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一日目
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「じゃ、買い出しは男子の担当だから、頼んだよぉーっ」
砂浜に並んで立つ男性陣の前で、小ぶりな胸をライトブルーのビキニで包んだヒトミが偉そうに命令を下す。
「アタシら女子は、調理担当だからさーっ♪」
「バーベキューに調理もクソもないような気がするけどな」
不満そうにいうリクをみて、ヒトミがジト目で口を尖らせる。
「何よぉ、文句あんのーっ?」
「ないないっ! 文句ないよっ! じゃあ、行って来るね!」
ユウトは苦笑いしながら言うと、二人の男の背中をぐいぐい押して、洋館へと続く坂を上りはじめた。
「まあ、泳ぐのにも飽きてきたし、暇潰しにはちょうどいいか」
レンが言うと、リクもうなずいた。
「そうだな。女たちにあれこれ文句言われず、好きなモノ買えるしな」
こうして、三人がシャワーと着替えをすませて空き地に停めてあったミニバンに乗り込んだのが、午後四時。
町に向かって五分ほどクルマを走らせて、島にただひとつの小さなスーパーにたどり着く。
「ええと、買う物は……肉と野菜と、飲み物……それに、お菓子と、花火かぁ」
他に客のいない店内でのろのろカートを押すユウトの前で、精肉コーナーを見つけたリクが怪訝な顔をする。
「肉って……まさか、あれだけか?」
見れば、精肉コーナーの棚には、豚の薄切り肉と鶏のもも肉がわずかに数パックずつ並んでいるだけで、バーベキュー用の牛肉などはどこにも見当たらなかった。
「うわ……これはマズいね。牛肉なしのバーベキューになっちゃうよ……」
「田舎をナメてたな……。肉なんていつでもどこでも買える、という常識をまず疑ってしかるべきだった」
「仕方ない。とりあえず、今夜は豚と鶏だけで我慢するか」
レンが棚に残っていた肉をまとめてカゴにいれて、そのまま青果コーナーにいくと、意外にも、野菜や果物は売り場にかなり豊富に並んでいた。
「野菜は、十分だな。なんで、肉だけあんなに少ないんだ?」
「さあ……?」
当面必要なモノをすべてカゴに入れてレジへいくと、四十代くらいの太った女が、やたらと愛想よく対応してくれた。
「あらぁ、あんたたち、どっから来たとぉ?」
「僕たちみんな、東京の大学生なんですけど、地元は長崎です」
ユウトが笑顔で答えると、店員はさらに気をよくしたようだった。
「そぉねぇ。いま、夏休みだもんねぇ。宿は、どこに取ったと? 松尾さんとこかい?」
「この島に高校の時の同級生がいて、そこの家でお世話になってるんです。八神ユイ、っていうんですけど、知ってますか?」
ユウトが「八神」の名を出した途端、女の顔にさっと暗い影が走ったような気がした。
「……あ、あぁ、もちろん知っとるよぉ。そぉ、八神さんトコにねぇ……あそこの家、おっきいもんねぇ」
「はい」
「じゃ、それは今夜の夕飯の買い出しかい? バーベキューでもすっとぉ?」
女は、何事もなかったかのように、また明るい笑顔をつくってみせた。
「はい、そのつもりなんですけど……牛肉とか、もう全然残ってなくて。もっと早く買いにくればよかったです」
ユウトが残念そうに言うと、女はなぜか申し訳なさそうな顔で首を横に振った。
「早く来ても、ここで肉は買えんとよ」
「えっ?」
「近頃、島の人間がみんな、肉をぜんぜん食べんくなってねぇ。うちでも、ほとんど仕入れんくなっとるとよ」
「肉を、食べない……?」
「そぉ。なんか、ほら、アレ、流行っとるでしょぉ? なんだっけ、あの、べえがん、だっけ? ほら、肉食べないで、野菜ばっか食べる人達」
「ああ、ヴィーガンですか」
「そうそう、それっ! あれが、いつのまにか、この島でも流行り出したらしくてねぇ、うちに来る客も、肉や魚を買わんで、野菜ばっか買っていくとよ」
「へぇ……」
「ま、ああいうのは流行り病みたいなもんで、だいたい長続きせんから、そのうちみんなまた肉の味が恋しくなって、もとの生活に戻ると思うんだけどねぇ……」
砂浜に並んで立つ男性陣の前で、小ぶりな胸をライトブルーのビキニで包んだヒトミが偉そうに命令を下す。
「アタシら女子は、調理担当だからさーっ♪」
「バーベキューに調理もクソもないような気がするけどな」
不満そうにいうリクをみて、ヒトミがジト目で口を尖らせる。
「何よぉ、文句あんのーっ?」
「ないないっ! 文句ないよっ! じゃあ、行って来るね!」
ユウトは苦笑いしながら言うと、二人の男の背中をぐいぐい押して、洋館へと続く坂を上りはじめた。
「まあ、泳ぐのにも飽きてきたし、暇潰しにはちょうどいいか」
レンが言うと、リクもうなずいた。
「そうだな。女たちにあれこれ文句言われず、好きなモノ買えるしな」
こうして、三人がシャワーと着替えをすませて空き地に停めてあったミニバンに乗り込んだのが、午後四時。
町に向かって五分ほどクルマを走らせて、島にただひとつの小さなスーパーにたどり着く。
「ええと、買う物は……肉と野菜と、飲み物……それに、お菓子と、花火かぁ」
他に客のいない店内でのろのろカートを押すユウトの前で、精肉コーナーを見つけたリクが怪訝な顔をする。
「肉って……まさか、あれだけか?」
見れば、精肉コーナーの棚には、豚の薄切り肉と鶏のもも肉がわずかに数パックずつ並んでいるだけで、バーベキュー用の牛肉などはどこにも見当たらなかった。
「うわ……これはマズいね。牛肉なしのバーベキューになっちゃうよ……」
「田舎をナメてたな……。肉なんていつでもどこでも買える、という常識をまず疑ってしかるべきだった」
「仕方ない。とりあえず、今夜は豚と鶏だけで我慢するか」
レンが棚に残っていた肉をまとめてカゴにいれて、そのまま青果コーナーにいくと、意外にも、野菜や果物は売り場にかなり豊富に並んでいた。
「野菜は、十分だな。なんで、肉だけあんなに少ないんだ?」
「さあ……?」
当面必要なモノをすべてカゴに入れてレジへいくと、四十代くらいの太った女が、やたらと愛想よく対応してくれた。
「あらぁ、あんたたち、どっから来たとぉ?」
「僕たちみんな、東京の大学生なんですけど、地元は長崎です」
ユウトが笑顔で答えると、店員はさらに気をよくしたようだった。
「そぉねぇ。いま、夏休みだもんねぇ。宿は、どこに取ったと? 松尾さんとこかい?」
「この島に高校の時の同級生がいて、そこの家でお世話になってるんです。八神ユイ、っていうんですけど、知ってますか?」
ユウトが「八神」の名を出した途端、女の顔にさっと暗い影が走ったような気がした。
「……あ、あぁ、もちろん知っとるよぉ。そぉ、八神さんトコにねぇ……あそこの家、おっきいもんねぇ」
「はい」
「じゃ、それは今夜の夕飯の買い出しかい? バーベキューでもすっとぉ?」
女は、何事もなかったかのように、また明るい笑顔をつくってみせた。
「はい、そのつもりなんですけど……牛肉とか、もう全然残ってなくて。もっと早く買いにくればよかったです」
ユウトが残念そうに言うと、女はなぜか申し訳なさそうな顔で首を横に振った。
「早く来ても、ここで肉は買えんとよ」
「えっ?」
「近頃、島の人間がみんな、肉をぜんぜん食べんくなってねぇ。うちでも、ほとんど仕入れんくなっとるとよ」
「肉を、食べない……?」
「そぉ。なんか、ほら、アレ、流行っとるでしょぉ? なんだっけ、あの、べえがん、だっけ? ほら、肉食べないで、野菜ばっか食べる人達」
「ああ、ヴィーガンですか」
「そうそう、それっ! あれが、いつのまにか、この島でも流行り出したらしくてねぇ、うちに来る客も、肉や魚を買わんで、野菜ばっか買っていくとよ」
「へぇ……」
「ま、ああいうのは流行り病みたいなもんで、だいたい長続きせんから、そのうちみんなまた肉の味が恋しくなって、もとの生活に戻ると思うんだけどねぇ……」
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