論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第36話「傷だらけの優しさ」

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 午後11時の相談所。

 透は、机に向かっていた。

 その時、ドアが開いた。

 美月が、入ってきた。

 目が、赤い。

 泣いていたのだ。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第36話。

「美月さん……」

 透は、立ち上がる。

 美月は、机の前に立つ。

「藤原さん……話が、あります」

 美月の声が、震えている。

 透は頷く。

「どうぞ、座ってください」

 美月は座る。透も、向かいに座った。

 しばらく沈黙が続く。

 美月は、手を握りしめている。

 震えている。

「藤原さん……私……」

 美月の声が、途切れる。

 涙が、溢れる。

「私が……雪ちゃんを傷つけました」

 透の心臓が、止まる。

「雪ちゃん……?」

 美月は、頷く。

「はい……3年前に、私が描いたイラストで……雪ちゃんが自殺未遂を……」

 透は、息を呑む。

「でも、雪は8年前に死にました」

 透は、静かに言う。

「あなたの記事は3年前です。時期が合いません」

 美月は、顔を上げる。

「8年前……?」

 美月は、混乱している。

「でも……私が傷つけた雪ちゃんは……3年前に……」

 透は、首を振る。

「妹の雪は、8年前の11月18日に死にました」

 美月の目から、涙が溢れる。

「じゃあ……別の雪ちゃん……?」

 透は、頷く。

「そうだと思います。同姓同名の……」

 でも、透の心臓が、痛む。

 名前が同じ。

 年齢も同じ。

 偶然にしては、一致しすぎている。

「美月さん……あなたが傷つけた雪ちゃんは……どんな人でしたか?」

 美月は、涙を拭う。

「17歳の女の子でした……明るくて、星が好きで……」

 透の視界が、歪む。

「星が……好き……?」

 美月は、頷く。

「はい……いつも星のイラストを描いてて……私に見せてくれました」

 透の心臓が、止まる。

「星の……イラスト……」

 透は、引き出しを開ける。

 雪の星座図。

 表紙に、星のイラスト。

 透は、それを美月に見せる。

「これと……似ていますか?」

 美月は、息を呑む。

「これ……雪ちゃんの……」

 美月の手が、震える。

「同じです……私が知ってた雪ちゃんの絵と……」

 透の視界が、歪む。

「でも……時期が合わない……」

 透は、混乱する。

 妹の雪は、8年前に死んだ。

 でも、美月の雪ちゃんは、3年前に自殺未遂。

「分からない……」

 透は、頭を抱える。

 美月も、泣いている。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 美月は、何度も謝る。

 透は、美月の手を取る。

「美月さん……」

 美月は、透を見る。

「私……藤原さんの妹さんを傷つけたかもしれないんです……」

 透は、首を振る。

「時期が合いません。別の人です」

 でも、透の心は、確信が持てない。

 あまりにも一致しすぎている。

「美月さん……もしかして、妹を知っていたんですか? 8年前に」

 美月は、考える。

「8年前……私は20歳でした……大学生で……」

 美月の目が、何かを思い出す。

「待って……8年前の11月……」

 美月の顔が、青ざめる。

「私……その頃、SNSで星のイラストを投稿してて……ある女の子と仲良くなって……」

 透の心臓が、跳ねる。

「その子の名前は……?」

 美月は、震える声で言う。

「雪ちゃん……でした……」

 透の視界が、真っ白になる。

「雪……」

 透は、立ち上がる。

「じゃあ……美月さんは……妹を知っていたんですか?」

 美月は、涙を流す。

「でも……私が傷つけたのは3年前の雪ちゃんで……」

 透は、混乱する。

「二人の雪ちゃん……?」

 美月も、混乱している。

「分からない……でも、8年前の雪ちゃんと、3年前の雪ちゃんが……同じ人だったら……」

 透の心臓が、止まる。

「でも、妹は8年前に死んだ……」

 二人とも、言葉を失う。

 真実が、見えない。

 でも、何かが繋がっている。

 美月は、立ち上がる。

「ごめんなさい……私、混乱してて……」

 透は、美月を抱きしめる。

「大丈夫です……一緒に、真実を探しましょう」

 美月は、透の胸で泣く。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 透も、涙を流す。

「俺も……ごめん……」

 二人は、抱き合ったまま、泣く。

 傷だらけの優しさ。

 それが、二人を繋いでいる。

 ◆

 午前2時の相談所。

 美月は帰り、透は一人だった。

 透は机に向かい、新しい手紙を開く。

 便箋には、丸い文字でこう書かれていた。

『真実が、分かりません。

 時期が合わないのに、すべてが一致します。

 これは、どういうことなのでしょうか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「矛盾の数をC、一致の数をM、真実の確率をTとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 真実は、時に残酷だ」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『真実が、分かりません。

 それは、正常です。

 真実は、時に隠されています。

 時期が合わないのに、すべてが一致する。

 それは、何か理由があります。

 でも、真実を知ることは、怖いです。

 真実は、時に残酷です。

 でも、真実を知らないことは、もっと残酷です。

 勇気を出してください。

 真実を、知ってください。

 私も、勇気を出します。

 妹の真実を、知るために。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 でも、開けない。

 まだ、開けない。

 透は星座図を閉じた。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、真実に繋がっている。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さくつぶやく。

「傷だらけの優しさ」

 それが、俺たちを繋いでいる。

 でも、真実は、まだ見えない。

(第36話完 次話へ続く)

 次回、透は「破られた約束」を知る。
 そして、透の恋が——君の想像する「終わり」が、近づき始める——。
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