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一日目

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「きゃっ!」

 砂の上に派手に尻餅をついて股を広げた全裸の女は、ひどくうろたえながら、男の顔を見上げた。

「レンくん……なにするの……?」
「お前は、誰だ……っ」

 ともすれば暴発しそうになる肉欲を必死に抑えながら、レンは女を睨みつける。

「誰って……なに言ってるの? 急にどうしちゃったの?」

 愛液で濡れた太腿に灰色の砂を塗れさせた女は、ふたたび立ち上がって、ゆっくりと男のもとへ近づいていく。

「やめろ……。オレに触るな」

 荒い息を吐くレンは、後退りしながら強い口調で言った。

「お前は、オレが知ってる八神ユイじゃない」
「どうして、そんなこと言うの……?」女は、悲しげに目を細めた。「わたしは、大好きなレンくんと再会できて、すごくうれしいのに……。レンくんとひとつになりたくて、カラダももうこんなになっちゃってるのに……」

 女は、股から滴る大量の愛液を手に塗りつけて、男の前に差し出してみせた。

 あの、どんな香水も敵わない、強い催淫効果をもつ煽情的な匂いがふたたび鼻腔に充満して、レンは眩暈を覚えた。

「っ……」
「ねえ、おねがい……。わたし、すごくさびしいの……もうひとりになりたくないの……。この島にいる間だけでもいいから、わたしをあたためて……おねがい……」

 悩ましげな声で言った女は、気がつくともう男の眼前に立っていて、その五匹の蛇のように妖しく動き回る指で相手の股間に襲いかかり、素早くパンツの中に入りこんで、男のそれをじかに刺激しはじめた。

「っう!?、ぐ、あぁ……っ」

 さっきまでの愛撫がまるでただのお遊びであったかのように、今度の女の手には、一切の容赦がなかった。

 五本の細い指のそれぞれが、男の膨らんだ亀頭を、硬くなった竿を、引き締まった陰嚢を、時に優しく、時に烈しく、滅茶苦茶に愛撫し、擦り上げ、引っ掻き、握り締めた。

「うぁっ、はぁぁっ、ぁぁあっ、ああぁぁっっ!!」

 真っ黒な、暴力的な快感が全身を貫き、レンは絶叫した。

 しかし、女のその恐ろしい指先は、けして男を絶頂までは達せさせず、そのギリギリ半歩手前で無理やり押さえつけて、限界寸前の壮絶な地獄を延々と味わわせ続けた。

「あぁっ、ぐああっ、あぁっ、ぅああぁっ!」
「ねえ……レンくんも、わたしとひとつになりたいんでしょう……? 正直になって……」
「あぁっ、がぁっ、うぐぁ、あああぁっ!」
「ほら、レンくんのここ……さっきからこんなに泣いちゃって、すごくかわいそう……。だから、ねえ、言って。わたしと、ひとつになりたいって……そうしたら一晩中……ううん、これからずうっと、本当の天国を味わわせてあげる……」
「があぁあっ、がっああぁっ!」

 レンは、逃れようのない責め苦に悶え苦しみ、口から涎を垂らしながら何度も獣のように叫んだ。

(イキたい、イキたい、イキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたいイキたい……)

 しかし、理性を手放す寸前で、ふたたびかつてのユイの、無垢で素朴な、愛らしい笑顔を思い出し、驚異的な精神力で、どうにかを正気を取り戻す。

(だめだっ……オレは、コイツの思いどおりには、ならないっ!)

 唇を血が出るほど強く噛みしめて、その鋭い痛みで悪魔の誘惑を打ち払ったレンは、股間をまさぐる女の腕を掴んで、ねじり上げた。

「っ!」

 すでに完全に己の勝利を確信していた女は、男の行動が信じられず、目を見開いたまま、わなわなと震えた。

「もう、やめろ」

 レンは、ひどく疲れた声で言った。

「何をされても、オレは、絶対にお前のモノにはならない……」

 相手の顔を見ずにそれだけいうと、レンは女をその場に残して、ひとりで洋館へと向かって歩き出した。

 我慢汁だけでぐっしょりと濡れたパンツの中では、いまも粘ついた欲望を吐き出すことのできなかったそれが、赤黒く怒張して、鈍い痛みを発していた。

 いま、振り向いてあの女を押し倒し、その熱く濡れた肉穴の中にこれを突き入れたら、一体どれほどの快感が得られるのだろうかと考えて、そんな自分が心底恐ろしくなった。

 いま、あの女に後ろから抱き締められて、もう一度あの恐ろしい指先に愛撫されたら、今度こそ自分の理性は完全に崩壊し、醜い野獣となってあの淫らな女のカラダを一晩中むさぼり続けただろう。

 しかし――、幸か不幸か、女はもう追いかけてはこず、レンは、血の滲む唇を強く噛み締めたまま、深夜の砂浜を後にした。
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