ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

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二日目

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 ミニバンで洋館に戻ると、道路沿いの空き地に見慣れぬスポーツカーが停められていて、坂を上っていくと、建物の玄関の前で、見知らぬ男が女たちと談笑していた。

「あっ、帰ってきたっ!」

 ヒトミがこちらを指差して言うと、スーツ姿の男も振り向いて、微笑みながら軽く会釈をした。

 見たところ、男の年齢は三十代くらい。
 この島にはあまり似つかわしくない、洗練された細身の黒スーツと、涼しげな目元が知的な印象を与える。

「おかえりなさい」ユイは、ユウトひとりを見つめながら、言った。「こちらは、辻村さん」
「辻村です。エヌバイオファーマで研究員をしています」
「ああ」ユウトは、納得顔でうなずき、親しげな笑みを浮かべた。「八神さんから、お話は伺っています」
「母の病気のことで、前から色々と相談に乗ってもらっていたの」

 ユイは、レンたちのほうに視線を移して、言った。

「エヌバイオファーマって、あの海沿いにある研究所の会社ですよね?」

 リクが、相手の顔を無遠慮にじろじろ見つめながら問うと、男はうなずいた。

「ええ、そうです」
「あそこではいま、どんな研究をしているんですか?」
「それは、企業秘密です」男は、にこやかに言った。「……と、言いたいところですが、八神さんのご友人ということですので、特別にお教えしましょう」
「……」
「あの研究所でいま、我々はエイズに対する特効薬の開発をしています」
「エイズ……?」

 予想外の単語が飛び出し、レンとリクは眉を寄せる。

「はい。世界で抗HIV薬の開発が進んだおかげで、エイズは発症しても『すぐには死なない病気』になりました。ですが、エイズを完治させる特効薬はいまだに開発されていません。我々は最先端の設備を有するあの研究所で、世界初となるエイズの特効薬の開発を目指し、研究を続けているんです」
「でも……どうして、こんな田舎の離島に研究所をつくったんですか?」

 今度はレンが訊くと、男は、軽く肩をすくめた。

「それは、一介の研究者にすぎない僕にはわかりません。我が社の社長の独断で決められたらしいですが、この島を選んだ理由までは、知らされていません」
「……そうですか」

 言って、リクと視線を合わせたレンは、彼もまた同じ疑問を持っていることを悟った。

(エイズの特効薬の研究を、わざわざこの島でやる理由は、何だ?)
(目立たぬ場所で研究することで、産業スパイに研究の成果を盗まれないようにするため?)
(それとも……政府の目の届きにくいこの場所で、非合法な人体実験でもしているとか……?)

 レンは、ふと視線を落として、皮肉っぽい笑みを浮かべた。

(いや、まさかな。この二日間、どうも奇妙な出来事ばかり目にして、ちょっと神経質になっているようだ……)

 まもなく、男は、わざとらしく腕時計に目をやって、困ったような笑みを浮かべた。

「君たちとのおしゃべりが楽しくて、つい長居をしてしまった。せっかちな上司から電話がかかってくる前に、研究所に戻るよ」
「今度また、お暇な時にゆっくり遊びにきてくださいね。こちらは、昼でも夜でもかまいませんから……」

 言って、ユイが微笑むと、男はうなずいた。

「ありがとう」
 
 レンの注意深い視線の先で、男はほんの一瞬、ユイの隣にたつキョウコの、そのグラマラスな肢体に物欲しそうな視線を投げたように見えた。

 男が陽気に手を振りながら去っていったあと、レンとリクは、ともに理由のわからぬ不安を抱えたまま、皆の後について洋館へと入った。
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