32 / 63
第32話「君が消えた30秒」
しおりを挟む
午後11時の相談所。
透は携帯を見つめていた。
美月からの連絡が途絶えて3日目。
メッセージは既読にならない。
電話も繋がらない。
「美月さん……」
透は小さくつぶやく。
心臓が痛む。
◆
五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第32話。
透は何度もメッセージを送る。
『美月さん、大丈夫ですか?』
『返事をください』
『心配しています』
でも既読にならない。透の手が震える。
「また失うのか……」
透は机に突っ伏す。妹を失った時と同じ感覚。
誰かが消える。手を伸ばしても届かない。
透は目をこする。
また、だ。
最近視界が歪む。疲れているだけだ。
そう自分に言い聞かせる。でも心臓が痛い。息が苦しい。
透は立ち上がり窓を開ける。
冷たい風が吹き込む。
交差点に誰かが立っている気がした。
でも、誰もいない。
透は窓を閉める。
その時、携帯が鳴った。
透は飛びつく。でも画面には何も表示されない。着信音だけが鳴っている。
あの日の着信音。
透の心臓が止まる。
「雪……?」
着信音が30秒だけ鳴り続ける。
透は耳を塞ぐ。
「やめてくれ……」
でも音は止まらない。
透の視界が歪む。フラッシュバック。
8年前の11月18日。
透の携帯が鳴る。雪からの着信。
「お兄ちゃん、今から星見に行くね」
雪の声が、弾んでいる。
「待って、今日は寒いから——」
透は、言いかける。でも、雪は電話を切る。
30秒の通話。
それが、最後だった。
透は、その30秒を何度も思い出す。
「待って」と言えなかった。
「行かないで」と言えなかった。
ただ、電話を切られた。そして、雪は帰ってこなかった。
透の視界が、戻る。
着信音が、止まる。
透は、床に座り込む。
「ごめん……雪……」
透は、初めて声に出す。
「俺が、悪かった……」
涙が、溢れる。
透は、顔を覆う。
「美月さん……消えないでくれ……」
透は、小さく祈る。
でも、返事はない。
◆
午前2時の相談所。
透は、眠れず机に向かっていた。
新しい手紙を開く。
便箋には、丸い文字でこう書かれていた。
『大切な人が、消えました。
連絡が取れません。
また、失うのが怖いです。
どうしたらいいですか?
28歳・男性』
透の手が、止まる。
これは、俺のことだ。
透はペンを取り、ノートに書き込む。
「喪失の恐怖をF、過去のトラウマをT、現在の不安をAとする。
だが、この式には本質が欠けている。
恐怖は、愛の裏返しだ」
透の手が、震える。
でも、今度は迷わない。
透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。
『大切な人が、消えました。
その恐怖は、分かります。
私も、同じです。
妹を失いました。
そして今、大切な人の連絡が途絶えています。
また、失うのが怖いです。
でも、恐怖は、愛の裏返しです。
あなたが怖いのは、その人を愛しているからです。
失いたくないのは、その人が大切だからです。
恐怖を、否定しないでください。
恐怖を、受け入れてください。
そして、待ってください。
大切な人は、必ず戻ってきます。
信じてください。
私も、信じています。
美月さんが、戻ってくることを。
藤原透』
透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。
透は、初めて自分の本音を書いた。
美月を、失いたくない。
その感情が、初めて言葉になった。
透は引き出しを開ける。
星座図に、手を伸ばす。
指先が震える。
触れる。
埃が、舞う。
でも、開けない。
まだ、開けない。
透は星座図を閉じた。
透は相談所を出て、交差点に立つ。
五つの道。
どれも、誰かが消えた道。
風が、冷たく吹き抜ける。
星空が、静かに輝いている。
透は、小さく祈る。
「美月さん、戻ってきてくれ」
でも、返事はない。
風が、妹の声に変わる。
「お兄ちゃん、待ってて」
透の視界が、歪む。
「待ってる……」
透は、小さく言う。
君が消えた30秒。
それが、永遠に感じる。
でも、透は待つ。
美月が、戻ってくるまで。
(第32話完 次話へ続く)
次回、透は「取り戻せないもの」を知る。
そして、透の探求が——君の想像する「過去」が、暴かれ始める——。
透は携帯を見つめていた。
美月からの連絡が途絶えて3日目。
メッセージは既読にならない。
電話も繋がらない。
「美月さん……」
透は小さくつぶやく。
心臓が痛む。
◆
五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第32話。
透は何度もメッセージを送る。
『美月さん、大丈夫ですか?』
『返事をください』
『心配しています』
でも既読にならない。透の手が震える。
「また失うのか……」
透は机に突っ伏す。妹を失った時と同じ感覚。
誰かが消える。手を伸ばしても届かない。
透は目をこする。
また、だ。
最近視界が歪む。疲れているだけだ。
そう自分に言い聞かせる。でも心臓が痛い。息が苦しい。
透は立ち上がり窓を開ける。
冷たい風が吹き込む。
交差点に誰かが立っている気がした。
でも、誰もいない。
透は窓を閉める。
その時、携帯が鳴った。
透は飛びつく。でも画面には何も表示されない。着信音だけが鳴っている。
あの日の着信音。
透の心臓が止まる。
「雪……?」
着信音が30秒だけ鳴り続ける。
透は耳を塞ぐ。
「やめてくれ……」
でも音は止まらない。
透の視界が歪む。フラッシュバック。
8年前の11月18日。
透の携帯が鳴る。雪からの着信。
「お兄ちゃん、今から星見に行くね」
雪の声が、弾んでいる。
「待って、今日は寒いから——」
透は、言いかける。でも、雪は電話を切る。
30秒の通話。
それが、最後だった。
透は、その30秒を何度も思い出す。
「待って」と言えなかった。
「行かないで」と言えなかった。
ただ、電話を切られた。そして、雪は帰ってこなかった。
透の視界が、戻る。
着信音が、止まる。
透は、床に座り込む。
「ごめん……雪……」
透は、初めて声に出す。
「俺が、悪かった……」
涙が、溢れる。
透は、顔を覆う。
「美月さん……消えないでくれ……」
透は、小さく祈る。
でも、返事はない。
◆
午前2時の相談所。
透は、眠れず机に向かっていた。
新しい手紙を開く。
便箋には、丸い文字でこう書かれていた。
『大切な人が、消えました。
連絡が取れません。
また、失うのが怖いです。
どうしたらいいですか?
28歳・男性』
透の手が、止まる。
これは、俺のことだ。
透はペンを取り、ノートに書き込む。
「喪失の恐怖をF、過去のトラウマをT、現在の不安をAとする。
だが、この式には本質が欠けている。
恐怖は、愛の裏返しだ」
透の手が、震える。
でも、今度は迷わない。
透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。
『大切な人が、消えました。
その恐怖は、分かります。
私も、同じです。
妹を失いました。
そして今、大切な人の連絡が途絶えています。
また、失うのが怖いです。
でも、恐怖は、愛の裏返しです。
あなたが怖いのは、その人を愛しているからです。
失いたくないのは、その人が大切だからです。
恐怖を、否定しないでください。
恐怖を、受け入れてください。
そして、待ってください。
大切な人は、必ず戻ってきます。
信じてください。
私も、信じています。
美月さんが、戻ってくることを。
藤原透』
透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。
透は、初めて自分の本音を書いた。
美月を、失いたくない。
その感情が、初めて言葉になった。
透は引き出しを開ける。
星座図に、手を伸ばす。
指先が震える。
触れる。
埃が、舞う。
でも、開けない。
まだ、開けない。
透は星座図を閉じた。
透は相談所を出て、交差点に立つ。
五つの道。
どれも、誰かが消えた道。
風が、冷たく吹き抜ける。
星空が、静かに輝いている。
透は、小さく祈る。
「美月さん、戻ってきてくれ」
でも、返事はない。
風が、妹の声に変わる。
「お兄ちゃん、待ってて」
透の視界が、歪む。
「待ってる……」
透は、小さく言う。
君が消えた30秒。
それが、永遠に感じる。
でも、透は待つ。
美月が、戻ってくるまで。
(第32話完 次話へ続く)
次回、透は「取り戻せないもの」を知る。
そして、透の探求が——君の想像する「過去」が、暴かれ始める——。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。
婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。
しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。
儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで——
「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」
「……そんなことにはならない」
また始まった二人の世界。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
後の祭り
ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる