつハルカに注目する。
平原の如く起伏のないハルカの胸には微かな乳房の膨らみしか見て取れず、貧乳というに相応しい。だが、本人の前で口にすればブチ切れる。
それを踏まえた上で、ミロとトモエは手を打った。
「──あ、軽空母か!」
「誰が軽空母よ!? 誰の胸が軽空母みたく真っ平らよ!?」
すぐに察したハルカは切れた。
ミサキから「ハルカに貧乳を匂わせるワードはNG」とこっそり教わっていたが、本当に敏感らしい。大平原の小さな胸とか言わないで良かった。
「そりゃあさ、あの手のゲームで空母はツバサさんみたいな体型のお姉さんキャラばっかりだったけど、私みたいな空母もちゃんといたじゃない!」
ハルカは憤慨して自分の胸を右手で叩きながら、比較対象としてツバサの乳房もペチペチと左手で叩いた。同性だからできる気安さだ。
「……詳しいな、ハルカ」
あとおっぱい叩くのやめなさい、とやんわり言い聞かせる。
「そんなことより先を急ぐぞ……ハルカ、偵察に出した人形たちはちゃんとモニターできてるんだよな?」
「あ、はい。人形たちは私と意識がリンクしてますから」
彼らが五感で捉えたものがハルカにフィードバックされるそうだ。ツバサが自然を司ることで、その情報を知覚できるのに似ている。
「あんなたくさんの人形が見たり聞いたりしたことを感じ取れるなんて……頭ん中がメチャクチャにならないんすか?」
カズトラの素朴な疑問にハルカは丁寧に返す。
「んー、慣れればそんなに気にならないわよ? 必要な情報だけをピックアップできるようになるし、ある程度は無意識下で勝手に処理されちゃうし」
ハルカの意見にツバサも同感できた。
「俺も自然とリンクしているとそうだな。意味を持たない、重要じゃない、そういったものは意識されず、必要なことだけ頭に入ってくる感じだな」
過大能力によってもたらされる大量の情報をさばけるように脳の構造が変化したのか? 膨大な情報をさばくために脳が無意識下でそうなったのか? そもそも神の肉体になってるから脳の情報処理能力も向上しているのか?
その辺りの詳細は、ツバサにもわからない。
精神や意識といったものが神族の肉体に馴染んできた感じだ。
「何にせよ、俺もハルカも索敵や警戒に適した能力を持っていて、そういった情報を頭の中で自分に都合良くさばけるってわけさ」
さあ行くぞ、とツバサは先へ進むよう促した。
ハルカの人形たちによるモニタリングを頼りに、極都の警戒網に引っ掛からないように、用心に用心を重ねながら距離を詰めていった。
~~~~~~~~~~~~
極都まで10㎞ほどの距離。
小高い山の中腹、その林の中にまで忍び寄る。
ここまでは、さして苦労することもなく接近できた。
キョウコウ側の見張りや警備兵はほとんど見掛けられず、極都を守るための結界や、敵襲に備えての防衛網さえも見受けられなかった。
このまま極都にすんなり潜入できるかと思えば──甘くはない。
「ここから先は──警備が厳重ですね」
ハルカは偵察に送り出した人形たちの目や耳を通して、極都10㎞圏内の様子を具に観察すると、ツバサたちに報告してくれた。
「極都周辺の警備は勿論、もう数百mも行けば警備兵らしきモンスターが徘徊しています……かなりの数で徒党を組んでいて、周囲に不審者がいないか目を光らせているようです。人形たちも何度か発見されそうになりました」
「結界による防御や侵入者を察知するセンサーの類は一切使わず、モンスターの人海戦術による警備のみか……本当、数に頼るのが好きみたいだな」
戦争は数だ、とか言い出しそうである。
モンスターという人員を大量に費やすことで軍事力にしているようだ。
「んな、モンスターいっぱい。どうやって家来にした? テイム?」
トモエが不思議そうに首を傾げている。
最近、獣使いという技能を習得して、ハトホルの谷周辺のモンスターを支配下においている彼女にしてみれば、モンスターを捕獲する大変さは身に染みてわかっているのだ。だからこそ、不思議がっているのだろう。
「いや、捕獲じゃない──GMの特権技能らしい」
レオナルドからの情報だが、キョウコウに味方するGMたちはモンスターを作製する特権技能を持っている者が多いという。
№33 エメス・サイギョウ。
№45 ニャル・ウーイェン。
№52 ミラ・セッシュウ。
「少なくともこの3人は、アルマゲドンでGMを務めていた時、プレイヤーたちが戦うための敵役モンスターを管理を任されていたらしい。そのため、運営からモンスターを創るための特権技能を与えられていたそうだ」
GMたちが真なる世界にて神族化すると、その特権技能が過大能力へとパワーアップする例が多い。レオナルド、クロコ、アキがそうだ。
恐らく、彼らもその例に漏れないのだろう。
「だから、極都を守っているそのモンスターの兵たちは、捕獲などで従えたんじゃなくて、彼らが初めから部下として創り出した兵隊なんだろう」
「みたいですね。アンデッド系、ホムンクルス系、ゴーレム系……いかにも技能で創りました的なモンスターが目立ちます」
ハルカの元に、偵察に出していた人形たちが戻ってくる。
いくらラジコンサイズと言えど、ここまで見張りのモンスターがいれば発見される恐れがあるため、ツバサが戻るように指示したのだ。
「しかし……見張りや見廻りをモンスターにやらせとるのか?」
その点をドンカイは疑問視した。
巨体が目立たぬようにと林の奥から出てこないドンカイ。
少しでもドンカイを隠そうとして、ミロとトモエは彼の両肩に乗って、自分のギリースーツや迷彩マントをかぶせている。あんまり効果はない。
それを気にせず、ドンカイは話を続けた。
「聞くところによれば、キョウコウとやらは大勢のプレイヤーを傘下に置いたというが……彼らの姿は見当たらんのか? どこで何しとるんじゃ?」
「そういえば……プレイヤーらしき影は見当たりませんでしたね」
人形たちを仕舞いつつ、ハルカも奇妙そうに呟いた。
「恐らくと前置きするが……プレイヤーたちには“還らずの都”とやらを探させているんじゃないかな。そのための融通が利く人手が欲しかったんだろう」
ハトホルの谷を襲ったドンジューロウの一団。
捕らえた彼らの脳内から吸い上げた情報から、ツバサはキョウコウの考えていることを漠然とだが推察する。
「創られたモンスターは数さえ揃えば兵力として申し分ないが、そこまで頭が良くないはずだ。拠点の警備ぐらいはできても、目的の何かを探させたりする仕事には向いていない」
「なるほど、集めたプレイヤーは、その都とやらの探索に出しとるわけか」
そういうことです、とツバサはドンカイの言葉に頷いた。
ツバサは道具箱からダイン製の望遠鏡を取り出す。
一応、技能で視力を上げてから覗き込み、極都の様子を窺った。
「多分、配下に加えたプレイヤーたちを半分、もしくは3グループぐらいに区分けして、交代制で探索にでも出しているんだろう……うん、やっぱり極都の外には出てないみたいだな。大方、城の中で休んで…………ッ!?」
その時──強大なエネルギーの発動を感じた。
次の瞬間、猛スピードで風を切る何かを望遠鏡の視界で捉えたかと思えば、それは極都の最上階に激突。大爆発を引き起こした。
今のは──砲弾を撃ち込まれた?
もしくは攻撃的なエネルギー波が放たれたようだ。
極都からは濛々と黒煙が立ち上る。
これを敵襲だと理解した警備兵のモンスターたちは騒然となり、襲撃者を探し出すべく行動を開始する。極都はにわかに騒々しくなった。
その惨状を眺めていたツバサは、望遠鏡を下ろして振り向く。
「…………全員、いるよな?」
ミロ、トモエ、ドンカイ、ハルカ、カズトラ。
5人は揃って首を縦に振り、コクコクと頷いている。
ツバサに断りもなく攻撃を仕掛けるような無謀者は、少なくともこの中にはいないと信じていた(アホガールとバカガールはやりかねないが)。
それを見てツバサは得心したように頷き返した後、もう一度極都へ振り返ると、答えを求めるように誰に尋ねるでもなく言った。
「じゃあ……あれはなんだ?」
炎上する極都は、明らかに襲撃を受けている。
またエネルギーの発動を感知すると、二撃目が撃ち込まれ、今度は極都の中腹が爆発で吹き飛んだ。その攻撃は一撃目と同じものだった。
「ツバサさん、極都から二時の方向です!」
まだ偵察機を飛ばしていたハルカが、襲撃者を見付けたらしい。
手にしたままの望遠鏡を再び掲げて、ツバサもそちらに目をやる。
そこに──天翔る女騎士がいた。
純白の鎧で身を包んでいるが、余程グラマラスなスタイルをしているのか、体型に合わせた甲冑を身にまとっているため、大きなバスト、細いウェスト、ワイドなヒップラインが露骨に際立っている。
女性にしては大柄だと思う。
遠目ではっきりとはしないが、ツバサと大差ない気がする。
長身の美女は長い金髪をツインテールに分けていた。正直、あまり大人の女性がする髪型ではないのでやや不釣り合いな感じがする。
手には騎士用の馬上槍を構えており、これも鎧に合わせたのか白銀だ。
彼女の周囲には盾のような形をした物体が浮かんでおり、これが自動的に動いて彼女を守っている。ファンネルというやつだろうか?
「女騎士……? にしては、乗っているが……」
「ペガサスとかユニコーンなら様になるのに…………バイクって」
ハルカの残念そうな一言が全てである。
純白の女騎士は──空飛ぶバイクに乗っていた。
それもチョッパーカスタムとか呼ばれそうな、フロントフォークがやたらと長いバイクだ。そして、バイクのカラーリングだけは真っ黒である。
漆黒の騎馬ならぬ機馬に跨る──純白の女騎士。
彼女は右手で馬上槍を握り、左手でバイクを操っていた。
2つある純白の盾は、技能によるものか自動で防御を取ってくれるらしい。
女騎士は全力でエンジンを吹かせる。
バイクは唸り声を上げて空を駆け、極都へ突っ込んでいった。
すると、彼女の周囲に浮いていた盾が変形して、その中央から大砲のような装置がせり上がってくる。案の定、それは砲火を噴いた。
三度目の砲撃を受けた極都は──激震に揺れた。
応援ありがとうございます!
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