論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第34話「ガラス越しの本音」

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 午後3時のカフェ。

 透は、窓際の席に座っていた。

 美月を、探して5日目。

 やっと、見つけた。

 窓の外、美月が歩いている。

 透は、立ち上がる。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第34話。

 透は、カフェを出る。

「美月さん!」

 透は、叫ぶ。

 美月が、振り返る。

 その目が、驚きに染まる。

「藤原さん……」

 美月の声が、震えている。

 透は、美月に駆け寄る。

「どこに行ってたんですか? 連絡が取れなくて……」

 美月は、目を伏せる。

「ごめんなさい……」

 透は、美月の肩に手を置く。

「大丈夫ですか?」

 美月は、頷く。

 でも、涙が溢れる。

「藤原さん……話が、あります」

「ここでは、話せません」

 透は、カフェを指す。

「あそこで、話しましょう」

 美月は、頷く。

 二人は、カフェに入る。

 でも、美月は窓の外の席を選ぶ。

 透は、窓の内側に座る。

 ガラス越しに、向かい合う。

 物理的な距離。

 それが、二人の心の距離を表している。

「美月さん……」

 透は、ガラスに手を当てる。

 美月も、ガラスに手を当てる。

 でも、触れられない。

「藤原さん、私……」

 美月の声が、震える。

「私、藤原さんを傷つけるかもしれません」

 透の心臓が、止まる。

「どういう、ことですか?」

 美月は、涙を流す。

「私の過去が……藤原さんに繋がっているかもしれないんです」

 透は、息を呑む。

「雪ちゃんのこと……ですか?」

 美月は、頷く。

「はい……私が傷つけた雪ちゃんが……藤原さんの妹さんかもしれないんです」

 透の視界が、歪む。

「でも、時期が合いません。妹は8年前に死にました。あなたの記事は3年前です」

 美月は、顔を上げる。

「記事……見たんですか?」

 透は、頷く。

「はい。あなたを探すために」

 美月は、涙を拭う。

「ごめんなさい……心配かけて……」

「でも、私……まだ全部話せないんです」

 透は、ガラスを叩く。

「どんな過去でも、受け止めます」

 美月は、首を振る。

「藤原さんは、優しすぎます」

「私の過去を知ったら……藤原さんは、私を許せないかもしれません」

 透は、強く言う。

「そんなことありません」

 美月は、小さく笑う。

 でも、その笑顔が、壊れている。

「ありがとうございます……でも、まだ言えないんです」

 美月は、立ち上がる。

「ごめんなさい」

 美月は、去ろうとする。

 透は、ガラスに手を当てる。

「美月さん!」

 美月は、振り返らない。

 ただ、歩き去る。

 透は、ガラスに額を当てる。

 冷たい。

 触れられない。

 この距離が、もどかしい。

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丸い文字でこう書かれていた。

『大切な人に、過去を話せません。

 話したら、嫌われそうで怖いです。でも、隠し続けるのも、苦しいです。

 どうしたらいいですか?

 30歳・女性』

 透の手が、止まる。

 これは、美月さんのことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「秘密の重さをS、告白の勇気をC、拒絶の恐怖をFとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 秘密は、距離を作る」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『大切な人に、過去を話せません。

 その気持ちは、分かります。

 話したら、嫌われそうで怖い。でも、隠し続けるのも、苦しい。

 それは、正常です。

 秘密は、距離を作ります。

 ガラス越しに話すように、触れられない距離を。

 でも、秘密を話すことは、勇気が要ります。

 拒絶される恐怖があります。

 でも、秘密を話さないことは、もっと苦しいです。

 距離が、どんどん広がります。

 いつか、話してください。

 あなたのペースで。

 大切な人は、待ってくれます。

 私も、待っています。

 美月さんが、話してくれるまで。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、決意した。

 美月を、待つ。どんなに時間がかかっても。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 でも、開けない。

 まだ、開けない。

 透は星座図を閉じた。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、美月に繋がっている。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さくつぶやく。

「ガラス越しの本音」

 それは、触れられない。

 でも、いつか触れられる日が来る。

 透は、信じる。

 美月が、戻ってくることを。

(第34話完 次話へ続く)

 次回、透は「君の秘密を探した」真実を知る。
 そして、透の世界が——君の想像する「現実」が、崩れ始める——。
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