論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第40話「眠れないまま朝を迎えて」

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 午前5時の相談所。

 透は、一晩中眠れなかった。

 机に向かい、ただ窓の外を見ていた。

 空が、少しずつ明るくなる。

 新しい一日。

 でも、透の心は、暗い。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第40話。

 透は、立ち上がる。

 引き出しを開ける。

 星座図。

 透は、それを取り出す。

 埃が、舞う。

「雪……」

 透は、小さく呟く。

 今度は、開ける。

 手が、震える。

 でも、止まらない。

 透は、星座図を開く。

 最初のページ。

 雪の字で、日記が書かれている。

『今日、お兄ちゃんと星を見た。きれいだった』

 透の涙が、溢れる。

 ページをめくる。

『美月ちゃんと、SNSで仲良くなった。星のイラスト、一緒に描くの楽しい』

 透の心臓が、跳ねる。

「美月さん……」

 ページをめくる。

『お兄ちゃん、最近忙しそう。でも、私は大丈夫。星があるから』

 透の涙が、止まらない。

 ページをめくる。

『美月ちゃんに、会いたいな。でも、遠いから無理かな』

 ページをめくる。

『今日、お兄ちゃんに電話した。でも、忙しそうだった。ごめんね、お兄ちゃん』

 透の視界が、歪む。

「ごめん……雪……」

 ページをめくる。

『今日、星を見に行く。一人で。でも、怖くない。星が、守ってくれるから』

 透の手が、止まる。

 これが、最後の日記。

 8年前の11月18日。

 透は、最後のページをめくる。

 そこに、雪の字で書かれていた。

『透お兄ちゃんと美月ちゃん、ありがとう。

 二人とも、私を大切にしてくれた。

 お兄ちゃんは、いつも忙しいのに、私のために時間を作ってくれた。

 美月ちゃんは、遠くにいるのに、毎日メッセージをくれた。

 二人とも、ありがとう。

 でも、もう大丈夫。

 私、星になるから。

 お兄ちゃんと美月ちゃんが、いつでも見上げられる場所にいるから。

 だから、もう泣かないで。

 もう、自分を責めないで。

 二人とも、何も悪くないよ。

 私が、勝手に決めたことだから。

 お兄ちゃん、美月ちゃん、もう許してあげてね。

 自分を。

 そして、前に進んでね。

 二人とも、幸せになってね。

 星は、落ちないよ。

 いつでも、そこにいるから。

 見上げてね。

 私、いつでも見てるから。

 雪より』

 透は、崩れ落ちる。

 床に座り込み、号泣する。

「雪……ありがとう……」

 透は、何度も何度も、雪に感謝する。

「ごめん……ごめん……」

 透は、何度も何度も、雪に謝る。

 でも、今度は違う。

 赦された。

 雪が、赦してくれた。

「ありがとう、雪……」

 透は、星座図を抱きしめる。

 涙が、止まらない。

 でも、今度は違う。

 悲しみだけじゃない。

 感謝と、安堵と、愛が混ざっている。

 朝日が、差し込む。

 部屋が、明るくなる。

 透は、顔を上げる。

 窓の外、星空が消えていく。

 でも、星は落ちない。

 見えないだけ。

 いつでも、そこにいる。

 透は、初めて笑顔を見せる。

「雪……ありがとう……」

 透は、立ち上がる。

 星座図を、大切に引き出しに戻す。

 もう、怖くない。

 雪の言葉が、心に残っている。

「許してあげてね」

 透は、自分を許す。

 初めて。

 ◆

 午前6時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丸い文字でこう書かれていた。

『大切な人から、赦されました。

 手紙で。

 もう、自分を責めなくていいと。

 前に進んでいいと。

 これから、どうしたらいいですか?

 30歳・男性』

 透の手が、止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「赦しの重さをF、前進の勇気をC、未来の希望をHとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 赦しは、新しい始まりだ」

 透の手が、震える。

 でも、今度は迷わない。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『大切な人から、赦されました。

 その喜びは、分かります。

 手紙で。

 もう、自分を責めなくていいと。

 前に進んでいいと。

 それは、贈り物です。

 大切な人からの、最後の贈り物。

 これから、どうしたらいいですか?

 前に進んでください。

 大切な人が望んだように。

 自分を許してください。

 大切な人が望んだように。

 幸せになってください。

 大切な人が望んだように。

 赦しは、新しい始まりです。

 過去を忘れるのではなく、過去を抱えて前に進むこと。

 それが、赦しです。

 私も、前に進みます。

 雪が望んだように。

 美月さんと、もう一度会うために。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、決意した。

 美月に、会う。

 雪のメッセージを、伝えるために。

 透は相談所を出て、交差点に立つ。

 五つの道。

 どれも、未来に繋がっている。

 風が、吹き抜ける。

 でも、今度は冷たくない。

 温かい。

 朝日が、透を照らす。

 星空は消えたけど、星は落ちない。

 いつでも、そこにいる。

 透は、小さくつぶやく。

「眠れないまま朝を迎えて」

 でも、新しい一日が始まる。

 雪が赦してくれた。

 だから、前に進む。

 美月と、もう一度。

 透は、前を向く。

 交差点の向こうに、誰かが立っている気がした。

 美月かもしれない。

 雪かもしれない。

 でも、誰もいない。

 ただ、朝日が輝いている。

 透は、歩き出す。

 一歩、また一歩。

 前に。

 未来に。

 星が、見守っている。

 見えないけど、そこにいる。

 いつでも。

 透は、小さく笑う。

「ありがとう、雪」

「待ってて、美月さん」

 透の新しい一日が、始まる。

(第40話完 第2章完)

 次回、第3章「再生への道」が始まる。
 透は「許しの重さ」を知り、美月を探し始める。
 そして、二人の未来が——君の想像する「希望」が、動き始める——。
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