論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

文字の大きさ
38 / 63

第38話「ふたりの終わり方」

しおりを挟む
 深夜1時の交差点。

 透は、美月を追いかけていた。

 五つの道。

 どれかに、美月が消えた。

「美月さん!」

 透は、叫ぶ。

 でも、返事はない。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第38話。

 透は、一つ一つの道を走る。

 でも、美月の姿はない。

「どこに行ったんだ……」

 透は、息を切らす。

 心臓が、痛む。

 透は、交差点に戻る。

 五つの道の真ん中。

 透は、立ち尽くす。

「美月さん……」

 透は、小さく呟く。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 透の視界が、歪む。

 そして、見える。

 雪の幻覚。

 交差点の向こうに、雪が立っている。

 17歳の雪。

 あの日と同じ、制服姿。

「お兄ちゃん……」

 雪の声が、聞こえる。

 透の心臓が、止まる。

「雪……?」

 透は、一歩踏み出す。

 雪は、小さく笑う。

 でも、その笑顔が、悲しい。

「お兄ちゃん、ごめんね」

 雪の目から、涙が溢れる。

「私、お兄ちゃんを困らせちゃった」

 透は、首を振る。

「違う……俺が悪かったんだ……」

 透は、雪に近づく。

 でも、雪は遠ざかる。

「お兄ちゃん、私のこと……許してくれる?」

 透の視界が、涙で歪む。

「許すも何も……俺が許されないんだ……」

 透は、大声で叫ぶ。

「ごめん! 俺が悪かった!」

 透の声が、交差点に響く。

「あの日、電話を切らなければ……」

「待ってって言えば……」

「お前を止められたのに……」

 透は、膝をつく。

「ごめん……ごめん……」

 透は、何度も謝る。

 雪は、小さく笑う。

「お兄ちゃん、ありがとう」

 雪の姿が、薄れていく。

「待って!」

 透は、手を伸ばす。

 でも、雪は消える。

 風だけが、残る。

 透は、交差点の真ん中で、一人泣く。

「雪……」

 透は、小さく呟く。

 心臓が、痛む。

 息が、苦しい。

 透は、顔を上げる。

 星空が、静かに輝いている。

「雪……美月さん……」

 透は、二人の名前を呼ぶ。

 でも、返事はない。

 透は、立ち上がる。

 足が、震える。

 でも、歩き出す。

 相談所に、戻る。

 一人で。

 ◆

 午前3時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丸い文字でこう書かれていた。

『大切な人を、見失いました。

 追いかけたけど、見つかりませんでした。

 もう、会えないのでしょうか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「喪失の痛みをL、追跡の努力をE、再会の確率をRとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 終わりは、時に突然来る」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『大切な人を、見失いました。

 その痛みは、分かります。

 追いかけたけど、見つかりませんでした。

 それは、残酷です。

 もう、会えないのでしょうか?

 分かりません。

 でも、終わりは、時に突然来ます。

 準備ができていなくても。

 心の準備ができていなくても。

 終わりは、来ます。

 でも、終わりは、本当の終わりではありません。

 記憶は、残ります。

 愛は、残ります。

 大切な人は、心の中に生き続けます。

 私も、そう信じています。

 雪が、心の中に生き続けていることを。

 美月さんが、いつか戻ってくることを。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は引き出しを開ける。

 星座図に、手を伸ばす。

 指先が震える。

 触れる。

 埃が、舞う。

 でも、開けない。

 まだ、開けない。

 透は星座図を閉じた。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、誰かが消えた道。

 風が、冷たく吹き抜ける。

 星空が、静かに輝いている。

 透は、小さくつぶやく。

「ふたりの終わり方」

 雪は、突然消えた。

 美月も、突然消えた。

 俺は、また一人だ。

 でも、記憶は残る。

 愛は、残る。

 透は、前を向く。

 星が、揺れている。

 いや、透の視界が揺れているのだ。

 涙で。

 透は、小さく笑う。

「終わりじゃない……」

 透は、自分に言い聞かせる。

「まだ、終わりじゃない……」

 でも、心臓が、痛む。

(第38話完 次話へ続く)

 次回、透は「最後の抱擁」を知る。
 そして、透の涙が——君の想像する「別れ」が、訪れる——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

後の祭り 

ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
 母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...