論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第33話「取り戻せないもの」

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 午前2時の相談所。

 透は、パソコンの画面を見つめていた。

 検索バーに、「星野美月 イラストレーター」と入力する。

 指が、震える。

「美月さんの過去……」

 透は小さくつぶやく。

 エンターキーを押す。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第33話。

 検索結果が、表示される。

 いくつかの記事。

 透は、一番上の記事をクリックする。

『風刺イラストが原因で自殺未遂、イラストレーター謝罪』

 日付:3年前の7月15日。

 透の心臓が、跳ねる。

 記事を読み進める。

『フリーイラストレーター・星野美月さん(当時27歳)が描いた風刺イラストが、誤報に基づいていたことが判明。イラストの対象となった人物が自殺未遂を図り、現在も治療中。星野さんは謝罪コメントを発表し、イラストレーター活動を休止すると発表した』

 透の息が、止まる。

「美月さん……」

 透は、記事を何度も読み返す。

 でも、被害者の名前は伏せられている。

「誰を、傷つけたんだ……」

 透は、さらに検索する。

「星野美月 自殺未遂 被害者」

 いくつかの記事が出てくる。

 でも、どれも被害者の名前は書かれていない。

 透の手が、震える。

「美月さんの過去……これか」

 透は、椅子に深く座る。

 美月が、誰かを傷つけた。

 その罪を、背負っている。

 だから、あんなに苦しんでいたのか。

 透は、美月の顔を思い出す。

 いつも少し疲れた笑顔。

 でも、優しい笑顔。

「美月さん……」

 透は、携帯を取る。

 美月に電話する。

 でも、繋がらない。

「どこにいるんだ……」

 透は、机に突っ伏す。

 心臓が、痛む。

 ◆

 午前3時の相談所。

 透は、さらに検索を続けていた。

「星野美月 被害者 名前」

 いくつかの掲示板が出てくる。

 透は、一つをクリックする。

 匿名の書き込み。

『星野美月のせいで自殺未遂した人、知ってる人いる?』

『被害者の名前、どこかで見た気がする』

『確か、藤原って名前だったような……』

 透の心臓が、止まる。

「藤原……?」

 透は、さらに読み進める。

『藤原雪さんだったと思う』

 透の視界が、歪む。

「雪……?」

 透は、椅子から立ち上がる。

 手が、震える。

「まさか……」

 透は、引き出しを開ける。

 雪の死亡診断書。

 日付:8年前の11月18日。

 透は、記事の日付を確認する。

 3年前の7月15日。

「違う……時期が合わない……」

 透は、混乱する。

 雪は、8年前に死んだ。

 でも、美月の記事は3年前。

「別の雪……?」

 透は、小さくつぶやく。

 でも、名前が同じ。

「藤原雪」

 透の心臓が、痛む。

「美月さんの『雪ちゃん』は……誰なんだ……」

 透は、床に座り込む。

 頭を抱える。

「分からない……」

 透は、涙を流す。

「雪……美月さん……」

 透は、二人の名前を呼ぶ。

 でも、返事はない。

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『過去を調べました。

 でも、真実が分かりません。

 時期が合わないのに、名前が同じです。

 これは、偶然なのでしょうか?

 それとも、運命なのでしょうか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「偶然の確率をC、運命の必然性をF、真実の重さをTとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 真実は、時に取り戻せない」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『過去を調べました。

 でも、真実が分かりません。

 それは、正常です。

 真実は、時に隠されています。

 時期が合わないのに、名前が同じ。

 それは、偶然かもしれません。

 それとも、運命かもしれません。

 でも、真実を知ることは、怖いです。

 真実を知ったら、取り戻せないものがあります。

 過去は、変えられません。

 でも、未来は、変えられます。

 真実を知る勇気を持ってください。

 そして、未来を選ぶ勇気を持ってください。

 私も、勇気を出します。

 美月さんの真実を、知るために。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、決意した。

 美月の真実を、知る。

 どんなに怖くても。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 でも、開けない。

 まだ、開けない。

 透は星座図を閉じた。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、真実に繋がっている。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さくつぶやく。

「取り戻せないもの」

 それは、過去。

 でも、未来は、まだ取り戻せる。

 透は、前に進む。

 美月を、探すために。

(第33話完 次話へ続く)

 次回、透は「ガラス越しの本音」を聞く。
 そして、透の決意が——君の想像する「覚悟」が、試され始める——。
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