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一日目

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 白い砂浜に突き出た岩の下の涼しい日陰に腰を下ろしたレンは、隣に坐るリクの顔を横目で見て、言った。

「八神、変わったよな」
「……ああ」

 リクは、少し離れたところで大きなビーチパラソルの下におさまっているユイとキョウコを見て、答える。

 ヒトミとアキとユウトの三人は、波打ち際でビーチバレーをして盛り上がっているが、彼らの騒ぐ声も、やはりどこか白々しく、虚ろに聞こえる。

「まあ、無理もないだろ。こんな何もない島で、二年間も障害者の母親と二人きりで暮らしてたんだ。おまけに、懸命に介護してきたその母親が、ある日いきなり自殺したとなったら、相当なショックだろうし、性格だって多少は変わるさ」

 リクは、淡々と言った。
 レンは、煽情的な白ビキニ姿のキョウコの隣で、やはり黒のワンピースを着たまま姿勢よく坐っているユイを見て、唇を噛んだ。

「……多少、か?」

 レンがもらした呟きに、リクは戸惑いの視線を返す。

「オレには、高校の時の八神と、今のアイツが、丸っきり別人のように思えるよ」
「………」
「高校の時のアイツはさ……いつも笑顔で、誰にでも優しくて、初対面のヤツにも気さくに話しかけて、あっという間に仲良くなっちゃうような、そんな……ちょっと不思議な女だった」
「……ああ、そうだったな」
「クラスでなんとなく浮いてたオレたち六人が、こうして一緒に遊んだりするようになったのも、八神がいたからだろ? オレたちの中心には、いつもアイツがいたんだ。あの頃のアイツは、年中満開の大きな花みたいで……オレたちは、そこに集まるハチか、チョウみたいなモンだった」
「俺たちは虫かよ」リクは、苦笑した。「……でも、たしかにお前の言うとおりだったかもな」

 レンは、いまも薄い笑みを顔にはり付けたままじっと遠くを見つめているユイをみて、ふいに背筋に冷たいモノを感じた。
 
「八神は、いまもああして笑ってるけど……なんというか、いまのアイツの笑顔はカラッポで、中身が何も無いように感じるんだ」
「中身が、無い?」
「なんだか、『笑顔の見本』ってタイトルの石像みたい、っていうのかな……。オレたちに、自分の本性を隠して、別人を演じているように思えるっていうか……」

 リクは、ふと小さく息を吐いて、ひょいと肩をすくめた。

「やっぱ、文学部にいくようなヤツは、言うことがちがうな」
「……どういう意味だよ」
「どんな物事にも、その裏に深い意味が隠されてあるような気がして、何でもあれこれ考えすぎる、ってことさ」
「……」
「たしかに、俺も八神は変わったと思う。でも、お前の言うように、前とはまったく違う人間になったとまでは思わない。さっきも言ったが、ついこの間あいつの母親が死んだばかりなんだぞ? あいつは、たったひとりの肉親を失ったんだ。そのショックで一時的に性格や言動がおかしくなったとしても、何ら不思議はないさ。少し時間がたって色々と落ち着いたら、また前みたいな明るさを取り戻すよ」
「……。そうか、そうかもな」

 レンはうなずいてみせたが、やはり本心では友人の言葉を素直に受け入れることはできなかった。

(リクの考えは、楽観的すぎる。このまま、この島でユイを独りにしておいたら、そのうち悪いことが起きるような気がする。母親の自殺なんかよりも、もっと恐ろしい、想像もしたくないような出来事が……)
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