ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

文字の大きさ
27 / 79
二日目

26

しおりを挟む
 ミニバンで洋館に戻ると、道路沿いの空き地に見慣れぬスポーツカーが停められていて、坂を上っていくと、建物の玄関の前で、見知らぬ男が女たちと談笑していた。

「あっ、帰ってきたっ!」

 ヒトミがこちらを指差して言うと、スーツ姿の男も振り向いて、微笑みながら軽く会釈をした。

 見たところ、男の年齢は三十代くらい。
 この島にはあまり似つかわしくない、洗練された細身の黒スーツと、涼しげな目元が知的な印象を与える。

「おかえりなさい」ユイは、ユウトひとりを見つめながら、言った。「こちらは、辻村さん」
「辻村です。エヌバイオファーマで研究員をしています」
「ああ」ユウトは、納得顔でうなずき、親しげな笑みを浮かべた。「八神さんから、お話は伺っています」
「母の病気のことで、前から色々と相談に乗ってもらっていたの」

 ユイは、レンたちのほうに視線を移して、言った。

「エヌバイオファーマって、あの海沿いにある研究所の会社ですよね?」

 リクが、相手の顔を無遠慮にじろじろ見つめながら問うと、男はうなずいた。

「ええ、そうです」
「あそこではいま、どんな研究をしているんですか?」
「それは、企業秘密です」男は、にこやかに言った。「……と、言いたいところですが、八神さんのご友人ということですので、特別にお教えしましょう」
「……」
「あの研究所でいま、我々はエイズに対する特効薬の開発をしています」
「エイズ……?」

 予想外の単語が飛び出し、レンとリクは眉を寄せる。

「はい。世界で抗HIV薬の開発が進んだおかげで、エイズは発症しても『すぐには死なない病気』になりました。ですが、エイズを完治させる特効薬はいまだに開発されていません。我々は最先端の設備を有するあの研究所で、世界初となるエイズの特効薬の開発を目指し、研究を続けているんです」
「でも……どうして、こんな田舎の離島に研究所をつくったんですか?」

 今度はレンが訊くと、男は、軽く肩をすくめた。

「それは、一介の研究者にすぎない僕にはわかりません。我が社の社長の独断で決められたらしいですが、この島を選んだ理由までは、知らされていません」
「……そうですか」

 言って、リクと視線を合わせたレンは、彼もまた同じ疑問を持っていることを悟った。

(エイズの特効薬の研究を、わざわざこの島でやる理由は、何だ?)
(目立たぬ場所で研究することで、産業スパイに研究の成果を盗まれないようにするため?)
(それとも……政府の目の届きにくいこの場所で、非合法な人体実験でもしているとか……?)

 レンは、ふと視線を落として、皮肉っぽい笑みを浮かべた。

(いや、まさかな。この二日間、どうも奇妙な出来事ばかり目にして、ちょっと神経質になっているようだ……)

 まもなく、男は、わざとらしく腕時計に目をやって、困ったような笑みを浮かべた。

「君たちとのおしゃべりが楽しくて、つい長居をしてしまった。せっかちな上司から電話がかかってくる前に、研究所に戻るよ」
「今度また、お暇な時にゆっくり遊びにきてくださいね。こちらは、昼でも夜でもかまいませんから……」

 言って、ユイが微笑むと、男はうなずいた。

「ありがとう」
 
 レンの注意深い視線の先で、男はほんの一瞬、ユイの隣にたつキョウコの、そのグラマラスな肢体に物欲しそうな視線を投げたように見えた。

 男が陽気に手を振りながら去っていったあと、レンとリクは、ともに理由のわからぬ不安を抱えたまま、皆の後について洋館へと入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...