論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第30話「運命は気まぐれじゃない」

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 午前6時の交差点。

 透は、朝日を見ていた。

 五つの道が、光に照らされる。

 どの道も、美しい。

「運命は、選択の積み重ねだ」

 透は小さくつぶやく。

 美月に出会ったのは、偶然じゃない。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第30話。

 透は、この交差点に立つことを選んだ。

 妹の死後、透はここに相談所を開いた。

 それは、偶然じゃない。

 選択だった。

 そして、美月もここに来ることを選んだ。

 それも、偶然じゃない。

 選択だった。

 二人の選択が、交差した。

 それが、運命だ。

 透は、小さく笑う。

 運命は、気まぐれじゃない。

 必然だ。

 ◆

 午後3時の古本屋。

 透は、哲学書の棚を整理していた。

 スピノザ、ライプニッツ、ショーペンハウアー。

 運命を探求した学者たちの言葉が、並んでいる。

「運命は、決定されている」

 透は小さくつぶやく。

 でも、今の透は違う答えを持っている。

「運命は、自分で決める」

 その時、店のドアが開いた。

 透は顔を上げる。

 美月だった。

 でも、いつもと違う。

 目が、少し赤い。

「藤原さん」

 美月の声が、震えている。

 透は、本を置く。

「どうしたんですか?」

「ギャラリーから、連絡がありました」

 美月は、透に近づく。

「やっぱり、企画は通らないって」

 透の心臓が、止まる。

「どうして……」

「私の過去が、問題だって。スポンサーが難色を示してるって」

 美月の目から、涙が溢れる。

「藤原さん、私……やっぱりダメでした」

 透は、美月の肩に手を置く。

「美月さん……」

「三年前のこと、まだ許されてないんです」

 美月は、顔を覆う。

「私が傷つけた人は、まだ苦しんでるんです。なのに、私だけ夢を叶えるなんて……」

 透は、美月を抱きしめる。

「美月さんは、悪くありません」

「でも、私が描いたんです」

 美月は、透の胸で泣く。

「私の絵で、人が傷ついたんです」

 透は、何も言えない。

 ただ、美月を抱きしめている。

 店主の老人が、カウンターで心配そうに見ている。

 しばらくして、美月は顔を上げる。

「藤原さん、ありがとうございます」

 美月は、涙を拭う。

「でも、私、まだ描き続けます」

 透は、美月の目を見る。

「はい」

「いつか、許される日が来るまで」

 美月は、小さく笑う。

「運命は、気まぐれじゃないんですよね」

 透は、頷く。

「はい。選択の積み重ねです」

 美月は、透の手を取る。

「藤原さんと出会えたのは、運命です」

 透は、美月の手を握る。

「俺も、そう思います」

 二人は、しばらく手を握り合っている。

 言葉は、要らない。

 ただ、そこにいる。

 それだけで、十分だ。

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『運命を、信じますか?

 それとも、運命は自分で作るものですか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 今日、美月に話したことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「運命の必然性をF、選択の自由度をC、偶然の確率をRとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 運命は、選択だ」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『運命を、信じます。

 でも、運命は気まぐれじゃありません。

 運命は、選択の積み重ねです。

 あなたが、今日何を選ぶか。

 それが、明日の運命を作ります。

 あなたが、誰を選ぶか。

 それが、未来の運命を作ります。

 運命は、決定されていません。

 運命は、自分で決めるものです。

 でも、運命は偶然でもありません。

 運命は、必然です。

 あなたの選択が、必然を作ります。

 運命を信じてください。

 でも、運命に任せないでください。

 運命を、自分で作ってください。

 選択を、積み重ねてください。

 それが、あなたの運命です。

 私も、運命を作っています。

 毎日、選択を積み重ねて。

 そして、今日、私は運命に出会いました。

 それは、偶然じゃありません。

 必然です。

 私が選んだから。

 あなたも、運命を作ってください。

 選択を、積み重ねてください。

 運命は、気まぐれじゃありません。

 必然です。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、答えを見つけた。

 運命は、気まぐれじゃない。

 選択の積み重ねだ。

 でも、妹の選択は、透には変えられなかった。

 あの日の電話を切った選択は、透のものだった。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 雪の字が、指先に触れる。

 最後のページだけ開く。

「透お兄ちゃん、ごめ」

 インクが、滲んでいる。

 涙で。

 でも、他のページは、まだ開けない。

 透は星座図を閉じた。

 まだ、全部は見られない。

 運命は、気まぐれじゃない。

 でも、赦しは、まだ来ない。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、過去に繋がっている。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さく祈る。

 不器用に。

「ゆき、ごめん」

 でも、返事はない。

 運命は、気まぐれじゃない。

 でも、赦しは、気まぐれだ。

 いつ来るか、分からない。

(第30話完 次話へ続く)

 次回、透は「あの日の選択」を振り返る。
 そして、透の過去が——君の想像する「真実」が、明らかになり始める——。
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