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二日目

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 見れば、ともに五十代くらいの男女が、ミニバンのそばに立ち、ニッコリ微笑みながら車内にいる人間を見つめていた。

「っ!」

 そのふたりの顔をみた瞬間、老女が顔を引きつらせ、わなわなと震えだす。

「タツ、ヤ……」

 色褪せた黒の作業着を着た中年男は、笑みを浮かべたまま、また、コン、コン、と窓ガラスを叩いた。

「……とりあえず、話を聞いてみようよ」

 アキの言葉にうなずいて、レンがドアを開けると、車外にいたふたりはすぐに深々と頭を下げた。

「うちの母がご迷惑をおかけして、申し訳ございません」
「いえ……」
「ほら、おかあさん、帰りましょう。皆さんも困ってらっしゃるから」

 黒のロングスカートを履いた中年女が穏やかに言うと、老女はまたぶんぶんと首を横に振った。

「いやだよっ! あたしは、もうあんたたちと一緒にはおられんっ!」
「また……なんで、そんな悲しいことを言うんですか」
「あんたたち、ほんとはおとうさんばどこにやったとねっ? 佐々木サンとこで寝てるなんてウソでしょうがっ!」
「おとうさんなら、もううちにいますよ?」
「えっ……」

 意外な言葉に、老女は口を半開きにしたまま、固まる。

「ついさっき、帰ってきたんですよ。自分の齢も考えずについ飲み過ぎてしまって、反省してる、って言っていました」

 女が言うと、隣で男も苦笑した。

「父さんにも困ったもんだよ。あとで、母さんもちゃんと叱ってやってくれよな」

 張りつめていた場の空気が一気に和み、若者たちも苦笑しながら顔を見合わせる。
 老女はひとり、呆けたような顔で視線を泳がせる。

「でも……あたしは、てっきり……」
「てっきり、なんだよ? まさか、オレたちが、父さんを海に捨ててきたとでも思ったんじゃないだろうな?」

 男が言った瞬間、隣で女が鼻先を天に向けて甲高い笑い声をあげた。

「あっははっ! いやですよっ、おかあさん! わたしたちがおとうさんを殺すだなんて、あーおかしいっ! ねえ、皆さんもどうぞ笑ってあげてくださいよっ。まったく、もうっ! あたしたちが、おとうさんを殺すだんて、ねえっ!」
「ほら、母さん。父さんも心配してるから、はやく帰ろう。酔い覚ましに母さんのみそ汁が飲みたい、って言ってたぞ?」

 男が笑いながら促すと、老女は、小さな体をさらに小さくして、恥ずかしそうに若者たちの顔を見回したあと、のそのそとクルマを降りた。
 
 息子夫婦に挟まれてとぼとぼと去っていく老女の後ろ姿をみて、リクがふんと鼻を鳴らした。

「まったく、とんだ人騒がせだったな……」
「ああ」

 レンもうなずいたが、腹の底では、まだ正体のわからぬ不安が渦を巻いていた。

(さっきの夫婦の笑顔、似ていた気がする……)
(ユイの、とても美しいけれど中身の無い、あの虚ろな笑顔と……)
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