論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第37話「破られた約束」

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 午前0時の相談所。

 透と美月は、向かい合って座っていた。

 沈黙が、重い。

 美月は、何かを決意した顔をしている。

「藤原さん……」

 美月の声が、震える。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第37話。

「もう、会えません」

 美月の言葉が、透の心臓を貫く。

「どうして……」

 透は、小さく言う。

 美月は、涙を流す。

「私……藤原さんの妹さんと繋がっているかもしれないんです」

「8年前の雪ちゃんも、3年前の雪ちゃんも……もしかしたら同じ人で……」

 透は、首を振る。

「でも、時期が合いません」

 美月は、立ち上がる。

「分かりません……でも、私は藤原さんを傷つけるかもしれないんです」

「だから……もう会えません」

 透は、立ち上がる。

「待ってください」

 透は、美月の手を取る。

「俺は、待ちます」

 美月は、透を見る。

「待つ……?」

 透は、頷く。

「はい。美月さんが真実を整理するまで。どれだけ時間がかかっても」

 美月は、涙を拭う。

「でも……私は許されないんです」

「雪ちゃんを傷つけた私は……藤原さんの隣にいる資格がないんです」

 透は、美月を抱きしめる。

「そんなことありません」

 美月は、透の胸で泣く。

「でも……」

「美月さん、俺は待ちます。約束します」

 美月は、顔を上げる。

「約束……」

 透は、頷く。

「はい。美月さんが戻ってくるまで、ここで待ちます」

 美月は、小さく笑う。

 でも、その笑顔が、悲しい。

「ごめんなさい……その約束、守れないかもしれません」

 美月は、透の手を離す。

「私……もう戻れないかもしれないんです」

 透の心臓が、止まる。

「どういう、ことですか?」

 美月は、首を振る。

「まだ、言えません……でも、ありがとうございました」

 美月は、踵を返す。

「美月さん!」

 透は、叫ぶ。

 でも、美月は振り返らない。

 ドアが、閉まる。

 透は、一人残される。

 透は、床に座り込む。

「約束……破られた……」

 透は、小さくつぶやく。

 心臓が、痛む。

 息が、苦しい。

 透は、引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 透は、星座図を開こうとする。

 でも、手が震えて、開けない。

「開けない……」

 透は、涙を流す。

「雪……美月さん……」

 透は、二人の名前を呼ぶ。

 でも、返事はない。

 透は、星座図を閉じる。

 まだ、全部は見られない。

 ◆

 午前2時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『約束を、破られました。

 待つと言ったのに、相手は戻らないと言いました。

 どうしたらいいですか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「約束の重さをP、待つ覚悟をW、戻る確率をRとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 約束は、時に破られる」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『約束を、破られました。

 その痛みは、分かります。

 待つと言ったのに、相手は戻らないと言いました。

 それは、残酷です。

 でも、約束は、時に破られます。

 相手にも、理由があります。

 戻れない理由が。

 でも、あなたは待つことができます。

 約束が破られても、待つことができます。

 それが、愛です。

 相手を信じて、待つこと。

 それが、あなたにできることです。

 私も、待ちます。

 美月さんが、戻ってくるまで。

 約束が破られても。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、決意した。

 美月を、待つ。

 約束が破られても。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、美月が消えた道。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さくつぶやく。

「破られた約束」

 でも、俺は待つ。

 美月が、戻ってくるまで。

 透は、交差点に立ち尽くす。

 風が、妹の声に変わる。

「お兄ちゃん、待ってて」

 透の視界が、歪む。

「待ってる……」

 透は、小さく言う。

 雪も、美月も。

 俺は、待つ。

 どれだけ時間がかかっても。

(第37話完 次話へ続く)

 次回、透は「ふたりの終わり方」を見る。
 そして、透の心が——君の想像する「崩壊」が、始まる——。
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